激録、東アジア動乱記

第一章

外れた楔

　外れた楔

　日本が2020年に核兵器禁止条約に調印して2ヶ月が過ぎようとしていた…

　JPN,EEZ 沖縄周辺海域にて

　『放水始めー!』
　ｻﾞｧｧｧｱーーー
　海上保安庁巡視船はるなみにて

「奴さん、進路変わりません！」

「このままじゃぶつかるぞ！」

「まずいっ取り舵いっぱいーー」

　調印直後から、日に日に増す中華人民共和国海警局の接近行動はもはや無視できないレベルとなっていた。
この問題を解決するため日本は核戦力に頼らない防衛力強化に乗り出すこととなる。

2021年度予算案には防衛費GDP5%が掲げられ、核兵器の廃止に動いた与党を野党は咎めることが難しく、予算は比較的簡単に成立。
そして勢いづく日本は9条の改正にも乗り出したのだ。

一方、日本の非核化により割を食っている国が半島にあった。
「日本は一体何をやっているんだ。」
そう言って机を叩く大韓民国大統領。
(日本に配備された米軍の核戦力が失われた今となっては韓国国内にある核戦力だけが頼りだ。最近は北も大規模軍事演習を行なっているようだし…)
この事態に危機感を抱いているのは韓国だけではなかった。

「日本が核兵器の廃止と9条の改正に乗り出したか…」
アメリカとしては、列島線による太平洋防衛の一環として核戦力の配置を行っていたものの、今回の条約締結により裏でもそれが出来なくなってしまった。
代わりとなる案として公海への原潜の配置を打ち出したものの以前よりかは対応スピードが遅れるのは自明の事実であった。


東アジアの安寧を保つ楔が外されたことによりグローバル化する世界はさらなる崩壊へと向かっていくのだった…