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現代妖怪いじめんとセイラ
しおりを挟む今日は晴天の青空。でも、人間の心も晴天かどうかというと、それは人それぞれだ。人の心の中を見ることはできない。からっとした青空のように私たちの心が晴れやかで雲一つないほうが、珍しいことだと思う。
いじめは、いつの時代もなくならない。以前、クラスメイトのシズカがいじめにあったことがあった。すっかり忘れたころに、ざしきわらしに転生したシズカのおばあちゃんが私たちの元に現れた。着物を着た日本人形みたいな座敷わらし。見た目は子供なので、おばあちゃんとは思えないのだが生まれ変わりなので見た目が違うのは当然だ。
「ひさしぶり。実はいじめのことで、あなたたちに相談がある」
ざしきわらしの話し方はいつも不思議で独特な口調だ。抑揚がない話し方をする。
「ひさしぶりだな、ざしきわらし」
タイジがざしきわらしの顔をのぞきこみながらあいさつする。
まるで、幼稚園児と話しているかのような雰囲気だが、中身はおばあちゃんだ。
「以前、シズカをいじめていた子供たちには妖怪がとりついていたことが判明した」
「いじめって妖怪が原因なの?」
私は驚いて聞き返してしまった。
「正確に言うと、弱い人間の心が生み出した現代妖怪だ。妖怪いじめんにとりつかれて、いじめがエスカレートするというわけだ。退治しても、また別な人間が生み出すので、防ぎようがない」
「たしかに3人集まると、ひとりが仲間外れになるパターンは結構あるよね」
「この学校にはかなり巨大化したいじめんが存在している。以前、シズカをいじめていた生徒が、最近またとりつかれて、シズカをいじめだしている」
「いじめんが巨大化だと? 妖怪ならば俺たちがやっつければいいってことだよな」
「いじめんが大きくなっているので、手ごわい。私には太刀打ちできない。あなたたちに頼みたい、よろしくおねがいします」
ざしきわらしが私たちに頭を下げた。やっぱりおばあちゃんだけあって、孫のことを常に心配している。
「現代妖怪って昔からの妖怪とは何か違うの?」
「最近、人間界で生み出された妖怪を現代妖怪と呼んでいる。昔からいるあやかしは、大昔、妖魔界からやってきたらしいから」
ざしきわらしが説明してくれた。
「そういうことならまかせろ、どこのクラスにいるんだ?」
「このクラスだ」
「え? 俺にはみえないぞ」
「ほら、あの窓際の一番後ろの席の女子の中にすみついている。そして、徐々に巨大化している」
「人間の中にいるんじゃ簡単に消滅技、使えないじゃないか」
「やっかいね、私にもあやかしの姿は見えないよ、ざしきわらしには見えるの?」
ざしきわらしは窓のほうを見つめながら、話し始めた。
「あの生徒を観察していた時に、けむりのような妖怪が見えた。それはいじめんと言われる妖怪だった。普段は人間の中にいるが、人間が悪だくみをしようとすると一時的に体が大きくなる妖怪だ。大きくなる一瞬だけ姿を現す」
「さすが、元おばあちゃんだけあって、詳しいのね、知恵袋ここにありだね」
私は感心した。
「じゃあ一瞬だけ姿を現したときに、消滅させるか」
「でも、やつは人間の中にずっと閉じこもっているので、下手すると人間に危害を加えることになる」
ざしきわらしは知恵袋のかたまりで、見た目は子供だが、慎重な大人だった。
難しい問題に直面した。
妖怪にとりつかれて、あやつられている生徒の無事を確認しつつ、消滅させるというのは、難しい。いじめは妖怪のせいだという事実。でも、妖怪を生み出したのは人間だという事実。私たちは、とりつかれた女子生徒であり、このクラスのボスのような存在の鳥塚セイラを監視することにした。
よく見ると、セイラの体からは黒いもやがみえる。形がないもやのようなようかいがいじめんなのか? 未知なる世界に足を踏み入れることは、冒険の連続だ。
鳥塚セイラ。学級委員長をしていて、優等生だ。何でもできるがゆえに、クラスメイトは誰も逆らえない。そのセイラの心が生み出したいじめんという妖怪。これはやっかいだ。
セイラは制服が良く似合う黒髪ロングヘアーの気の強そうなお嬢様風女子だ。品があって、賢くて、発言力がある。女子はみんな嫌われないように気を付けている。セイラに逆らうといじめにあうということがわかっているからだ。セイラの裏の顔に気づいているからだ。セイラの裏のあだ名は女王と呼ばれている。それは、本人が知っているのかどうかはわからないが、誰もさからえないえらい人、という意味のあだ名だ。さからえない生徒たちが、陰で「女王」と呼んでいるセイラ。徐々に巨大化しているいじめんと共に彼女の邪悪な心が大きくなっている。
けむりのようにつかめない、いじめん。これをつかまえることは不可能だ。一瞬のすきを狙って消滅することは難しいことだった。しかし、何もせずにいれば、彼女の中の悪が巨大化するだろう。そして、彼女は自分自身の心をコントロールできなくなり、犯罪に走るという可能性もある。
セイラの標的はシズカだ。このようなおどおどしたタイプはいじめがいがあるらしい。小学校6年生も終わりにさしかかったころ。いじめんにとりつかれたセイラが、クラス全員でシズカを無視しようという命令をしたときがあった。そのとき、シズカは楽しいことがない世界を知ってしまったのだ。人を信じられなくなってしまったのだ。それ以来、心を閉ざしたシズカ。それは暗黒の世界だったのだと思う。光が見えない世界を12歳にして知ってしまったのだ。
中学校に入学してからは、いじめがおさまったように思ったのだが。一度小さくなったいじめんが再び大きくなり始めた。これは、女王セイラの心の弱さがいじめんを巨大化させているのかもしれない。新しい生活に不安ばかりを感じてしまう人間が、いじめんにとりつかれやすいのだ。
女王セイラは、新しいクラスになり、違う小学校の人たちと仲良くなったころに、女王としての本領を発揮し始めた。誰もさからえないように相手の弱点を知ったうえで、命令をする。ずるがしこさでは、彼女はトップクラスだ。前から内向的でおとなしいシズカをいじめたくて仕方がなかった女王の中で、ムクムクといじめんが育つ。結果的にシズカが悲しむことをどんどん考え、周りに命令するようになっていた。
私はセイラのグループに所属していなかったのもあって、いじめについてはずっと気づかなかった。わずかなクラスの異変に気づいていなかったのだ。いじめんは見えにくい妖怪だ。人の中に隠れている。最近は、夜神先生のこともあって、シズカが一人で苦しんでいることに気づいてあげられなかったのだ。
ざしきわらしが教えてくれたおかげで、私たちはいじめんを消滅させるべく、対策をたてることにした。いじめんは他の人間の中にもいるだろう。消滅しても別ないじめんが発生することは事実だ。でも、今は困っているシズカちゃんを守らないと!!
タイジ、コンジョ―、私の3人で対策をたてることにした。いじめ問題は人間が一番いいだろうということで、霊感のないコンジョ―も一緒にいじめん対策チームに入ってもらった。そして、監督はざしきわらしといったところか。
いじめん対策として、まずセイラだけになったところを3人で囲み、妖怪をおびき寄せるという計画をたてた。うまくいくかどうかはやってみなければわからない。いじめんがセイラの外にでて、大きくなる瞬間がねらい目だ。出たら、私がいじめんの時間を止めて、タイジが札を使って消滅させるという計画。今回は、転生はさせないよ。
あいかわらずいばり散らす女王セイラ。しもべとなるクラスメイトに「シズカっていう子、話さないし、むかつくんだよね。シカトしようよ」と提案したらしく、最近はクラスのほとんどの女子がシズカをいない人として扱う。存在を否定されるとは正直辛いだろう。
シズカにわざとぶつかって、セイラは、吐き捨てる。
「こいつ、汚いんだよ。風呂に入っていないの?」
とあざ笑う。それにつられて、他の生徒も合わせて笑う。何もおかしいこともないのに。人間の心はとても弱いものだ。弱いからこそ、嫌われないように、周りに合わせて生きようと努力するのだ。特に女子にその傾向が強いように思う。ある一人をばい菌のように扱うことで、自分を守る。いつの時代にもどこの学校にもこういったことはあるのではないだろうか?
仕方がないことなのだが、これはいじめんを生み出した人間が悪いのだ。そして、いじめんを大きくする弱い心が弱いのだ。他の生徒たちにもいじめんの種がまかれているように感じる。小さければ、自然に消滅するのだが、大きくなると強制消滅させなければいけない。
最近のセイラは凶暴化している。目が赤く光るときがある。これは、妖怪にとりつかれているせいかもしれない。赤い光は霊感がなければ見ることはできないので、霊感のない生徒は気づかない。最近のシズカに笑顔がないので、おばあちゃんにあたるざしきわらしは、辛い表情を浮かべた。
「セイラさん、ちょっと、屋上に来てもらってもいいかな」
呼び出す係はコンジョ―だ。彼は霊感があるわけではないので、普通の人でもできる部分で手伝いたいという意欲を見せてくれた。
しかし、違うクラスの男子が突然女子を屋上に呼び出すというのは、目的は一つということで、クラスの男子生徒たちは、ひやかした。セイラは割と男子人気があり、よくあること、として表情も変えず屋上にやってきた。どうせ私に告白でもするんでしょうけれど、私は断るに決まっているでしょ。あんたみたいな男、私にはつりあわないわ。という風にセイラは心の中で女王きどりを爆発させていた。
屋上につくと、太陽の下、待っていたのはレイカとタイジ。もしかして、タイジ君が私のことを? セイラは予想外の人物に戸惑っていた。なぜなら女子人気が高いタイジだったので、もし、ここでお付き合いとなれば、他の女子から憧れの対象になるのだ。妖牙タイジならば付き合ってもよろしくてよ、と前向きな女王。
しかしながら、彼から発された言葉は……
「妖怪いじめん、鳥塚セイラの体から出てこい!」
だったのだ。
「はぁ?」
セイラは漫画か何かのセリフを発するタイジに違和感を感じていた。
「妖牙タイジ君、何を言っているの? 私のことが好きなのでしょ?」
「はぁ?」
今度はタイジが驚いて声を発していた。
「なんで俺がおまえを好きにならなければいけないんだ?」
「またまた、こんなところによんでおいて、照れ隠しなのかしらね?」
「全然好きとかないから。俺はお前の中にいるいじめんに用があるんだよ。いじめを好む人間は嫌いだ」
その、嫌いだという言葉にセイラがショックのあまり、口をあけたまま立ち尽くした。プライドの高いセイラは、嫌いと言われるのは初めてだった。男子もみんなセイラのご機嫌をとることが多かったので、はじめての悲しみだった。セイラの心が弱いからかもしれない。心にショックを受けたセイラはそのままひざをついて座りこんでしまった。
すると、口からいじめんが出てきた。心が無になった人間の体にはいられないという特徴がある。タイジの毒舌のおかげだ。しかし、けむりのような体なので、そのままどこかへ逃げてしまう。そこで、モフミが提案した。
「レイカ、いじめんとセイラの時間をとめてください」
「了解」
そのままレイカは「停止!!」と叫ぶ。
いじめんとセイラに向かって指をさした。そのまま、二人の時間だけ止まったのだ。コンジョ―も驚いていたが、そのすきに、タイジが札をいじめんに向かって貼り付けた。
「消滅!!」その瞬間、いじめんがけむりのように消えたのだ。札がタイジの元に戻る。そして、レイカが「開始!!」とセイラに向かって叫ぶと、セイラは動き始めた。
「あれ、私……? たしか告白されそうになっていたんだっけ?」
的外れなことを言い出した。いじめていた悪い心はなくなっているはずだ。
「告白? 何言ってるんだよ? もういじめるんじゃないぞ」
「いじめ? 何のこと?」
「クラスの人がいじめていたら、いじめ禁止令をだしてよね、女王様」
「私ってなんでここに来たんだっけ?」
と記憶があいまいなセイラ。
「本当にすごいっすよね、尊敬しました」
コンジョ―が二人をたたえた。
「私のことを尊敬したっていう話?」
またまたセイラは見当違いなことをいう。
「レイカとタイジ、いいコンビですね」
モフスケが二人をたたえた。
ざしきわらしは様子を見ていたのだが、解決したことを知るとそのまま消えてしまった。
そのあと、クラスからはいじめはなくなったが、いつ、またいじめんが生まれるかはわからない。油断大敵だ。
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