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事実が消える消しゴム
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小学生のケイタ少年がたそがれ時に強く願った。ケイタは全く都市伝説のうわさばなしを知らなかったのだ。ぐうぜんねがった時間がたそがれ時だったということで、夕陽屋にきてしまったらしい。ケイタはキョロキョロしながら店を見上げる。
ぐうぜんは運をも左右することがある。たまたま不思議なお店に来てしまうこともあるということだ。
「ここはどこ?」
ケイタは目の前に現れた店に入る。というかそれ以外の店も行く場所もこの世界にはなく、夕陽屋に入るしかなかったという状態だった。
「いらっしゃい」
「ここはどこですか?」
「たそがれ時にあらわれる夕陽屋というお店だよ」
「たそがれどきって?」
「夕方、日が沈む前の時間にしかここに来ることはできないんだ」
「ぼく、帰れないの?」
「大丈夫。この店を出ればもどることができるよ。せっかくだから何か買っていけば? ここにはめずらしい商品があるからさ」
「おにいさん、この消しゴムは何?」
「これは、事実を消す消しゴムだよ。1回しか使えないけどな」
「なんだよそれ?」
「いやなことがあったら文字に書いたものを消せば、なかったことになるんだ」
「たとえば0点をとったとして、0点をなかったことにできるということ?」
ケイタはおどろきながら夕陽を見上げた。
「どんな場所でもいい。どんなペンで書いてもこの消しゴムは消すことができるんだ。ボールペンや油性ペンでも消すことができるよ。紙がなければかべに書いて消しても効果はあるよ」
「本当? 面白そうだね」
「でも、使い方しだいで悪いことになることもあるから気をつけるんだ。以前、友達をなかったことにした人間もいた。普通の消しゴムだと思って、家族が勝手にもちぬしの名前を消してしまったこともあったな。存在をなかったことにされた人もいるから、消しゴムの管理はとても大事だな」
「なかったことになってしまった人がいたの? それが本当ならば怖い話だよ、やっぱり怖いから帰るよ」
ケイタはとても怖がりで慎重な性格だった。でも、正義感が強くヒーローに憧れていた。
「あれ? さっきヒーローになりたいって強く願っただろ。だから君はここに来た」
「たしかにそうだけれど……」
「この消しゴムの使い方次第でどんな強敵にもピンチにも立ち向かうことができるすごいアイテムなんだぞ」
「こんなに小さいのに、最強ってこと?」
「そうさ、最強だよ」
ケイタは小さな消しゴムを見つめてにっこり笑う。そのたくましい笑顔につられて夕陽もにっこり笑う。
「笑顔ってつながっているんだぞ。君が笑えば俺も笑う。いいことが起きるように、人のために何かをすれば、世界中が笑うようになるってことだ」
「なんかかっこいいセリフだね。ヒーローが出てくるテレビ番組のナレーションみたい」
「君は選ばれた人間だから、ここに来たんだよ」
「選ばれた人間ってヒーローってこと?」
「そうだな。君ならばきっとヒーローになるってことさ」
「消しゴムはいくら?」
「10円だよ」
「普通の消しゴムより安いね」
その値段におどろきをかくせない少年は表情が豊かでうそをつけないタイプだということがわかる。
「この消しゴムは1回きりしかつかえないから安いんだよ。使ったら消えてしまうんだ。さっきいったように、消しゴムの管理と使い方はよく考えるんだな」
「ありがとう」
そう言って少年は帰った。少年はヒーローに憧れていた。だから、この店を呼び寄せてしまったのだろう。
少年が店を出ると周りの景色が変わる。急に元の住んでいる町に戻った。少年はスキップをしながら鼻歌を歌う。そして、楽しい気持ちになって自宅に向かう。心は無敵だった。
夕暮れどきは空も薄暗くなっていた。気づくと、黒い服を着ていると車から見えにくい時間帯になっていた。そんなとき、ただでさえ小さくて見えにくい小学校1年生くらいの背の低い子供が道路を渡っていた。そこは横断歩道ではない。でも、その道路を通ったほうが近道で、渡りたくなる気持ちはよくわかる。しかし、運悪く来た車に少年はひかれてしまった。ケイタは自分より背の低い子供を目の前で助けることはできなかった。交通事故だ。
ヒーローならば、危機一髪という瞬間に助けるものだと思う。しかし、消しゴムの力はそういったことには使えない。ただ、ぼーっとして様子をながめていると――心のどこかで、さきほどのおにいさんの声が響く。
「今だろ、ヒーロー」
「今、僕にできること……」
ケイタ少年は急いで持っていた紙とペンを出す。そして、急いで文字を書いた。
「僕は、戦って助けるとか、危ない場面で助けることはできないけれど――」
ひとりごとをいいながらケイタは文字を書いた。
『こうつうじこ』
急いだせいで、雑な字になってしまったが、なんとか書いた。そして、いそいで文字を消す。
すると――不思議なことに、消しゴムを当てるとペンの文字がすうーっときえた。
その瞬間、世界が巻き戻された感覚になる。それはテレビの録画を巻き戻した瞬間と同じようだった。時間が逆に戻るというはじめての感覚だった。でも、さっきとは違い、事故にあうはずの小さな子供はちゃんと横段歩道橋のほうに歩いて行った。だから、事故にあわずに済む。そして、事故はなかったことになった。目立たないし、誰にも感謝されないけれど少年はヒーローになったのだ。少年の手ににぎられていたはずの消しゴムは消えてしまっていた。1回しか使えないというのは本当だったらしい。
ヒーローは目立つものだと思っていたけれど、感謝されなくても平和を作っていくことが真のヒーローだということを少年は強く感じた。そして、少年は大人になってもそのこころを忘れない、真のヒーローになっていた。
ぐうぜんは運をも左右することがある。たまたま不思議なお店に来てしまうこともあるということだ。
「ここはどこ?」
ケイタは目の前に現れた店に入る。というかそれ以外の店も行く場所もこの世界にはなく、夕陽屋に入るしかなかったという状態だった。
「いらっしゃい」
「ここはどこですか?」
「たそがれ時にあらわれる夕陽屋というお店だよ」
「たそがれどきって?」
「夕方、日が沈む前の時間にしかここに来ることはできないんだ」
「ぼく、帰れないの?」
「大丈夫。この店を出ればもどることができるよ。せっかくだから何か買っていけば? ここにはめずらしい商品があるからさ」
「おにいさん、この消しゴムは何?」
「これは、事実を消す消しゴムだよ。1回しか使えないけどな」
「なんだよそれ?」
「いやなことがあったら文字に書いたものを消せば、なかったことになるんだ」
「たとえば0点をとったとして、0点をなかったことにできるということ?」
ケイタはおどろきながら夕陽を見上げた。
「どんな場所でもいい。どんなペンで書いてもこの消しゴムは消すことができるんだ。ボールペンや油性ペンでも消すことができるよ。紙がなければかべに書いて消しても効果はあるよ」
「本当? 面白そうだね」
「でも、使い方しだいで悪いことになることもあるから気をつけるんだ。以前、友達をなかったことにした人間もいた。普通の消しゴムだと思って、家族が勝手にもちぬしの名前を消してしまったこともあったな。存在をなかったことにされた人もいるから、消しゴムの管理はとても大事だな」
「なかったことになってしまった人がいたの? それが本当ならば怖い話だよ、やっぱり怖いから帰るよ」
ケイタはとても怖がりで慎重な性格だった。でも、正義感が強くヒーローに憧れていた。
「あれ? さっきヒーローになりたいって強く願っただろ。だから君はここに来た」
「たしかにそうだけれど……」
「この消しゴムの使い方次第でどんな強敵にもピンチにも立ち向かうことができるすごいアイテムなんだぞ」
「こんなに小さいのに、最強ってこと?」
「そうさ、最強だよ」
ケイタは小さな消しゴムを見つめてにっこり笑う。そのたくましい笑顔につられて夕陽もにっこり笑う。
「笑顔ってつながっているんだぞ。君が笑えば俺も笑う。いいことが起きるように、人のために何かをすれば、世界中が笑うようになるってことだ」
「なんかかっこいいセリフだね。ヒーローが出てくるテレビ番組のナレーションみたい」
「君は選ばれた人間だから、ここに来たんだよ」
「選ばれた人間ってヒーローってこと?」
「そうだな。君ならばきっとヒーローになるってことさ」
「消しゴムはいくら?」
「10円だよ」
「普通の消しゴムより安いね」
その値段におどろきをかくせない少年は表情が豊かでうそをつけないタイプだということがわかる。
「この消しゴムは1回きりしかつかえないから安いんだよ。使ったら消えてしまうんだ。さっきいったように、消しゴムの管理と使い方はよく考えるんだな」
「ありがとう」
そう言って少年は帰った。少年はヒーローに憧れていた。だから、この店を呼び寄せてしまったのだろう。
少年が店を出ると周りの景色が変わる。急に元の住んでいる町に戻った。少年はスキップをしながら鼻歌を歌う。そして、楽しい気持ちになって自宅に向かう。心は無敵だった。
夕暮れどきは空も薄暗くなっていた。気づくと、黒い服を着ていると車から見えにくい時間帯になっていた。そんなとき、ただでさえ小さくて見えにくい小学校1年生くらいの背の低い子供が道路を渡っていた。そこは横断歩道ではない。でも、その道路を通ったほうが近道で、渡りたくなる気持ちはよくわかる。しかし、運悪く来た車に少年はひかれてしまった。ケイタは自分より背の低い子供を目の前で助けることはできなかった。交通事故だ。
ヒーローならば、危機一髪という瞬間に助けるものだと思う。しかし、消しゴムの力はそういったことには使えない。ただ、ぼーっとして様子をながめていると――心のどこかで、さきほどのおにいさんの声が響く。
「今だろ、ヒーロー」
「今、僕にできること……」
ケイタ少年は急いで持っていた紙とペンを出す。そして、急いで文字を書いた。
「僕は、戦って助けるとか、危ない場面で助けることはできないけれど――」
ひとりごとをいいながらケイタは文字を書いた。
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急いだせいで、雑な字になってしまったが、なんとか書いた。そして、いそいで文字を消す。
すると――不思議なことに、消しゴムを当てるとペンの文字がすうーっときえた。
その瞬間、世界が巻き戻された感覚になる。それはテレビの録画を巻き戻した瞬間と同じようだった。時間が逆に戻るというはじめての感覚だった。でも、さっきとは違い、事故にあうはずの小さな子供はちゃんと横段歩道橋のほうに歩いて行った。だから、事故にあわずに済む。そして、事故はなかったことになった。目立たないし、誰にも感謝されないけれど少年はヒーローになったのだ。少年の手ににぎられていたはずの消しゴムは消えてしまっていた。1回しか使えないというのは本当だったらしい。
ヒーローは目立つものだと思っていたけれど、感謝されなくても平和を作っていくことが真のヒーローだということを少年は強く感じた。そして、少年は大人になってもそのこころを忘れない、真のヒーローになっていた。
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