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新任教師 夜神怪

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 妖怪を操ってこの世界を変えようとする者がいる。
 それが良い人ならばいいのかもしれない。
 しかし悪人だったら?
 それは、怖い世界が成り立つのだ。

 中学校に新しい教師が着任した。今まで担任をしていた女性教師が体調を崩し、退職することになったのだ。そのかわりにやってきたのは、若い男性だった。

 夜神怪。見た目は黒髪で黒いスーツを着た背が高いモデルのような体型であり、目は鋭く切れ長で、美形だ。

 その先生は、特別な妖気に覆われていた。
 それは私にもわかるくらい黒々とした暗闇につつまれた人間ではない何者かということはわかった。妖牙君はとっくに気づいているだろう。暗黒からきた使者というイメージがぴったりだ。

 気のせいか、夜神先生と目が合ったような気がした。先生は妖牙君のことも見ているように思えた。もしや、悪い妖怪なのだろうか? 不安がよぎる。

 休み時間に妖牙君にさりげなく聞いてみた。
「あの先生、普通ではないよね?」
「そうだな。あの手のタイプに接するのは初めてだ」
「妖怪なのかな?」
「ちょっと違うな」

 考え込んでいる妖牙君の横顔にちょっと、みとれてしまった。
 今は、そんなことよりも、謎の先生のことが重要だというのに。

「モフミはどう思う?」
 人が見ていない場所でモフミに話しかけてみる。

「あれは、私たちにはどうしようもない領域にいる人よ」
「どうしようもない領域……」

 モフミにはわかるのだろうか?
 でも、どうしようもない領域にいる悪人だったら、どうすることもできないということだ。一番の恐怖が私をおそった。

「神の領域にいるっていうことじゃないのかしら? 私、今日も巡回していたのですが、やはり普通ではないと感じました、人間でもなく、あやかしでもない、触れたことのない種類です」
 華絵さんが後ろから急にささやいた。

「あやかしではない? そんなわけがない。あやかし意外の何者でもないでしょ?」
「これは、推測ですが神の領域にいるような気がします」
「神様? 私は信じないよ。本当に世の中をよくしてくれるならば、認めるけれど」
「神にも種類があります。災いをもたらす神だと、非常にやっかいです」
 背筋が凍る。神の領域だなんて、とても大きな暗黒の闇の中に米粒が1つあるようにしか思えない。例えだが、米粒が私だ。

 なんとなく、闇の黒いオーラが見える。あの人が善人だとは思えないのだった。勘違いであってほしい。彼からにじみ出る深い闇のオーラは不安をかきたてる。

 夜神怪は、着任早々理科室の人体模型に語り掛ける―――
「さて、僕と一緒に素敵な世界を作らないか? ジン、僕はそのためにここへきたのだから」

「どういう意味だ?」
 銀髪のジンが現れた。
 はたから見ると、普通の教師と人体模型が立っているようにみえるが、普通の人間にジンは見えない。

「君は人間の体がほしいのだろう?」
「今は興味ないよ。実験のほうが面白いし」
「この学校には巨大な妖力があふれているよね。君も感じるだろう? 赤と青の札。そして、妖力使いの少年と不思議な力を持つ少女、複数のあやかし。霊能力が非常に高い人間が日本のこの町に異常に多いから、私はここに来たのだ」

「俺は、力を貸す気はないぞ」
 ジンは逆らった。
「僕の目をみてごらん」
 夜神が操りの力を発揮する。

 夜神の瞳を一瞬見たジンは、体がしびれて言うことを聞かなくなった。
 体がどうにもならない。そして、心も彼に支配されていくのを感じながら、意識がなくなった。それは、あやつりの力によるもので、ジンは夜神によって、人間として生まれ変わったのだ。ここの生徒となり、彼の手となり足となるのであった。

 あやつりの力、それは人間の思考もあやつることができる。
 たとえば、戸籍のない人体模型を人間として中学校に在籍させるとか、彼の姿を見えるようにするとか、それは全て操りの力だ。

 そして、それは神にしかできない技だ。
 日本には古来からたくさんの神がいて、全てがいい神だけとは言い切れない。彼は、素晴らしい力を持ち合わせながら、自らの野望のために他人を利用する。神様は時に恐ろしい存在で、敵となることもある。

「転校生を紹介します」
 新しく担任になった夜神がジンを連れてきた。
「闇野ジンです」

 見えないはずのジンがみんなに見えている!! この事実が私と妖牙君の背筋を凍らせる事実だった。見えないはずの人が見える。

 彼は、あやかし。人体模型に宿るつくもがみだ。そのことを頭の中で確認する。私の頭の中が混乱する。

 これは、あの新任教師のせいなのだろうか?
 私は妖牙君と目を合わせて、ごくりとつばを飲み込んだ。

 きっと夜神は何かたくらんでいる。
 ジン本人に聞いてみよう。
 そう思って、休み時間になってすぐに彼の元へダッシュした。

 しかし、ジンは私たちとの以前の記憶がないようだった。
 新しく作られた人間となっていたのだ。
 わずかな期間だった城山先生の放課後授業の想い出は今の彼にはないのだ。そのかわり、人間として教室で生活をする。

 神は新しいものを作り出す力がある。それがいい方向に進めばいいのだが、ジンが心配だ。

 ジンは人体模型に宿るあやかしではなく、今は人間としてこの世界で生きている。あの新任教師のしわざだろう。以前の記憶はなく、人間として生活している記憶しか彼にはないようだ。

「ジンくん、今までの記憶ないのかな?」
「はじめまして。君は?」
「私のこと覚えていないの?」
「俺は転校してきたばかりだから知るはずないだろ?」
 ジンは覚えていない。つくもがみだったということも、人体模型に取り憑いていたことも。

「おまえ、何をたくらんでいる」
 夜神に妖牙君が問いただす。

「別に。僕はこの町が大好きだし、素敵な世界を作りたい、それだけだよ」
「俺たちの特殊能力に気づいているんだろ?」
「僕は特殊能力ってやつに興味があるだけだよ。伝説のお札と君のそばにいるあやかしも大変興味深いと思っているよ」
「見えるのか?」
「僕は教師として君たち生徒と仲良くしたい、普通のことじゃないか」
「おまえは何者だ?」
 ずばり妖牙君が聞く。牙をむきだしにして挑む動物のようだ。

「普通の教師だよ。ただ、この世の中をもっとよくしたいと願っているだけさ」
 夜神はごまかすようなセリフをのこして、教室を去った。

 女子生徒は「あの先生なんか素敵だよね」
「髪がさらさらしていて、スタイルはモデルみたい」
「ジン君もかっこいいよね」
「アイドルにも似てるよね」
 教室にいた女子たちがざわめく。

 見えている人間には気を付けなければいけない危険かもしれない相手。
 でも、普通の人間には素敵な教師としか目に映らないのだろう。

 早速、城山の元へ妖牙が向かう。
「城山、ジンのやつ人間になったぞ」
「そういえば、転校生の名前を見たけど、ジンなのか?」
「ジンは以前の記憶がない。人間だと思い込んでいる。きっと夜神のせいだ」
「あぁ、新任の夜神先生ね」
「事態を深刻に考えろ。あいかわらず、のんびりしているよな」

 そばにいた華絵さんがすかさずフォローする。
「のんびりしているところが城山先生らしいのですよ」

「でも、いざとなったらタイジも俺もいるんだから、なんとかなるって、悪い人と決まったわけではないしな」

「でも、ジンを人間にしたんだぞ」
「ジンは人間になりたがっていただろ、願いをかなえた神様なんだろうな」
「やっぱり、神だと思うか?」
「いい神か悪い神かはわからないけれど、きっとそういった領域だとは思うな。ジンはつくもがみ。だから、神同士だしな」

 人を疑わない、だまされやすいのは、城山先生のいいところでもあり、悪いところでもある。それがいい面でもあり、悪い面でもある。

 たしかにつくもがみも神の一種だ。でも、そんなに妖力自体は高くはない。少し、俺が警戒しすぎていたのかもしれない、妖牙君は少し、冷静になって教室に戻った。






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