誰もが誰かに嫉妬する

麻木香豆

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第五章

第十四話

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「わざわざ来てくれて悪いね」
大貴くんが営む楽器店に私と幸太は行った。あくまでもギターのメンテナンスってことで。

「子供もできちゃったわけだし結婚する分にはおめでたいと思うけどさ、いくらなんでも……柳はひどいよ」
弦を調整しながら大貴くんは冷静にそう答えた。

「そりゃ先に郁弥が芹香と付き合って結婚したのはやられたーって思ったけどさ。2人が離婚して海外行くって言われたから連絡先教えてって言ったけどダメだった。今は自分を成長させたいって」
「手紙とか来た?」
「手紙? 来ないよ。元々あっちは俺の住所知らないし。スマホも番号変わってたしよ」
……私だけだったのかな、手紙。あ、でも我が家の住所はわかってただけだろうし。
手紙は私だけ、ちょっと優越感浸ってたけどそういうことか。

「……好きとか付き合ってとか言わなかったの?」
大貴は手を止めて笑った。

「聞くよねぇ。……言えなかったよ。いままで告白もできなかった俺がさ、離婚して傷ついてでも新しい道に向かう彼女に向かっては軽率に好きだなんて言うタイミングではなかった。そんなこというと言い訳がましくなるけど」
大貴くんは告白するよりもされるタイプだもんね。でも1番の芹香さんからは告白されなかった。

「でも嫌いではなかったと思います」
幸太はそう言う。前からは知り合いだったけど今回の余興でたくさん話すようにはなった仲。
「君……なんでそう思うの?」
「成美も知ってるだろ。クラスでさ生徒たちに揶揄われて好きなタイプはとか言われた時に顔のタイプの人は垂れ目でーとか」
「垂れ目……」
大貴くんはふと店内の鏡に映った自分を見た。

「僕はわかったから他の生徒がいない時にこっそり大貴くんでしょってきいたら頷いた」
私もわかった。芹香さんの周りの垂れ目は大貴くんしか思い浮かばなかった。

「芹香……よく俺のこと笑うとさらに垂れ目になるから可愛いって」
「まぁでもちょっとチャラいからねぇって」
「はぁああああ……そう見られてたかぁ」
幸太、そこまでは言わないでよ。みんなが知ってることだから。

「俺も可能性あったか……てか柳も笑うと垂れ目になるなぁ。ハハッ」
ああ、確かに。幸太の方見るとウンウンと。

「……明日も練習してるから来てね」
「2人で練習してるの? 郁弥は」
「郁弥にいちゃんは……」
「だよな。無理もないわ……」
と調整を終えて演奏をしてくれた。大貴くんのギターもメンテナンスの時に聞くけど良いもんだ。

「……よし、オッケー」
「ありがとう。大貴くん」
私は大事にケースにしまった。

「芹香さんにもだけど柳さんのためにも良い演奏できると思う、ありがとう」
「……だな。少しでも調整ずれたらあいつはすぐいってくるから。また余興前に見てあげるよ」
「ありがとう」

大貴くんは笑った。垂れ目がさらに垂れ目になった。
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