上 下
7 / 56
2021

また雨の日

しおりを挟む
 また大雨。昨晩の李仁との行為を思い出しながらもソファーに横たわる。
 今朝は普通に出勤していった李仁だが、特になにも変わらず、出勤前のキスも軽く、体調には気をつけてねと言われただけであった。

 横たわりながらもシバのメールを見る。なんで電話に出てくれずにメールだけのやりとりなんだろうか、湊音は不思議に思いながらも返信をする。
 ソファーに寝そべってる今の自撮りをメールに添えた。

『今日も大雨。だったら僕のこと、思ってくれてるかな……』

 と。

 外の雨の音は強く、さらに今日は冷えると思った湊音は毛布を出して包まる。
 洗濯物は乾かない、お昼ご飯も食べ終えた。性欲もそんなにない。見たいテレビも映画も無い。

 こんな贅沢していていいのだろうか、と毛布に埋まる。
 こんな日中に家にいることは本当になかったこの10何年近く。教師でいた頃の昼間は常に動き回っていた。休み時間も宿題のチェックや授業の準備や会議、生徒たちの対応、時には剣道の稽古もつけていたこともあった。なにかと人と触れ合っていた湊音。

 それが全部無い。ましてや外に出れるような気分でもない。

 髪の毛を触る。

 教師をやめた後に思い切って今までしなかったブリーチからのアッシュブラウン、そしてパーマ。

 ふと思い出す。湊音は李仁と付き合ってから紹介してもらった美容師、大輝のことを。

 この今の髪型も彼による物だが、帰り際に
『頭皮マッサージのスパをやりましょう。もう今は時間あるから時間かけてやりたいです』
 と言われていたことを。

 湊音は大輝にメールをした。
『大輝くん、いきなりでごめん。今って空いてる?』
 こんな唐突なメールもいいものかと思いながらも1ヶ月前に美容院に行った時に入ってすぐに大輝にブリーチして欲しいと湊音は頼んだのだ。

 大輝は驚きながらも二つ返事で始めた。湊音、はじめてのブリーチ。

 一週間ほど楽しんだのちにカラーを入れてその一週間後にはパーマをかけた。

 何度も自撮りや李仁と写真を撮った。今までに無い自分を楽しんだ。

 するとすぐメールが返ってきた。
『空いてますよ。でも今は仕事じゃなくて休みなんです』
 湊音は突然すぎたか、と諦めようとした。

『もしかして頭皮マッサージです?』
 と返ってきた。湊音は上半身を上げてメールを返す。

『うん。こんな雨だけどおうちに今から行っていい?』
 すると大輝からもすぐ返ってくる。

『はい。だったら迎えに行くんで。十分くらいで着きます』

 まさかそんな早くにと、湊音は慌てて服を着る。
「……髪……はいいか、どうせマッサージしてもらえるし」

 少し雨の音が静かになってきた。カーテンを開ける。薄暗い空が少し明るくなってきた。でもまだ雨が降っている。

 ピンポーン

「はやっ」
 大輝は近所にいたようだ。湊音はガスの元栓やらいろんなところをチェックして家を出た。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

倫理観のないとある世界のとある一組

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

まさか彼女が

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:18

ドエロティック 悪役令嬢物語

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

[R18]最悪の一人かくれんぼ

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:1

憎い男に囚われ抵抗できない私はただ甘く啼かされる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:32

処理中です...