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ナナの命の長さ
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仇討ちを果たして、毎日母に手を合わせながら、自然と毎日が過ぎていった。ひとつ言うならば、仇討ちは自己満足の極みであり、母が何かしらの喜びを見せることはないという現実だ。そして、あと味が悪いという現実。
エイトに呼び出されていたナナは子ども食堂の片づけを全部終えて自宅に戻る。するとエイトが窓の外を見つめながら立っていた。
「ナナ、色々心配事があるんじゃないか。最近表情が暗い時が多いな」
「そんなことないよ」
「ナナは自分の生きる長さが半分になったことに恐怖を感じているんじゃないか?」
「……」
ナナは図星だったので何も言えないでいた。
「このことはずっと秘密にしておくべきか迷ったが、ちゃんと話しておく」
「大事な話って……?」
「実はあのとき、お前とは契約を交わしていないんだ」
エイトがふいに振り返る。ナナの瞳をじっと見る。
「あのときって?」
「ナナ仇討ちをした時のことだ。寿命を半分受け取って仇討ちをするのが通常だけれど、半妖の俺はあの老人に残りの寿命がないことを知っていた。でも、ただ死んだと聞いても人は怨む対象がなくてやるせなくなるものだ。仇を討ったという気持ちが怨みには一番大切だということを知っていたから、仇討ちをするフリをしただけなんだ」
「え……? あの人は、仇討ちで死んだわけではないの?」
「あの日あの場所で寿命が途絶えることを俺は知っていた。だから、あえて、あの日の晩に決行した。実際、ナナの寿命はもらっていない」
「嘘……?」
そういえば、口約束だけで、寿命を渡す行為をしていない。彼がナナの体から光を奪う行為をしていないことに今更気づく。
「本当は言わないでおくことが、寿命を差し出した依頼人の罰になるんだが。身内になった人間には言っておかないとな。あと、基本今後身内の怨み晴らしはできないからな」
そう言うと、エイトは申し訳なさそうに笑った。そして、ナナはずっと恐れていた寿命の半分になったという見えない呪縛から解き放たれた。そして、自分のせいで人を殺していないという真実を聞き、本当に晴れ晴れとした気持ちとなった。死刑執行官という仕事も、誰が押したボタンかわからないように複数あると聞いた事がある。その理由は罪悪感に苛まれないようにという話だ。
人が怨みを晴らしたとしても、どこかで罪悪感という代償がつきまとう。怨みを晴らしたから幸せになれないということなのではないだろうか? だから、「人を怨めば穴二つ」という自分にもかえって来ると言うことわざが生まれたのかもしれない。本当に心から幸せにはなれないということを意味しているようにも思えた。
実際、半妖の契約の場合は寿命を半分もらうというとりきめがある。自分では何年あるのかもわからない寿命の代償がある。何年寿命があるのかはかわからないことは誰でも同じだが、実際、半分無くなるという事実は大きいと思う。
半妖は長生きだ。だから、普通に考えればナナの方が早く死ぬことはわかっている。早く老けることもわかっている。でも、一日でも長く一緒にいられたらいい。若干15歳の女子が願うことなんてちっぽけなねがいだけれど、大切な人の隣にいたい。ただ、それだけだ。
そして、月あかりに照らされたエイトたち半妖は今日も半妖の仕事をしに行く。それは仇討ちという名の人助けであり、彼らの果たすべき義務だ。それが結果的に誰かが不幸になるかもしれないけれど、誰かが救いを求める場所として必要だ。時代が変わっても、人の心が存在する限り、心の拠り所として半妖を頼る人間が後を絶たない。それは、人間には成し得ない力であり、人間を超越したものを神と呼ぶ。それは、自分にとっての幸福の神様なのかもしれない。たとえそれが死神だとしても――。
「ナナの寿命を見ようとしたときに気づいたんだが、ナナは半妖だったんだな」
「え?」
「おまえのお父さんが妖怪だったってことだ」
「お母さんは妖怪に惹かれる体質だったってこと?」
「そうなのかもしれない。お父さんは、妖怪だと告げずに結婚したのかもしれないな」
複雑顔のエイト。
「高校を卒業したら、チーム半妖に入れ。ナナの寿命は結構長いぞ」
「実は私が半妖?」
意外な事実に驚き、口がふさがらない。
「そうだ。半妖としての仕事で、ビシバシ鍛えてやる。覚悟しておけ」
一瞬、ナナは自分の身に起こったことを理解できないでいた。でも、目の前の半妖が生き生きと生活していることに気づく。だから、受け入れることは案外容易だった。
若い時間が長い半妖としてエイトとナナは同じ時間を生きる。それは偶然だったのかもしれないが、どこかの神様がくれた運命だったのかもしれない。
「ずっと7|《ナナ》の隣は8でいてほしいって思うよ」
「家族として、これからもそばにいてほしい」
エイトとナナの誓いの約束がここで結ばれた。それが、恋や愛かって? 長い人生、先のことなんてわからない。人の気持ちは変わるものなのだから。愛ならば家族愛なのかもしれないし、もしかしたらもっと別な好きな気持ちが隠れているのかもしれない。でも、今はただ隣にいるだけで幸せだ。
エイトに呼び出されていたナナは子ども食堂の片づけを全部終えて自宅に戻る。するとエイトが窓の外を見つめながら立っていた。
「ナナ、色々心配事があるんじゃないか。最近表情が暗い時が多いな」
「そんなことないよ」
「ナナは自分の生きる長さが半分になったことに恐怖を感じているんじゃないか?」
「……」
ナナは図星だったので何も言えないでいた。
「このことはずっと秘密にしておくべきか迷ったが、ちゃんと話しておく」
「大事な話って……?」
「実はあのとき、お前とは契約を交わしていないんだ」
エイトがふいに振り返る。ナナの瞳をじっと見る。
「あのときって?」
「ナナ仇討ちをした時のことだ。寿命を半分受け取って仇討ちをするのが通常だけれど、半妖の俺はあの老人に残りの寿命がないことを知っていた。でも、ただ死んだと聞いても人は怨む対象がなくてやるせなくなるものだ。仇を討ったという気持ちが怨みには一番大切だということを知っていたから、仇討ちをするフリをしただけなんだ」
「え……? あの人は、仇討ちで死んだわけではないの?」
「あの日あの場所で寿命が途絶えることを俺は知っていた。だから、あえて、あの日の晩に決行した。実際、ナナの寿命はもらっていない」
「嘘……?」
そういえば、口約束だけで、寿命を渡す行為をしていない。彼がナナの体から光を奪う行為をしていないことに今更気づく。
「本当は言わないでおくことが、寿命を差し出した依頼人の罰になるんだが。身内になった人間には言っておかないとな。あと、基本今後身内の怨み晴らしはできないからな」
そう言うと、エイトは申し訳なさそうに笑った。そして、ナナはずっと恐れていた寿命の半分になったという見えない呪縛から解き放たれた。そして、自分のせいで人を殺していないという真実を聞き、本当に晴れ晴れとした気持ちとなった。死刑執行官という仕事も、誰が押したボタンかわからないように複数あると聞いた事がある。その理由は罪悪感に苛まれないようにという話だ。
人が怨みを晴らしたとしても、どこかで罪悪感という代償がつきまとう。怨みを晴らしたから幸せになれないということなのではないだろうか? だから、「人を怨めば穴二つ」という自分にもかえって来ると言うことわざが生まれたのかもしれない。本当に心から幸せにはなれないということを意味しているようにも思えた。
実際、半妖の契約の場合は寿命を半分もらうというとりきめがある。自分では何年あるのかもわからない寿命の代償がある。何年寿命があるのかはかわからないことは誰でも同じだが、実際、半分無くなるという事実は大きいと思う。
半妖は長生きだ。だから、普通に考えればナナの方が早く死ぬことはわかっている。早く老けることもわかっている。でも、一日でも長く一緒にいられたらいい。若干15歳の女子が願うことなんてちっぽけなねがいだけれど、大切な人の隣にいたい。ただ、それだけだ。
そして、月あかりに照らされたエイトたち半妖は今日も半妖の仕事をしに行く。それは仇討ちという名の人助けであり、彼らの果たすべき義務だ。それが結果的に誰かが不幸になるかもしれないけれど、誰かが救いを求める場所として必要だ。時代が変わっても、人の心が存在する限り、心の拠り所として半妖を頼る人間が後を絶たない。それは、人間には成し得ない力であり、人間を超越したものを神と呼ぶ。それは、自分にとっての幸福の神様なのかもしれない。たとえそれが死神だとしても――。
「ナナの寿命を見ようとしたときに気づいたんだが、ナナは半妖だったんだな」
「え?」
「おまえのお父さんが妖怪だったってことだ」
「お母さんは妖怪に惹かれる体質だったってこと?」
「そうなのかもしれない。お父さんは、妖怪だと告げずに結婚したのかもしれないな」
複雑顔のエイト。
「高校を卒業したら、チーム半妖に入れ。ナナの寿命は結構長いぞ」
「実は私が半妖?」
意外な事実に驚き、口がふさがらない。
「そうだ。半妖としての仕事で、ビシバシ鍛えてやる。覚悟しておけ」
一瞬、ナナは自分の身に起こったことを理解できないでいた。でも、目の前の半妖が生き生きと生活していることに気づく。だから、受け入れることは案外容易だった。
若い時間が長い半妖としてエイトとナナは同じ時間を生きる。それは偶然だったのかもしれないが、どこかの神様がくれた運命だったのかもしれない。
「ずっと7|《ナナ》の隣は8でいてほしいって思うよ」
「家族として、これからもそばにいてほしい」
エイトとナナの誓いの約束がここで結ばれた。それが、恋や愛かって? 長い人生、先のことなんてわからない。人の気持ちは変わるものなのだから。愛ならば家族愛なのかもしれないし、もしかしたらもっと別な好きな気持ちが隠れているのかもしれない。でも、今はただ隣にいるだけで幸せだ。
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