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ヒロインになり損なったのは、誰のせい?<モモナside>
4. 原作とのズレは誤差か、それとも
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医務室を経由してなんとか間に合った入学式。その壇上に新入生代表として登壇したのは先ほど助けてくれた男子生徒で、紹介を受ける言葉に耳を疑った。ハンカチを貸してくれた人がまさかこの国の第一王子だなんて!?
王族と縁がある訳でもなく出回る姿絵を見るか、行事の際に豆粒サイズで見ることしかなかったヒロインだ。顔はある程度認識していたとしてもまさかわざわざ名も知らない女子生徒にこの国の王子が手を差し伸べるなど夢にも思わなかったのだろう。
当然モモナは知っているのだが、ヒロインにとってはまさに運命の出会いだ。ポケットに仕舞い込んだハンカチはふたりを繋ぐ運命の赤い糸。
その後、ふたりの再会はすぐに訪れる。
「あれ、……君はさっきの。足は大丈夫だったかい?」
「はいっ、おかげで問題なく医務室に行けて入学式にも間に合って…本当にありがとうございます。あの、まさか…アシュトン様が私を助けて下さったなんて思いもしなくって、きちんとお礼を言えないままで」
入学式後に案内されたクラスでふたりが言葉を交わす姿に周りは騒めき立つ。その騒めき立つ理由は女子生徒たちからの鋭い視線で明白だ。
――嫉妬だよね、ふふっ、気持ちいいなあ、これ。
優越感たっぷりに再会イベントも回収したモモナの入学初日は、幕を閉じた。
╌
「うぅん……やっぱりステータス画面がないと不便だなあ」
あの日から始まった乙女ゲームライフをモモナは満喫していたが、やはりステータス画面で現状を把握できないのは何かと不便だった。
特に好感度によって仕掛けるアクションが異なる仕様だったため、その見極めが非常に難しい。寮に戻ったあと、攻略内容の予習と復習のためだけに机に齧りついた。
普段は寮の机に鍵をかけて頑丈に守っている攻略のアレコレを記載したノートを開く。一週間ごとに起こるイベントやミニゲーム(ここでは抜き打ちテストとして出現した)など、記憶に従って書き記した通りに世界が進んでいくのが楽しくて仕方がない。ゲームの攻略法を丸暗記するレベルで知るモモナは、この世界のヒロインであり創造神たる作者にも匹敵するのだから当然だ。
まず入学テストは今のモモナにとって障害にもならない。事前に取得していた学力と魔力を上げるアイテムでゲームの設定通り、男爵令嬢として初めて本来高位貴族ばかりのSクラスに在籍することができた。
ここで失敗するわけにはいかなかったのでアイテムを使い過ぎた結果、アシュトンに次ぐ成績を取得してしまったのは誤算だったが、才女と持て囃されるのは気分が良かったので何の問題もない。と上出来の花丸をノートのチェックリストに付け加えた。
クラスには攻略対象である五人の内、三人――第一王子のアシュトン、歴代最強の魔法使いに名を連ねるハーヴィー公爵家嫡男コンラッドと騎士団団長ラッセルズ伯爵の令息ネイサン――が在籍している。まずはこの三人と仲をそれぞれ深めたあと、学園の魔法科講師のトバイアス、王弟のセドリックとの出会いが。
そして好感度を五人同じように最大値まであげた状態で、封印が解かれた魔王と対峙。その戦いで聖女の力が目覚めたヒロインと五人が協力し、再度魔王を封印することで逆ハーレムルートが完成しハッピーエンドを迎える――という流れだ。
「アシュトンとの再会はばっちりだったし、コンラッドとネイサンも会えたでしょ。方法はちょっと違っちゃったけど、生徒会にも無事入れたから放課後はイケメンに囲まれる日々ゲット!」
一週間のうちに三人と面識を持ったあと、ゲーム内では男爵令嬢として初めてSクラスとなったヒロインを本来アシュトンが生徒会に誘う。生徒会はこれまで高位貴族ばかりで視点が偏りがちだからとかなんとか。だが今回は成績優秀者として先生からの打診を受けて生徒会に所属することに。
アイテムを過剰使用したズレはここにも影響を与えたようだが、モモナにとっては誤差だった。
「あとは休日に出かけるイベントの発生を待ちつつ、……あ、ここで弱ったトバイアスを見つけなくちゃいけないからあ」
次週のスケジュールを念入りにチェックしながらも、途中に書き込まれた『悪役令嬢』の文字に二重丸を付けた。
「アシュトンとの恋を盛り上げるためにも、頑張ってもらわなくっちゃ。悪役令嬢さん」
╌
「……特に申し上げることはありませんわ。ペンドリー様はしっかりと勉学に励み、常にアシュトン様に次ぐ成績を取得し続けておりますもの。生徒会に登用したのも頷けます。少々マナーが欠けているところはありますが、アシュトン様方が注意をなさっていると聞き及んでおりますから」
待てど暮らせど嫌がらせを開始しないアシュトンの婚約者セシリア・エマーソンに痺れを切らしたモモナはそれとなく問いかけてみたところ返ってきた言葉に驚愕した。
確かにゲーム内でセシリアがヒロインにチクチク嫌がらせする内容はギリギリSクラスに入り込めた程度の成績だったヒロインに対するもの。
「たまたま運が良かっただけなのに」「魔力も大してない癖に」「高位貴族にはない目線が欲しいアシュトン様に都合がよかっただけ」等々。だが今はセシリアよりも良い成績をとっているため、その類の嫌がらせはできない。
となるとマナーへと移行するのだが、セシリアの言う通りアシュトンからモモナは度々注意を受けていた。名前では呼ばないこと、みだりに触れないこと、ふたりきりには決してならないこと、と。
しかしながら注意を受けてもモモナがそれを改めることは無かった。正確には改めるよう努力をしつつも、ついつい失敗をしてしまう。注意されたときには本気で反省し本気で謝罪をするのだけれど、ついつい。しっかり学びますと真摯に伝えれば、誰もそれ以上は咎めてこない。
それに、注意するのは形式的なもので本当に嫌だからではない。だって、腕を絡めて名前を呼べば嬉しそうにしている。偶然を装って柔らかな胸を腕に押し付ければ初心な反応が返ってくる。町の男たちと所詮は同じ。
男たちがヒロインに、美しいモモナにそうされて嬉しくないわけがないとモモナは心の底から思っていた。
╌
ゲーム開始から一ヶ月が経過しようとしている深夜。
週末の夜は少しだけ寮が賑やかだ。街に出て帰ってきた者がお土産を配ったり、友人たちがひとつの部屋に集って話を咲かせている。
ヒロインはクラスで浮いた存在だったため、近くの部屋の男爵令嬢とゲーム内では仲良くしていたようだが、攻略に関係のないことをモモナはするつもりもない。勿論下位貴族でも令息であれば話は例外であったが。
何時も通り攻略ノートに視線を落とし、チェックリストをつけていく。
「悪役令嬢も実は転生者パターンかと思ったけど、……どうも違うみたい」
ゲーム内の行動と全く異なるセシリアに疑いの目を向けてみたが、アシュトンとの仲が良くなっているようには見えない。必要事項しか言葉を交わしているところを見たことがないし、アシュトンがゲーム内でヒロインに向けていたような甘い笑顔がセシリアに向けられることもなかった。
ゲーム内のセシリアはもう少しアシュトンに対して積極的だった気がするが、これも誤差か。やはりモモナのステータス管理が影響しているのだろうと結論付ける。
モモナにとってはそんなことよりも重大なことがあったからだ。
「おかしい……なんで? なんでよ…、学園内でのイベントは全部回収できてるのに…っ、週末のイベントがちっとも発生しないじゃん!! そこでじゃないとプレゼント貰えないのに…!」
スチルや学園内のイベント回収は少しズレはあるものの順調に進められている。しかし週末ごとにあるはずのデートイベントや魔物討伐特訓イベントの類が一切発生しないのだ。
週末イベントは攻略者の好感度がぐんと上がるボーナスタイムでもあり、好感度が上がるにつれてプレゼントを貰えたり、手を繋いで歩けるようになったりとプレイヤーに夢のひと時を与えてくれる。
退屈な授業を耐えているのも誘ってもらうための布石なのに、これでは無駄足だ。
せっかく買った好感度アップのアイテムも、まだ受け取ってもらえる中盤の数値まで好感度が至っていないのか、あの手この手で渡してもやんわりと断られてしまう。
何もかもが腹立たしい。
学園内では生徒会の立場で攻略者たちと共に行動することができる。
右を見ても左を見てもイケメンしかいない環境も申し分ない。
他の女子生徒たちの嫉妬の視線を浴びれば浴びるほど、優越感で最高に気持ちがいい。
それでも攻略者たちと傍にいられるだけで誰一人とだって甘い空気感にならない現状にとうとうモモナは痺れを切らした。
王族と縁がある訳でもなく出回る姿絵を見るか、行事の際に豆粒サイズで見ることしかなかったヒロインだ。顔はある程度認識していたとしてもまさかわざわざ名も知らない女子生徒にこの国の王子が手を差し伸べるなど夢にも思わなかったのだろう。
当然モモナは知っているのだが、ヒロインにとってはまさに運命の出会いだ。ポケットに仕舞い込んだハンカチはふたりを繋ぐ運命の赤い糸。
その後、ふたりの再会はすぐに訪れる。
「あれ、……君はさっきの。足は大丈夫だったかい?」
「はいっ、おかげで問題なく医務室に行けて入学式にも間に合って…本当にありがとうございます。あの、まさか…アシュトン様が私を助けて下さったなんて思いもしなくって、きちんとお礼を言えないままで」
入学式後に案内されたクラスでふたりが言葉を交わす姿に周りは騒めき立つ。その騒めき立つ理由は女子生徒たちからの鋭い視線で明白だ。
――嫉妬だよね、ふふっ、気持ちいいなあ、これ。
優越感たっぷりに再会イベントも回収したモモナの入学初日は、幕を閉じた。
╌
「うぅん……やっぱりステータス画面がないと不便だなあ」
あの日から始まった乙女ゲームライフをモモナは満喫していたが、やはりステータス画面で現状を把握できないのは何かと不便だった。
特に好感度によって仕掛けるアクションが異なる仕様だったため、その見極めが非常に難しい。寮に戻ったあと、攻略内容の予習と復習のためだけに机に齧りついた。
普段は寮の机に鍵をかけて頑丈に守っている攻略のアレコレを記載したノートを開く。一週間ごとに起こるイベントやミニゲーム(ここでは抜き打ちテストとして出現した)など、記憶に従って書き記した通りに世界が進んでいくのが楽しくて仕方がない。ゲームの攻略法を丸暗記するレベルで知るモモナは、この世界のヒロインであり創造神たる作者にも匹敵するのだから当然だ。
まず入学テストは今のモモナにとって障害にもならない。事前に取得していた学力と魔力を上げるアイテムでゲームの設定通り、男爵令嬢として初めて本来高位貴族ばかりのSクラスに在籍することができた。
ここで失敗するわけにはいかなかったのでアイテムを使い過ぎた結果、アシュトンに次ぐ成績を取得してしまったのは誤算だったが、才女と持て囃されるのは気分が良かったので何の問題もない。と上出来の花丸をノートのチェックリストに付け加えた。
クラスには攻略対象である五人の内、三人――第一王子のアシュトン、歴代最強の魔法使いに名を連ねるハーヴィー公爵家嫡男コンラッドと騎士団団長ラッセルズ伯爵の令息ネイサン――が在籍している。まずはこの三人と仲をそれぞれ深めたあと、学園の魔法科講師のトバイアス、王弟のセドリックとの出会いが。
そして好感度を五人同じように最大値まであげた状態で、封印が解かれた魔王と対峙。その戦いで聖女の力が目覚めたヒロインと五人が協力し、再度魔王を封印することで逆ハーレムルートが完成しハッピーエンドを迎える――という流れだ。
「アシュトンとの再会はばっちりだったし、コンラッドとネイサンも会えたでしょ。方法はちょっと違っちゃったけど、生徒会にも無事入れたから放課後はイケメンに囲まれる日々ゲット!」
一週間のうちに三人と面識を持ったあと、ゲーム内では男爵令嬢として初めてSクラスとなったヒロインを本来アシュトンが生徒会に誘う。生徒会はこれまで高位貴族ばかりで視点が偏りがちだからとかなんとか。だが今回は成績優秀者として先生からの打診を受けて生徒会に所属することに。
アイテムを過剰使用したズレはここにも影響を与えたようだが、モモナにとっては誤差だった。
「あとは休日に出かけるイベントの発生を待ちつつ、……あ、ここで弱ったトバイアスを見つけなくちゃいけないからあ」
次週のスケジュールを念入りにチェックしながらも、途中に書き込まれた『悪役令嬢』の文字に二重丸を付けた。
「アシュトンとの恋を盛り上げるためにも、頑張ってもらわなくっちゃ。悪役令嬢さん」
╌
「……特に申し上げることはありませんわ。ペンドリー様はしっかりと勉学に励み、常にアシュトン様に次ぐ成績を取得し続けておりますもの。生徒会に登用したのも頷けます。少々マナーが欠けているところはありますが、アシュトン様方が注意をなさっていると聞き及んでおりますから」
待てど暮らせど嫌がらせを開始しないアシュトンの婚約者セシリア・エマーソンに痺れを切らしたモモナはそれとなく問いかけてみたところ返ってきた言葉に驚愕した。
確かにゲーム内でセシリアがヒロインにチクチク嫌がらせする内容はギリギリSクラスに入り込めた程度の成績だったヒロインに対するもの。
「たまたま運が良かっただけなのに」「魔力も大してない癖に」「高位貴族にはない目線が欲しいアシュトン様に都合がよかっただけ」等々。だが今はセシリアよりも良い成績をとっているため、その類の嫌がらせはできない。
となるとマナーへと移行するのだが、セシリアの言う通りアシュトンからモモナは度々注意を受けていた。名前では呼ばないこと、みだりに触れないこと、ふたりきりには決してならないこと、と。
しかしながら注意を受けてもモモナがそれを改めることは無かった。正確には改めるよう努力をしつつも、ついつい失敗をしてしまう。注意されたときには本気で反省し本気で謝罪をするのだけれど、ついつい。しっかり学びますと真摯に伝えれば、誰もそれ以上は咎めてこない。
それに、注意するのは形式的なもので本当に嫌だからではない。だって、腕を絡めて名前を呼べば嬉しそうにしている。偶然を装って柔らかな胸を腕に押し付ければ初心な反応が返ってくる。町の男たちと所詮は同じ。
男たちがヒロインに、美しいモモナにそうされて嬉しくないわけがないとモモナは心の底から思っていた。
╌
ゲーム開始から一ヶ月が経過しようとしている深夜。
週末の夜は少しだけ寮が賑やかだ。街に出て帰ってきた者がお土産を配ったり、友人たちがひとつの部屋に集って話を咲かせている。
ヒロインはクラスで浮いた存在だったため、近くの部屋の男爵令嬢とゲーム内では仲良くしていたようだが、攻略に関係のないことをモモナはするつもりもない。勿論下位貴族でも令息であれば話は例外であったが。
何時も通り攻略ノートに視線を落とし、チェックリストをつけていく。
「悪役令嬢も実は転生者パターンかと思ったけど、……どうも違うみたい」
ゲーム内の行動と全く異なるセシリアに疑いの目を向けてみたが、アシュトンとの仲が良くなっているようには見えない。必要事項しか言葉を交わしているところを見たことがないし、アシュトンがゲーム内でヒロインに向けていたような甘い笑顔がセシリアに向けられることもなかった。
ゲーム内のセシリアはもう少しアシュトンに対して積極的だった気がするが、これも誤差か。やはりモモナのステータス管理が影響しているのだろうと結論付ける。
モモナにとってはそんなことよりも重大なことがあったからだ。
「おかしい……なんで? なんでよ…、学園内でのイベントは全部回収できてるのに…っ、週末のイベントがちっとも発生しないじゃん!! そこでじゃないとプレゼント貰えないのに…!」
スチルや学園内のイベント回収は少しズレはあるものの順調に進められている。しかし週末ごとにあるはずのデートイベントや魔物討伐特訓イベントの類が一切発生しないのだ。
週末イベントは攻略者の好感度がぐんと上がるボーナスタイムでもあり、好感度が上がるにつれてプレゼントを貰えたり、手を繋いで歩けるようになったりとプレイヤーに夢のひと時を与えてくれる。
退屈な授業を耐えているのも誘ってもらうための布石なのに、これでは無駄足だ。
せっかく買った好感度アップのアイテムも、まだ受け取ってもらえる中盤の数値まで好感度が至っていないのか、あの手この手で渡してもやんわりと断られてしまう。
何もかもが腹立たしい。
学園内では生徒会の立場で攻略者たちと共に行動することができる。
右を見ても左を見てもイケメンしかいない環境も申し分ない。
他の女子生徒たちの嫉妬の視線を浴びれば浴びるほど、優越感で最高に気持ちがいい。
それでも攻略者たちと傍にいられるだけで誰一人とだって甘い空気感にならない現状にとうとうモモナは痺れを切らした。
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