半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

響ぴあの

文字の大きさ
上 下
27 / 39

エイトの父 死神

しおりを挟む
 エイトが珍しく、たまの休みにでかけないかと誘ってきた。以前約束した墓参りだ。家族としての絆や結束を深めたいとか言っていたけど、家族と言っても二人しかいないじゃんと心の中でつっこみを入れる。チーム半妖のみんなには休みを与えたらしく、二人きりで出かけることになった。

 中学三年で受験生だけど、成績は上位なので、推薦が確実だ。だから、受験生とはいってもそんなに勉強しないと高校に行けないという焦りはなかった。そして、エイトと一緒の時間を共有したいという気持ちになる。一緒にいて楽しいし、もっと一緒にいたい。そんなことははじめてだ。とはいっても、母のお墓参りだ。納骨を済ませてから、郊外の墓地に来るのは二回目だろうか。なかなか、歩いていくことができる距離じゃないので、ここには毎日のように来ることができない。

 エイトの外車がきらきら光っていた。太陽の光に反射され、コーティングされた車のボディーが角度によって違う色に見えるような気がする。それくらい光沢すらも素敵な車で、エイトもいつもの部屋着のスウェットやジャージではないというあたりが、かっこよさを際立たせる。とはいっても、普通のジーンズにTシャツという格好でも充分この人の場合、目立つような気がする。半妖のせいだろうか? オーラとか存在感が普通の人と少し違うような気がする。

「実は、今日、親父と会う約束をしているんだ」
 意外な事実を知る。

「どこで?」

「墓場の近くにある雑木林にいるという手紙を受け取ったんだ」
 そんな大事な場面に一緒に行ってもいいのだろうか。

「何年ぶりなの?」

「俺が覚えている記憶に親父はいない。だから、会っていても赤ん坊のころだったのかもしれないな」

「写真はみたことあるの?」

「おふくろに見せてもらった写真には写っていたが、正直人間と見た目は変わらないんだよな。一人で会うのも緊張するし、今は家族となったナナと一緒に会おうと思ってな」

「お父さん、何か話したいことがあるのかな?」

「親父には、どういうつもりで結婚したのか聞いてみたかったんだ。おふくろ一人に育児を押し付けてどこかにいっちまったんだからな。ようやく問い詰められるってもんよ」

「緊張しているんだね。エイトの顔がさっきから笑っていないから」

「うるせぇ」

 強がっているエイトだけれど、本当は怯えているような不安な気持ちが伝わってくる。それは、彼と父との距離がそうさせているんだろう。なぜ今まで連絡をよこさなかったお父さんが今になって? 半妖のさだめを辞めることができれば、エイトの肩の荷は下りるのに。

 怨みというのは決していい結果を生まないことをエイトはよく知っている。相手を怨み、その怨念を晴らしても、根本的な解決にはならない。依頼人の自己満足だ。その人の過去がまっさらに清算されるわけではない。それを一番身近に感じているエイトは怨みを晴らすことのむなしさを一番感じているのではないだろうか? 怨んだ人の元へ怨念は自分に返ってくると聞いた事がある。人を怨めば穴二つ。それは、自分が不幸になること、それでも怨むことを辞めない人間。そのはざまにエイトたち半妖はいる。

 人間の嫌な部分を見る仕事。好きで半妖になって生まれたわけではないのに、人間たちの終わらない怨みと向き合うことをさだめとされた彼はとてもかわいそうな立場にあると思う。そうしないと、ここで生活ができないなんて、半妖こそが怨みを持つ可能性はある。妖怪と人間の間に子供を作った親に対して怨みを持っているものは多いだろう。一生懸命育ててくれなかった親に対してはその怨念は強いだろう。でも、自分の怨みを晴らすことはできない半妖。なんてかわいそうなのだろう。彼が背負う運命はあまりにも重すぎる。思わず心の中で手を差し伸べたくなる。ずっと年上なのにかれはとても弱く寂しがりやだということも知ってしまったから。

「自己責任って言葉があるけど、怨みを持たなければいけなくなる経緯には自己責任もかなりあることが多い。結果、悪くなったのは他人のせいだと全部他人が悪いという話に切り替える人間も多いんだ。親父は自己責任を果たさずいなくなっちまった。その経緯をちゃんと聞きたいんだ」

「私がいてもいいの?」

「ナナは家族なんだ。一緒に来てほしい。そろそろ、親父との約束の時間だな」

 そう言いながら、カーブを曲がり、運転の速度を上げる。山の方へ向かうので、坂道にさしかかると、アクセルを踏み込む。やっぱり運転する男の人の姿はかっこいいような気がする。2割か3割増しのかっこよさだと実感する。さらさらした金色の髪が、太陽に当たると黄金色の輝きを放つような気がする。

 一瞬エイトを独り占めしている快感が少しばかり心地よかった。たった一人の家族と認められている。そして、実のお父さんに会う。エイトは、どれほどの緊張をしているのだろう? エイトにとって実の父親は他人も同じだろう。だから、一人だと勇気が出ないというのもあるかもしれない。彼を支えてあげたい、そんなことを勝手に思ってしまうナナがいた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

【総集編】 1分怪談短編集

Grisly
ホラー
⭐︎登録お願いします。 1分で読めるホラー、怪談、サスペンス。 ひんやりしませんか。 

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)

春の夜話

のーまじん
ホラー
東京の下町に住む池上の家には子供たちが集まる。 ある日、子ども達が怪談を聞きたがり、池上の友人で声優の秋吉が話を始めようとします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

処理中です...