冬月シバの一夜の過ち

麻木香豆

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ぎくしゃくからの

第二十九話 湊音の趣味と遍歴

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「来てくれた! もう待ってたんだから」
「おい」
 さもかも自分の部屋のようにシバに許可なく湊音を通すジュリ。(ある意味教員寮の持ち主には変わりはないが)

 湊音も湊音でシバにろくに目を合わせず部屋に入っていく。

「あ、瀧本さんもお見えだったんですか」
「いやいやまさか湊音先生が来てくれるだなんて。こうしてご飯を食べるのも久しぶりだな」
「そうですね、大島先生が事故に遭う前ですから……」
 と湊音がジュリに何かを渡した。

「すいません、手ぶらで来るのもいけないと思って」
 ジュリがその渡されたものを開いてワオと驚いた。
 そこには出来立てのチョコブラウニー。

「ママにでも渡されたか?」
 とシバが言うとギロッと湊音は睨んだ。そしてメガネを持ち上げて
「電子レンジで簡単に作れるチョコブラウニーです。時間をかけたものとは味は少し違いますが……時間がなかったのでしょうがない」
「お前が作った……?」
「悪いか」
 シバは手づかみで違って食べた。その行為に周りは驚くがむしゃむしゃ食べたシバは驚く。

「んまい! すげー趣味持ってんじゃん。ちょっとレシピ教えて。ジュリに作らせる」
「材料も簡単だから自分でも作れる。それに理事長を呼び捨てだなんて」
 冷たく湊音はあしらう。剣道室で1人残って泣き、戻って来たシバにすがりよってた湊音だったのだが。

「いいのよー。ジュリ、シバ……カタカナ名前同士の仲。湊音先生も座った座ったー。唐揚げ冷めちゃう。晩御飯食べた?」
 ジュリが割って入ったおかげでシバと湊音の気まずさはおさまった。

「一応晩御飯は食べて来ましたが……またお腹空いてましたし」
「よかったら酒の一杯や二杯はどうだ?」
 と瀧本からの酒の誘いにシバは間に入る。

「いやー、やめておいたほうがいいってわかってるでしょ、ねぇ湊音……って」
 湊音は瀧本から差し出されたビール缶を飲んでいた。

「たまには飲まないとな。明日に響かないようにだが」
「一杯だけにします」
 シバはあちゃーと思いつつも席に着いた。

「じゃあじゃあ乾杯しましょー」
「乾杯ーーー」








 1時間後。
「あーっ、うまい。ビールに合う」
 湊音は晩御飯を食べて来たと言う割には唐揚げをぱくぱく食べ、ジュリは追加で揚げるほどだった。

 そういえばかなりの大飯食いだったことをシバは思い出す。そして進む酒。このパターンは、と思っていたが前ほどグダを巻いてない湊音。なぜなんだろうか、シバは不思議になりながらも普段は真面目な男も剣道室で見せた涙、酒を飲んで真面目さを剥いだような素顔……誰が本当の湊音なのだろうか。
 酒を嗜みつつもこっそりと見ていたシバ。その視線に湊音は気づいたのかじっと見られてシバは目を逸らす。

 ジュリと瀧本は2人で盛り上がる。なんだかどこかの飲み屋のような雰囲気である。(実はジュリは一杯のみ酒でそのあとはノンアルコール)

「そこ2人、も少し静かにしろよ。他の部屋には先生たちいるし」
「なによ、夜なんてどの部屋も静かにしてないわよ」
 まぁたしかに、いろんな意味で、とシバ。

「さっき女の子連れて入って行った先生もいたな……僕見てそそくさと逃げてったけど」
 湊音がぽつりと。

「え? どうせ下の弥富だろ」
「違う。数学の伊丹先生」
「まじか、あの数学オリンピックの立役者……」
「東京に家族を置いてこんな田舎に来て……やることはそう言うことだろ」
 湊音はそう言ってフフっと笑う。

「そう言うお前もだろ?」
「……」
「今夜は恋人のところに行かなくていいのか?」
 シーンと場が静まる。シバはンン? とみんなの顔を見る。

「いく予定あったらここに来るわけねぇだろ」
「だな……」
 瀧本が湊音の背中を叩いた。
「痛いっ、瀧本さん……半端ないです、いつも」
「うじうじすんな。女遊びもいいけどこうやって男同士ダラダラ食って飲んで話して、それも悪くないぞ……」
「……トイレ行って来ます」
 湊音がトイレに行くと瀧本がシバに

「あいつも他人の女遊びをああ言うけどあいつもあいつですごかったんだぜ。もっぱら奥さんだったけど前いた女教師に熱入れちゃって……」
「うひゃー……二人目も女教師」
「でも手のひらで転がされ、遊ばれて振られてそれからすぐして婚活パーティーで見つけた女の子をセフレにしたかと思ったら気づけば同性愛者になってた……まぁ最近は大島先生亡くなってから湊音が精神的に参ってうまくいってないらしいがなあ」
 また何も聞いてないのに湊音の個人情報が瀧本の口から漏れる。

「意外だなぁ」
「お前に言われたくないだろ」
 確かにな、とシバは酒を飲む。明日も朝練があるというのに。

 湊音はトイレから戻ると瀧本がもう帰るとのこと。シバは肝心なことが全く聞けていなくてモヤモヤする。ただ飲みすぎてぐたぐたしただけだった。

「……今日大島さんの奥さんが来ましたよ。淡々してたけど、見てて辛かった。俺に何ができるんだ?」
 とシバが言う。
「相変わらずお前は事件一つ一つに情を持ちすぎだ。でもそれに救われた人はいるからな……そういう刑事が一人や二人いてもおかしくないのだが」
 瀧本は玄関先でそう言う。

「お前ならすぐ解明するはずだ……まぁあまり深入りだけはするな。それは毎回言ってはいるけどな」
「……」

 シバは瀧本が出て行った玄関を見つめた。
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