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校庭の桜の木の下の縁結びのムスビさん
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最近とてもいい情報を手に入れた。校庭の桜の木の下で告白すると恋愛が成就するという話だ。これは、妖牙君に内緒にして行ってみようと決意をする。
桜の木に住みついている縁結びのムスビさんがいるという噂だ。なんだかナスビみたいな名前だが、縁結びの結びから語源は来ているらしい。妖怪は噂や人間の認識がなくなってしまうと存在そのものが消滅するから、時々人間に知ってもらうために現れるという話を聞いた事がある。悪い妖怪ばかりではなく、座敷童のように幸運を運んでくれる神に近い存在の妖怪もいる。勇気を出して告白するということは無理だと思うし、私のことを妖牙タイジが好きだと思っているとはとても思えなかった。特別な力で両思いになるということはありだと自分に言い聞かせる。
桜の木は青い葉っぱが生い茂り、すっかり薄ピンク色はなかったことのように別世界が広がる。木陰の木漏れ日は、落ち着くし何となく好きだった。木の葉から零れ落ちる陽の光がとっても心地いい。午後の太陽の光を遮ってくれる木漏れ日はどことなく落ち着く。部活がはじまる前のまだ誰も校庭にいない時間を見計らい、噂の恋愛成就スポットにこっそりたどりつく。同じクラスの妖牙君に気づかれずにいい感じに両思いになりたい。そんな思いで桜の木の下で深呼吸をする。そして、あやかしがいないかどうかを感じ取る。このざわっとする感じはあやかしかもしれない。背中に感じる普通とは違う感覚を肌で感じ取る。
「僕を呼んだ?」
「もしかして、ムスビさん?」
「そうだよ。君は好きな男の子がいて、両思いになりたい気持ちで心があふれているね。僕にはわかるよ」
優しい声で、撫でるように静かに発する声は心地いい。まるで夢の中のまどろみの中のようだ。振り返ると優しい木の妖精のような雰囲気の少年が現れる。優し気な目元と雰囲気が安心できそうな感じだ。
「あなたは木の妖精なの?」
「そうだね。この木に思い入れがあって妖精になったみたいだね」
「両思いになれるって本当?」
「この木の下で告白すると両思いになれるようにはしているけれど、ここは中学校だから、結婚みたいな永遠的な結びつきまでは保証できないけれどね。現に別れる率も比較的高いんだ。でも、一時期でも魔法で心をときめかせて幸せになってもらいたいと思うんだよね」
「あなた、なぜ木の妖精になったの? 私、あやかしカウンセラーをやっているからちょっと気になって」
「あやかしカウンセラー?」
「あやかしたちの相談に乗る相談所を立ち上げたんだ」
「じゃあ、僕の話を聞いてよ」
思ってもみないことが起きる。妖精の話を聞いてほしいといわれるとは。カウンセラーを担う私は、彼の話を聞くことにした。
「僕は元人間だったんだ……」
思ってもいなかった告白に私はちょっとびっくりする。
「中学生だった僕は、この桜の木の下で、仲が良かった女の子とよく話をしていたよ。その人と両思いになりたいって思っていた。その子の名前は結《ゆい》っていうんだ。でも、僕はそれから病気で死んでしまったよ。告白もできないまま……」
遠い目をして話をする木の妖精の瞳はとても優しく、遠い過去を懐かしんでいるようだった。その目はまるでビー玉のように透き通っていて、今日の青空によく似合う。きっと心残りがあるから、少年は想いが強いこの場所にずっといたのだろう。そして、ここに住みついてしまったのかもしれない。想いが伝えられないまま少年はずっとここにいるのでは、彼はずっとこのままだ。彼のために何かしないと。そう思った私は提案を試みる。
「ねぇ、あなたの想い人を探してあげようか。その暁には……」(両思いにしてもらわないと)
「本当に? でも結が今はどこに住んでいるのかもわからないんだ」
寂しそうなムスビ少年の顔を見ていると、力になりたくなる。
「私でよかったら協力するよ。あやかし相談所のメンバーにも協力してもらえば、きっと早く見つかる可能性が高いよ」
「楽しみだな」
ムスビ少年は笑顔になる。この人はずっと少年であって心もそのままなのだろう。
「ところで、結さんって何年前の卒業生なの?」
「それが、記憶がないんだ。妖精になってからは時の流れを感じなくなってね。ずっとこの場所にいるし、体もそのままで歳をとらないからね。時間の感覚がないのかもしれない」
「先生に頼んで、卒業アルバムで探してみるよ」
私とムスビ少年は城山先生の元に向かう。
すると――昇降口の前で妖牙タイジが腕組みして待っていた。
「何してるんだ? 活動するなら俺の許可が必要だろ」
「相談に乗ってほしいという木の妖精に出会って……」
妖牙君に気づかれず任務を遂行したかったのだが、教室の窓から見えていたのかもしれない。
「あやかし相談所の発起人は俺だからな。それで、どんな相談だったんだ?」
「ムスビさんという縁結びの木の妖精なんだけれど、元人間だったらしいの。なぜ縁結びを始めたのかというと、自分があの桜の木の下でよく話していた相手に告白できないまま病気で死んでしまったんだって」
「妖精……ね」
妖牙君は少し難し気な顔をしながら考えている様子だ。
「俺もムスビさんとやらに確認する」
ムスビさんに向かって話しかける妖牙君。はたから見たらひとりごとにしか見えないだろう。
「好きだった気持ちを伝えたいのか? 今でも会いたいと思っているのか?」
妖牙君は真剣な顔で確認を取った。
「好きだったという気持ちは、できれば伝えたい。そして、会ってみたいけれど、今どこに住んで何をしているのかはわからない。僕は死んだ日から時間が止まってしまったんだ。だから、時間の経過の感覚は感じられないし、どれくらい経ったのかは実感できないんだ」
「おまえ、本名は?」
ムスビさんが少し考え込む。
「名前も忘れたのかよ?」
「ずっと名前で呼んでくれる人は誰もいなかったからね。だから、忘れてしまうものだよ」
「ってことは死んだ時期は相当前ってことじゃないか? この中学は歴史があるからな」
「ムスビと呼ばれるようになったのは、想い人である結の読み方を変えてムスビと名乗ったような気がする」
「結っていう女の上の名前は覚えているのか」
「名字は……忘れたなぁ」
「手がかりが少ないが、城山に聞いてみるか」
ムスビさんを連れて理科準備室の城山先生のデスクに行くと、先生は楽しそうに実験の準備をしている。鼻歌交じりで、仕事をこんなに楽しんでいる人は珍しい。傍らには華絵さんがにこにこして窓辺に座っていた。日差しの似合うあやかしはそうそういるものではない。
「実は、過去の卒業アルバムを見せてほしいんだ」
「何年前の?」
「一応、全部」
「この学校ができて80年は経っているから、全部のアルバムから探すことは厳しいな」
「名前から同窓会名簿で検索ってできないのか?」
「できるよ。何を隠そう僕が同窓会の担当をしているから、名簿はデーターベースを作っているからね。パソコンで検索して探してあげようか?」
得意げにきりっとした顔をする城山先生。ムスビさんのことは察しているのか見えているはずなのに、あまり聞いてこない。
「助かります。でも、女性は名字が変わっている人が多いかもしれないですね」
「人によっては知らせてくれていれば、旧姓と新しい名字が書いてある場合もあるよ」
そう言うと、城山先生はパソコンの同窓会フォルダを開く。そして、名前検索ページを出してきた。
「結ぶと書いて、結という名前を探してください」
少年の声は普通の人には聞こえないが、城山先生には普通に届くので、パソコンのキーボードを叩く。すると、結構前の卒業生から最近の卒業生まで10人くらいの名前がヒットする。
「結構いるもんだなぁ」
城山先生はそう言いながら、該当する卒業アルバムを倉庫から持ってきてくれた。
最近のものよりは古い方から探してみる。一番古いものだと、60年前の卒業生だ。ということは75歳になっているということだろうか。古びた卒業アルバムを開くと、かび臭いにおいがする。ずっと誰も開いていなかったであろうほこりと日焼けとしみができていた。
「ムスビさんって結構前に卒業したんだっけ?」
「わからない。最近と言われたら最近な気もする」
昔の卒業アルバムは白黒で個別の写真がない。集合写真の下に小さく名前が書かれている。今のように個別に映っていない。昔のアルバムの最後には生徒や教職員の住所や電話番号まである。教師の場合は、実家の住所まで掲載されている。でも、これから個人情報の問題で名前と顔を掲載しなくなるかもしれないし、デジタル化になってCDーROMのようなデジタル形式になるのかもしれない。卒業アルバムの進化は人類の進化だ。そんなことを思いながら、生徒の写っているページを開く。
1組にはいない、2組にもいない……昔の子供は人数が多く、今よりもクラスの数も多い。そして、生徒の数の多さに驚く。少子化になるなんてこのころの日本人は思っていなかったのだろうな。
10組のページを開いて見ていた時に、ムスビさんは声をあげた。
「結ちゃんだ!!」
久しぶりに見た想い人の写真を見て、ムスビさんはとても喜んでいる。
でも、この人って同世代ならば、生きていれば75歳ってことだよね。目の前にいる15歳くらいの少年の妖精を見て改めてその純真さに感心する。時の流れに関係がない人は、少年のままいられるのだろうと、透き通った瞳を見て感じていた。
結ちゃんという女の子は、みつあみで、今とは違う形の制服を身にまとっていた。昭和の香りがする木造校舎を背景に撮影したクラス写真と白黒写真。結ちゃんの顔は瞳が大きく、眉毛が見えるくらい短い前髪は顔立ちのはっきりした様子をうかがわせる。目鼻立ちの整った小顔の少女は今、どこで生きているのだろうか。この60年間で、どんな風に変わったのだろうか。結婚して孫がいるかもしれない。今は幸せだろうか。知らない人のことなのについ感情移入してしまう。
後ろの方に全員の住所や電話番号が載っている。同窓会名簿でも同じ住所のままだった。ここに住んでいるかどうかもわからない。でも、これしか今のところ手掛かりはない。気になったのは名字が旧姓森川と書いてあったという点だ。つまり、名字が変わってから、同窓会に連絡したことがあるということだろう。だから、卒業してからも彼女は健在だったということはわかった。新しい名字は川瀬となっている。結婚したとか、親の離婚で名字が変わったとかそういった想像が広がる。
「ムスビさん、結さんは今は75歳のおばあさんになっていると思う。生きているかどうかもわからない。もし、生きていたら会いたいですか?」
事情を聞いた城山先生が念を押す。
「結さんの見た目が変わっていたら60年の恋が冷めるかもしれない。確実に人間は歳をとって見た目は変わります。今、どういう生活をしているかもわからないから、思い出は思い出のままでしまっていたほうが幸せだということはありますよ。あなたは永遠の15歳だ。でも、結さんは違う」
「僕は結さんに会いたいよ」
「会ったら、成仏できるよな」
妖牙君が念を押した。
「成仏? だって……妖精だよね?」
「妖精だと本人も思い込んでいるだけなんじゃないか? 本当は成仏できない幽霊ってことだ」
小声で妖牙君が説明する。
「でも、ムスビさんは縁結びもできるし……」
「縁結びは、自分がかなえられなかったことを人のために何かやってあげたいという彼の優しさが生んだ能力なのだろうね。長く幽霊やっていると能力が身に着くことは結構あるんだ」
妖牙タイジの頼もしさを感じる。知識量が豊富で霊感が高いし、本当に頼れる人だなぁとやっぱり好きだという想いが強まる。りりしい彼の横顔に見とれてしまう。同じ歳なのにしっかりしていて、同級生には他にはいない、たくましさと頭の回転の良さを感じる。
「僕から電話してみるよ」
城山先生が名簿の電話番号にかけてみる。
「ちなみにムスビさんも同じ学年ならば、どこかに映っているんじゃないか?」
妖牙君が顔をまじまじと見つめながら、写真をくまなく探す。
しかし、見つからない。
「僕は多分、卒業できなかったから。アルバムにはいないと思うよ」
ぽつりと寂しそうに言うムスビさん。
「あやかしカメラを発明したんだ。これは、あやかしが写ることが可能なカメラなんだ。でも、人間はうつらないのさ」
城山先生が机の中から発明品を取り出す。
「さすが、城山先生!!」
華絵さんはうれしそうに尊敬のまなざしだ。
城山先生は思っていたよりもすごい人らしく、有能な商品を開発している。でも、一般的に幽霊だけを写真に収めたい人はいないので、このカメラが市場に流通することは難しいだろう。一般的な商品として価値は低いが、幽霊だけを撮影したい人にはうってつけのアイテムだ。そして、そんなものを作ることができる城山先生は優秀な人間だ。
「このカメラでムスビさんを撮影して、見せればきっと思い出してくれるだろう。さっそく電話してみるよ」
理科準備室に備え付けられている学校の電話の受話器を取り、ボタンを押す。私たちは息を呑んで見守ることしかできないでいた。つながるかどうか、緊張してしまう。つながらなかったら、全く無関係な人が電話に出たら1から探さなければいけない。振出しに戻ってしまう。
「もしもし、矢樫中学校の同窓会担当の教師の城山と申します。結さんはいらっしゃいますか?」
「はい、代わります」
ハンズフリーにしているので会話が響く。代わると言った女性は私たちの親世代のような声だった。娘かお嫁さんといったところだろうか。
「もしもし」
ゆっくりな口調で歳を経た女性の声が響く。
「森川結さんでしょうか。今は、川瀬結さんでしょうかね」
城山先生が確認すると、
「はい、そうです」
落ち着いた声だ。
「実は、会わせたい人がいるのです」
「誰ですか?」
「桜の下で仲良くしていた同級生の少年がいましたよね。その少年は病気で亡くなってしまいました。覚えていますか?」
少し間が空いてから、返事があった。
「えぇ、いましたね。よく覚えております。木下誠実《きのしたせいじつ》君……だったかしらね」
「実は確認してほしい写真がありまして、今から伺ってもいいですか」
「ええ、かまいませんよ」
「そうか、僕は木下誠実だ……」
自分の名前を思い出したムスビさんは少し姿が薄くなったような気がした。
住所は中学校の学区にあり、徒歩で行くことができる距離だ。ずっと何十年もこの町にいたのだろうか。実は案外近くで大人になっていたのかもしれない。
城山先生はあやかしカメラで写真を撮影する。木下君の写真を撮ることに成功した。そして、メガネを取り出した。
「これは、あやかしメガネっていうんだ。これをかければ、霊感がない人でもあやかしの姿を見ることができるんだ」
一同感嘆の声が洩れる。まさか、こんなアイテムまで隠しているとは、さすがとしか言いようがない。
「いってらっしゃい」
笑顔で学校にしかとどまることができない華絵さんは見送った。
城山先生と妖牙君と木下君とモフモフ二匹を含む四人と二匹で結さんの家に向かう。木下君はずっと学校内にいたので、何十年ぶりかの外の景色だった。そして、街のうつりかわりに驚く。
しばらく歩くと、川瀬と書いた表札に昔ながらの年季の入った住宅が見えた。
「ここだよ。準備はいいかな? 木下君」
木下君は手をぎゅっと握り締めた。60年ぶりの再会はさぞかし緊張しただろう。見た目も変わっていて、どんな気持ちになるのだろう。もし、私が急に75歳の妖牙タイジに会って心がときめくのかというと、はなはだ疑問だ。
趣のある住宅の玄関は横開きで開けるとがらがらと音を立てそうな感じがする。昔は横開きの玄関が多かったのだろうが、最近は押して開けるタイプのドアが主流だ。最新の技術はいつかは古くなる。流行も変化する。赤いけれど少し色落ちした郵便ポストが設置されていた。ピンポーンとボタンを押す。すると、すりガラスになっているドアの向こうにからは、誰かがこちらへ歩いてくる様子の人影がうつる。
「こんにちは。矢樫中学校の者です」
大きめの声を出す。
「はーい」
結さんだろうか。声が思ったよりは若い感じがする。40代くらいの感じがする。
「お待ちしておりました」
少し警戒した様子の女性は結さんの娘だろうか。
「こんにちは」
女の子がひょっこりお母さんの後ろから顔を出した。先ほど見た若い時の結さんの顔に似ているような気がする。お孫さんだろうか。まだ幼稚園か小学校低学年くらいに見える。
職員証を城山先生は見せて、警戒心を解く。
「実は会いたいとおっしゃっている人がいましてね。そのことで結さんに確認したくて」
「はぁ……。どうぞ奥の和室に母がいます」
結さんは、結婚して産んだ子供がこんなに大きくなったのかぁ。そして、孫までいるとなると、やっぱり時は確実に流れているんだな。木下君はずっとあの時のまま止まっていたんだ。それは幸せなことなのだろうか。時が止まったまま若いままでいること、それは不幸せなことなのだろうか。
私たち3人と木下君は一緒に向かう。もちろん他の人からは3人しか見えていないので、木下君はいないものとして扱われる。
ソファーに腰を掛けているのは、75歳の結さんだ。どことなく顔に面影があり、お上品な女性という印象だ。いい年の取り方をしている気がするので、きっと幸せな人生だったのかもしれない。
「こんにちは」
「こんにちは」
「木下君のことを覚えていますか?」
「えぇ、彼は若くしてこの世を去ってしまったねぇ。私の初恋の人だったの。初恋は実らないっていうじゃない。やっぱり本当ねぇ」
「この写真の彼は木下君ですよね」
少し前にあやかしカメラで撮ったものだ。ポラロイドカメラなのでその場ですぐにプリントができるという仕様だ。
「懐かしいねぇ。彼はずっと若いままだけれど、私はこんなにも歳を重ねてしまったよ」
「彼が会いたいと言っています」
「え?」
「このあやかしメガネをかけてみてください」
「わかりました」
結さんは言われた通りにあやかしメガネをかけた。すると、目の前に15歳のままの初恋の木下君が現れる。
「木下君……」
「結ちゃん」
すると、桜の花びらが舞い散り、二人を囲む。木の妖精のような力を持ってしまった木下君が起こした奇跡だ。桜色の花びらに囲まれた結さんは15歳の姿に変化する。
「あの時、伝えられなかった言葉を時を経て伝えるよ。ずっと好きでした」
「私も好きでした。でも、伝えようと思ったけれどあなたは病気が悪化して学校に来なくなってしまって、会うことはかなわなかった。でも、ずっと心の中であなたの存在は残っていました。桜の下で話した思い出は忘れません」
「ありがとう」
二人で同時にありがとうを言うと、そのまま木下君は成仏したらしく、桜の花びらと共に煙のように消えてしまった。今回は強制的に成仏させる必要がなく、まさにあやかし相談所ならではの解決方法だったと思う。
結さんは結婚した旦那さんに5年ほど前に先立たれ、今は娘夫婦と孫と生活しているらしい。
「そういえば、おまえがムスビさんに何か頼もうとしていたのって恋愛成就か?」
妖牙君は忘れていなかったらしい。
「まぁ、そんな感じかなぁ」
「で、好きな奴って誰なんだ?」
あなたのことよ、と言いたいけれど言えない私は、木下君のように成仏できないかもしれない。でも、今はまだ秘密だよ。
桜の木に住みついている縁結びのムスビさんがいるという噂だ。なんだかナスビみたいな名前だが、縁結びの結びから語源は来ているらしい。妖怪は噂や人間の認識がなくなってしまうと存在そのものが消滅するから、時々人間に知ってもらうために現れるという話を聞いた事がある。悪い妖怪ばかりではなく、座敷童のように幸運を運んでくれる神に近い存在の妖怪もいる。勇気を出して告白するということは無理だと思うし、私のことを妖牙タイジが好きだと思っているとはとても思えなかった。特別な力で両思いになるということはありだと自分に言い聞かせる。
桜の木は青い葉っぱが生い茂り、すっかり薄ピンク色はなかったことのように別世界が広がる。木陰の木漏れ日は、落ち着くし何となく好きだった。木の葉から零れ落ちる陽の光がとっても心地いい。午後の太陽の光を遮ってくれる木漏れ日はどことなく落ち着く。部活がはじまる前のまだ誰も校庭にいない時間を見計らい、噂の恋愛成就スポットにこっそりたどりつく。同じクラスの妖牙君に気づかれずにいい感じに両思いになりたい。そんな思いで桜の木の下で深呼吸をする。そして、あやかしがいないかどうかを感じ取る。このざわっとする感じはあやかしかもしれない。背中に感じる普通とは違う感覚を肌で感じ取る。
「僕を呼んだ?」
「もしかして、ムスビさん?」
「そうだよ。君は好きな男の子がいて、両思いになりたい気持ちで心があふれているね。僕にはわかるよ」
優しい声で、撫でるように静かに発する声は心地いい。まるで夢の中のまどろみの中のようだ。振り返ると優しい木の妖精のような雰囲気の少年が現れる。優し気な目元と雰囲気が安心できそうな感じだ。
「あなたは木の妖精なの?」
「そうだね。この木に思い入れがあって妖精になったみたいだね」
「両思いになれるって本当?」
「この木の下で告白すると両思いになれるようにはしているけれど、ここは中学校だから、結婚みたいな永遠的な結びつきまでは保証できないけれどね。現に別れる率も比較的高いんだ。でも、一時期でも魔法で心をときめかせて幸せになってもらいたいと思うんだよね」
「あなた、なぜ木の妖精になったの? 私、あやかしカウンセラーをやっているからちょっと気になって」
「あやかしカウンセラー?」
「あやかしたちの相談に乗る相談所を立ち上げたんだ」
「じゃあ、僕の話を聞いてよ」
思ってもみないことが起きる。妖精の話を聞いてほしいといわれるとは。カウンセラーを担う私は、彼の話を聞くことにした。
「僕は元人間だったんだ……」
思ってもいなかった告白に私はちょっとびっくりする。
「中学生だった僕は、この桜の木の下で、仲が良かった女の子とよく話をしていたよ。その人と両思いになりたいって思っていた。その子の名前は結《ゆい》っていうんだ。でも、僕はそれから病気で死んでしまったよ。告白もできないまま……」
遠い目をして話をする木の妖精の瞳はとても優しく、遠い過去を懐かしんでいるようだった。その目はまるでビー玉のように透き通っていて、今日の青空によく似合う。きっと心残りがあるから、少年は想いが強いこの場所にずっといたのだろう。そして、ここに住みついてしまったのかもしれない。想いが伝えられないまま少年はずっとここにいるのでは、彼はずっとこのままだ。彼のために何かしないと。そう思った私は提案を試みる。
「ねぇ、あなたの想い人を探してあげようか。その暁には……」(両思いにしてもらわないと)
「本当に? でも結が今はどこに住んでいるのかもわからないんだ」
寂しそうなムスビ少年の顔を見ていると、力になりたくなる。
「私でよかったら協力するよ。あやかし相談所のメンバーにも協力してもらえば、きっと早く見つかる可能性が高いよ」
「楽しみだな」
ムスビ少年は笑顔になる。この人はずっと少年であって心もそのままなのだろう。
「ところで、結さんって何年前の卒業生なの?」
「それが、記憶がないんだ。妖精になってからは時の流れを感じなくなってね。ずっとこの場所にいるし、体もそのままで歳をとらないからね。時間の感覚がないのかもしれない」
「先生に頼んで、卒業アルバムで探してみるよ」
私とムスビ少年は城山先生の元に向かう。
すると――昇降口の前で妖牙タイジが腕組みして待っていた。
「何してるんだ? 活動するなら俺の許可が必要だろ」
「相談に乗ってほしいという木の妖精に出会って……」
妖牙君に気づかれず任務を遂行したかったのだが、教室の窓から見えていたのかもしれない。
「あやかし相談所の発起人は俺だからな。それで、どんな相談だったんだ?」
「ムスビさんという縁結びの木の妖精なんだけれど、元人間だったらしいの。なぜ縁結びを始めたのかというと、自分があの桜の木の下でよく話していた相手に告白できないまま病気で死んでしまったんだって」
「妖精……ね」
妖牙君は少し難し気な顔をしながら考えている様子だ。
「俺もムスビさんとやらに確認する」
ムスビさんに向かって話しかける妖牙君。はたから見たらひとりごとにしか見えないだろう。
「好きだった気持ちを伝えたいのか? 今でも会いたいと思っているのか?」
妖牙君は真剣な顔で確認を取った。
「好きだったという気持ちは、できれば伝えたい。そして、会ってみたいけれど、今どこに住んで何をしているのかはわからない。僕は死んだ日から時間が止まってしまったんだ。だから、時間の経過の感覚は感じられないし、どれくらい経ったのかは実感できないんだ」
「おまえ、本名は?」
ムスビさんが少し考え込む。
「名前も忘れたのかよ?」
「ずっと名前で呼んでくれる人は誰もいなかったからね。だから、忘れてしまうものだよ」
「ってことは死んだ時期は相当前ってことじゃないか? この中学は歴史があるからな」
「ムスビと呼ばれるようになったのは、想い人である結の読み方を変えてムスビと名乗ったような気がする」
「結っていう女の上の名前は覚えているのか」
「名字は……忘れたなぁ」
「手がかりが少ないが、城山に聞いてみるか」
ムスビさんを連れて理科準備室の城山先生のデスクに行くと、先生は楽しそうに実験の準備をしている。鼻歌交じりで、仕事をこんなに楽しんでいる人は珍しい。傍らには華絵さんがにこにこして窓辺に座っていた。日差しの似合うあやかしはそうそういるものではない。
「実は、過去の卒業アルバムを見せてほしいんだ」
「何年前の?」
「一応、全部」
「この学校ができて80年は経っているから、全部のアルバムから探すことは厳しいな」
「名前から同窓会名簿で検索ってできないのか?」
「できるよ。何を隠そう僕が同窓会の担当をしているから、名簿はデーターベースを作っているからね。パソコンで検索して探してあげようか?」
得意げにきりっとした顔をする城山先生。ムスビさんのことは察しているのか見えているはずなのに、あまり聞いてこない。
「助かります。でも、女性は名字が変わっている人が多いかもしれないですね」
「人によっては知らせてくれていれば、旧姓と新しい名字が書いてある場合もあるよ」
そう言うと、城山先生はパソコンの同窓会フォルダを開く。そして、名前検索ページを出してきた。
「結ぶと書いて、結という名前を探してください」
少年の声は普通の人には聞こえないが、城山先生には普通に届くので、パソコンのキーボードを叩く。すると、結構前の卒業生から最近の卒業生まで10人くらいの名前がヒットする。
「結構いるもんだなぁ」
城山先生はそう言いながら、該当する卒業アルバムを倉庫から持ってきてくれた。
最近のものよりは古い方から探してみる。一番古いものだと、60年前の卒業生だ。ということは75歳になっているということだろうか。古びた卒業アルバムを開くと、かび臭いにおいがする。ずっと誰も開いていなかったであろうほこりと日焼けとしみができていた。
「ムスビさんって結構前に卒業したんだっけ?」
「わからない。最近と言われたら最近な気もする」
昔の卒業アルバムは白黒で個別の写真がない。集合写真の下に小さく名前が書かれている。今のように個別に映っていない。昔のアルバムの最後には生徒や教職員の住所や電話番号まである。教師の場合は、実家の住所まで掲載されている。でも、これから個人情報の問題で名前と顔を掲載しなくなるかもしれないし、デジタル化になってCDーROMのようなデジタル形式になるのかもしれない。卒業アルバムの進化は人類の進化だ。そんなことを思いながら、生徒の写っているページを開く。
1組にはいない、2組にもいない……昔の子供は人数が多く、今よりもクラスの数も多い。そして、生徒の数の多さに驚く。少子化になるなんてこのころの日本人は思っていなかったのだろうな。
10組のページを開いて見ていた時に、ムスビさんは声をあげた。
「結ちゃんだ!!」
久しぶりに見た想い人の写真を見て、ムスビさんはとても喜んでいる。
でも、この人って同世代ならば、生きていれば75歳ってことだよね。目の前にいる15歳くらいの少年の妖精を見て改めてその純真さに感心する。時の流れに関係がない人は、少年のままいられるのだろうと、透き通った瞳を見て感じていた。
結ちゃんという女の子は、みつあみで、今とは違う形の制服を身にまとっていた。昭和の香りがする木造校舎を背景に撮影したクラス写真と白黒写真。結ちゃんの顔は瞳が大きく、眉毛が見えるくらい短い前髪は顔立ちのはっきりした様子をうかがわせる。目鼻立ちの整った小顔の少女は今、どこで生きているのだろうか。この60年間で、どんな風に変わったのだろうか。結婚して孫がいるかもしれない。今は幸せだろうか。知らない人のことなのについ感情移入してしまう。
後ろの方に全員の住所や電話番号が載っている。同窓会名簿でも同じ住所のままだった。ここに住んでいるかどうかもわからない。でも、これしか今のところ手掛かりはない。気になったのは名字が旧姓森川と書いてあったという点だ。つまり、名字が変わってから、同窓会に連絡したことがあるということだろう。だから、卒業してからも彼女は健在だったということはわかった。新しい名字は川瀬となっている。結婚したとか、親の離婚で名字が変わったとかそういった想像が広がる。
「ムスビさん、結さんは今は75歳のおばあさんになっていると思う。生きているかどうかもわからない。もし、生きていたら会いたいですか?」
事情を聞いた城山先生が念を押す。
「結さんの見た目が変わっていたら60年の恋が冷めるかもしれない。確実に人間は歳をとって見た目は変わります。今、どういう生活をしているかもわからないから、思い出は思い出のままでしまっていたほうが幸せだということはありますよ。あなたは永遠の15歳だ。でも、結さんは違う」
「僕は結さんに会いたいよ」
「会ったら、成仏できるよな」
妖牙君が念を押した。
「成仏? だって……妖精だよね?」
「妖精だと本人も思い込んでいるだけなんじゃないか? 本当は成仏できない幽霊ってことだ」
小声で妖牙君が説明する。
「でも、ムスビさんは縁結びもできるし……」
「縁結びは、自分がかなえられなかったことを人のために何かやってあげたいという彼の優しさが生んだ能力なのだろうね。長く幽霊やっていると能力が身に着くことは結構あるんだ」
妖牙タイジの頼もしさを感じる。知識量が豊富で霊感が高いし、本当に頼れる人だなぁとやっぱり好きだという想いが強まる。りりしい彼の横顔に見とれてしまう。同じ歳なのにしっかりしていて、同級生には他にはいない、たくましさと頭の回転の良さを感じる。
「僕から電話してみるよ」
城山先生が名簿の電話番号にかけてみる。
「ちなみにムスビさんも同じ学年ならば、どこかに映っているんじゃないか?」
妖牙君が顔をまじまじと見つめながら、写真をくまなく探す。
しかし、見つからない。
「僕は多分、卒業できなかったから。アルバムにはいないと思うよ」
ぽつりと寂しそうに言うムスビさん。
「あやかしカメラを発明したんだ。これは、あやかしが写ることが可能なカメラなんだ。でも、人間はうつらないのさ」
城山先生が机の中から発明品を取り出す。
「さすが、城山先生!!」
華絵さんはうれしそうに尊敬のまなざしだ。
城山先生は思っていたよりもすごい人らしく、有能な商品を開発している。でも、一般的に幽霊だけを写真に収めたい人はいないので、このカメラが市場に流通することは難しいだろう。一般的な商品として価値は低いが、幽霊だけを撮影したい人にはうってつけのアイテムだ。そして、そんなものを作ることができる城山先生は優秀な人間だ。
「このカメラでムスビさんを撮影して、見せればきっと思い出してくれるだろう。さっそく電話してみるよ」
理科準備室に備え付けられている学校の電話の受話器を取り、ボタンを押す。私たちは息を呑んで見守ることしかできないでいた。つながるかどうか、緊張してしまう。つながらなかったら、全く無関係な人が電話に出たら1から探さなければいけない。振出しに戻ってしまう。
「もしもし、矢樫中学校の同窓会担当の教師の城山と申します。結さんはいらっしゃいますか?」
「はい、代わります」
ハンズフリーにしているので会話が響く。代わると言った女性は私たちの親世代のような声だった。娘かお嫁さんといったところだろうか。
「もしもし」
ゆっくりな口調で歳を経た女性の声が響く。
「森川結さんでしょうか。今は、川瀬結さんでしょうかね」
城山先生が確認すると、
「はい、そうです」
落ち着いた声だ。
「実は、会わせたい人がいるのです」
「誰ですか?」
「桜の下で仲良くしていた同級生の少年がいましたよね。その少年は病気で亡くなってしまいました。覚えていますか?」
少し間が空いてから、返事があった。
「えぇ、いましたね。よく覚えております。木下誠実《きのしたせいじつ》君……だったかしらね」
「実は確認してほしい写真がありまして、今から伺ってもいいですか」
「ええ、かまいませんよ」
「そうか、僕は木下誠実だ……」
自分の名前を思い出したムスビさんは少し姿が薄くなったような気がした。
住所は中学校の学区にあり、徒歩で行くことができる距離だ。ずっと何十年もこの町にいたのだろうか。実は案外近くで大人になっていたのかもしれない。
城山先生はあやかしカメラで写真を撮影する。木下君の写真を撮ることに成功した。そして、メガネを取り出した。
「これは、あやかしメガネっていうんだ。これをかければ、霊感がない人でもあやかしの姿を見ることができるんだ」
一同感嘆の声が洩れる。まさか、こんなアイテムまで隠しているとは、さすがとしか言いようがない。
「いってらっしゃい」
笑顔で学校にしかとどまることができない華絵さんは見送った。
城山先生と妖牙君と木下君とモフモフ二匹を含む四人と二匹で結さんの家に向かう。木下君はずっと学校内にいたので、何十年ぶりかの外の景色だった。そして、街のうつりかわりに驚く。
しばらく歩くと、川瀬と書いた表札に昔ながらの年季の入った住宅が見えた。
「ここだよ。準備はいいかな? 木下君」
木下君は手をぎゅっと握り締めた。60年ぶりの再会はさぞかし緊張しただろう。見た目も変わっていて、どんな気持ちになるのだろう。もし、私が急に75歳の妖牙タイジに会って心がときめくのかというと、はなはだ疑問だ。
趣のある住宅の玄関は横開きで開けるとがらがらと音を立てそうな感じがする。昔は横開きの玄関が多かったのだろうが、最近は押して開けるタイプのドアが主流だ。最新の技術はいつかは古くなる。流行も変化する。赤いけれど少し色落ちした郵便ポストが設置されていた。ピンポーンとボタンを押す。すると、すりガラスになっているドアの向こうにからは、誰かがこちらへ歩いてくる様子の人影がうつる。
「こんにちは。矢樫中学校の者です」
大きめの声を出す。
「はーい」
結さんだろうか。声が思ったよりは若い感じがする。40代くらいの感じがする。
「お待ちしておりました」
少し警戒した様子の女性は結さんの娘だろうか。
「こんにちは」
女の子がひょっこりお母さんの後ろから顔を出した。先ほど見た若い時の結さんの顔に似ているような気がする。お孫さんだろうか。まだ幼稚園か小学校低学年くらいに見える。
職員証を城山先生は見せて、警戒心を解く。
「実は会いたいとおっしゃっている人がいましてね。そのことで結さんに確認したくて」
「はぁ……。どうぞ奥の和室に母がいます」
結さんは、結婚して産んだ子供がこんなに大きくなったのかぁ。そして、孫までいるとなると、やっぱり時は確実に流れているんだな。木下君はずっとあの時のまま止まっていたんだ。それは幸せなことなのだろうか。時が止まったまま若いままでいること、それは不幸せなことなのだろうか。
私たち3人と木下君は一緒に向かう。もちろん他の人からは3人しか見えていないので、木下君はいないものとして扱われる。
ソファーに腰を掛けているのは、75歳の結さんだ。どことなく顔に面影があり、お上品な女性という印象だ。いい年の取り方をしている気がするので、きっと幸せな人生だったのかもしれない。
「こんにちは」
「こんにちは」
「木下君のことを覚えていますか?」
「えぇ、彼は若くしてこの世を去ってしまったねぇ。私の初恋の人だったの。初恋は実らないっていうじゃない。やっぱり本当ねぇ」
「この写真の彼は木下君ですよね」
少し前にあやかしカメラで撮ったものだ。ポラロイドカメラなのでその場ですぐにプリントができるという仕様だ。
「懐かしいねぇ。彼はずっと若いままだけれど、私はこんなにも歳を重ねてしまったよ」
「彼が会いたいと言っています」
「え?」
「このあやかしメガネをかけてみてください」
「わかりました」
結さんは言われた通りにあやかしメガネをかけた。すると、目の前に15歳のままの初恋の木下君が現れる。
「木下君……」
「結ちゃん」
すると、桜の花びらが舞い散り、二人を囲む。木の妖精のような力を持ってしまった木下君が起こした奇跡だ。桜色の花びらに囲まれた結さんは15歳の姿に変化する。
「あの時、伝えられなかった言葉を時を経て伝えるよ。ずっと好きでした」
「私も好きでした。でも、伝えようと思ったけれどあなたは病気が悪化して学校に来なくなってしまって、会うことはかなわなかった。でも、ずっと心の中であなたの存在は残っていました。桜の下で話した思い出は忘れません」
「ありがとう」
二人で同時にありがとうを言うと、そのまま木下君は成仏したらしく、桜の花びらと共に煙のように消えてしまった。今回は強制的に成仏させる必要がなく、まさにあやかし相談所ならではの解決方法だったと思う。
結さんは結婚した旦那さんに5年ほど前に先立たれ、今は娘夫婦と孫と生活しているらしい。
「そういえば、おまえがムスビさんに何か頼もうとしていたのって恋愛成就か?」
妖牙君は忘れていなかったらしい。
「まぁ、そんな感じかなぁ」
「で、好きな奴って誰なんだ?」
あなたのことよ、と言いたいけれど言えない私は、木下君のように成仏できないかもしれない。でも、今はまだ秘密だよ。
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