半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

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彼氏候補の訪問

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 我が家で話題になっている、私の彼氏候補の初野壱弥が我が家にやってくる日がとうとうやってきた。チーム半妖のみんなも興味津々のようだ。まだまだ友達なのだが、エイトは父親面をして、腕組みをして威厳を保つ。若いし、華奢な体なのに、目つきが鋭いせいか威圧感がある。怖そうな人という感じがエイトからは発せられる。

「水瀬エイト先生ですか。僕は先生の大ファンなんですっ。握手してください」

 壱弥がまるでアイドルと遭遇したファンのようにかけよって握手をせがむ。その姿は腰が低く、頭を下げながら必死に手を出すので、なんだか意外な一面だった。もっとおとなしく控えめなイメージだったから余計にそう感じるのかもしれない。調子を狂わせた半妖は、少し目つきが穏やかになる。

「かまわねーけど、今日はあいさつに来たんだろ」

「はい。サインもお願いします」

 色紙持参というところが用意周到だ。

「君、名前は?」

「初野壱弥です」

 目を輝かせている壱弥。エイトを見る視線が熱い。

「あのさ、今日はファンとしてきたのか? ナナの恋人候補として挨拶に来たのか? どっちだよ」

 怪訝そうなエイト。上から睨みつける。

「どっちもです。ナナさんのこと、いいなぁと思っていたんですけれど。ある時、保護者がエイト先生だとお聞きして、運命だと思いました」

「運命って何が?」

「ナナさんを好きになったのは、先生に会えるための縁だったんだって」

「結局、ナナのことより俺のほうが好きなのか?」

 あきれた顔のエイト。

「両方大好きです」

「しっかし、よくそういう台詞簡単に言えるな。ちゃんと好きじゃない男と交際は認めん、遊びだったらぶっ殺す」

 まるで昔の頑固おやじのようなセリフだ。結構古風なタイプなのかもしれない。見た目はそう見えないけれど。

「せんせえはちゃんと考えているんだね、娘のこと」

 冷やかすようにサイコが笑っていた。

「大事な娘さんに失礼のないようにお付き合いします」

「まだ付き合ってないって」

 ちゃんと否定する。

「そうだな、家でデートするならばリビングか定食屋限定な。ナナの部屋は禁止。俺だって入ったことないんだしな」

 腕組みしたエイトは過保護なうざい保護者となっている。絶対迷惑なタイプな大人だ。こんな親だったら口を利きたくないと思うだろう。

「ええ?? ここでデートいいんですか? 僕、先生の家に来てもいいならばしょっちゅう来ます」

「でも、俺は仕事中は基本別人みたいに集中してるから、相手はできないけどな。仕事部屋に入るのも禁止な」

「禁止っすか?」

 残念そうな壱弥。

「私も禁止なの、アシスタントと編集の人しか入ることはできないから」

 あまりにも残念そうな壱弥をみると、ナナと会いたいのではなく、漫画家のエイト先生に会いたいというだけではないのか? そんな疑念が頭をかすめた。

 彼氏候補を見て見ぬふりをして、半妖のみんなが通りすぎる。みんな好奇心旺盛だ。半妖って人間と変わらないんだなぁ。ここにいる人たちはみんな若いからなぁ。

 サイコなんてニヤニヤしながら、壱弥を上から下まで舐めるように見ている。

 ♢♢♢

 後日、デートというか二人で会う日がやってきた。

「今日はデートか?」

「まだつきあっていないけどね」

「どこ行くんだ?」

「なによ、過干渉の親みたい」

「保護者だから聞いてんだよ」

 食器をかたづけて、歯磨きをして着替えて出発しようとする。

「んで、今日はどこに行くんだ?」

 少し心配そうなエイト。探りを入れて来る。

「喫茶店とか映画とか雑貨屋めぐりとか、そんな感じだよ」

「その服、気合入ってるな。俺の前では、いつも気合の入らない部屋着のスウェットとかジャージなのにな。スカート短すぎないか? 肩もこんなに開いた服なんて……」

「流行のデザインなの。エイトだって、普段仕事着はジャージで寝るときはスウェットでしょ」

「おめーの前でしゃれ込む必要ゼロだしな。あんまり遅くなるんじゃねーぞ」

「いってきまーす」

 履きなれないヒールのあるかわいい靴を選ぶ。
 そういえば、エイトの前でほとんどおしゃれをしていないことに今更気づく。

 一緒に出掛けること自体初めてだ。映画をみて、ランチデートとなった。映画は会話をすることなく静かに鑑賞していればいい。ただ、異性と一緒に見ているという緊張感だけが特別な感じだったが、気が合わない人と見ても無難なのは映画なのかもしれない。壱弥は言い出しにくそうな様子で提案をしてくる。

「今日、おまえのうちにいってもいいか?」

「もしかしてエイトに会いたいの?」

「仕事場とか見ることってできないのかな?」

「無理だよ。私も入れてもらえないし」

 残念顔の壱弥。あからさまに顔に出る人だな。

「うちにくるだけならばいいけど」

「まじか?」

 顔がぱあっと明るくなる。もしかして、エイト目あてなの? 少し疑うナナ。

「ただいまぁ」

「おかえり」

 すぐに帰宅すると、仕事場からエイトが出て来る。仕事中はあまり出てこないのに珍しい。

「こんにちは、先生」

 壱弥は嬉しそうだ。

「壱弥君、お茶でも入れるから、そこ座れよ」

「まじですか? 俺、エイト先生にお茶入れてもらえるなんて感激です」

「んで、デートはどうだった?」
 エイトはかなり気になっている様子だ。

「まぁ、普通だけど」

 ばっちり監視体制に入る。エイトの睨みはその辺の人なんかよりずっと鋭い。お茶を飲み雑誌を読み始めるエイト。本当は監視目的なのだろう。

「先生、今日は落ち着きがなかったんですよね」

 愛沢が呆れた顔をして話しかける。

「デートのことが気になって仕事が手につかないって感じでしたね」

 鬼山も困った顔でつぶやく。

「先生って父親みたいに大事な娘を取られたくないとかそういうタイプですかね、本当に子煩悩だなー」

 壱弥は惚れ惚れしながら、エイトのリラックスタイムを撮影する。

「何撮ってるんだよ?」

「先生のことが大好きすぎて、写真がほしくて……すいません」

「もう撮るなよ。っておまえナナより俺のこと好きなのか?」

「そうかもしれません。正直先生のことをナナさんに聞きたいというアニメオタク根性が高じて、ナナさんと仲良くなったので。もちろん、ナナさんのことも好きですが、エイト先生の方がもっと好きで……」

「なんだよ、好きって」

 エイトは迷惑顔だ。

「俺よりナナのことが好きじゃないならば、交際は認めないぞ」

「先生の言う通りです。僕は交際を望みません。普通に友達としてナナさんとは仲良くしていきたいです。そして、先生から創作秘話とかいっぱい聞きたいのです」

 それを聞いたエイトは大きなため息をつき、鋭い眼光で睨みつけた。

「うちのナナはアニメファンの便利なツールじゃないから、帰れ」

 そう吐き捨てると、仕事部屋に戻った。

「ごめん、ナナちゃん。アシスタントの先生、みなさんにご迷惑かけてしまいました。これからもクラスメイトとしてよろしく」

 エイトの睨みが効いたのか、そう言って、壱弥はすまなそうに帰宅した。

「先生にあんなに愛されているから幸せね。ナナちゃんがデートしている間、時計ばかり気にして、いつもより執筆速度も落ちていたし、ミスも多かったのよ」

「いわゆる過干渉とか過保護なタイプなんですよね。エイトって昭和の頑固おやじみたい」

「きっとそのうち真相はわかるわよ」

 愛沢は優しく微笑んだ。
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