半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

響ぴあの

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レモン酢ドリンク

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 本物の家族を目指している2人だが、『基本自分のことは自分で』がルールなので、洗濯は各自、部屋の掃除も各自ですることになっている。夕食は定食を食べることができるし、朝は買ってあるパンで済ませたり、昼食のお弁当は自分で作る。エイトは時々、時間があるとおいしい料理を作ってくれるし、部屋の掃除もしてくれる。リビングや風呂などの共用スペースはナナが積極的に掃除をすることにしている。恩を家事で返したい。役に立ちたい。いてくれてよかったと思ってもらいたいから。

 洗濯物は、各自で洗濯する。そして、各々自分の部屋のベランダに干している。プライバシーも守られるこの家は有能だ。

 時々アシスタントたちがシャワーを浴びたりもするが、基本、ナナとエイトくらいしか入ることはない浴室。ナナが掃除は担当している。一日の疲れを癒す時間がやってくる。湯気がただよう浴室は至福の一時だ。温泉入浴剤に癒されながら入浴するのがナナの楽しみだったりする。エイトの趣味でたくさんの全国各地の温泉の素があったりする。毎日違う入浴剤を選ぶのが楽しかったりする。香りと色で温泉気分は上々だ。毎日、日本各地の温泉に自宅に居ながら楽しめる幸せに浸る。

 エイトは死神の仕事もあったり、漫画家の仕事もあったりで入浴は深夜になることが多い。もちろん、ドアには入浴中というカードを貼っているので、お互いに間違えて入ることもない。お互いにプライバシーは守れており、部屋もちゃんと用意されているナナは幸せだと思っていた。そして、ここには半妖の仲間たちがいる。色々なことを用意されているナナはある意味恵まれているのかもしれない。

 髪を乾かして、パジャマ姿でリビングに行くと、エイトがテレビを観ていた。

「これ、飲むか?」
 エイトがドリンクを作ってくれていた。

「なに? この飲み物は?」
 目の前には炭酸水のような発砲された泡がきれいな色合いのドリンクがある。しゅわしゅわと気持ちのいい音がする。

「レモン酢ドリンク。風呂上がりにレモンを酢でつけて作ったドリンクと炭酸水を混ぜたドリンクは、美容に効果てきめんらしいぞ。酢は食前に飲むと食欲増進だけれど、食後に飲むとダイエット効果もあるんだぜぃ」

 少し得意げなエイトは自信のあるものを作った時に見せる顔をする。あふれ出る得意げな顔だ。

 飲んでみるとほんのり甘いことに酸っぱさを覚悟していた舌が驚く。
「ほんのり甘いね」

「はちみつ入りだ。肌が美しくなれば、男子からモテる可能性がグッとあがるぞ」

「ちょっと、モテない女子みたいな言い方しないでよ」

 ナナは、ぐっとドリンクを飲み干す。その様は、銭湯で片手を腰に置きながら牛乳を飲むあの感じだ。

「昨日は、急に寝ちゃうし、疲れているの?」

「……わりぃ。気を付ける。おまえといると安心しちゃうのかもな。おまえも少しずつでいいから心を開いてほしい。そして、辛い思いを分かち合える唯一の関係でありたいんだ」
 エイトは真面目な顔で話す。

「本物の家族ってなんだろうね?」
「本当に血がつながっていても家族として機能していない家族もある。血がつながらなくてもうまくやっている家族もある。どっちが幸せかって言ったら俺は後者だと思う」
「本当の家族がお互い亡くなった今、本物の家族になりたい。俺も一人じゃ心がつぶれてしまうからな。お前は生きがいみたいなもんだな」

 そう言ってエイトは漫画のプロットを見せてくれた。滅多に仕事のことは話さないエイトが珍しい。もしかしたら本物の家族の第一歩ということだろうか。

「これ、俺がこれから書こうと思っている話の内容を文章にして、担当に渡しているんだ。それが面白そうとなれば、ラフ画でネーム作成をする。その時の絵はある程度人としてわかればいいくらいのラフな絵なんだけどな。ネームっていうのはどんな物語かをコマ割りで伝えるっていう手段なんだ。これは、禁断の秘伝書だ。家族になったからこそのネタばらしってわけだ」

 エイトはナナが漫画ファンだということを覚えていて、滅多に見せない仕事の資料を見せてくれた。普段見えない漫画家の仕事ぶりがなんとなくわかる。魂を見せてくれたような気がしてナナは少し心がほろっとした。本当の親じゃないから心を開けることもあるのかもしれない。

 少し間を置いて質問する。
「エイトはずっと結婚しないの? 恋人も作らないの?」

 エイトが真面目な顔になる。少し真剣に考える。

「ずっとかどうかはわからないが、今は保護者をしているわけだし、美佐子さんへの気持ちが残っているから、結婚も交際もするつもりはない」

「もし、エイトが好きな人ができたら、お母さんの娘である私への義理はいいから、ちゃんと自分の人生を楽しんでね」

「なんだよ、急にいい子みたいになって」
 
 洗濯物をたたんでいたエイトは得意げに家事男子《カジダン》知識を披露する。
「汗かいたときとかさ、重曹入れると消臭も洗浄力もアップするんだ。洗剤と一緒にな。重曹は万能の神だな」

「重曹は3種類あって、工業用、食用、薬用があるんだが、掃除用は安くてきめが粗い工業用を使うのが一般的なんだ。台所、浴室、洗面所なんかで大活躍だ。今度、重曹を使ったスプレー使って掃除を伝授してやる」

「エイトはいいお婿さんになりそうだね。おやすみ、ごちそうさま」

 そう言うと、寝室へ向かう。もし、エイトがいなければ、おやすみを言う相手もいない。その事実はなんと寂しいのだろう。少なくともナナは彼のおかげで、救われたと思っているし、かなり感謝はしている。でも、口に出すのは気恥ずかしいので本人に積極的に伝えたことはない。

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