上 下
11 / 50
第二章

第十話

しおりを挟む
 やはりもうダメだ。こんなヒールに高い靴で歩くのは。いくら三葉の肉体でも歩くことはできなかった。店の前のベンチに座り、ふくらはぎを触る。
「三葉さん体調悪そうだな。貧血かな」
「ちょ、ちょっとね」
 そこまで無駄な気遣いはいらん、やはり倫典に乗り移りたかった。
「じゃあここで少しお話ししましょうか。まだランチにしては早いですし」
「そうね、ケーキも食べてきたから喫茶店もあれだしね」
 倫典は横に座ってきた。なんだろうか、心拍数が高まってるぞ。おい、なぜなんだ。うーん、だったらこれをチャンスと思って倫典のことを色々聞いてみるのもいいかもしれない。

「倫典……くん、なんでこうも優しくしてくれるの?」
「え、いやその……当たり前だろ。女性には優しく。高校の時にはもう教わっていた。まぁ大多数の男子生徒はふーんって感じだったけどさ、女性に優しく、他人には優しく。そうであれ……大島先生が言ってましたよ」
 え、俺はそんなこと……言った気もするが。そんなことを覚えていたのか。

「でもその方がモテるぞって言ったら聞き流してたみんなが反応してたけどね、単純でしょ」
 ……そうだよな。男は単純だ。

 そうだ、これを機に俺が気になってた倫典のことを聞き出すのはどうだろうか。
 もしもだ、もしも2人がいい感じになって付き合う、そして結婚することになったら……三葉が悲しまないように幸せにしてくれる相手じゃなきゃだめだ。
 倫典は不安要素が多すぎる。まだ少しは大人になったわけだ。色々と聞こうじゃないか。

 ……。横に座った倫典がたじろぐ。少し胸の谷間が見えるのであろう。目線に困ってる。
「み、三葉さん?」
「倫典くん、聞きたいことあるの」
「な、なんですかっ……なんでも聞いてください!」
「……今貯金いくらある?」
「はいっ?!」








「痛ぁ……」
 夕方前、俺はまた仏壇にいるがリビングの方から三葉の声が聞こえてきた。肉体は借りたのだが、ふくらはぎは痛いようだ。
 まさか三葉はいつもこういう痛みを我慢してまでヒールを履いていたのか? おしゃれのために。

 様子を見たくて俺の前に来たスケキヨに乗り移った。すまないな。視点は変わってスタスタと三葉の元に行くとスウェット姿の彼女、短パンで足元に湿布を貼っている。……こんな姿見たことなかったなぁ。
「スケキヨー、なんかお出かけの記憶がなくてさ……気づいたら夕方になって家にいたのよ。足がすごく痛いからすごく歩いたのかしら……いたた」
 俺はスリスリと擦り寄ると三葉は頭を撫でてくれた。湿布臭いが。

 あれからベンチで話をし、たくさん質問してそのあと喫茶店でスパゲティ食べて、夕方前に解散になった。

 あー久しぶりのあの喫茶店でのスパゲティは美味しくて大盛りたのんで平らげてしまった。つい。三葉であることを忘れて。失態失態。
 しかもさらにやらかしたのは、食後に頼んだ飲み物……三葉はコーヒーが飲めないのによんでしまって
「三葉さん、コーヒー飲めるようになったんですか?」
 って倫典に指摘されてしまった。しかもブラック……。

 とりあえず聞きたいことは聞けたしな。まあいいとして、倫典はちゃんと三葉を家に帰してくれたし……だが。

 プルルル

 三葉のスマホに着信が。さっきはメールの着信音だったから倫典だったと思うが、今度は電話のようだ。
「もしもし、美帆子ー。わかってる、わかってる。明日のことでしょ。え、違う?」

 美帆子か。明日のこととは? 三葉はスマホをスピーカーモードにしてスマホをスタンドに立てかけて両手をフリーにしてふくらはぎを揉みながら話し始めた。
 そんなことしてるのか、電話中に。スピーカーモードのおかげで美帆子の声も聞こえてどんな会話かわかっていいんだけどな。
『今日の倫典くんとのデートよ。どこ行ったの』
「え、モールに行ったよ」
 美帆子はなんで倫典とのこと知っているんだ、なんかまるで女子同士の会話を盗み聞きしているようだな。

『え、そんだけ?』
「そんだけって、そんだけよ」
『何それ、つまんない。キスはしたの』
「するわけもないじゃん。あんまし覚えてないけど」
『覚えてないって、しらばっくれて。何かしたんでしょー』
「してないし、てかしてないと思う」
『したんじゃないのー』
 なんだか女子高生の会話みたいだが、こうやって俺のことも話されていたかと思ったら……。
 2人の無邪気な会話は続くが三葉は足の裏を揉み始めた。俺はスケキヨに乗り移ったことをいいことに三葉にすりすりしてそばに寄り添うと笑いかけてくれた。

『どうなのよ、倫典くんは』
「どうって言われてもさぁ」
『若くてー、大病院の御曹司だけど今は離れて生活してて……幸先不安だけど優しいし、垂れ目で可愛い』
 まぁ確かにそうだな。でもなあ……。

「まあそうなんだけどさ」
 三葉は手を止めた。何を考えてるんだ?

『あーやっぱりあの人のこと気になってるんだ』
「え、そんな! そんなことは」
 あの人? 三葉も動揺してるぞ。

『それもあるかも』
「ほら~」
 誰なんだ、あの人って。
『ちょいと挙動不審だけど背も高くてすらっとしてて、彼も倉田グループの御曹司だし……』
 倉田グループ……?! あの大手葬儀会社兼地元の大きな寺を構えるところじゃねぇかっ。
「まあそうなんだけどさ、まだそこまで話はしてないし。彼は僧侶でもあるし……わたしより少し年下でバツイチ、別で暮らしているけど成人した子供もいるって……」
 バツイチ……三葉もバツイチになるのか? いやバツじゃないだろ。
『40で子供20過ぎってかなりやんちゃよね、あの挙動不審なかんじだけどさ。でも安定を求めるなら倉田さん、癒しを求めるなら倫典くんって感じかな』
 安定か癒しか……究極の選択なのか? 女は何を求めるのか、気になる。

「うーん……」
『まあどっちにしろ大島さんとは別のタイプだし迷うよね』
「確かに! それなのー」

 !!!! 俺には安定も癒しもなかったのか! 2人笑ってるしヨォ、くそ。この女子トークは終わらないのかぁ? 俺は三葉にすりすりしても相手にされず一時間以上続いた。

 その中には俺の話題はほぼなくて男たちの話もなく、たわいもない話。こんなので楽しいのか。

 そしてわかったことは明日、この家にあの美守が来るってことだ。俺がみえるあの子が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【R18】かわいいペットの躾け方。

春宮ともみ
恋愛
ドS ‪✕ ‬ドM・主従関係カップルの夜事情。 彼氏兼ご主人様の命令を破った彼女がお仕置きに玩具で弄ばれ、ご褒美を貰うまでのお話。  *** ※タグを必ずご確認ください ※作者が読みたいだけの性癖を詰め込んだ書きなぐり短編です ※表紙はpixabay様よりお借りしました

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...