半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

響ぴあの

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サンマづくし

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 定食屋は常連客で基本は成り立っている。いつもの日常の風景はとても平和だ。

 いつも夕方過ぎに来る白髪の上品な女性がカウンター席に座る。きっと、誰かと話したいから来るのかもしれない。ウーロン茶を飲みながら店員と話したり、他の客と話をしたいから来ているという感じだった。

 近所に住んでいるらしく、夕食を食べにくることが目的となっているようだった。樹はどんなお客さんにも優しいし、サイコはどんなお客さんとも話が合わせられるので、年齢は違えど、世間話をするには好都合と言ったところだろうか。ここは家庭料理が比較的安く食べることができる料金設定だ。

 この店は、一種の語り場であり、サロンのような場所でもある。近所には長く住む常連さんも多く、たまに来る怨み晴らし目的ではない客のほうが多い。常連は、多分裏家業のことは知らずに来ているような気がする。たいていの怨み晴らしの依頼者は一度来ると二度と来ることはない。だから、主な収入源はご近所などのなじみの常連さんと言ったところだろう。しかも、有名漫画家が経営しているとなれば、最近ではアニメや原作の漫画ファンも訪れる。タイミングが合えば、原作者に会えるということで、遠くから何度も足を運ぶ人もいるらしい。

「ここへ来るとなんだか落ち着くし、楽しい気持ちになるの」
 珍しくおばあさんが話しかけてきた。ナナは毎日夕食をここで食べているので、常連の一人ではある。

「私、一人暮らしなのよ」
 おばあさんは、聞いてもいないのに自分語りをはじめた。

「大震災があって、子供も孫もみんな死んでしまった。怨みは大自然にあったとしても、こればかりは裁くことはできないんだよね。震災被害は法律も、妖怪の手にも負えないよね。自分自身で折り合いをつけて納得するしかないんだよね。怨む相手がいないというのもやるせないもんだよ」

 おばあさんはこの店の裏家業のことを知っているようだった。

「ここの店員さんやお客さんと話しているとね、寂しいという気持ちが一瞬忘れられるのよ。話しているときは、孤独を感じないでしょ。だから、辛くなると、ここへ来るの。たまーに一杯いただくけれど、私、お酒に弱いからあまり飲めないのよね。ここの料理は本当に天下一品よ。一人暮らしだと、自分のためだけに一食作るのが面倒なのよ」

 まるで、同級生のような距離感で話しかけて来る。この間、ナナは一言も話していないのに、おばあさんはずっと話続けていた。

 たまにスーパーマーケットなんかで急に話しかけて来る年配の女性がいるが、まさにそんな感じだ。このネギが安いとか、この魚がおいしいとか、初対面の人に普通に話しかけて来るタイプの女性は割といたりする。10代のナナは、一瞬戸惑ってしまうけれど、いつも適当に相槌を打ってにこにこしていることが多い。女性というものは話したがり屋な生き物なのだろう。
 
 一定の歳を取ったら初対面の人間に話しかけるという行為が苦痛だとか恥ずかしいなんていう気持ちはどこかに吹き飛ぶのかもしれない。でも、その方が生きていて得しているような気がした。少なくともこの人は、ナナのような知らない人間に話しかけていることが楽しいと感じているようだ。なんだか、自分でも人のためになったような気がして、少しうれしい気持ちになる。

「たしかに震災は人の命を奪いますけれど、誰かのせいにできませんよね。病気もそうかもしれません。仇討ちが可能じゃないケースも世の中たくさんありますよね」

 ナナはようやくはじめての一言を発言することに成功した。

「ここの一押しは、魚料理よね。私は和食が好きだから、ここのあっさりした味付けが好きなの。みそ汁なんて最高よ。私の母の味みたいなの。今日はさんまづくしのセットを注文したの。さんまの焼き魚と大根おろしがマッチしていて、本当においしかったわ。みそ汁はさんまのつみれ。普通なのにおいしい料理ってそうそうあるもんじゃないよね」

 こんなに歳を重ねても母親の味は忘れない、この女性の脳裏に刻み込まれているってことなんだ。ナナは改めて料理の奥深さを知った。人々の心を支える居酒屋がここにあることはとてもいいことで、誰かのために何かをしているエイトはやっぱりすごいのかもしれない。

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