冬月シバの一夜の過ち

麻木香豆

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第二十六話 事件現場

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 現場は学校の教員寮側、駅方面であった。裏道であり車通りも少ない。

「生徒にはここの道は通らないように指導してるの」
「狭い道だからこそ抜け道になるからな。街灯も古い……空き家や空き地が多いから危険だな。遠回りになるが大通りを通った方が良さそうだな」
 シバは道路をうろうろする。すると一台の車が入ってきて避ける。

「……これが刑事冬月シバ、かぁ」
「ん? 元刑事だが……惚れ直したか?」
 ジュリは首を横に振る。違うんかいっ、とシバはリアクションを取る。

「瀧本さんからはすごく腕の良い刑事さん、と言うのは聞いてたけど……ほんとだったのねぇ」
「そんなこと言ってたのかぁ、照れるなぁ。普段そんなこと言ってくれなかったよ、瀧本さんたらぁ」
 参ったなぁとシバはあたまをかく。
「あとは……」
「女癖悪い、だろ?」
「うん、それがなぁって」
「それはよく言われる……」
 少し歩くと花束が置かれているのに気づく。よく見ると血痕の跡が。

「大島さんが轢かれた場所よ。で、ここの壁にぶつかった……」
「痛ったぁ。でもこれで死んだわけじゃ無いのになぁ」
「まぁ後になって死んだってこと聞いた人たちが置いてったのよ。定期的に私とか見回りの教員が片付けて三葉さんに連絡して引き取れるものは引き取るのよ。……こういうタバコとかさ、たまに卒業生か誰かの手紙もあるし」
 とジュリはポケットからエコバックとポリ袋を取り出して出てくる前に何故だか気になっていたが掃除用のトングとビニール手袋でゴミと花束はポリ袋、飲み物やお菓子やタバコや手紙などはエコバックと入れていく。

「そろそろ花とかの辞退する張り紙しといた方がいいんじゃないか? 半年だし」
「まぁね。でももう半年、まだ半年……色々あって大きな葬儀もできなくて代わる代わる大島さんの仏壇に手を合わせにくる人たちもいるし……半年経っても三葉さんの心の傷は癒されない。彼女だけでなくて大島さんの周りの人たちも」
「そうだな。てかここでの事件が解決しない限り……ここに手を合わせる人たち絶えないだろうな」

 シバはタバコに手をやってポッケにしまおうとするがジュリにバレてとられた。
「こそ泥するんじゃ無いよ」
「いや、そのー……同じ銘柄だなぁって」
「刑事やめたらこそ泥するのかい? ああ、刑事時代でも女をたぶらかした詐欺男」
「詐欺男はひどいぞ」
 痴話喧嘩を始めた2人の元にけたたましい音のするバイクがやってきた。

「危ない!」
 今度はシバがジュリを引っ張る。
「あっ……」
 ジュリは右足に履いていたヒールが脱げてシバにもたれかかってそのまま2人は倒れた。

「あぶねーだろ! 邪魔だっ」
 バイクはもう一台来た。20歳前くらいの金髪と脱色やカラーのしすぎで何色とも言えない色の男。スカジャンとジーンズでよく見るとまだ高校生くらいの幼さも感じられた。平日の日中、学校に行かずバイクに乗って遊びまわっているごろつきのヤンキーだろう。
 シバがジュリの手を取り自分自身も立ち上がってその2人に睨みつける。だがすこし落ち着いてなかった微笑んで2人の肩に両腕をかける。

「あぶねーのはお前らだろ。学校はどうした?」
「るっせぇよ、学校なんてやめたよ」
 と金髪。

「てことは高校生くらいか?」
「……17だよ」
「そうか、バイクは楽しいか? 学校よりも」
「まぁそこそこ」
 と金髪は素直に応えるが、変な色の髪の毛の方は
「あほか、秀治。私服警官だったらどうする!」
「兄貴、すいません……まじか、警官?!」
 金髪は秀治という名前らしい。変な髪の毛の色の男は兄貴……本当の家族でなくてグループの中での兄貴であろうが。

「いやー……なんというか警官、では無いが……ここの近くの高校で剣道部顧問をしているものだ。で、こいつはその高校の理事長」
「ああ、知ってるよ。たまにここ通る時見かける。オカマだろ」
 兄貴の方が笑っていうとジュリは
「何ですって!」
 と詰め寄るがシバが間に入った。

「それよりもさー、この辺ってよく通るの?」
「……ああ、ここの方が近道だし車通りが少ないから良いんだよ」
「あ、ここは何が起こったか知ってるか?」
 シバが大島が事故にあった場所を示すと秀治はオロオロしだした。

「人が死んだんだろ、事故で」
「ほお」
「いつも花とかお菓子やビールやタバコとか置いてある……」
「よぉここ通るんだな」
「……だから言ったろ、近道だから」
 兄貴の方は次第に早口になっていく。秀治は俯いていた。

「おい秀治、行くぞ」
「……はい」
 2人はバイクに乗って行った。

 シバはスマホのメモ機能に名前とバイクのナンバーを控えた。

「たくあいつら……わたしのことをオカマだなんてっ」
「まだわからんだろ、お前の魅力なんぞ。女経験も少ないか無いか……AVビデオのファンタジーに浸ってる見る目のないガキだ。ムキになるな」
 ジュリは赤面した。
「むぅっ。にしてもあいつらはなんか変な感じがした」
「ジュリもそう感じたか」
「ええ」
 まだ遠くからバイクの音が聞こえる中、この場所を離れた。
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