冬月シバの一夜の過ち

麻木香豆

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発展

閑話

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 とある日。昼過ぎに高校に一人の女性が訪れた。黒のカジュアルなワンピにイヤリングをつけた小柄な女性である。
「あら、彩子先生。お久しぶりー」
 ジュリが彩子を出迎えた。彩子は書類やら荷物やら色々カバンに詰め込んでいた。その中からまずはお菓子を取り出す。

「あらー、シュー・アリサワのショコラオン! 気を使わなくていいのよー」
「いえいえ、いきなりの結婚妊娠出産育児でご迷惑おかけしましたので奮発しました!」
 昼ごはんを終え午後からの授業の準備を始めてた教師たちも有名製菓店のお菓子の差し入れに群がる。

「彩子先生、人妻でもママでも素敵な魅力は変わらず劣らず……」
「そうかしらー。それに主人も育児休暇取らせてもらってますしね。今ちょっとぎっくり腰で……」
 そう、彩子の夫もこの高校の教師だが男性の育児休暇を取っている。

「彩子先生が主人、とかそんなこという日が来るだなんてね」
 ジュリは早速お菓子を頬張りながらそう言うと
「私もですよ。結婚することはないんだろうなぁーと思ったけど、上手くおさまっちゃったかなーって感じです」
 もともと男子校ともあって女性の教師が少なかったこの高校。なので年も近くて感覚の似てるジュリ(戸籍上は男)と彩子は仲が良い。

「もう変なことはしちゃダメよ、彩子先生」
「わかってますってー。流石に所帯持になったら男取っ替え引っ替えだなんて無理です」
「神様もやめなさいって言いたかったのかもねー」

 この二人の会話は他には聞こえていない。お菓子の箱に群がるほとんどの男性教師は彩子との身体の関係がある。(しかし誰でも良いというわけではなさそうである、その証拠に老齢な校長やベテラン教諭とは関係はない)

 そう、彩子はいわゆる女版シバである。シバと彩子、二人が未だ会ってないことが奇跡的なことである。(ジュリとは関係は無い)

「あ、そうそう……湊音先生は?」
「剣道室よ。部活動も終えた頃だろうし、呼び出そうか?」
「いいえ、大丈夫です。私行きます。久しぶりに剣道室行ってみたいなーって」
 と彩子は職員室から出て行く。その後ろ姿をジュリはじっと見ていた。

「あっ、シバ先生のこと言い忘れた……まぁ会うだろうしいいか」
 と言って理事室に入って行った。

 雑草は抜かれた剣道室までの道のり。シバと剣道部員が抜いたからである。
「ちょっと前までボーボーだったのに頑張って抜いたのねー感心感心」
 生徒たちはいない学園内。静まり返っている。部員たちがいる時間帯に来れたらよかったかなぁと少し薄暗くなってきたことに不安なる彩子。
 しかし薄暗くなったと同時に灯りがついた。
「へぇ、いつのまにこんな灯りつくようになった?」
 前まではそうじゃなかったと記憶している彩子。

 ようやく剣道室に着く。相変わらず古いが車椅子になった大島のためにスロープと手すりがついている。
「これできても和樹さん……死んじゃったしね」
 和樹さん、大島の下の名前である。

「相変わらず古びた扉……ああ、男の匂い……イグサの香り、最高。懐かしい」
 顧問だったわけではないが彩子は教師の頃ここによくきたものだと懐かしく感じる。そして玄関から入るとまず表にはトロフォーと賞状、写真が飾られている。その写真に写る大島を見る。若い頃から一番新しい写真まで。

「……」
 彩子は少し切ない気持ちになる。大島が死んだ直後に妊娠が発覚して同僚の男と結婚した。それ以来ここには来ていなかった。

「……違う違う、今日はこんなことできたわけじゃないんだから」
 とカバンの中に入っている花と彼の吸っていたタバコを見る。
「これを渡して帰ろう。湊音先生はいるかしら」
 彩子の目的はお供物を渡すだけである。顧問室の前に行き扉を開けようとした。

「あぁっ……あっ」
 誰かの唸り声。彩子はすぐ湊音の声だとわかった。しかしその唸り声は普通のものではなかった。なぜなら……。

 湊音だけの声だけでなくもう1人誰かいる。そして唸り声でない。喘ぎ声だ。彩子は湊音の喘ぎ声を知っている。一度彼と体の関係になったから。たった一度きりだった。
 彼の酔いに任せた独りよがりのセックスは彩子には合わなかった。

 顧問室でセックスをしているのかと彩子は思うが相手は男である。湊音が同性愛者であることはもちろん知っている。彼が後にカミングアウトした。
 それで幻滅したわけではないが自分は別の男に流れたわけであって元々は上司な訳だしまぁどうでもいいとは思って


 がそんな湊音が男と学校で……。

 昔自分を抱いた男が他の男と……嫌悪感はない。なぜか胸の鼓動が高まる。そしてそのまま彩子はお供物をどさっと置いて剣道室から走って立ち去った。

 その音で顧問室で果てたあとの2人はビクッとなった。誰かいたのか? と。2人は全裸のため近くにあったタオルで体を纏う。
「……誰かいたか?」
「生徒だったらどうしよう」
「それはないだろ。外見てくるわ」
 シバはシャツとボクサーパンツを履いて顧問室のドアを開けるとふくろが落ちていて花束とタバコが。彩子が置いていったものである。

「……大島先生へのお供物だ」
「もしかしたら生徒じゃなくってOBとか……関係者とか保護者とか……どうしよう」
「まぁタバコがある時点で生徒ではないが、この銘柄は彼が吸っていたものか?」
 タバコ出した。湊音は頷いた。

「……知ってる人か。女だったりして」
「馬鹿か……大島先生には妻がいるぞ、美人の」
「ふぅん」
 紙袋は女性客をメインターゲットとした衣料店のものであった。

「じゃあもう帰るか」
「……うん、でもさ」
 湊音はシバに抱きつく。
「あと少し抱きしめてほしい」
「余韻楽しめなかったもんな、シャワー浴びるか。一緒に」
 シバは照れながらも頷いた。

 そんなこんなで2人の愛の営みは顧問室で不定期にされていた。
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