半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

響ぴあの

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寒天ゼリー

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 休日に割とよくいるのが、初来店の親子連れのお客様。彼らは漫画の妖怪学園エンマのファンで家族旅行のついでに定食屋に立ち寄ったというケースが多い。原作者が経営している定食居酒屋で何か食べてみよう、もしかしたら、原作者に会えるかもしれないという期待があるのだろう。

 昼間、エイトはあまり下に降りてくることは少ないが、遅めの昼食を取りにたまに店にやってくることもある。でも、たいていは、二階に届けることのほうが多い。仕事の合間に食べるという感じだろうか。エイトは自宅の一階が定食屋というわけで、食べるものに困ることはない。作ってくれる人もいるという恵まれた環境だ。

「ママ、漫画家先生っていないの?」

「今日はいないみたいだね」

 親子でファンの場合、子どもはキャラクターのファンで、母親はイケメン原作者のファンで、父親は漫画に出て来るセクシーキャラクターのファンだったりすることが多い。セクシーと言っても少年漫画の領域だ。声優の声も評判が良く、声優ファンということも多い。

 一応、ファン向けにイラストポスターとサインを店内に貼っているので、カメラで撮影していくお客さんは多い。たいていは、エイトには会えずに終わってしまうことが多い。

「今日は水瀬先生は?」

 たいていそういった客は申し訳なさそうにこっそり樹に聞くことが多い。しかし、子どもの場合は、会えると思って来たりするので、泣いてしまうとか、言うことを聞かない場合もある。そんな時は、ちょっとしたキャラクターグッズをプレゼントしたり、お菓子をあげることも多い。樹は気配りが細かい。エイトは創作に入ると部屋にこもってしまう。よって、仕事中はなかなか呼び出すことは難しい。波に乗っているときに邪魔をしてしまうと、次の波が来るまで調子がでないという話だ。

 デジタル化になった現在は、手書きではないので、消しゴムをかけたりスクリーントーンを貼ったりする手間はなくなったようだ。それでも緻密な作業なので、集中して描かないと間違いが起こったり、作画ミスのようなことも起きる。

 編集さんとは基本はメールや電話でやり取りをするけれど、時々うちに来て打ち合わせをすることもある。今は30代くらいの男性編集者だ。ちなみに妖力があるからといって、漫画に生かすことはできないらしい。銀色に光った状態で描くと早いとか、すごいものが描けるものでもないらしい。漫画家としての成功は半妖だということは関係なく、彼の才能なのだろう。

 子どもがエイトに会えずにがっかりしながら、お子様ランチを食べている。子どお向けのランチも提供しているあたり、ストライクゾーンが広い。お父さんとお母さんは天丼を注文しているようだ。昼間のランチタイムは夜とはまた違った雰囲気がある。和風の店内が夜とは違う色合いになっているような気がする。

「いらっしゃい」

 エイトの声がする。子どもの目が輝く。そして、その母親の目も輝く。人に夢を与える仕事というのはこういうものなのだろうか。

 サインと握手と写真の3点セットを終えると、エイトはぷるぷるに左右に揺れる寒天ゼリーをサービスした。寒天ゼリーは体にもよく、子供にも女性にも人気のメニューだ。果物と野菜の汁を上手にブレンドしたゼリーはくせがなくおいしい。オレンジ色のゼリーには、気配りと思いやりも入っている一品だ。
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