冬月シバの一夜の過ち

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
12 / 53
お手並み拝見

第十話 廃部か、それとも

しおりを挟む
「シバさん! あなたは手加減という言葉を知らないんですかっ……いてぇ」

 湊音が右手首を押さえる。剣道室の道場で全部員がぐったりしている。

 それらを一人一人手当てをしているのは何故か駆けつけたジュリであった。

「この子たちは高校生なのよ。確かにあなたは強いかもしれないけどレベルに合わせるとかそういうことをしないの?」

 ジュリがそう言ってもシバは竹刀を握ると手加減しない人間だった。だが本人も少し大人気ないとは思ったがあまりの部員のやる気がなさすぎて手加減はしてはいけないとさらに思ったまでであるらしい。

「怪我で学業に支障きたしたらどうするの」
「……剣道部員がそんなこと考えてやってるようじゃぬるいな。そんなぬるい気持ちでやってたらいつまで経っても全国大会行けんぞー」

 ジュリはため息をついた。湊音はすごく睨んでいる。

「それにそのチビ、湊音先生だっけ。こんな奴に指導されてたらそりゃ県大会止まりなの明白だ……こりゃぁ育て甲斐があるな」

 だがその場の雰囲気は最悪である。

「……こんな人が兄の上司だったなんて。最低だ」

 宮野は立ち上がった。そしてシバの喉元に竹刀を突きつける。喉元に届く直前でシバにはたかれた。竹刀を持っていた手を宮野は抑える。
「すまん、その手は攻撃したくなかったが……」
 ジュリがすかさず近寄って宮野の手当てをする。

「試合以外で急所狙うとはな、無礼だ」

 シバはそう言って顧問室に入り防具、胴着を脱ぎすぐシャワーを浴び、着替えて道場に戻る。

「シバ先生……」
 ジュリに呼び止められるもののシバは振り返らなかった。

「理事長、すいませんね。ご期待に添えず。それでは」

「冬月さん!!!」
 湊音も呼び止めるもののシバは振り替えず走っていく。


「なんなんだあいつは。もうあいつはクビですよね?! 理事長」
「はぁ、とんでもないやつ来ちゃったわね。それよりも湊音先生、手首捻っちゃったみたいね」
「ええ。でもあいつは俺の利き手じゃない方を……」
「それよりもシバ先生もやめたらどうするの? この剣道部、廃部よ」
「そんなっ」
 湊音は狼狽える。
「かなり猶予見てたけど残念ね。全国大会ともなるとあれくらいのモンスターがいてもおかしくない。いや、最近県大会でさえも……。まぁあの狂犬は乱暴かもしれないけど教え方がわかれば少しはこの剣道部にも刺激になるかと思ったけどね」
 湊音は右手を撫で、落ち込む。部員たちもそれを聞いて項垂れる。

「……廃部……それがわかってるなら頑張れないっす」
 と部員らも更衣室に去っていった。

「待って! まだまだいける。君たちは!」
 湊音がそういうが彼らもまた振り返らなかった。

「……部員たちの士気を上げることもできないのもダメね。もう廃部よ。早めに結果を出したほうがいいかしら」
「理事長っ、待ってください! せめて今度の大会で結果を出します!」

 湊音は左手でジュリの腕を掴む。涙目である。

「結果、出せるのかしらねぇ」
「出します……」
「もう何度聞いているのやら」
 ジュリは湊音の手を振り払った。

「あああっ……」
 湊音はうずくまる。目線の先には恩師の防具。

「すいません……大島先生。やっぱり僕には……剣道部の顧問なんて務まらなかったですよ。あなたがいきなり死んでしまうから……ああああっ」
 湊音は泣きながら床を叩いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...