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第三章

第24話

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 ショックなのかなんなのか俺は仏壇の中で不貞腐れていた。
 仕事行く前に三葉は丁寧に手を合わせてくれるものの、なんか目を合わせにくい。スケキヨに乗り移る気力さえもない。なんだかなぁ。
 彼女が幸せになって欲しいのと嫉妬心の矛盾さにこの歳でこんなに悩むなんてな。思春期の女子高校生かって。

 恋愛に関してはそこまで悩んだことなかった。好きだな、と思った人とは普通に付き合えたし、そうでもない人から告白されていい子だなと思って付き合ったしな。
 自慢ではないがそれなりにはモテたほうだ。だが三葉は少し違った。
 俺がすごく夢中になってもなかなか落ちなくて少し他の人よりかは手間取ったが彼女も次第に俺に合わせてくれて今じゃ死んだ俺に会いたいって思ってくれて……でも酒飲んで他の男に落ちてしまうかぁ。
 
 くそぉおおおっ。

 拗ねてはいない、いないからな。スケキヨ、こっち見て首傾げてる。お前は呑気でいいな。ああ、今日は倉田という男が来るがどんなやつなんだろうか。

 正直、俺の代わりに三葉と一緒になって欲しい男の条件はある。
 暴力は絶対しない。体だけでなく言葉とか精神的にも。
 束縛しすぎない。俺自身それが嫌で。三葉も嫌だったからお互い付かず離れず。

 ちゃんと仕事していることは言わずもがな。あとは……俺よりも強いやつ。いくら優しくてもお金があっても仕事をしていても弱かったら意味がない。
 もし三葉と結婚するのなら剣道で対決したいほどだ。

 ってなんか妻でなくて娘を嫁に出す気分だな。三葉のお父さんは物腰が柔らかくいい人だったが昔は厳しかったらしい。
 こんな娘だがよろしくな、と言われたくらいで何も条件も出されなかった。

 そんな父親よりも厳しい条件を突きつけてしまう俺も鬼だな。いや、そうなるさ。

 て、今も娘が紹介したい人がいるから会ってくれない? 状態である。呼び寄せたのは俺だが。どんな男なんだろうか。なぁ、スケキヨ。

 ミャオ

 返事をしてくれたのか。あとスケキヨを可愛がってくれるやつだといいな。猫アレルギーは問題外だぞ。

 あー落ち着きがないぞ。本当に。あーだこーだしてたらあっという間に部屋に夕日がさしてきた。平日の日中はこんなに穏やかなのか。本当暇だ、暇すぎるが時間はあっという間に過ぎていく。

 そしてあっという間に暗くなってきた。

「どうぞ、上がってください」
 鍵の音、ドアが開く音、そして玄関から三葉の声。ようやく帰ってきた。

「おじゃまします」
 そして待ってましたと言わんばかりに男の声。少し甲高い気もする。
「いやぁ~三葉さんからお誘いがあるなんて嬉しいですよ」
 ん? 
「あ、ちょいとご主人に手を合わせてから……」
 ものすごい背の高くて細い男が入ってきた。こいつが倉田亨。社長とか言いながらもまだ俺よりも若い。倫典より少し上くらいか。想像とは違うな。
「遺影届いたんですね」
「はい、倉田さんにご紹介いただいたあの写真館の方にすぐ送ってもらえて。ありがとうございます」
 倉田が紹介……? なんの話だ。また2人はリビングに戻って行った。声はかろうじて聞こえるからこのままでいるか。

「お似合いですね、それ」
「ありがとうございます。これも倉田さんに紹介してもらって……」
 それってなんだ。また倉田から紹介? そうやってお金を使わせる作戦か、詐欺か? 彼の会社と提携してるところのものを買わせて利益を……。

 にしてもスケキヨは今座布団の上で寝ているからなぁ。起こすのも可哀想だしってなんのために倉田を呼び出したんだ。スケキヨ、すまん。

 俺はスケキヨに乗り移ってリビングに行く。
「なんかいつも主人がそばにいるような気分ですわ」
「そうです、それはそのためのものですから」
 だからそれってなんだよ。俺は三葉の横に座ってスリスリした。倉田がこっちを見ている。常に笑顔。怪しい。

「主人が亡くなって一年……仕事があるからそれで紛らわせようと思ってもなかなか身に入らなくて。どうしても主人のことばかり考えてしまうんです」
 三葉……。彼女は優しく頭を撫でてくれた。倉田はうんうんとうなづく。こいつはこの家に上がり込んでどうしようと思っているんだ? すると首元を触る。こしょぐったい、三葉。

「まさかスケキヨの分まで作ってくださると思わなくて」
「いえいえ、そちらはお気持ちで差し上げたとのことですよ。猫ちゃんもさぞかし嬉しいでしょう」
 ……まさかこの首輪についているやつのことか。三葉のネックレスにもついている同じやつ。それはなんだ。

「三葉さん、猫ちゃんにはご主人がついていますからご安心ください」
「だってさ、スケキヨ。それにしてもこの中に和樹さんの骨が入ってるだなんて全く思えないわ」
 骨???? その中に俺の骨?

「それだけでこの安心感。しばらく離れたくないからお墓も建てずに仏壇に骨を置いていたんですけどね……」
「そうそう、お墓のお話考えてくれました?」
 骨……そうか、俺の骨が入ったものを身につけている三葉とスケキヨに乗りうつれたのもそういうことか! なんだ、倫典みたく妄想いや想像力豊かだな。
 待て、お墓を建てる……骨壷を墓に入れるってことは!!!

 ピンポーン

「誰かしら」
 誰だ、この夜に。三葉がインターフォンを確認しに行くからついて行こう。
「猫ちゃん……」
俺は倉田に引き止められた。

 倉田はにこにこっと笑ってしゃがみ込んで俺を見つめる。男の顔をまじまじ見るのもアレだよな……怖い。顔をそらす。
「かわいい猫ちゃんだねぇ、ほんと。前おうちに上げさせてもらった時にかわいいと思ってたんだ。僕は猫が好きでたまらんのだよ。願わくば猫と結婚できる法律ができたらいいって思っちゃうんだ」
 ……な、なんだって?! こいつは三葉よりもスケキヨ目当てなのか。そしてひょいと持ち上げられて頬をすりすりされる。や、やめろよ。気持ち悪い。てか……一度ここに入った?

 三葉が戻ってきた。少し困惑してる顔だ。どうした?

「倉田さん、すいません……ちょっと知り合いがここまで来ていまして。用があるって。お待ちくださってもいいかしら」
「いえ、全然構いません。猫ちゃんと仲良く遊んでいます」
「猫、お好きなんですね」
 相変わらず倉田は撫でくりまわしてくる。やめろ、やめろ。
「はい、家でも飼ってまして」
「そうなんですね」
「はい。家とお寺の方で。お寺では結構子猫が捨てられたり野良猫が住み着いたりで扱いは慣れています」
 寺?! 倉田……そうだ社長といながらも寺の住職もしている。

 ということは三葉は社長の妻だけでなくて住職の妻!!! そりゃ安定で選んだらそっちかもしれんが。

「確かにお顔が猫さんみたいですもの、倉田さん。……お寺の猫ちゃんたちは絶対伸び伸び育ってそう。うちの子はあまり外で歩かなくて引きこもりがちで」
 確かによく顔見たらネコだな。間近で男の顔を見るのもアレなんだが。

「にしても少しこの猫ちゃん……」
「どうしました?」
「ちょっと様子がおかしい」
 倉田が俺をマジマジと見てる。んんん? まさか俺が入ってるのわかるのか? みえるのか、こいつも。

 ピンポーン

 玄関までたどり着いたようだな。
「すいません、ちょっと待っててください」
 三葉は玄関に行く。倉田がすごくマジマジと見ている……体も触って手足も。匂いも嗅いで……なんだこいつ。

 ん? 足音が聞こえる。
「……こんばんは、倉田さん」
「こんばんは」
 あ、倫典……お前だったのか。昨日にも懲りず。俺が入っていることをとりあえず伝えなくては。

 ミャオミャオミャオ!!!

「猫ちゃん、暴れないでくれ」
 どうだ、この暴れっぷり! わかるだろ、倫典! 顔見たらひきつってるからわかったようだな。近づいてくる。
「……あなたが倉田さんですか」
「は、はい。倉田グループの倉田亨と申します……三葉さん、この方は」
 何故か倉田は名刺を出した。倫典もすかさず名刺を出す。
「僕は三葉さんとおつきあいさせていただいています、大森と申します」
 え?! お付き合いってまだ決まってないだろ。後ろで三葉も驚いて顔を真っ赤にしている。どういうことだ?!

「……ほぉ、フォレスティアグループの製薬会社……大森ということは御子息でしょうかね。……にしても三葉さんの彼氏さん、これはすいません。お付き合いされている方がいるのに部屋で2人っきりとは申し訳ありませんでした」
 俺は足元に降ろされた。そのまま俺は倫典のとことに行き猫パンチを食らわせてやったが知らんぷり。この!

「兄弟や親戚も仏壇やお墓、仏具などを扱っておりまして。あ、その三葉さんと猫ちゃんについているアクセサリー……遺骨ジュエリーも姉のお店のものでして。いろいろやってましてねぇ」
 倉田、お前やり手だな。安泰だ。
「仕事と猫のことばかりで一度結婚に失敗しましたがそれっきり。なかなか結婚相手も見つからず。それでお会いしたのは三葉さん、あなたです。でも美人さんには若い人がぴったりですねぇ。お幸せにー」
 おい、待て! 倫典をまだ認めないぞ!!! それに倉田、引くのが早すぎる! もっと押せ! 押せ!
「あとお墓の件はまた今度お聞きしますので、お電話や直接お寺でも承りますので本日は夜分遅く失礼いたします」
 倉田はスケキヨの頭を撫でて一礼して帰っていった。本当猫好きなんだな。

「三葉さんに恋心でなくて商売の方の下心だったか。色々抱き合わせで商品買っちゃだめだよ、三葉さん」
……。
「俺は認めてねぇぞ」
「しまった! 三葉さんが大島先生に乗り移られた!!」
 俺は倉田が帰ったすきに三葉に乗り移った。彼女がネックレスしている間は乗り移れる。この法則をわかった俺、倫典には黙っておくぞ!

「昨日は未遂事件を起こしたばかりなのに懲りない男だな。それに乗り込んでそんなに心配だったか? 見たか、あの猫の顔した猫好きな男。でも気は利きそうだし経営者として超安泰だ。お前よりも断然安心できる」
「大島先生、味方じゃなかったの? 僕は本気ですから。三葉さんのこと」
 目が真剣だ……。本当にお前は大丈夫か? 三葉を守れるのか?

 ピロン
 メールが来たようだ。誰だろうか。もう彼女のスマートフォンを見るのに罪悪感は無くなってしまった俺って。
 ……さっき帰った倉田からだ。

『さっき言いそびれましたが、猫ちゃんなんか病気じゃないでしょうか』
 スケキヨが、病気?
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