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2021

李仁の休み2

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 李仁は美容室に着いた。少し早めの時間に着くのが彼の中ではしっくり来る。

「あ、李仁。待ってたよ」
 大輝が顔を覗かせ、李仁もニコッと笑う。いつもの通りシャンプー台に行く。シャンプーするのは大輝だ。オーナーである彼は普段はアシスタントにシャンプーをやらせるのだが李仁の場合は別だ。
 大輝は十何年もずっと李仁の頭を触ってきた。店は違えどシャンプー台の高さや好みの角度を熟知している。
 客としてだけではなく、元恋人として……大輝にとって李仁は大切な人なのだ。

「李仁、冷シャンにする?」
「なに、それ。また新しい商品?」
「そうそう。もう暑いからさ、スッキリするよ」
「そういうの今までも何回かやったけど、試していいわよ」
「試す……そうだね、いつも李仁が一番」
 李仁は笑った。

「もう、わたしったらそういう役目なんだからさー、悪くないけど」
「封を開けるのも初めて」
 かしゃかしゃとシャンプーのビニールを外す大輝。
「封も開けてないの? まぁいいけどさ。筆おろしってことで」
「言い方!」
「ふふふ、今ここには二人しかいないんだし」
 二人は戯れ合う。

 李仁はもう身を委ねた。大輝は李仁の髪にお湯をかけていく。
 お湯の温かさ、大輝の指遣いに李仁はうっとりする。力加減も良く、頭皮がほぐれていくようで、李仁は気持ちよさそうな顔をしている。
「また凝り固まってるー、休みなのに朝から頭使った?」
 大輝はさらにほぐしていく。
「んー、そんなことないけど……使ったのは腰くらいかしら……」
 と笑いながら李仁が話すと
「やだ、朝から。あそこもガチガチじゃないの?」
 大輝は笑う。二人きりだからこその会話である。

 そして充分にマッサージした後に「冷シャン」をつけていく。
 冷たい感覚が李仁の凝り固まった頭を冷やしていくかのよう。

「あああっ、いいっ……」
「そんなに? 盛ってない?」
「ううん……気持ちいいっ、これ外回りした後にやったら最高ね……香りも……素敵」
 ミントの香りが部屋の中に漂う。

「スースーするし、香りもいいからすっごく癒される……二本買っていくわ」
「はぁい、ありがとう」
「大輝、商売上手ね……」
「李仁こそいいお客様」
 二人は笑い合う。

 二人が出会ったのは十数年前、李仁がゲイバーでダンサーしてた頃に店内で出会ったのが年下で美容師見習いの大輝であった。
 大輝は自分がゲイであることを早くから自覚しており、ゲイバーや夜の街で働く人々がよく来る美容院に入ったのだ。

 人間関係などで悩んでいた大輝は常にシャンプーや掃除しかやらせてもらえず、辛い日々を過ごしていた頃に李仁と出会う。

「ほんと、大輝のシャンプーのマッサージは気持ちいい……」
「ありがとう、李仁」

 李仁は目を閉じてあの頃を思い出す。


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