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第三章

第41話

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 仏壇に戻った。ああ、三葉とスケキヨ、泥棒野郎に髙橋に乗り移ってやり残したことをどんどんやっていけたのだが……。

 まだここにいるってのはどんだけ俺は未練たらたらなんだよ。さっきのでも充分に天に召されても良かったかもしないが、まだまだ残っている。

 三葉に乗り移って彼女の美味しい手料理を倫典と食べる。こいつはもうこの家に入り浸っている。
 だがそれよりも三葉の飯はうめぇえええええ~!
「大島先生、こんな美味しいご飯を毎日食べていたんですね。これから僕も食べられるよう、頑張ります」
「どう頑張るか知らんけどさ、こんな幸せなことねぇぞー」
「ほんと幸せだよー」
「幸せだねぇ~」
「幸せだよぉ~」

 髙橋は大丈夫だろうか。なんだったら湊音に乗り移ってもよかったかな。ううむ。もう一回ワンチャンで……。だめだ、だめだ。そんな贅沢しちゃダメだろ。
 すると倫典が切り出した。
「そうだ……そういえばさ」


 次の日の朝。
「なんか昨日部下の髙橋と剣道の試合したら大島先生のことを思い出しましてね」
 ってなんというタイミングで湊音が来たのだ。倫典が湊音とメールをしてくれたらしく、俺の仏壇に手を合わせたいって……。なんていいタイミングだし、倫典の気遣い……すごいよなぁ。こんなに細やかなことに気がきくやつだったか? 下手すると俺よりも……いやいや……。

 てか湊音が手首包帯つけている。
「湊音さん、どうしたんですか……この包帯」
 そりゃ三葉も驚くよな。
「昨日、部下の髙橋先生と剣道をしたんですがあまりにも力強くて」
「あぁ、昨日彼も家に来てくれたんですよ」
「そうだったんですね。なんかまるで高橋先生に大島先生が乗り移ったかのようで……久しぶりにあんな力強い打撃受けて腕がちょっと」

 俺は不思議と痛みがない。乗り移った肉体にダメージがくるんだよな。それと乗り移られたときの記憶がなくなるからそこが……だよなぁ。
 乗り移る以外に何かあるのだろうか、と思うんだがそれしかないのか。映画みたいに後ろからろくろを一緒に回すとか、そんなロマンチックな方法で三葉とちゃんと対面したい。

「……その話を聞いたら……なんだか私も最近不思議な体験をしたんです。ねぇ、倫典くん」
「あ、あ……うん。こないだここの家に泥棒が入って時のことなんだけど三葉が気を失って目が覚めたら彼女も左手と左腕痛めちゃって、ほら」
 三葉、まだ左腕痛かったんだな。確かに昨日乗り移った時まだ動かしにくかった。

「すいません、左手見せてもらってもいいですか」
「は、はい。いたい……」
「やっぱり」
 何がやっぱりなんだ?
「大島先生も左手を痛めた時もこういう感じでしたね……癖があるので、あの人」
 触っただけでわかるのかっ。まぁ確かに酷使した時に互いの腕マッサージしたり湿布貼りあってはいたが。
「体重のかけ方、力の入り方、息の仕方、ほぼ大島先生だった……」
 そこまでわかってるなんてお前という奴は。

「やっぱり……和樹さん」
 三葉。そうだよ、俺が乗り移ってたんだよ。ってどう説明すればいいんだ、倫典!!
「……」
 湊音、なんだ仏壇の前に立ってじっと見ている。
「大島先生、乗り移ってください」
 !!!

「乗り移る?」
 いや、その……。

「なんてね。そんなの勘弁だ、ってごめんなさいね、三葉さん。乗り移るだなんてそんなファンタジーな」

 どさっ

「湊音さん!? 大丈夫ですか」
「い、いえ。大丈夫です。あ、倫典。ありがとうな、夕方にまた」

 という俺は湊音に乗り移った。実はこっそり倫典が湊音のポッケにあのネックレスを入れてくれたんだ。さすが~倫典。髙橋よりもチビだけど動けるのは本当にいいなぁ。

 マンションから出ると覚悟はしていたが高校から近くて免許のない湊音は自転車に乗ってきていた。

「どんだけ自転車流行ってんだよ……このやろう」
 しかもマウンテンバイクだなんて昨日の髙橋のママチャリの方が走りやすいんだよ……安定して。このチビの体型ならいいか。

「あれ、おはようございますー」
 聞き覚えのある声、甲高い……。見上げるほど背が高い、この男。

「えっと大島さんですよね」
 ……そうだ、こいつもみえるんだった。猫のようにニターって笑う倉田だ。スケキヨの葬式以来だ。

「奥様以外にも他人に乗り移って……楽しまれているようで」
「……ん、まぁな。そっちは今日どうしてここへ」
 また変なもの売りつけてきたのか? それとも三葉に会いに来たのか? もう彼女には倫典がいるって俺はもう奴を認めてしまっているのが悔しいが。

「そうですねぇ、本日はお墓の打ち合わせがありまして」
「お、お墓!!!!」
 ピラっとチラシを持ってきた。こないだ渡していたやつだな!
「どうせ高い奴を売りつけるんだろ、また自分の親戚とかその辺の筋で……」
 渡されたチラシを見るが、葬式なんて親が死んだ時は親戚のおじさんにやってもらったし相場がよくわかっていなかった。
 目の前にあるチラシに載っているものでも高いのか安いのかわからない。

「それよりも大島さん、もうこんなのやめたらどうですか」
「……こんなのって……いいじゃないか」
「あなたは良くても、乗り移られた肉体のことを考えていますか」
 倉田が猫のような目をさらに釣り上げる。……なんだ、こいつ。見下ろされてさらに怖い。こんな顔してたか?

「最近、霊界で何かとざわついていますからね、調子に乗るとあなたも狙われますよ」
 狙われる? なんだっ、それは!

「あの幽霊のみえる男の子や私みたいに生ぬるくて優しい人なんてほんのひと握りです」
 ……何言ってんだ、こいつ。なんだよ、おでこに人差し指を。

「あ、私も優しい人かわかりませんけどね、ばぁん!」
 ?????




 目の前が真っ暗になった。

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