25 / 39
寒天ゼリー
しおりを挟む
休日に割とよくいるのが、初来店の親子連れのお客様。彼らは漫画の妖怪学園エンマのファンで家族旅行のついでに定食屋に立ち寄ったというケースが多い。原作者が経営している定食居酒屋で何か食べてみよう、もしかしたら、原作者に会えるかもしれないという期待があるのだろう。
昼間、エイトはあまり下に降りてくることは少ないが、遅めの昼食を取りにたまに店にやってくることもある。でも、たいていは、二階に届けることのほうが多い。仕事の合間に食べるという感じだろうか。エイトは自宅の一階が定食屋というわけで、食べるものに困ることはない。作ってくれる人もいるという恵まれた環境だ。
「ママ、漫画家先生っていないの?」
「今日はいないみたいだね」
親子でファンの場合、子どもはキャラクターのファンで、母親はイケメン原作者のファンで、父親は漫画に出て来るセクシーキャラクターのファンだったりすることが多い。セクシーと言っても少年漫画の領域だ。声優の声も評判が良く、声優ファンということも多い。
一応、ファン向けにイラストポスターとサインを店内に貼っているので、カメラで撮影していくお客さんは多い。たいていは、エイトには会えずに終わってしまうことが多い。
「今日は水瀬先生は?」
たいていそういった客は申し訳なさそうにこっそり樹に聞くことが多い。しかし、子どもの場合は、会えると思って来たりするので、泣いてしまうとか、言うことを聞かない場合もある。そんな時は、ちょっとしたキャラクターグッズをプレゼントしたり、お菓子をあげることも多い。樹は気配りが細かい。エイトは創作に入ると部屋にこもってしまう。よって、仕事中はなかなか呼び出すことは難しい。波に乗っているときに邪魔をしてしまうと、次の波が来るまで調子がでないという話だ。
デジタル化になった現在は、手書きではないので、消しゴムをかけたりスクリーントーンを貼ったりする手間はなくなったようだ。それでも緻密な作業なので、集中して描かないと間違いが起こったり、作画ミスのようなことも起きる。
編集さんとは基本はメールや電話でやり取りをするけれど、時々うちに来て打ち合わせをすることもある。今は30代くらいの男性編集者だ。ちなみに妖力があるからといって、漫画に生かすことはできないらしい。銀色に光った状態で描くと早いとか、すごいものが描けるものでもないらしい。漫画家としての成功は半妖だということは関係なく、彼の才能なのだろう。
子どもがエイトに会えずにがっかりしながら、お子様ランチを食べている。子どお向けのランチも提供しているあたり、ストライクゾーンが広い。お父さんとお母さんは天丼を注文しているようだ。昼間のランチタイムは夜とはまた違った雰囲気がある。和風の店内が夜とは違う色合いになっているような気がする。
「いらっしゃい」
エイトの声がする。子どもの目が輝く。そして、その母親の目も輝く。人に夢を与える仕事というのはこういうものなのだろうか。
サインと握手と写真の3点セットを終えると、エイトはぷるぷるに左右に揺れる寒天ゼリーをサービスした。寒天ゼリーは体にもよく、子供にも女性にも人気のメニューだ。果物と野菜の汁を上手にブレンドしたゼリーはくせがなくおいしい。オレンジ色のゼリーには、気配りと思いやりも入っている一品だ。
昼間、エイトはあまり下に降りてくることは少ないが、遅めの昼食を取りにたまに店にやってくることもある。でも、たいていは、二階に届けることのほうが多い。仕事の合間に食べるという感じだろうか。エイトは自宅の一階が定食屋というわけで、食べるものに困ることはない。作ってくれる人もいるという恵まれた環境だ。
「ママ、漫画家先生っていないの?」
「今日はいないみたいだね」
親子でファンの場合、子どもはキャラクターのファンで、母親はイケメン原作者のファンで、父親は漫画に出て来るセクシーキャラクターのファンだったりすることが多い。セクシーと言っても少年漫画の領域だ。声優の声も評判が良く、声優ファンということも多い。
一応、ファン向けにイラストポスターとサインを店内に貼っているので、カメラで撮影していくお客さんは多い。たいていは、エイトには会えずに終わってしまうことが多い。
「今日は水瀬先生は?」
たいていそういった客は申し訳なさそうにこっそり樹に聞くことが多い。しかし、子どもの場合は、会えると思って来たりするので、泣いてしまうとか、言うことを聞かない場合もある。そんな時は、ちょっとしたキャラクターグッズをプレゼントしたり、お菓子をあげることも多い。樹は気配りが細かい。エイトは創作に入ると部屋にこもってしまう。よって、仕事中はなかなか呼び出すことは難しい。波に乗っているときに邪魔をしてしまうと、次の波が来るまで調子がでないという話だ。
デジタル化になった現在は、手書きではないので、消しゴムをかけたりスクリーントーンを貼ったりする手間はなくなったようだ。それでも緻密な作業なので、集中して描かないと間違いが起こったり、作画ミスのようなことも起きる。
編集さんとは基本はメールや電話でやり取りをするけれど、時々うちに来て打ち合わせをすることもある。今は30代くらいの男性編集者だ。ちなみに妖力があるからといって、漫画に生かすことはできないらしい。銀色に光った状態で描くと早いとか、すごいものが描けるものでもないらしい。漫画家としての成功は半妖だということは関係なく、彼の才能なのだろう。
子どもがエイトに会えずにがっかりしながら、お子様ランチを食べている。子どお向けのランチも提供しているあたり、ストライクゾーンが広い。お父さんとお母さんは天丼を注文しているようだ。昼間のランチタイムは夜とはまた違った雰囲気がある。和風の店内が夜とは違う色合いになっているような気がする。
「いらっしゃい」
エイトの声がする。子どもの目が輝く。そして、その母親の目も輝く。人に夢を与える仕事というのはこういうものなのだろうか。
サインと握手と写真の3点セットを終えると、エイトはぷるぷるに左右に揺れる寒天ゼリーをサービスした。寒天ゼリーは体にもよく、子供にも女性にも人気のメニューだ。果物と野菜の汁を上手にブレンドしたゼリーはくせがなくおいしい。オレンジ色のゼリーには、気配りと思いやりも入っている一品だ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

神送りの夜
千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる