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寿命が見えるあめ ふたたび
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「いらっしゃい」
「こんにちは」
いつものように笑顔で入ってきたのはかすみだった。
「実は、また寿命が見えるあめがほしいの」
「自分の寿命が見たくなった?」
何でも見透かした様子の夕陽が不気味でもあり頼もしくもあった。それは、信頼と疑いのような気持ちが混じっている気持ちの表れだった。しかし、なぜか昔から知っているようなおさななじみのような安心感が夕陽にはあった。
「ひいきしているお客様だからね」
「どういう意味?」
「そのままの意味だよ。特別なお客さんだと思っているから」
美しいまじめな顔でそんなことを言われたら、かすみは恋の期待をしてしまいそうだ。
「俺は、君の前世を知っているんだ。だから、ここに呼んだってのもあるかな」
「私は、自分の意志でここにきたつもりだったけれど……」
「でも、呼んだのは俺だよ」
よくわからない夕陽の言葉が少しもやもやしたが、今はあめを入手するという目的があった。自分の命の長さを知りたいと思った。普通、知らないほうがいいことなのだろう。なにかの予感がしたのかもしれないが、かすみは自分の命の長さがとても気になった。ここに来れば寿命が見える赤いあめがある。今日はここにきて、あめを買うことを決めていた。
「かすみは自分の寿命なんて知ってどうするの? 結構短かったらショックだと思うよ。だからおすすめはしないけど」
「短いならば寿命を延ばすお菓子があるでしょ」
「でも、不老不死になるわけじゃない」
「じゃあ10年延びるお菓子とかないの? 1日じゃなくて1年とか」
「あまり長いのはおすすめしてないんだ。いつ食べたか忘れる人が多くてね。10年後に食べようと思っていてもそのときになると忘れちゃうっていうのがよくあるんだ。だから、毎日食べるとか習慣づけしていたほうが食べ忘れがないんだよ」
「じゃあ、一気に食べればいいんじゃない?」
「いっきに食べても効力はないんだ。つまり、1日寿命がのびるあめを一気に食べても1日しか寿命はのびないのさ」
「ええ?? そうなの?? おばあちゃん、忘れっぽいし、私も忘れちゃうかもしれないから、その作戦はだめじゃん」
「あと、寿命をのばすあめだと相手に言ったら効果がない。薬でも飲み忘れがあるから、お菓子ならばなおさら食べ忘れるっていうことはありえるな」
「ちなみに1年以上寿命を延ばすお菓子ってないの?」
「今は販売していないんだ。そのお菓子には食べ忘れたとかどこにおいたか忘れたという事件が多くてね。特殊な食べ物だから、危険なんだ。誰かが食べたりすると困るから今は販売していないよ。あと、体に副作用が出るっていうのも大きいな」
「副作用って薬のせいで体に害が出るっていうものでしょ」
「そうだ。これは、体に負担がかかる。生きることは健康でいなければいけないのだけれど、無理に寿命をのばすことは人間の体には負担が大きいらしい。だから販売はしていないんだ」
「私、自分の寿命を見たいの。それで、1日でもいいから長く生きるためにここに通おうって思ったの」
「最初は過去に電話をしたいって目的だっただろ?」
「でも、欲が出たのかもしれない。ここに来るとすごいものがたくさんあるから」
かすみはありのままの本音を話す。
「人間は欲があるからな。だから、特別なかすみには何度もここへ来れるようにしてるんだけどさ。かすみの前世は俺がよく知っている人間だから」
「どういうこと?」
「そのうち話すときがくるかもな」
そういうと夕陽が真っ赤なつやのあるあめを差し出す。かすみは10円を支払い、あめを受け取った。そして、いつもと同じように公衆電話の前に立つ。
「この電話は何度でもかけられるの?」
「回数に制限はないよ」
「家族に私の正体を話してもいいの?」
「正体を話すと二度とその人間は電話を使うことができなくなるから」
「そーいう重要なこと、ちゃんと最初に言ってよ」
「かすみが何回も使うとは思わなかったんだよ」
「自分の正体を明かさず、過去の家族と本音で話すことは難しいよね」
「だから、過去にかけても何も解決にはならないんだよな。自分の本当の名前も身分も明かせないのだから」
「未来を変えてしまうことになってもいいの?」
「この電話で何か未来を変えたからって罰はない。未来が変わることは人生の書庫の本たちが書き換えてくれているから」
「人生の書庫って人間の一生の物語が入っている本がたくさんあるんでしょ」
「でも、かすみには見せられないけれど」
「そっか。私の寿命が変わってもあの本がちゃんと書き換えてくれるってことか」
少し安心したかすみは受話器を置き、電話をかけるのをやめた。
「夕陽君と話しているとなぜか安心するよ」
「また来い。おまえは自分の寿命をわかっていたほうがいいかもしれないな」
最後の夕陽の一言が気になった。寿命をわかっていたほうがいいの? 疑問が頭をぐるぐるまわる。でも、かすみは夕陽に会える事がとても楽しいと感じていた。
自分が未来の姉だということを明かさずに過去の妹と話すことは難しい。友達のふりをするのは無理があるし、せいぜい間違え電話をわざとかけて妹の声を聞くくらいしかできない。だから、本当に話したいことが話せないということに気づき、もう少しいい考えが浮かんでからかけてみようと思った。あまり間違い電話ばかりかけるのは、不自然だろう。最初は声だけを聞きたいと思っていたけれど、人間は欲張りなのかもしれない。もっとちゃんと話したいと思ってしまうのが本音だ。
家に帰宅すると、鏡を見つめる。でも、寿命を見るには少し勇気がいるような気がした。夕飯を食べてからあめをなめてみよう。落ち着かない気持ちで夕食を食べて自分の部屋に向かう。鏡をじっとみつめてあめをなめてみる。
2025、12,12
2025年?? かすみは自分の頭の上に出る数字を見てその短さに驚く。そして、どうすればあと5年で死なずに済むのかを確かめるために明日も夕陽屋へ行こうと決心した。
♢♦♢♦♢
翌日の夕方――
「夕陽君、私の寿命あと5年なんだって!! 命を延ばしたいの!! 力を貸して!!!」
「自分の命の長さを見たのか」
夕陽は冷静な瞳でじっとかすみを見つめた。
「知っていたの?」
「かすみは特別だから、俺は寿命を延ばしてほしいと思ってここへ呼んだんだよ」
「特別ってどういうこと? 私たち会ったこともないじゃない?」
「かすみの前世は俺の大事な人だったんだよ。だから、この立場を利用して、えこひいきさせてもらったんだ」
「大事な人って?」
「秘密」
夕陽は口元は笑っていたけれど、目は笑っていなかった。それは彼の精一杯の笑顔だったのかもしれない。もしかしたらかすみは前世は夕陽の家族だったのかもしれないし、恋人や夕陽の好きな人だったのかもしれない。でも、そんなことをかすみは全く覚えていない。
夕陽が特別扱いしてくれたおかげで、かすみは寿命を延ばすことができるのだろうか。不安と疑問がかすみの中で、ぐるぐるまわる。昨日ほとんど寝ていなかったこともあって、かすみは目の前が真っ暗になって、意識が遠のいて、その場に倒れてしまった。もし、このお店で倒れたりしたら、元の世界に戻れなくなるのではないだろうか? そんな不安を抱きながらかすみは意識を失った。不安から来る疲れだったのかもしれない。
目を開けると、そこは知らない部屋だった。古びた和室の一室だろうか。天井は意外と高く、立派な柱のある木の家だった。ふかふかした布団が敷かれており、気づいたかすみは真新しい布団の上で寝ていた。白いのりの効いたふとんはパリッとしていて、新品の香りがした。
「気づいたか?」
ふすまの影から夕陽の顔が見えた。
「ごめん。私具合が悪くなって、めまいがして倒れたんだよね?」
「だから、自分の寿命を見ると必要以上の体力や精神力を使っちまう。そして、思わぬ結果だと何とかしようと考えてしまうが寿命はどうにもならない。そして、心も体も疲労しちまうんだ。でも、命の長さを知りたいのが人間の本心だよな」
「あなただって人間でしょ?」
かすみは人間を客観的に分析している少年を見て、疑問を投げかけてみる。なぜこの人はここでこんなことをしているのだろうか? 今まで思っていたけれどずっと考えないようにしていたことがあふれでてきた。
「正確に言えば、元人間かな? この空間は時間が止まっているから歳をとらないし、生きている人間ではないからな」
「あなたはずっと歳をとらずに病気にもならないの?」
「たまに君たちの世界にも行くけれど、歳を取るほど長くいないし、病気にはならないんだ。一度死んでいるからな」
一度死んでいるということを聞いたかすみは、意味を理解するのに時間がかかる。理解をしようとそのまましばらく黙っていたが、気を持ち直して質問を考えた。
「なぜこの店をやっているの?」
「つみほろぼしってやつさ」
「どういうこと?」
「まずはかすみの寿命があと5年しかないからどうするかのほうが先だろ?」
そうだった、かすみは自分自身の大問題の解決のためにここへ来たことを思い出す。そして、心配で心配で、きのうの夜はほとんど眠ることができなかったから、倒れてしまったのかもしれないと思い返した。
「私は18歳で病気とか事故で死ぬのかな?」
「事故ならば防ぐことは可能だよな。前世のつみほろぼしをさせてほしい。一緒に解決しよう」
そう言って、夕陽は頭を下げた。
「寿命がのびるせんべいならば少し延ばせるよね」
「あれは、根本的な解決にはならないからな。前世のことはいずれ必要があれば話すけれど、俺は味方だということだけ頭に入れておいてほしい。それに、お菓子を一気に食べてもその分長くは生きられないという不便なものだ。食べ忘れたりすれば効果はないからな」
かすみは不安ながら、夕陽といい方向に持っていけるように何とか頑張ろうと心に決めた。きっとこの人は私を裏切らない。そんな気がした。
「かすみの前世の人とはずっと一緒にいよう、俺が守ると約束していたんだ。でも、結局守ることはできなかった。一緒にいることもできなかった……」
「結婚しようという話だったの?」
「いや、結婚とかそういった形だけのものではない。もっと深く真剣な約束だよ」
「恋愛関係だったの?」
「恋愛なんていうものよりずっと重く深いものさ」
そういった夕陽の瞳は遠くをながめていた。それは、かすみの前世を見ていたのかもしれない。
「こんにちは」
いつものように笑顔で入ってきたのはかすみだった。
「実は、また寿命が見えるあめがほしいの」
「自分の寿命が見たくなった?」
何でも見透かした様子の夕陽が不気味でもあり頼もしくもあった。それは、信頼と疑いのような気持ちが混じっている気持ちの表れだった。しかし、なぜか昔から知っているようなおさななじみのような安心感が夕陽にはあった。
「ひいきしているお客様だからね」
「どういう意味?」
「そのままの意味だよ。特別なお客さんだと思っているから」
美しいまじめな顔でそんなことを言われたら、かすみは恋の期待をしてしまいそうだ。
「俺は、君の前世を知っているんだ。だから、ここに呼んだってのもあるかな」
「私は、自分の意志でここにきたつもりだったけれど……」
「でも、呼んだのは俺だよ」
よくわからない夕陽の言葉が少しもやもやしたが、今はあめを入手するという目的があった。自分の命の長さを知りたいと思った。普通、知らないほうがいいことなのだろう。なにかの予感がしたのかもしれないが、かすみは自分の命の長さがとても気になった。ここに来れば寿命が見える赤いあめがある。今日はここにきて、あめを買うことを決めていた。
「かすみは自分の寿命なんて知ってどうするの? 結構短かったらショックだと思うよ。だからおすすめはしないけど」
「短いならば寿命を延ばすお菓子があるでしょ」
「でも、不老不死になるわけじゃない」
「じゃあ10年延びるお菓子とかないの? 1日じゃなくて1年とか」
「あまり長いのはおすすめしてないんだ。いつ食べたか忘れる人が多くてね。10年後に食べようと思っていてもそのときになると忘れちゃうっていうのがよくあるんだ。だから、毎日食べるとか習慣づけしていたほうが食べ忘れがないんだよ」
「じゃあ、一気に食べればいいんじゃない?」
「いっきに食べても効力はないんだ。つまり、1日寿命がのびるあめを一気に食べても1日しか寿命はのびないのさ」
「ええ?? そうなの?? おばあちゃん、忘れっぽいし、私も忘れちゃうかもしれないから、その作戦はだめじゃん」
「あと、寿命をのばすあめだと相手に言ったら効果がない。薬でも飲み忘れがあるから、お菓子ならばなおさら食べ忘れるっていうことはありえるな」
「ちなみに1年以上寿命を延ばすお菓子ってないの?」
「今は販売していないんだ。そのお菓子には食べ忘れたとかどこにおいたか忘れたという事件が多くてね。特殊な食べ物だから、危険なんだ。誰かが食べたりすると困るから今は販売していないよ。あと、体に副作用が出るっていうのも大きいな」
「副作用って薬のせいで体に害が出るっていうものでしょ」
「そうだ。これは、体に負担がかかる。生きることは健康でいなければいけないのだけれど、無理に寿命をのばすことは人間の体には負担が大きいらしい。だから販売はしていないんだ」
「私、自分の寿命を見たいの。それで、1日でもいいから長く生きるためにここに通おうって思ったの」
「最初は過去に電話をしたいって目的だっただろ?」
「でも、欲が出たのかもしれない。ここに来るとすごいものがたくさんあるから」
かすみはありのままの本音を話す。
「人間は欲があるからな。だから、特別なかすみには何度もここへ来れるようにしてるんだけどさ。かすみの前世は俺がよく知っている人間だから」
「どういうこと?」
「そのうち話すときがくるかもな」
そういうと夕陽が真っ赤なつやのあるあめを差し出す。かすみは10円を支払い、あめを受け取った。そして、いつもと同じように公衆電話の前に立つ。
「この電話は何度でもかけられるの?」
「回数に制限はないよ」
「家族に私の正体を話してもいいの?」
「正体を話すと二度とその人間は電話を使うことができなくなるから」
「そーいう重要なこと、ちゃんと最初に言ってよ」
「かすみが何回も使うとは思わなかったんだよ」
「自分の正体を明かさず、過去の家族と本音で話すことは難しいよね」
「だから、過去にかけても何も解決にはならないんだよな。自分の本当の名前も身分も明かせないのだから」
「未来を変えてしまうことになってもいいの?」
「この電話で何か未来を変えたからって罰はない。未来が変わることは人生の書庫の本たちが書き換えてくれているから」
「人生の書庫って人間の一生の物語が入っている本がたくさんあるんでしょ」
「でも、かすみには見せられないけれど」
「そっか。私の寿命が変わってもあの本がちゃんと書き換えてくれるってことか」
少し安心したかすみは受話器を置き、電話をかけるのをやめた。
「夕陽君と話しているとなぜか安心するよ」
「また来い。おまえは自分の寿命をわかっていたほうがいいかもしれないな」
最後の夕陽の一言が気になった。寿命をわかっていたほうがいいの? 疑問が頭をぐるぐるまわる。でも、かすみは夕陽に会える事がとても楽しいと感じていた。
自分が未来の姉だということを明かさずに過去の妹と話すことは難しい。友達のふりをするのは無理があるし、せいぜい間違え電話をわざとかけて妹の声を聞くくらいしかできない。だから、本当に話したいことが話せないということに気づき、もう少しいい考えが浮かんでからかけてみようと思った。あまり間違い電話ばかりかけるのは、不自然だろう。最初は声だけを聞きたいと思っていたけれど、人間は欲張りなのかもしれない。もっとちゃんと話したいと思ってしまうのが本音だ。
家に帰宅すると、鏡を見つめる。でも、寿命を見るには少し勇気がいるような気がした。夕飯を食べてからあめをなめてみよう。落ち着かない気持ちで夕食を食べて自分の部屋に向かう。鏡をじっとみつめてあめをなめてみる。
2025、12,12
2025年?? かすみは自分の頭の上に出る数字を見てその短さに驚く。そして、どうすればあと5年で死なずに済むのかを確かめるために明日も夕陽屋へ行こうと決心した。
♢♦♢♦♢
翌日の夕方――
「夕陽君、私の寿命あと5年なんだって!! 命を延ばしたいの!! 力を貸して!!!」
「自分の命の長さを見たのか」
夕陽は冷静な瞳でじっとかすみを見つめた。
「知っていたの?」
「かすみは特別だから、俺は寿命を延ばしてほしいと思ってここへ呼んだんだよ」
「特別ってどういうこと? 私たち会ったこともないじゃない?」
「かすみの前世は俺の大事な人だったんだよ。だから、この立場を利用して、えこひいきさせてもらったんだ」
「大事な人って?」
「秘密」
夕陽は口元は笑っていたけれど、目は笑っていなかった。それは彼の精一杯の笑顔だったのかもしれない。もしかしたらかすみは前世は夕陽の家族だったのかもしれないし、恋人や夕陽の好きな人だったのかもしれない。でも、そんなことをかすみは全く覚えていない。
夕陽が特別扱いしてくれたおかげで、かすみは寿命を延ばすことができるのだろうか。不安と疑問がかすみの中で、ぐるぐるまわる。昨日ほとんど寝ていなかったこともあって、かすみは目の前が真っ暗になって、意識が遠のいて、その場に倒れてしまった。もし、このお店で倒れたりしたら、元の世界に戻れなくなるのではないだろうか? そんな不安を抱きながらかすみは意識を失った。不安から来る疲れだったのかもしれない。
目を開けると、そこは知らない部屋だった。古びた和室の一室だろうか。天井は意外と高く、立派な柱のある木の家だった。ふかふかした布団が敷かれており、気づいたかすみは真新しい布団の上で寝ていた。白いのりの効いたふとんはパリッとしていて、新品の香りがした。
「気づいたか?」
ふすまの影から夕陽の顔が見えた。
「ごめん。私具合が悪くなって、めまいがして倒れたんだよね?」
「だから、自分の寿命を見ると必要以上の体力や精神力を使っちまう。そして、思わぬ結果だと何とかしようと考えてしまうが寿命はどうにもならない。そして、心も体も疲労しちまうんだ。でも、命の長さを知りたいのが人間の本心だよな」
「あなただって人間でしょ?」
かすみは人間を客観的に分析している少年を見て、疑問を投げかけてみる。なぜこの人はここでこんなことをしているのだろうか? 今まで思っていたけれどずっと考えないようにしていたことがあふれでてきた。
「正確に言えば、元人間かな? この空間は時間が止まっているから歳をとらないし、生きている人間ではないからな」
「あなたはずっと歳をとらずに病気にもならないの?」
「たまに君たちの世界にも行くけれど、歳を取るほど長くいないし、病気にはならないんだ。一度死んでいるからな」
一度死んでいるということを聞いたかすみは、意味を理解するのに時間がかかる。理解をしようとそのまましばらく黙っていたが、気を持ち直して質問を考えた。
「なぜこの店をやっているの?」
「つみほろぼしってやつさ」
「どういうこと?」
「まずはかすみの寿命があと5年しかないからどうするかのほうが先だろ?」
そうだった、かすみは自分自身の大問題の解決のためにここへ来たことを思い出す。そして、心配で心配で、きのうの夜はほとんど眠ることができなかったから、倒れてしまったのかもしれないと思い返した。
「私は18歳で病気とか事故で死ぬのかな?」
「事故ならば防ぐことは可能だよな。前世のつみほろぼしをさせてほしい。一緒に解決しよう」
そう言って、夕陽は頭を下げた。
「寿命がのびるせんべいならば少し延ばせるよね」
「あれは、根本的な解決にはならないからな。前世のことはいずれ必要があれば話すけれど、俺は味方だということだけ頭に入れておいてほしい。それに、お菓子を一気に食べてもその分長くは生きられないという不便なものだ。食べ忘れたりすれば効果はないからな」
かすみは不安ながら、夕陽といい方向に持っていけるように何とか頑張ろうと心に決めた。きっとこの人は私を裏切らない。そんな気がした。
「かすみの前世の人とはずっと一緒にいよう、俺が守ると約束していたんだ。でも、結局守ることはできなかった。一緒にいることもできなかった……」
「結婚しようという話だったの?」
「いや、結婚とかそういった形だけのものではない。もっと深く真剣な約束だよ」
「恋愛関係だったの?」
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