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肉じゃが
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「とりあえず生。肉じゃが定食」
ナナが定食屋の端の席で夕食を食べていると、サラリーマンが入ってきた。
「ここには仇を討ってくれる人がいるって本当か?」
少し、遠慮がちに客が質問する。
「ええ、本当ですよ」
樹が答える。
「ウチ、占ってあげるよ。水晶で見てあげる」
ギャル魔女サイコが楽しそうに水晶を掲げる。
「あんた、大変だったね。上司にパラハラうけてるっしょ」
「わかるのか?」
「ウチの占いは結構当たるからさ」
「仕事クビになったんだ。「山田一郎」という男に濡れ衣を着せられたんだ。あいつは、性格も最悪だし、怨みをはらしたい」
その言動はとても意志の強く堅い決意が感じられた。
「あんたの寿命と相手の寿命が半分必要になるけどいい?」
サイコが確認する。
「どうせ死のうと思っていたから、かまわないよ、半分なんて」
「んじゃ、ここのボスを呼んでくるよ」
サイコがエイトを呼びに行った。
しばらくするとエイトが現れた。漫画の仕事も終わったころだろうか。
「あんた、大変だな。死相が出てるぞ。死ぬ前にもう一度生きるために仇討ちしようぜ」
「店長、あんた霊感あるのか?」
「いや、俺は死の専門家。神感《しんかん》があるんでね。あんたの寿命半分と交換で相手の寿命を半分いただく。2人で1人分の寿命を俺に渡すということだ。俺はその相手を社会的に死へと導く」
「殺すということか?」
「基本寿命の半分だけは生かすのがうちのやり方だ。そして、生きるのが辛い状況に追い込む。生き地獄ってことだ」
「本当にそんなことができるのか?」
元々気の弱そうな男は自信がないらしく、己の意見を言うことに慣れていないようだった。
「できるよ。うちの自慢の肉じゃが定食だ。おふくろの味ってやつだな」
話題になった内容とは相反するように、出された肉じゃがはあつあつのほくほくで芋がやわらかく、箸がふれるとほろっと砕ける。味が染みわたったという色合いが食欲をそそる。
「俺、食欲ずっとなかったんだけれど、ここの食事は味がするなぁ。何を食べても味がしなくて……苦しかった」
涙を流しながら食べる肉じゃがは、きっとどんな豪勢な料理も負けないような気がする。寿命半分と引き換えにしてまでこの人は追い詰められていたのだろうか。
「ちゃんとした食事を食べたのはいつぶりだろう……おかしとインスタントラーメンくらいしか口にしていなかったから。ここの噂を聞いて、足を延ばしてきた甲斐があったよ」
涙を流しながら、しらたきをひとくち。豚肉をひとくち。この男にとってのひとくちはきっと最高のひとくちだったのかもしれない。死神に救いを求める人もいるってことなのだろうか。
「俺は人を信じることができない。でも、この肉じゃがはウマい……。食べ物は裏切らないんだな……」
「どうする、その上司が寿命半分渡してもいいくらい憎いなら手助けするぜ。でも、寿命の残りは教えられないけどいいか?」
「おねがいします」
男はビールを一気に飲み干す。少し顔が赤くなる。
「手を出しな」
男は手を差し出す。すると、銀色の光がエイトから発光した。男の手から死神の手へ光が移行する。銀色の光は寿命とか魂の類なのかもしれない。
「契約は取り交わされた。今夜相手の上司ってやつを懲らしめに行ってくるから、お前は何もせずに生きろ」
「でも、本当に上司に何か起きるのですか? あいつは死なないのですか?」
「寿命を半分残すから、死なせはしない。社会的には死んだも同然な状態に追い込むのがチーム半妖なんでな」
男はエイトを神様を拝むかのように手を合わせる。
「わかりました。ここの定食おいしいですね。また来ます」
男は生きる気力がわずかに蘇ったように思えた。でも、彼の寿命があと何年なのかはわからないので、あと30年であれば15年の命になる。しかし、年数ではなく生きる内容次第で幸せかどうかは決まるものだ。長生きした人が幸せだとも限らない。生き地獄だってある。
♢♢♢
パワハラ意地悪上司、山田一郎の元に、その夜、チーム半妖が現れた。月のあかりの元で幻想的に現れたのは和装姿の半妖の3人だった。この世の者とは思えない、特殊メイクを施したかのような容姿は鬼気迫るものがある。彼らを間近で見たら普通の人間は腰を抜かすだろう。闇夜の中であれば、なおさら不気味さと恐怖は高まる。誰一人周りには普通の人間がいないという状況を狙う。
「おまえら、何者だ?」
パワハラ上司の山田は恐れながらも正体を聞く。
「チーム半妖だ。お前は執拗に部下に意地悪をしていた。因果応報を受けてもらう」
腰を抜かし気味な男は、慌てて依頼主を聞き出そうと躍起になった。
「誰かに雇われたのか? 俺の会社の奴か? 山本か? 佐藤か? 鈴木か?」
「そんなに心当たりがあるのか。意地悪が大好きな人間には意地悪をしてやるよ」
死神の姿になったエイトは銀髪の髪が背中まで延び、神秘的な恐怖を与える雰囲気を持つ。
「根性が足りないというのが口癖なんだろ。根性がたりないならば、根性焼きってのはどうだ?」
「いいね、ウチがこの人間焼いてみる」
そう言うと、魔女の姿になったサイコが楽しそうに大きな鉄板焼きを持ってきて、男を乗せる。男はなぜか小さくなっており、容易に箸でつまむことができる大きさだ。
「た、助けて!!!!!」
男は大声で叫ぶが、小さい姿では全く声は響かない。
「誰も来ないよ」
植物あやかしの樹がとげのある植物を身にまといながらツタをのばし、男に巻き付ける。つたに巻き付けられた男は身動きが不可能になった。
「逃げられないようにしてあげるさ」
「制裁!!!」
エイトの掛け声とともに――
ジュージューという音を立てる鉄板が迫る。男はそのまま抵抗も出来ず、鉄板で焼かれてしまいそうになる。男の記憶はそれ以降ない。
翌朝のニュースで全身おおやけどを負って意識不明の男の身元を調査しているという話題になっていた。捜索願が出ていた山田一郎ではないかという警察では調査中という話だった。でも、100%その男が上司だということは、ニュースを見た依頼人の男だけが知る事実だった。原因不明で事件の真相を追っていると報道されていたのだが、きっとどんなに報道されても原因はわからないだろう。
誰もチーム半妖のせいだなんて突き止められないし、証拠なんてないのだから。怨みを晴らしたから自分が即幸せになるものではない、自己満足かもしれないが、依頼人の男が、寿命が半分になったにもかかわらず、晴れ晴れした気持ちになっていたのは確かだ。
ナナが定食屋の端の席で夕食を食べていると、サラリーマンが入ってきた。
「ここには仇を討ってくれる人がいるって本当か?」
少し、遠慮がちに客が質問する。
「ええ、本当ですよ」
樹が答える。
「ウチ、占ってあげるよ。水晶で見てあげる」
ギャル魔女サイコが楽しそうに水晶を掲げる。
「あんた、大変だったね。上司にパラハラうけてるっしょ」
「わかるのか?」
「ウチの占いは結構当たるからさ」
「仕事クビになったんだ。「山田一郎」という男に濡れ衣を着せられたんだ。あいつは、性格も最悪だし、怨みをはらしたい」
その言動はとても意志の強く堅い決意が感じられた。
「あんたの寿命と相手の寿命が半分必要になるけどいい?」
サイコが確認する。
「どうせ死のうと思っていたから、かまわないよ、半分なんて」
「んじゃ、ここのボスを呼んでくるよ」
サイコがエイトを呼びに行った。
しばらくするとエイトが現れた。漫画の仕事も終わったころだろうか。
「あんた、大変だな。死相が出てるぞ。死ぬ前にもう一度生きるために仇討ちしようぜ」
「店長、あんた霊感あるのか?」
「いや、俺は死の専門家。神感《しんかん》があるんでね。あんたの寿命半分と交換で相手の寿命を半分いただく。2人で1人分の寿命を俺に渡すということだ。俺はその相手を社会的に死へと導く」
「殺すということか?」
「基本寿命の半分だけは生かすのがうちのやり方だ。そして、生きるのが辛い状況に追い込む。生き地獄ってことだ」
「本当にそんなことができるのか?」
元々気の弱そうな男は自信がないらしく、己の意見を言うことに慣れていないようだった。
「できるよ。うちの自慢の肉じゃが定食だ。おふくろの味ってやつだな」
話題になった内容とは相反するように、出された肉じゃがはあつあつのほくほくで芋がやわらかく、箸がふれるとほろっと砕ける。味が染みわたったという色合いが食欲をそそる。
「俺、食欲ずっとなかったんだけれど、ここの食事は味がするなぁ。何を食べても味がしなくて……苦しかった」
涙を流しながら食べる肉じゃがは、きっとどんな豪勢な料理も負けないような気がする。寿命半分と引き換えにしてまでこの人は追い詰められていたのだろうか。
「ちゃんとした食事を食べたのはいつぶりだろう……おかしとインスタントラーメンくらいしか口にしていなかったから。ここの噂を聞いて、足を延ばしてきた甲斐があったよ」
涙を流しながら、しらたきをひとくち。豚肉をひとくち。この男にとってのひとくちはきっと最高のひとくちだったのかもしれない。死神に救いを求める人もいるってことなのだろうか。
「俺は人を信じることができない。でも、この肉じゃがはウマい……。食べ物は裏切らないんだな……」
「どうする、その上司が寿命半分渡してもいいくらい憎いなら手助けするぜ。でも、寿命の残りは教えられないけどいいか?」
「おねがいします」
男はビールを一気に飲み干す。少し顔が赤くなる。
「手を出しな」
男は手を差し出す。すると、銀色の光がエイトから発光した。男の手から死神の手へ光が移行する。銀色の光は寿命とか魂の類なのかもしれない。
「契約は取り交わされた。今夜相手の上司ってやつを懲らしめに行ってくるから、お前は何もせずに生きろ」
「でも、本当に上司に何か起きるのですか? あいつは死なないのですか?」
「寿命を半分残すから、死なせはしない。社会的には死んだも同然な状態に追い込むのがチーム半妖なんでな」
男はエイトを神様を拝むかのように手を合わせる。
「わかりました。ここの定食おいしいですね。また来ます」
男は生きる気力がわずかに蘇ったように思えた。でも、彼の寿命があと何年なのかはわからないので、あと30年であれば15年の命になる。しかし、年数ではなく生きる内容次第で幸せかどうかは決まるものだ。長生きした人が幸せだとも限らない。生き地獄だってある。
♢♢♢
パワハラ意地悪上司、山田一郎の元に、その夜、チーム半妖が現れた。月のあかりの元で幻想的に現れたのは和装姿の半妖の3人だった。この世の者とは思えない、特殊メイクを施したかのような容姿は鬼気迫るものがある。彼らを間近で見たら普通の人間は腰を抜かすだろう。闇夜の中であれば、なおさら不気味さと恐怖は高まる。誰一人周りには普通の人間がいないという状況を狙う。
「おまえら、何者だ?」
パワハラ上司の山田は恐れながらも正体を聞く。
「チーム半妖だ。お前は執拗に部下に意地悪をしていた。因果応報を受けてもらう」
腰を抜かし気味な男は、慌てて依頼主を聞き出そうと躍起になった。
「誰かに雇われたのか? 俺の会社の奴か? 山本か? 佐藤か? 鈴木か?」
「そんなに心当たりがあるのか。意地悪が大好きな人間には意地悪をしてやるよ」
死神の姿になったエイトは銀髪の髪が背中まで延び、神秘的な恐怖を与える雰囲気を持つ。
「根性が足りないというのが口癖なんだろ。根性がたりないならば、根性焼きってのはどうだ?」
「いいね、ウチがこの人間焼いてみる」
そう言うと、魔女の姿になったサイコが楽しそうに大きな鉄板焼きを持ってきて、男を乗せる。男はなぜか小さくなっており、容易に箸でつまむことができる大きさだ。
「た、助けて!!!!!」
男は大声で叫ぶが、小さい姿では全く声は響かない。
「誰も来ないよ」
植物あやかしの樹がとげのある植物を身にまといながらツタをのばし、男に巻き付ける。つたに巻き付けられた男は身動きが不可能になった。
「逃げられないようにしてあげるさ」
「制裁!!!」
エイトの掛け声とともに――
ジュージューという音を立てる鉄板が迫る。男はそのまま抵抗も出来ず、鉄板で焼かれてしまいそうになる。男の記憶はそれ以降ない。
翌朝のニュースで全身おおやけどを負って意識不明の男の身元を調査しているという話題になっていた。捜索願が出ていた山田一郎ではないかという警察では調査中という話だった。でも、100%その男が上司だということは、ニュースを見た依頼人の男だけが知る事実だった。原因不明で事件の真相を追っていると報道されていたのだが、きっとどんなに報道されても原因はわからないだろう。
誰もチーム半妖のせいだなんて突き止められないし、証拠なんてないのだから。怨みを晴らしたから自分が即幸せになるものではない、自己満足かもしれないが、依頼人の男が、寿命が半分になったにもかかわらず、晴れ晴れした気持ちになっていたのは確かだ。
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