半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

響ぴあの

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半分死神の血を引く男

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 葬式がひととおり終わった後、ナナの母の婚約者だったという男が真面目な顔で話を始めた。保護者になって広い家の一室を貸すから同居をするという話になっていた。ナナは気が動転していたし、彼の言うままそのことを受け入れるしかなかった。

 漫画のアシスタントや居酒屋の店員もいるし、プライバシーも守られるというならば、同居も悪くないとナナは思った。いわゆる下宿のような感じを想像していた。

「俺の父は死神だった。母は人間だ。俺は半妖というか半神というものなのかもしれない」

「はあ? 何中二病みたいな発言してるの?」

 ナナはこの男が漫画家ゆえの妄想か自作の話でもしているのかと思った。この男の正体が人気漫画家だという事実を知った後ならば、そういった創作が得意だろうと容易に想像できる。

「一応家族になるわけだ。隠し事はなしだ。自己紹介代わりに見せてやる」

 目の前の若い男はアニメのセリフのようなことを口にする。
 母が死に、身寄りがないナナの前に現れたこの男。保護者として同居するという方向で話を進めていたのだが、男が瞳を閉じると、目の前の金髪男の髪色が銀色の光と共に銀色に変わる。髪が短髪から長髪になる。これは、いわゆる妖気というものだろうか? 信じられない現実を目の前にして、ナナは声も出せずにいた。まるでCGとかそういった画像を加工したみたいだが、目の前にいるこの人は画像ではなく生身だ。これは、映像ではない。

「俺は表向きは漫画家をしている。しかし、夜は定食屋で半妖仲間と怨みを晴らすという仕事もしている。俺は「チーム半妖」のボスをしているんでな。定食屋の従業員も漫画のアシスタントも全員半妖だ」

 銀色に光る男の話は突拍子もなく普通の人間であるナナには到底理解が追い付くものではなかった。

「全員半妖? 怨みを晴らす?」

 ナナは言葉を理解することに全神経を集中させた。

「法律では裁けない怨みがこの世にはたくさんある。寿命半分とひきかえに怨む相手を処罰するのが裏稼業だ」

「裏稼業って……?」

 全神経を脳に集中させて、理解をすることに全精神を使った。

「ひどいことをした相手の寿命を半分にするということだ。生かすが、社会的に死んだ状態に陥れる仕事だ」

 目の前の男の冷たい瞳に、恐怖の念を感じた。

「悪いことをしたら、警察につかまるよ」

 身内に犯罪者を出したくない。この人がもしも保護者になるとしたら、そんな裏家業をしている人はごめんだ。

「警察では手に負えない、教科書通りには裁けない悪事を俺たち半妖組が討伐するってことだ。妖力を使うので、人間には裁けない。俺たちは闇の中で困った人を助ける仕事もしている、証拠が残らないから、俺たちのことは探偵も警察も手も足も出ないってことだ」

「つまり、警察にはばれないの? じゃあ、お母さんを事故に合わせた男の怨みを晴らすことができるの?」

「お前が寿命を半分差し出せばな。でも、おすすめはしない。自分の寿命はあと100年なのか50年なのかわからないだろ。寿命が100年ならあと50年になるし、寿命が1年ならば半年しか寿命は無くなる。のこりの寿命は教えてはいないし、正直リスクが高い」

 たしかにその通りだ。あと60年ある命が30年になるのは、生きる年数に換算するとだいぶ違う。

「あなたは結婚の約束をしていた母の仇を討ちたくないの?」

「憎いけれど相手に悪意があったわけではない。俺は半妖の血を引くが、自分自身の寿命で仇討ちはできないのさ」

 冷たい銀色の瞳でこちらを見つめる男の冷たさに背筋が凍った。まだ中学生であるナナは、保護者がいなければ生きていくことはできない。あと1年たてば高校生になり、なんとか自立ができる。それまでここに置いてもらうしかない。元々母しか頼ることができる肉親がいない。その母が交通事故で死んだ今となっては……。

 とりあえず、母の婚約者であった男の好意に甘えよう。もうすぐ16歳。そうすれば、ある程度は自立できる年齢だ。漫画で成功して、大きな家もお金もあるこの人の元で、母の貯金を切り崩して生きていく。

 いつか、母の仇を討ちたい。故意ではなくても、やっぱり殺人の罪は償ってほしい。心の奥底で決意していた。仇を討つという本当の意味をこの時はまだわかっていなかったのかもしれない。

 銀色の光に包まれた男の光が徐々に元に戻る。

「身内の寿命を取る気はないから」

 冷静などこか冷めた瞳の男は銀髪からいつもの金髪に戻る。身内扱いしてくれてるのか。急にできた新しい家族は半妖の死神の力を持つ男という大変特別な人種だった。

「怨むと自分に怨みがかえって来るんだって。死神って危険な仕事なんでしょ。あんたが死んだりしたら、家族いなくなっちゃうから、死なないでよね」

 申し出に半妖は少し戸惑いを見せた。もしかしたら、そういった言葉をかけてもらったことがないのかもしれない。
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