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【大きなカブとひき肉の煮物】②

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「まじでうまい、この煮つけ。おふくろの味みたいな感じだよな。って俺はおふくろがいないんだけどさ。この店、来たいと思って来れる店じゃないんだろ?」
「わかりますか?」

 意外と話はうまく進むかもしれないと少し皆が期待した。
「入り口に過去や未来にいけるドリンクありますなんて書いてある店、普通じゃないだろ」

「そうです、時の国の住人が開店した不思議なレストランなのです」
「でも俺、音楽活動するんで、ここで働くことは無理だぞ」
「ここで働くのではなく、時の国の夜の王の仕事をしてみないかとスカウトしています」

「なんで俺? というか夜の王ってなんだよ?」
 驚いた夜叉が聞いてくる。

「あなたには特別な力が宿っているからです。時をつかさどる仕事を時の国でしないかとお誘いしています」

「マジか、俺はたしかに特別な人間だってことは自覚しているけどな」
 中二病のような発言をするが、たしかにこの男は特別な力があるようなので彼を否定するところではない。

「でも、その力は時の国でないと生かせません。我々の国の王の一人になって仕事をしてみませんか?」
「ヘッドハンティングってやつか? でも、俺には音楽があるしな」

「うだうだうるさいわね。音楽活動をしながらでも構わないから、手伝いをできるかどうかの確認よ。とりあえず能力的には候補だから、今後のあなたの態度を観察して決定するけどね」
 まひるがいらいらしたらしく、いつの間にか18歳の姿に戻っていた。

「あれ? 小学生だったのに、急に色っぽいねーちゃんに変身してるのか?」
 夜叉が驚いて重心を後ろにしたので、椅子から落ちそうになった。少々まぬけなところがあるらしい。

「いっしょに仕事をするかどうか、考えておきなさい。内容は説明するし、見学だけすることも可能よ。最近、一時入国制度を新設したから」

 何言ってるのかわからない、という顔をしていたが、目の前の色気のあるまひるに心を奪われた夜叉が
「ねーちゃんと一緒に働けるならば、俺、夜の王ってやつを考えてやってもいいぞ」
 なぜか上から目線の承諾だった。

「来たいと思ったときに僕たちを心の中でよんでください」
「候補じゃなくなったら、和食も食べられないってことか?」
「そうなりますね」
「ねーちゃんにも会えないってことか?」

「やっぱりこいつ却下だわ」
 腰に手を当てながら、まひるが怒りをあらわにする。

「俺、命令されると胸がきゅんとするっていうか……ねーちゃんみたいな人、すげー好きだ」
「私は、ねーちゃんじゃなくて、まひる。普段は10歳やっているけれど、本当は18歳なのよ」
「いいな、そういうところも大好き。ギャップ萌えみたいな感じでさ」

 まひるとアサトさんは前途多難なこの男を見つめながらため息をついた。

「ねーちゃんのことは割とタイプだけどさ、やっぱりこの国で音楽を成し遂げることが俺の使命ってやつだと思うんだよな。全国のファンも待っているしな」
「音楽は売れ続けるとは限りませんよ。不安定でも先行きが不安ではないのですか? 未来を見たくないのですか?」

「未来はたくさんあるんだろ。成功する未来もあれば失敗する未来もある。正解なんてないんだろ?」
 馬鹿そうな顔をしているのに、正論を述べるあたりがやっぱり王の資格を持つ器ということだろうか? 少し納得する。

「あなたの言う通りです」
「じゃあ俺は音楽をやり続けるよ。成功しようが失敗しようがかまわねぇ」
「では、時の国の王の一人になることは拒否するということでしょうか?」
「残念だけど、王になったら片手間で音楽活動なんてできね-だろ」
「あなたは日本人の中でも能力が高いので、是非我々が困った時には力をかしてください。今日の料理代は無料にします。王にならなくてもあなたの力は時の国では役立つと思います」

「まあ、音楽が一番だけどさ、ねーちゃんに会えるならば手伝う程度ならば考えてやってもいいぞ。もう一杯かぶの煮つけおかわり。白飯もつけてくれよ」

「あなた、本当にずうずうしいわね。神経太いタイプよね。遠慮という言葉を知らないというか……」
 まひるがあきれ顔だ。

「では、日本のお米にみりんを少々入れておいた白米があるので、召し上がっていってください」

「おう、気が利くじゃねーか。みりんなんて入れてうまいのか?」
「つやを出すためにみりんを入れています。調理酒を入れるときもあります。一工夫ですよ」
 あつあつで、つやつやの白米を間の前に香りを堪能する夜叉は米粒にキスをして「いただきます」というと、あっという間に平らげたようだ。
「ごちそうさん」食す時間はわずかだったと思う。

 食欲旺盛な若い男性らしいが、痩せている体を見ると大食いには見えないし、普段はあまり食べていないのかもしれない。痩せの大食いというやつなのかもしれない。かと言って、黒羽ほどの豪快さはないが。
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