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ぎくしゃくからの
第二十八話 目標
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こうして冬月シバを顧問に迎えた新生剣道部。彼らの目標は二年以内に全国大会優勝だったのだが……
「そんなもん、なんだっ! 2年? なめるな、俺が顧問になったのなら今度の県大会の親善試合で優勝しますよ!」
と、校長や他の教師への挨拶の時にシバは大口を叩いてしまったのだ。
燃えたら燃え尽きるまで、いや燃え尽きても燻り続ける彼はその時ドーンとそうやって発してしまった。
「あほぅ、なんで俺あんなこと言ってしまったんだよ……俺」
と後々になって後悔するのが冬月シバの欠点でもある。
「それはお前の性格だから、しょうがない」
と肩を叩いたのは瀧本。
「ほんとあれにはびっくりしちゃったわー。先生たちは冗談でしょとか、無理無理とか。湊音先生なんて口あんぐり……はいどうぞ」
ジュリがツマミのチーズハムを出す。
「あんがとよ。……ておいおい、ジュリちゃんに手を出したんかい」
「手を出したとかじゃなくてジュリがここに居座ってんだよ」
今日は瀧本がシバの部屋にやってきた。もとはといえば瀧本とジュリが繋がっていたからこの仕事が舞い込んできたわけで。
「最初野蛮な犬って聞いた時にはどうしようかしらと思ったけど、可愛いやんちゃな方で……頼りになってるの。体力もあるから助かるわって、体力は夜の体力のことじゃないから。たしかにあるけどー。ね」
「変なこと言うな……それにあまり瀧本さんにお酒飲ますなよ。今日の目的が果たしてから」
「はいはい」
とジュリは台所に戻った。
「なんで瀧本さんはジュリといい、李仁といい……ああいう類のを知ってるし俺に紹介するんだよ。まさか、あんたも?」
瀧本はシバにチョップを食らわせた。
「いてぇ……!」
「俺はいたって普通だ。あの2人にはだーいぶ前だがとある事件に関わる反社会性力団体の複数名が彼らの店に来ていてな……て、あまり言えないな」
瀧本はジュリが作ったハイボールを口にした。
「ジュリは今では教職者だが数年前までは裏の社会を精通していたやつだ。お前の場合はいきすぎてるが仲良くしておくのは間違ってないぞ」
「はぁ……」
返事をしつつもジュリが作ってくれた唐揚げにレモンをかける。
「おいかける前に聞けよ。なんでレモンかけるんだ」
「いや、そこにレモンがあったから」
「……そういうところがなぁ、いやなんでもない。で、今日は……」
瀧本が渋々レモン汁のかかった唐揚げを口にする。
「例の剣道部顧問、大島先生の轢き逃げ事故の件だ」
「ああ、そうだったな」
「忘れたのかよ。それが事故、いや事件の真相未解決なんだろうけども」
「……お前はもう刑事じゃないだろ」
瀧本は何かを知ってそうだ。黙っている。
「瀧本さんも事件のこと知ってて……」
「知らん方がええこともある、お前も知ってるだろ。変なことに首突っ込んでまた厄介なことに巻き込まれたらどうする」
「だいたいあんたが絡む案件はやっかいだ……いててて」
瀧本がシバの頬をつねる。
「誰のおかげで首の皮繋がってると思ってるんだ?」
「すいまふぇん……でもこの学校につなげたのもわけあるんだろう。瀧本さん自身では解明しちゃいかんからパンピーになった俺に……てことだろ?」
「……さぁな。あ、ジュリちゃん。ハイボールをおかわりしてくれないか」
と勝手に話を中断する瀧本。あやしい。
「そうだったら隠してる何かを教えてくれないと。ああ、こんな時に李仁がまだバー続けてたら情報入ってきたのになぁ」
「刑事ではないのにな、そうムキになるな」
「いや、こんな状態でムキになるなと言われてもって、唐揚げほとんどないじゃないですか……レモンかけるなとかなんたら言ってたくせに」
すると後ろからドンと揚げたての唐揚げが載った皿が置かれた。
「おまち。瀧本さんもハイボールをどうぞ」
「わりぃな。にしてもジャンジャン唐揚げ揚げて……教員寮でも大丈夫?」
確かに油の匂いがすごい。良い匂いではあるが。
「大丈夫。どうせ空き部屋だったし、シバの部屋だし」
「どうせって……て、大島さんがいた部屋なんすよ。ここ」
と、シバはレモンがないと思いながらも瀧本に取られまいと唐揚げを食べていく。
「なんだっけ、剣道部顧問のもう1人の」
「槻山湊音」
「ああ、チビちゃん。槻山教育委員長のご子息。親子代々お世話になってますわ」
「それがどうした」
「今日呼べばよかったな」
「ダメっすよ。無口で喋ってもグチグチ、うじうじ。美味しい飯と酒が不味くなります。さらに酒に弱くて……」
瀧本は笑った。
「委員長も弱くてね。酒にはな」
「湊音の酒の弱さは父親に似たのか。にしてもあんなに弱いとはな」
「飲んだんか?」
「まぁ、一応……」
すると瀧本はシバを見る。
「おまえ、首突っ込むなという意味はわかってるだろ」
「……嫌な案件だ、まったく」
「つまりそうだ」
「警察が隠してるってわけか」
瀧本は静かに頷い、シバはため息をつく。
「轢いたほうが警察関係者か」
「いや、それがなぁ。轢いたやつはわかってないんだ」
「なんじゃそりゃ……」
「ああ、なんじゃそりゃだろ、ジュリちゃんもそろそろ飲みなさい」
ジュリはハァイと缶ビールを手にしてた。
「実はもう飲んでたんだよね。乾杯しましょ」
と三人は乾杯した。
だがシバは笑いながらも少し気持ちがつっかえていた。
その時だった。
「あれ、こんな時に来客って珍しいな」
シバが立ち上がる。
「ようやく来てくれた」
「へ?」
ジュリが笑ってる。まさか、とシバは慌てて玄関に行く。
「……酒臭さっ、にんにく臭っ」
湊音が立っていた。手には何か袋を持ってる。
「理事長に呼ばれて来た」
「そんなもん、なんだっ! 2年? なめるな、俺が顧問になったのなら今度の県大会の親善試合で優勝しますよ!」
と、校長や他の教師への挨拶の時にシバは大口を叩いてしまったのだ。
燃えたら燃え尽きるまで、いや燃え尽きても燻り続ける彼はその時ドーンとそうやって発してしまった。
「あほぅ、なんで俺あんなこと言ってしまったんだよ……俺」
と後々になって後悔するのが冬月シバの欠点でもある。
「それはお前の性格だから、しょうがない」
と肩を叩いたのは瀧本。
「ほんとあれにはびっくりしちゃったわー。先生たちは冗談でしょとか、無理無理とか。湊音先生なんて口あんぐり……はいどうぞ」
ジュリがツマミのチーズハムを出す。
「あんがとよ。……ておいおい、ジュリちゃんに手を出したんかい」
「手を出したとかじゃなくてジュリがここに居座ってんだよ」
今日は瀧本がシバの部屋にやってきた。もとはといえば瀧本とジュリが繋がっていたからこの仕事が舞い込んできたわけで。
「最初野蛮な犬って聞いた時にはどうしようかしらと思ったけど、可愛いやんちゃな方で……頼りになってるの。体力もあるから助かるわって、体力は夜の体力のことじゃないから。たしかにあるけどー。ね」
「変なこと言うな……それにあまり瀧本さんにお酒飲ますなよ。今日の目的が果たしてから」
「はいはい」
とジュリは台所に戻った。
「なんで瀧本さんはジュリといい、李仁といい……ああいう類のを知ってるし俺に紹介するんだよ。まさか、あんたも?」
瀧本はシバにチョップを食らわせた。
「いてぇ……!」
「俺はいたって普通だ。あの2人にはだーいぶ前だがとある事件に関わる反社会性力団体の複数名が彼らの店に来ていてな……て、あまり言えないな」
瀧本はジュリが作ったハイボールを口にした。
「ジュリは今では教職者だが数年前までは裏の社会を精通していたやつだ。お前の場合はいきすぎてるが仲良くしておくのは間違ってないぞ」
「はぁ……」
返事をしつつもジュリが作ってくれた唐揚げにレモンをかける。
「おいかける前に聞けよ。なんでレモンかけるんだ」
「いや、そこにレモンがあったから」
「……そういうところがなぁ、いやなんでもない。で、今日は……」
瀧本が渋々レモン汁のかかった唐揚げを口にする。
「例の剣道部顧問、大島先生の轢き逃げ事故の件だ」
「ああ、そうだったな」
「忘れたのかよ。それが事故、いや事件の真相未解決なんだろうけども」
「……お前はもう刑事じゃないだろ」
瀧本は何かを知ってそうだ。黙っている。
「瀧本さんも事件のこと知ってて……」
「知らん方がええこともある、お前も知ってるだろ。変なことに首突っ込んでまた厄介なことに巻き込まれたらどうする」
「だいたいあんたが絡む案件はやっかいだ……いててて」
瀧本がシバの頬をつねる。
「誰のおかげで首の皮繋がってると思ってるんだ?」
「すいまふぇん……でもこの学校につなげたのもわけあるんだろう。瀧本さん自身では解明しちゃいかんからパンピーになった俺に……てことだろ?」
「……さぁな。あ、ジュリちゃん。ハイボールをおかわりしてくれないか」
と勝手に話を中断する瀧本。あやしい。
「そうだったら隠してる何かを教えてくれないと。ああ、こんな時に李仁がまだバー続けてたら情報入ってきたのになぁ」
「刑事ではないのにな、そうムキになるな」
「いや、こんな状態でムキになるなと言われてもって、唐揚げほとんどないじゃないですか……レモンかけるなとかなんたら言ってたくせに」
すると後ろからドンと揚げたての唐揚げが載った皿が置かれた。
「おまち。瀧本さんもハイボールをどうぞ」
「わりぃな。にしてもジャンジャン唐揚げ揚げて……教員寮でも大丈夫?」
確かに油の匂いがすごい。良い匂いではあるが。
「大丈夫。どうせ空き部屋だったし、シバの部屋だし」
「どうせって……て、大島さんがいた部屋なんすよ。ここ」
と、シバはレモンがないと思いながらも瀧本に取られまいと唐揚げを食べていく。
「なんだっけ、剣道部顧問のもう1人の」
「槻山湊音」
「ああ、チビちゃん。槻山教育委員長のご子息。親子代々お世話になってますわ」
「それがどうした」
「今日呼べばよかったな」
「ダメっすよ。無口で喋ってもグチグチ、うじうじ。美味しい飯と酒が不味くなります。さらに酒に弱くて……」
瀧本は笑った。
「委員長も弱くてね。酒にはな」
「湊音の酒の弱さは父親に似たのか。にしてもあんなに弱いとはな」
「飲んだんか?」
「まぁ、一応……」
すると瀧本はシバを見る。
「おまえ、首突っ込むなという意味はわかってるだろ」
「……嫌な案件だ、まったく」
「つまりそうだ」
「警察が隠してるってわけか」
瀧本は静かに頷い、シバはため息をつく。
「轢いたほうが警察関係者か」
「いや、それがなぁ。轢いたやつはわかってないんだ」
「なんじゃそりゃ……」
「ああ、なんじゃそりゃだろ、ジュリちゃんもそろそろ飲みなさい」
ジュリはハァイと缶ビールを手にしてた。
「実はもう飲んでたんだよね。乾杯しましょ」
と三人は乾杯した。
だがシバは笑いながらも少し気持ちがつっかえていた。
その時だった。
「あれ、こんな時に来客って珍しいな」
シバが立ち上がる。
「ようやく来てくれた」
「へ?」
ジュリが笑ってる。まさか、とシバは慌てて玄関に行く。
「……酒臭さっ、にんにく臭っ」
湊音が立っていた。手には何か袋を持ってる。
「理事長に呼ばれて来た」
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