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第三章
第39話
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「髙橋先生? 大丈夫ですか」
「あ、う、うん……大丈夫」
なんだ、一瞬で一気に思い出した。動機も上がっている。語るとなるとまた体力無くす。手も震えている。
「話変わるけど……今からノートにやりたいことを思いつくだけ書いてください。10分で」
生徒達は書き始めた。隣の席の者と話しながら、1人で黙って書く者も。
「……それを生きているうちに俺はしてたらよかった……やりたいことをちゃんと後回しにせずにやればよかった。って後悔しても意味がない、死んでからは」
ついぽろっと言ってしまった。いかんいかん、今は髙橋の中にいるんだ。
「って大島先生も言ってる……と思う」
生徒の一部が手を止めた。そうなんだよ、やりたいことは常日頃あるし浮かぶし。でも死んでからあぁこれをやりたった、これもやりたかった……ってはっきりしてくるんだ。だがそれは叶わないんだ。死んでいるから。
今こうして乗り移ってこうしてやり残したことをできる自分は奇跡なんだ。なんで俺がこうなっているのかわからんけどな。
「書いたと思うけど、君たちはまだ高校生、若い。まだまだこれから大学生、社会人になっていろんなこといろんな人に出会う。もっとしたいことが増える。そのノートにかききれないくらいにな。たまに見返してはできたら消して、やりたいことが増えたら書く、消す、いつ死んでも後悔しないくらいに毎日を生きてほしい!」
キンコンカンコンー
チャイムがなった。一時間あっという間だな。そうか、最初機械に手こずったからだな。なんとか授業乗り切った。
「……髙橋先生っ、いい授業ありがとうございました!!!」
最初騒がしかった生徒が立ち上がって深々と頭を下げた。他の生徒達も次々と立ち上がった。中には泣いている生徒もいるが泣かしたつもりはない。
「私、たくさんある。この後、階段から落ちて死んだら絶対後悔しちゃうよ」
1人の女子生徒が言った。
「死ぬの早くね?」
「嫌だ、死にたくない……やっぱ明日でもいいかな」
どっと笑いが出た。でも死は待ってくれないんだ。いつくるのか。できるだけ君たちには後悔のないよう生きてほしい、それだけ伝わればいいんだ。俺は。
「じゃあ、これからも僕の授業……しっかり聞いて。もちろん他の先生も。あ、誰かの話も。君たちの人生の何か一つとして残れば。そういう授業を目指している。それ僕……髙橋として……やりたいことの一つ、願いたいことの一つです」
だなんてカッコつけてみた。……髙橋も頑張れよ。
職員室に戻った。久しぶりの授業、後お昼から二つあるのか。この手を使って授業するか。三年と一年。それぞれのクラスの生徒達にも。高橋がびっくりするから記録だけはしておこうか。
「髙橋、なんかお前のクラス静かだったな。さっき」
湊音だった。確か授業はさっきまでなくて今からだったから見周りに来てたのか。
「……みてましたか?」
「聞いてはいた」
横の空いた椅子に座った湊音。聞いてたんだ……。よく授業を見学に来ることはあったから慣れっこではあったが。俺の名前出したから怪しまれないだろうか。
「僕も立ち止まって聞いててすぐその場でやりたいことをメモしちゃった」
彼がいつも持ち歩いているメモ帳だ。ずっと変わらない。クセのある文字も。
「って読めないよな。綺麗に字が素早くかけるように、これも加えないと」
……パートナーと幸せに暮らす、料理を手際良くできるようにする、体重を減らす、禁煙、体を鍛える……。ふむふむ。……あつ、これは。
「実現しないことも書いてもいいかわからんけどさ、大島先生とまた試合がしたいって」
……。
「さっきのお前の授業聞いてたらさ、喋り方や口調が大島先生そのものだった気がしたんだ。少し聞き入っちゃった。ってもう授業だから……後さっきの書類で不備がいくつかあったからよろしくな」
……。
ってくそ。どさくさ紛れで仕事任せやがって。しょうがないな……湊音は。ついついやってしまうのだ。俺の元教え子、そして元部下。
かわいい弟みたいなもんだからな。お前は。ってこれは髙橋のミスじゃねぇカァッ!!! この間違いもメモして残してやるぞ!!!
2回の授業も同じようにやりたいことリストを書かせた。三年生は受験も控えていて最初から静かで、すんなりと書いてくれた。ほとんど勉強漬けだったから息抜きになったと1人の生徒に帰り際言われた。
一年生のクラスは二年生よりかはマシだったが騒がしかった。でも話を始めたらしっかりと話を聞いてくれた。
どこまで響いたかわからない。ここで何日かかけて髙橋の中にいて全クラスに話をしたいと考えたものだがまたこれもやり残してしまったと後悔してしまうから気持ちは抑えておいた。
髙橋の机も綺麗にし、メモを伏せておいておく。明日にはもう髙橋から抜けなくてはならないからな、奴が驚いてしまう。あ、いけない。もうこんな時間。
俺は荷物を持ってみんなに大きな声で挨拶した。
「それでは! また! さようなら!!」
そういうと職員室にいた教師全員驚いてこっちみた。みんな懐かしい顔だ。また、どこかで会えたらな!
俺は走って向かったのは剣道部のいる道場だ。授業をするのも楽しいが一番は剣道だ。ガキの頃からずっと剣道をしていて大学の部活動も剣道で部活動も剣道、剣道バカと言われてきた俺だ。もちろん国体優勝経験もある。
たくさんの生徒たちを指導し、優勝に導いてきた。スッゲー楽しい、人生に剣道がなかったら意味がない。
久しぶりの剣道! 道場入り口にはスロープがある。もしかしてこれもか? 俺は道場に勢いよく入ると……。
「あれ……部員は?」
そこには湊音しかいない。がらんとしている。彼はもう袴を着て待っていた。
「遅いぞ、10分遅刻」
……見渡しても部員たちはいない。今日は休みか?
「部員たちは?」
「知ってんだろ、今日は休みだ。なんちゃら改革か知らんが色々と部活動に規制がかかってなー。僕は教える分には全然いいけど他の学校もそうだから仕方がないんだよね。バスケ部は明日が休みだろ」
あ、そうだ。一応髙橋は名ばかりの顧問だから業者に委託しているらしく顧問活動については何もしなくてよかったのだが……。
休みだったのは不覚だった。ついてない。でも部員がいないから……道場は好き放題で使えるぞ。
「にしても髙橋、嬉しそうだな。剣道そんなに楽しみにしてた? 今まで嫌がってたのに」
……たしかに俺も誘ったことがあったがやりたがらなかったな。
「……気が変わって。やってみたいなぁってさ」
髙橋の中にいるからごまかしながらこんなことなんぞ言ってみるが。
「袴は……昔のやつだがサイズは合うはずだ」
見学に来る生徒のために貸し出していた袴だ。俺も着たことがあるから髙橋も着られるだろう。少し匂いや汚れも気になるが男臭い、汗臭い匂いよりかはマシだ。いや、それが普通だ。
「袴は自分で着られるか?」
「大丈夫……です」
更衣室で袴を着る。首にぶら下げている遺骨ジュエリーのついたネックレスが取れないよう慎重に。自分が髙橋の中に入ってることを忘れて手際良く着ていく。バレても構わない。懐かしい、この袴の着心地。そして防具。そういえばさっき道場のトロフィーが置いてあるところにあったのはたしか……。
俺は袴を身につけ更衣室に出ると湊音が待っていた。もう防具を身につけている。
「すごく綺麗に着てるな。防具だが、大島先生のでいいか?」
そうだ、あれは俺の防具だ。なんでここに。竹刀は仏壇の近くにあったが。
「手伝おうか」
「いや、大丈夫です」
久しぶりの俺の防具。何かグッときてしまう。湊音は不思議そうに見ている。
「お願いします……湊音先生」
俺は防具を身につけ、湊音と向き合った。
「高校の頃授業でやっていたとは聞いてたが所作もしっかりしている……それならもうこのまま相手するから、無理だと思ったら降参しろ」
「……のぞむところ……です」
湊音の温和な目付きから一気に鋭い顔になった。本気だ、お前のその顔は。俺はどうなんだろうか。真剣な髙橋の顔見たことがないからわからないが。
顔にも防具をつけ、竹刀を握った。そして構える。
「……よろしくお願いします」
「あ、う、うん……大丈夫」
なんだ、一瞬で一気に思い出した。動機も上がっている。語るとなるとまた体力無くす。手も震えている。
「話変わるけど……今からノートにやりたいことを思いつくだけ書いてください。10分で」
生徒達は書き始めた。隣の席の者と話しながら、1人で黙って書く者も。
「……それを生きているうちに俺はしてたらよかった……やりたいことをちゃんと後回しにせずにやればよかった。って後悔しても意味がない、死んでからは」
ついぽろっと言ってしまった。いかんいかん、今は髙橋の中にいるんだ。
「って大島先生も言ってる……と思う」
生徒の一部が手を止めた。そうなんだよ、やりたいことは常日頃あるし浮かぶし。でも死んでからあぁこれをやりたった、これもやりたかった……ってはっきりしてくるんだ。だがそれは叶わないんだ。死んでいるから。
今こうして乗り移ってこうしてやり残したことをできる自分は奇跡なんだ。なんで俺がこうなっているのかわからんけどな。
「書いたと思うけど、君たちはまだ高校生、若い。まだまだこれから大学生、社会人になっていろんなこといろんな人に出会う。もっとしたいことが増える。そのノートにかききれないくらいにな。たまに見返してはできたら消して、やりたいことが増えたら書く、消す、いつ死んでも後悔しないくらいに毎日を生きてほしい!」
キンコンカンコンー
チャイムがなった。一時間あっという間だな。そうか、最初機械に手こずったからだな。なんとか授業乗り切った。
「……髙橋先生っ、いい授業ありがとうございました!!!」
最初騒がしかった生徒が立ち上がって深々と頭を下げた。他の生徒達も次々と立ち上がった。中には泣いている生徒もいるが泣かしたつもりはない。
「私、たくさんある。この後、階段から落ちて死んだら絶対後悔しちゃうよ」
1人の女子生徒が言った。
「死ぬの早くね?」
「嫌だ、死にたくない……やっぱ明日でもいいかな」
どっと笑いが出た。でも死は待ってくれないんだ。いつくるのか。できるだけ君たちには後悔のないよう生きてほしい、それだけ伝わればいいんだ。俺は。
「じゃあ、これからも僕の授業……しっかり聞いて。もちろん他の先生も。あ、誰かの話も。君たちの人生の何か一つとして残れば。そういう授業を目指している。それ僕……髙橋として……やりたいことの一つ、願いたいことの一つです」
だなんてカッコつけてみた。……髙橋も頑張れよ。
職員室に戻った。久しぶりの授業、後お昼から二つあるのか。この手を使って授業するか。三年と一年。それぞれのクラスの生徒達にも。高橋がびっくりするから記録だけはしておこうか。
「髙橋、なんかお前のクラス静かだったな。さっき」
湊音だった。確か授業はさっきまでなくて今からだったから見周りに来てたのか。
「……みてましたか?」
「聞いてはいた」
横の空いた椅子に座った湊音。聞いてたんだ……。よく授業を見学に来ることはあったから慣れっこではあったが。俺の名前出したから怪しまれないだろうか。
「僕も立ち止まって聞いててすぐその場でやりたいことをメモしちゃった」
彼がいつも持ち歩いているメモ帳だ。ずっと変わらない。クセのある文字も。
「って読めないよな。綺麗に字が素早くかけるように、これも加えないと」
……パートナーと幸せに暮らす、料理を手際良くできるようにする、体重を減らす、禁煙、体を鍛える……。ふむふむ。……あつ、これは。
「実現しないことも書いてもいいかわからんけどさ、大島先生とまた試合がしたいって」
……。
「さっきのお前の授業聞いてたらさ、喋り方や口調が大島先生そのものだった気がしたんだ。少し聞き入っちゃった。ってもう授業だから……後さっきの書類で不備がいくつかあったからよろしくな」
……。
ってくそ。どさくさ紛れで仕事任せやがって。しょうがないな……湊音は。ついついやってしまうのだ。俺の元教え子、そして元部下。
かわいい弟みたいなもんだからな。お前は。ってこれは髙橋のミスじゃねぇカァッ!!! この間違いもメモして残してやるぞ!!!
2回の授業も同じようにやりたいことリストを書かせた。三年生は受験も控えていて最初から静かで、すんなりと書いてくれた。ほとんど勉強漬けだったから息抜きになったと1人の生徒に帰り際言われた。
一年生のクラスは二年生よりかはマシだったが騒がしかった。でも話を始めたらしっかりと話を聞いてくれた。
どこまで響いたかわからない。ここで何日かかけて髙橋の中にいて全クラスに話をしたいと考えたものだがまたこれもやり残してしまったと後悔してしまうから気持ちは抑えておいた。
髙橋の机も綺麗にし、メモを伏せておいておく。明日にはもう髙橋から抜けなくてはならないからな、奴が驚いてしまう。あ、いけない。もうこんな時間。
俺は荷物を持ってみんなに大きな声で挨拶した。
「それでは! また! さようなら!!」
そういうと職員室にいた教師全員驚いてこっちみた。みんな懐かしい顔だ。また、どこかで会えたらな!
俺は走って向かったのは剣道部のいる道場だ。授業をするのも楽しいが一番は剣道だ。ガキの頃からずっと剣道をしていて大学の部活動も剣道で部活動も剣道、剣道バカと言われてきた俺だ。もちろん国体優勝経験もある。
たくさんの生徒たちを指導し、優勝に導いてきた。スッゲー楽しい、人生に剣道がなかったら意味がない。
久しぶりの剣道! 道場入り口にはスロープがある。もしかしてこれもか? 俺は道場に勢いよく入ると……。
「あれ……部員は?」
そこには湊音しかいない。がらんとしている。彼はもう袴を着て待っていた。
「遅いぞ、10分遅刻」
……見渡しても部員たちはいない。今日は休みか?
「部員たちは?」
「知ってんだろ、今日は休みだ。なんちゃら改革か知らんが色々と部活動に規制がかかってなー。僕は教える分には全然いいけど他の学校もそうだから仕方がないんだよね。バスケ部は明日が休みだろ」
あ、そうだ。一応髙橋は名ばかりの顧問だから業者に委託しているらしく顧問活動については何もしなくてよかったのだが……。
休みだったのは不覚だった。ついてない。でも部員がいないから……道場は好き放題で使えるぞ。
「にしても髙橋、嬉しそうだな。剣道そんなに楽しみにしてた? 今まで嫌がってたのに」
……たしかに俺も誘ったことがあったがやりたがらなかったな。
「……気が変わって。やってみたいなぁってさ」
髙橋の中にいるからごまかしながらこんなことなんぞ言ってみるが。
「袴は……昔のやつだがサイズは合うはずだ」
見学に来る生徒のために貸し出していた袴だ。俺も着たことがあるから髙橋も着られるだろう。少し匂いや汚れも気になるが男臭い、汗臭い匂いよりかはマシだ。いや、それが普通だ。
「袴は自分で着られるか?」
「大丈夫……です」
更衣室で袴を着る。首にぶら下げている遺骨ジュエリーのついたネックレスが取れないよう慎重に。自分が髙橋の中に入ってることを忘れて手際良く着ていく。バレても構わない。懐かしい、この袴の着心地。そして防具。そういえばさっき道場のトロフィーが置いてあるところにあったのはたしか……。
俺は袴を身につけ更衣室に出ると湊音が待っていた。もう防具を身につけている。
「すごく綺麗に着てるな。防具だが、大島先生のでいいか?」
そうだ、あれは俺の防具だ。なんでここに。竹刀は仏壇の近くにあったが。
「手伝おうか」
「いや、大丈夫です」
久しぶりの俺の防具。何かグッときてしまう。湊音は不思議そうに見ている。
「お願いします……湊音先生」
俺は防具を身につけ、湊音と向き合った。
「高校の頃授業でやっていたとは聞いてたが所作もしっかりしている……それならもうこのまま相手するから、無理だと思ったら降参しろ」
「……のぞむところ……です」
湊音の温和な目付きから一気に鋭い顔になった。本気だ、お前のその顔は。俺はどうなんだろうか。真剣な髙橋の顔見たことがないからわからないが。
顔にも防具をつけ、竹刀を握った。そして構える。
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