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崖っぷちの二人
第二十話 期待
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またシバは何かを思い出した。
浴室だ。シャワーを頭からかぶってずぶ濡れの湊音。それを丁寧にタオルで拭き取っているうちに
『シバぁ……』
と甘えた顔で同じタオルに包まり、浴室で欲情し合う場面を。
記憶のフラッシュバックは数十分前のことで、今はもう駅前。あの彼女と会えるというだけでなんだかまた元気も漲るシバ。駅前でソワソワする。
今から会う女性はシングルマザーで彼女の子供二人とも何度も会っていて懐いていた。
しかしシバが結婚してからは一切会うことはなかった。メールはしていたのだが。
どうやら彼女は夫の不倫が原因で離婚したため、結婚して既婚者になったシバに対して距離を置いてしまったようだ。でもまだメールで繋がっているあたり、彼女もまたシバとはまだ繋がっていたい一人なのである。
パパッとクラックションが鳴った方を見ると見覚えのある車。
かなり年数経つがあの車でよく会っていたなぁと懐かしく感じる。後ろにチャイルドシートがあったなぁと。
シバはその車を覗く。運転席には見覚えのある顔。公美だ。微笑むとシワが増えたが昔から変わらず美しいとシバは気持ちが上がった。
「久しぶりね、シバ」
「公美ちゃんも久しぶりだなぁ。お邪魔するね」
と助手席に乗ると公美の顔に近づく。
「やめてよ、もう若くないんだし」
「十分若いじゃんよ、なぁ」
すると
「わっ!」
後部座席から男の声が聞こえシバはのけぞる。
「な、なんだ?!」
「はははっ。やっぱシバさん、母ちゃんにチューすると思ったから隠れてみてたんだよ」
「……お前、斗真だな?」
「わかった? 久しぶり!」
あんなに小さかったはずと思っていた公美の息子で長男の斗真であった。チャイルドシートはもちろんない。
「さっさと行くよ。竜星を拾わなきゃいけないから」
「おう……」
公美だけかと思っていたが子供がいたか、と……かと言って今に始まったところじゃないが。
それにシバは出来るだけこういう大人同士のいちゃつきを子供には見せたくないと、公美と仲良かった時はすごく注意を払っていた。
すごく性欲はあるがそこにはこだわりがあった。
どちらかといえば公美との交際は(もちろん本命のまさ子もいたし他の女の人もいた)肉体関係よりも、このまま結婚してもおかしくないくらい周りからも家族のような雰囲気があった。
「斗真は……中学生か?」
「うん、来年受験生だよ」
「まじかー、声変わりもしてるし」
「彼女もいるんだぜ!」
「嘘だろ!!!」
公美は二人の会話を聞きながら運転して笑っている。
「あ、竜星いたわ」
と目線を先にやるとやたら大きな男子生徒がいた。
「え……あれって竜星?」
手を振っている。手足が長い。
「そうなの。斗真よりも大きくなっちゃって。中学でバスケ部入ったら一気に大きくなってね」
「時の流れー! てかあいつ剣道やめたのか……」
「ちょっと竜星には合わなかったみたいね」
まだちんちくりんだった二人の兄弟が……と口をあんぐりするシバであった。
公美たちの家は前と変わらず公団の中の一室であった。だが部屋の中に段ボールが置いてある。一つだけでなく何個も。家具も少なくてさっぱりしている。
過去の家に来ていた頃はまだ子供たちも小さくておもちゃや服が散乱してあり、女手一つで育ててる公美は大変だとシバは思っていたがこんなに綺麗で広い部屋だったかと見渡す。
それよりも次男の竜星が自分とそう身長が変わらないところだ。長男の斗真もそこまで低いわけでもないが、体格は二人揃ってがっちりしていた。
「昔から骨太だとは思ってたけどいい体してるなぁ」
「そうかなぁ。シバくんの方が大きいよ。剣道まだ続けてるの?」
「ん、まぁ……なんというか……ここ最近はしてなかったけどまたやることになってな」
一応ジュリからはクビでは無い、と言われたからそうは言えるが廃部になったらクビになる。
「あ、実はね。斗真……中学の時から剣道始めたの」
公美がそういうと斗真は照れた。昔からシバのことをヒーローのように憧れを持っていた。シバは笑って斗真の手を触った。
「わかってたよ。ちらっとその手を見てやってると思った」
「さすがだ、シバくん。あと……警察官目指してるよ」
「……あの頃と変わらないじゃないか」
「うん!」
見た目は大きくなったが子供の頃の無邪気さは残っていた。
「大学出て警察官になるって二年生の三者懇談で話した時にはびっくりしたのよ……」
公美はシバにお茶を出してくれた。紙コップであった。
「大学……金かかるなぁ。塾も行ってるだろ? その有名通信塾の参考書……結構するじゃんか」
シバがそういうと公美は子供たちに目配せをする。斗真がなぜか頷いた。
「それにどっか引っ越すのか? 斗真の高校遠いところか? ここら辺で勉強も剣道もできるところだったら俺が今勤めてる高校の……」
「……シバ、わたし再婚するの」
シバは項垂れた。
「やっぱし……」
浴室だ。シャワーを頭からかぶってずぶ濡れの湊音。それを丁寧にタオルで拭き取っているうちに
『シバぁ……』
と甘えた顔で同じタオルに包まり、浴室で欲情し合う場面を。
記憶のフラッシュバックは数十分前のことで、今はもう駅前。あの彼女と会えるというだけでなんだかまた元気も漲るシバ。駅前でソワソワする。
今から会う女性はシングルマザーで彼女の子供二人とも何度も会っていて懐いていた。
しかしシバが結婚してからは一切会うことはなかった。メールはしていたのだが。
どうやら彼女は夫の不倫が原因で離婚したため、結婚して既婚者になったシバに対して距離を置いてしまったようだ。でもまだメールで繋がっているあたり、彼女もまたシバとはまだ繋がっていたい一人なのである。
パパッとクラックションが鳴った方を見ると見覚えのある車。
かなり年数経つがあの車でよく会っていたなぁと懐かしく感じる。後ろにチャイルドシートがあったなぁと。
シバはその車を覗く。運転席には見覚えのある顔。公美だ。微笑むとシワが増えたが昔から変わらず美しいとシバは気持ちが上がった。
「久しぶりね、シバ」
「公美ちゃんも久しぶりだなぁ。お邪魔するね」
と助手席に乗ると公美の顔に近づく。
「やめてよ、もう若くないんだし」
「十分若いじゃんよ、なぁ」
すると
「わっ!」
後部座席から男の声が聞こえシバはのけぞる。
「な、なんだ?!」
「はははっ。やっぱシバさん、母ちゃんにチューすると思ったから隠れてみてたんだよ」
「……お前、斗真だな?」
「わかった? 久しぶり!」
あんなに小さかったはずと思っていた公美の息子で長男の斗真であった。チャイルドシートはもちろんない。
「さっさと行くよ。竜星を拾わなきゃいけないから」
「おう……」
公美だけかと思っていたが子供がいたか、と……かと言って今に始まったところじゃないが。
それにシバは出来るだけこういう大人同士のいちゃつきを子供には見せたくないと、公美と仲良かった時はすごく注意を払っていた。
すごく性欲はあるがそこにはこだわりがあった。
どちらかといえば公美との交際は(もちろん本命のまさ子もいたし他の女の人もいた)肉体関係よりも、このまま結婚してもおかしくないくらい周りからも家族のような雰囲気があった。
「斗真は……中学生か?」
「うん、来年受験生だよ」
「まじかー、声変わりもしてるし」
「彼女もいるんだぜ!」
「嘘だろ!!!」
公美は二人の会話を聞きながら運転して笑っている。
「あ、竜星いたわ」
と目線を先にやるとやたら大きな男子生徒がいた。
「え……あれって竜星?」
手を振っている。手足が長い。
「そうなの。斗真よりも大きくなっちゃって。中学でバスケ部入ったら一気に大きくなってね」
「時の流れー! てかあいつ剣道やめたのか……」
「ちょっと竜星には合わなかったみたいね」
まだちんちくりんだった二人の兄弟が……と口をあんぐりするシバであった。
公美たちの家は前と変わらず公団の中の一室であった。だが部屋の中に段ボールが置いてある。一つだけでなく何個も。家具も少なくてさっぱりしている。
過去の家に来ていた頃はまだ子供たちも小さくておもちゃや服が散乱してあり、女手一つで育ててる公美は大変だとシバは思っていたがこんなに綺麗で広い部屋だったかと見渡す。
それよりも次男の竜星が自分とそう身長が変わらないところだ。長男の斗真もそこまで低いわけでもないが、体格は二人揃ってがっちりしていた。
「昔から骨太だとは思ってたけどいい体してるなぁ」
「そうかなぁ。シバくんの方が大きいよ。剣道まだ続けてるの?」
「ん、まぁ……なんというか……ここ最近はしてなかったけどまたやることになってな」
一応ジュリからはクビでは無い、と言われたからそうは言えるが廃部になったらクビになる。
「あ、実はね。斗真……中学の時から剣道始めたの」
公美がそういうと斗真は照れた。昔からシバのことをヒーローのように憧れを持っていた。シバは笑って斗真の手を触った。
「わかってたよ。ちらっとその手を見てやってると思った」
「さすがだ、シバくん。あと……警察官目指してるよ」
「……あの頃と変わらないじゃないか」
「うん!」
見た目は大きくなったが子供の頃の無邪気さは残っていた。
「大学出て警察官になるって二年生の三者懇談で話した時にはびっくりしたのよ……」
公美はシバにお茶を出してくれた。紙コップであった。
「大学……金かかるなぁ。塾も行ってるだろ? その有名通信塾の参考書……結構するじゃんか」
シバがそういうと公美は子供たちに目配せをする。斗真がなぜか頷いた。
「それにどっか引っ越すのか? 斗真の高校遠いところか? ここら辺で勉強も剣道もできるところだったら俺が今勤めてる高校の……」
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シバは項垂れた。
「やっぱし……」
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