桜舞う季節まで 推しと死ぬまでにしたいこと

響ぴあの

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「神様、死ぬ前にどうか私のねがいを聞いてください。どうか、どうか――推しを助けてからあの世に逝かせてください」
 強い強い想いが流れる。
 一粒の涙と強い想いが時空をゆがめた。やり残した世界に戻る水沢美羽。
 虹色の光が体を包む。温かな空気を身に纏う。多分、人生最初で最後の経験となるだろう。まぶしくて目をつむる。痛みも全てが無になる不思議な感じ。もう一度冬の終わりまで生を受ける。それは、言葉ではない感覚だった。聞こえないメッセージを全身に浴びて、美羽は残された時間でできることをしようと決意する。まるで水の中から美しい羽を広げてはばたくかのように元の時間へ戻る。それは、説明できない不思議な感覚だった。ひとかけらも恐怖はなかった。
 桜吹雪の中、花びらにつつまれる。春が来たんだね。そう思いながらやり残したことを後悔する。

 推しが苦しんでいることを見て見ぬふりをしていた。小さいと思っていた後悔はとてもとても大きな後悔だということに気づく。
 何もしなかったのは、時間が無限にあるかのような気がしていたからなのかもしれない。これで最期だと気づいた時に、本当にやりたかったことがわかるものなのかもしれない。推しに好きな人がいて、大きな事件があって中学校で孤立していることは知っていた。同じ中学校に子ども時代に憧れていた推しが偶然いた。でも、何もできなかった。もし、このまま孤立してしまったら、推しである彼は破損して割れてしまうかもしれない。そんな心配をしていた。心配をするだけで、手を差し伸べてあげることはできなかった。それは知り合いではないという理由と一方的なファンであるということもあった。
 でも、どうか知り合いになるチャンスをください!!
 私は傍観者であり、ただその人が幸せになる手助けをしたいだけ。
 それ以上のことは望みません。
 ちゃんとその日が来たら、この死を受け入れます。
 
 気づくと水沢美羽みずさわみわは卒業式の日から中学三年生の春先に戻っていた。
 その時、以前の世界では流希亜が訪れていない保健室にいた。
 それが久世流希亜くぜるきあと水沢美羽の出会いだった。
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