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第二章

第十二話

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「ふぅ、こっちの方がやりやすいな」
 俺が三葉に入った途端、にゃおんと鳴き声をあげてスケキヨは俺が抜けてスタスタとどっかへ行ってしまった。外は行かないだろうが。美守が驚いた顔をしてこっちを見ている。

「うわー乗り移っちゃった」
「その方がええやろ」
「……うん、話したかったし」
 俺は目の前にあったドーナツを貪るように食べる。食べたかった、甘いものはたまらんぞ。猫ゼリーも悪くはないがドーナツは格別だ。箱の中にあったものは久しぶりすぎて一気に口に入れてしまった。

ふぅ。
 
 ……箱越しに小さな瞳がうるうるとこっちを見ていた。
「ひどいや、おじさん」
 三葉に乗り移ったのにおじさん、て呼ぶのはやはりみえているんだな。てか大人気ないことをしてしまった。
 それよりも確認したいことがある。
「美守、くん。今目の前にいるのは誰だ?」
 声は三葉であるが。美守は少しいじけながらも
「三葉さんと、おじさん」
 と。
「なんで俺のことが……じゃなくて、あの、この遺影のこの人……見えるの」
 三葉の体にいる以上言葉遣いは気をつけないとな。美守は少し笑った。子供の表情はすぐ変わるな。

「じゃあ、かくれんぼして見つけたら教えてあげるよ! はい、そこの隅っこで目をつぶって、いーち、にー!」
「えっ、嘘! ちょっと……」
 とりあえず相手してやろう。目をつぶって数を数える。そんなに部屋数はないのだが、あとは俺の書斎とバスルームしかない。

「さーん、しー、ごー! もういいかい」
「もーいーよー!」
 って思いっきり寝室側だ。って勝手に人の寝室に入るなんて。このちびっこめ。黙っておいたらタダで済むとは思うなよ。

 かくれんぼだなんて何年ぶりだ? 妹と子供のころだよな。……若菜、元気にしているのだろうか。夫とうまくやっているのだろうか。
 先に結婚して子供もできたお前だが色々苦労していたな。一時期は離婚の危機もあったし、俺も仲介してやったが最後は結局若菜が折れるかたちで戻ったんだよな。しかも夫の北海道転勤も決まって小さい子供たち3人連れて未開の地に行ったが葬式で大泣きした姿を最後に見ていないぞ。
 昔からお前は我慢強いやつだった。俺たちに子供ができないことを気遣っていてくれていたよな。……母さんも父さんも早いうちに死んじまったから兄妹で頑張ってきた……ってそんな回想している場合ではなかった!!!

「美守くーん、隠れたって無駄だ。声の方向で大体はわかってはいる。寝室だろ、まだ年少さんは考えることは稚拙だな。俺の妹の若菜も幼稚園の頃いつも隠れる場所は決まっててな、寝室、テーブルの下、そして……よくそ……浴槽!!!!」
 浴槽にお湯が入っているかもしれない。よく子供が遊んでる途中でお湯に入った浴槽に落ちて亡くなるケースを聞いたことがある。
 俺は慌てて浴室に行き、ドアを思いっきり開けた。

「美守くん!!!」
 浴槽は蓋が開いており、中を見るとお湯は抜かれていた。内心ほっとした。

 じゃあどこに。
「寝室だと思ったでしょ」
「わっ!!!」
 うしろから美守が出てきたのだ。ニコッと笑う彼がVサイン。参った。負けだ。幼稚園児を舐めていた。でも事故とか起きなくてよかった。腰が抜けた。

 子供といると本当にヒヤヒヤすることばかりだな。
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