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2021
掌の上
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夏の終わりは雨ばかり降っていた。雨の日になると湊音は頭が痛いと横になってばかりであった。
いや、それよりも前からか湊音の調子は悪かった。
精神科の通院では代わりなくカウンセリングを受け処方箋をもらうのだが、その後も湊音は元気がなかった。
そして先日、剣道教室にて右手首を捻挫した。利き手ではないが握るのにも力が入らずしばらくは実戦での指導ができなくなり、それも相まってより一層湊音は気落ちしている。
右手の包帯は李仁が巻く。優しく、時にきつく。自分でもできるのだろうが湊音は李仁に託す。李仁は嫌がらない。
「本当に李仁は優しい」
「当たり前じゃない……」
「ごめんね、家事もほとんど任せちゃって」
李仁は首を横に振る。
「いいのよ、わたしにまかせて」
「最近夜遅いから忙しいんでしょ」
「大丈夫、大丈夫」
李仁は愚痴を言わない。そんな彼に湊音は寄り添う。自分が他の男……シバに揺れてしまったのにも関わらずここまで優しくしてくれるのか、尽くしてくれるのかと。
李仁は微笑む。彼は彼でいいと思っている。仕事は忙しいが自分だけを頼ってくれる湊音。
なんだかんだで自分のところに戻ってくる、それはもうわかっている。
湊音の体の調子が悪くなった原因もわかっている。きっと身体をシバに粗雑に扱われたのだろう、欲のままに。
李仁は包帯で巻いた湊音の右手を頬擦りしてチュッとキスをした。
そしてまた湊音を見て微笑む。
「大丈夫……」
湊音はゴクリと唾を飲み込んだ。ああ、自分はもう李仁無しでは生きていけないのだろう、そう悟ったようだ。
「ああ……」
触れた李仁の手はとても温かった。
いや、それよりも前からか湊音の調子は悪かった。
精神科の通院では代わりなくカウンセリングを受け処方箋をもらうのだが、その後も湊音は元気がなかった。
そして先日、剣道教室にて右手首を捻挫した。利き手ではないが握るのにも力が入らずしばらくは実戦での指導ができなくなり、それも相まってより一層湊音は気落ちしている。
右手の包帯は李仁が巻く。優しく、時にきつく。自分でもできるのだろうが湊音は李仁に託す。李仁は嫌がらない。
「本当に李仁は優しい」
「当たり前じゃない……」
「ごめんね、家事もほとんど任せちゃって」
李仁は首を横に振る。
「いいのよ、わたしにまかせて」
「最近夜遅いから忙しいんでしょ」
「大丈夫、大丈夫」
李仁は愚痴を言わない。そんな彼に湊音は寄り添う。自分が他の男……シバに揺れてしまったのにも関わらずここまで優しくしてくれるのか、尽くしてくれるのかと。
李仁は微笑む。彼は彼でいいと思っている。仕事は忙しいが自分だけを頼ってくれる湊音。
なんだかんだで自分のところに戻ってくる、それはもうわかっている。
湊音の体の調子が悪くなった原因もわかっている。きっと身体をシバに粗雑に扱われたのだろう、欲のままに。
李仁は包帯で巻いた湊音の右手を頬擦りしてチュッとキスをした。
そしてまた湊音を見て微笑む。
「大丈夫……」
湊音はゴクリと唾を飲み込んだ。ああ、自分はもう李仁無しでは生きていけないのだろう、そう悟ったようだ。
「ああ……」
触れた李仁の手はとても温かった。
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