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四年目
第七十話…終わりは始まりだ
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あの夜の出来事を思い出した。今になってアレは夢だったのか現実だったのかわからない。
もちろんあのあとはハナのアパートに押しかけることなんてしなかった。
そんなバカなことはファンとしては許すまじ行為だ。
そう、俺はファンだ。ハナの一ファンである。
彼女が笑って歌って踊ってるだけで幸せだ。
キスなんて……はしたない。手を繋ぐだけでも尊いのに。いやましてや目が合うだけでも……ありがたいことだ。
俺はあれから社長と社長夫人の美玲ちゃんが家に来てくれて説得されて本社に勤めることになった。
美玲ちゃんはすっかり社長夫人として風格をなしてて。でもアイドルの頃の輝きのまま。いやそれ以上、好きになった頃の美玲ちゃんとは違う。俺を一度生き返らせてくれた人。命の恩人……。その恩人のためなら俺は馬車馬のように働かせてもらうぜええええ!
彼女は広報の仕事や女性社員のリーダーとして社長と共に仕事をこなしている。なんか雲の上のような神様、女神様になってしまったな……美玲ちゃん……いや美玲副社長。
ちなみに他のメンバーもテレビや雑誌でちらほら見かける。
由美香さんは結局一般人の男性(と言っても元業界人らしい)と結婚してママになるらしいがすぐ女優に復帰して話題作にたくさん出ている。
大野ちゃんはタッキーと共にタレント事務所を立ち上げたらしい。
悠里ちゃんもその事務所のタレントの1人として活躍している。
ってトオル情報だが。あいつは相変わらずこういう情報リサーチ力はすごい。(ちなみにバツ2で独身貴族に戻った)
社長からはタクシーアプリの開発が好評で違うプロジェクトも立ち上げてほしいとリーダーとして任命されてしまった。
「よっ! 総長!」
だなんて囃し立てられて……頑張ったものの、なかなか難しくて伝達ミスやうまく物事を伝えられなくて早々壁にぶち当たってしまった。
そしてまた一週間ほど引きこもってしまった。なんて俺はダメなんだ、って自己否定ばかりする毎日だった。
「……くそぉっ」
と部屋の隅にあるもう聞かなくなったラジカセ。八つ当たりしたと同時にスイッチが付いた。
『……ですよねぇー、はいーそれでぇー』
聞き覚えのある声。無駄に語尾が伸びてトロトロとした喋り方……。
俺はラジオのスピーカーに耳を近づけた。
『ではっ!!!』
途端に大きな声が出てびっくりしてのけぞった。
「びっくりしたぁっ!! いきなり声を出すな! 強弱はしっかりしろって言ったやろっ!!!」
そうだ、この声……。この感覚……まさか。
『森巣ハナの夕暮れラジオ! 2時間の生放送して折り返しにきておりますぅー』
ハナぁ!!!!
ハナだっ、ハナ……なんでラジオに出てる? 俺はすぐ調べた。
出た、岐阜のコミュニティラジオ局……清流ガールズがラジオをやっていたあのラジオ局だ……。
『元清流ガールズ、ハナこと森巣ハナがラジオパーソナリティとして復活! いきなり2時間の帯番組キャスター! 平日の夕方を癒しに包む……』
……ハナっ。
『毎日夕方、スタジオから生放送。観覧自由!』
「……観覧自由っ!!!!」
すると俺のスマホにメールが。トオルだ。あれ、キンちゃんやアガサ、マスター……あ、昔の仲間からも……メールに気づかなかった。一週間ほど。今のトオルのメール着信で気づいた。
『トクさん! 生きてるかっ?! ハナちゃんがラジオやってるってずっと連絡してるが返信こないぞ、今から迎えに行く、スタジオに行くぞ!!!』
……フォルダーを遡るとラジオが始まったと思われる一週間前からトオルやみんなから
『ラジオ聞け!』
『ハナちゃん復活したぞ!』
『スタジオ見に行こうよ』
って……俺は涙が溢れた。数年前までは引きこもってて屍になっていた俺には友達は数人しかいなかった。こんな俺にたくさんの人たちが心配してくれている。
そしてハナの復活。あの夜やさぐれていた彼女……。
一体どうして……???
ピンポーン
インターフォンに出るとトオルが映った。
『おい! 行くぞ!!!』
……トオルぅ……。ふと映った鏡の俺はみっともない風貌だった。
ラジオではもう折り返しと言ってたな。あと1時間しかない。そして平日の夕方……今日は金曜日だ……次は月曜日。土、日なんて待てない!!!!
『今ーこの番組のテーマソングを作成中でぇーニーナとロミが作曲、作詞は私がやるんですヨォー!! だからリリースイベントやりまぁす! で、もちろん握手会もするヨォーライブもやるヨォーー!!!』
うぉおおおおおおおおおつ!!!!
また働かないとダメじゃないか、お前にたくさん貢ぐために……たくさん握手するために!!!!
手が震えてきた。次々とスマホにメールが届く。久しぶりに開いたSNSにもたくさんのメッセージが……放置してたのにみんな俺のことを覚えててくれたのか?!
いや、みんな……ハナのことを覚えててくれたのかっ!!!
よかったな、ハナ! お前は愛されているぞっ。すごいぞ、すごいぞぉおおおお。
「おい! トクさん!!! 早く」
ドアの外からトオルの声がする。
待ってろ、ハナ!!!
俺は一生お前を推していく。お前は俺の生きる希望の光だっ。ハナ!!!
俺もお前に出会えてよかった!!!!!
もちろんあのあとはハナのアパートに押しかけることなんてしなかった。
そんなバカなことはファンとしては許すまじ行為だ。
そう、俺はファンだ。ハナの一ファンである。
彼女が笑って歌って踊ってるだけで幸せだ。
キスなんて……はしたない。手を繋ぐだけでも尊いのに。いやましてや目が合うだけでも……ありがたいことだ。
俺はあれから社長と社長夫人の美玲ちゃんが家に来てくれて説得されて本社に勤めることになった。
美玲ちゃんはすっかり社長夫人として風格をなしてて。でもアイドルの頃の輝きのまま。いやそれ以上、好きになった頃の美玲ちゃんとは違う。俺を一度生き返らせてくれた人。命の恩人……。その恩人のためなら俺は馬車馬のように働かせてもらうぜええええ!
彼女は広報の仕事や女性社員のリーダーとして社長と共に仕事をこなしている。なんか雲の上のような神様、女神様になってしまったな……美玲ちゃん……いや美玲副社長。
ちなみに他のメンバーもテレビや雑誌でちらほら見かける。
由美香さんは結局一般人の男性(と言っても元業界人らしい)と結婚してママになるらしいがすぐ女優に復帰して話題作にたくさん出ている。
大野ちゃんはタッキーと共にタレント事務所を立ち上げたらしい。
悠里ちゃんもその事務所のタレントの1人として活躍している。
ってトオル情報だが。あいつは相変わらずこういう情報リサーチ力はすごい。(ちなみにバツ2で独身貴族に戻った)
社長からはタクシーアプリの開発が好評で違うプロジェクトも立ち上げてほしいとリーダーとして任命されてしまった。
「よっ! 総長!」
だなんて囃し立てられて……頑張ったものの、なかなか難しくて伝達ミスやうまく物事を伝えられなくて早々壁にぶち当たってしまった。
そしてまた一週間ほど引きこもってしまった。なんて俺はダメなんだ、って自己否定ばかりする毎日だった。
「……くそぉっ」
と部屋の隅にあるもう聞かなくなったラジカセ。八つ当たりしたと同時にスイッチが付いた。
『……ですよねぇー、はいーそれでぇー』
聞き覚えのある声。無駄に語尾が伸びてトロトロとした喋り方……。
俺はラジオのスピーカーに耳を近づけた。
『ではっ!!!』
途端に大きな声が出てびっくりしてのけぞった。
「びっくりしたぁっ!! いきなり声を出すな! 強弱はしっかりしろって言ったやろっ!!!」
そうだ、この声……。この感覚……まさか。
『森巣ハナの夕暮れラジオ! 2時間の生放送して折り返しにきておりますぅー』
ハナぁ!!!!
ハナだっ、ハナ……なんでラジオに出てる? 俺はすぐ調べた。
出た、岐阜のコミュニティラジオ局……清流ガールズがラジオをやっていたあのラジオ局だ……。
『元清流ガールズ、ハナこと森巣ハナがラジオパーソナリティとして復活! いきなり2時間の帯番組キャスター! 平日の夕方を癒しに包む……』
……ハナっ。
『毎日夕方、スタジオから生放送。観覧自由!』
「……観覧自由っ!!!!」
すると俺のスマホにメールが。トオルだ。あれ、キンちゃんやアガサ、マスター……あ、昔の仲間からも……メールに気づかなかった。一週間ほど。今のトオルのメール着信で気づいた。
『トクさん! 生きてるかっ?! ハナちゃんがラジオやってるってずっと連絡してるが返信こないぞ、今から迎えに行く、スタジオに行くぞ!!!』
……フォルダーを遡るとラジオが始まったと思われる一週間前からトオルやみんなから
『ラジオ聞け!』
『ハナちゃん復活したぞ!』
『スタジオ見に行こうよ』
って……俺は涙が溢れた。数年前までは引きこもってて屍になっていた俺には友達は数人しかいなかった。こんな俺にたくさんの人たちが心配してくれている。
そしてハナの復活。あの夜やさぐれていた彼女……。
一体どうして……???
ピンポーン
インターフォンに出るとトオルが映った。
『おい! 行くぞ!!!』
……トオルぅ……。ふと映った鏡の俺はみっともない風貌だった。
ラジオではもう折り返しと言ってたな。あと1時間しかない。そして平日の夕方……今日は金曜日だ……次は月曜日。土、日なんて待てない!!!!
『今ーこの番組のテーマソングを作成中でぇーニーナとロミが作曲、作詞は私がやるんですヨォー!! だからリリースイベントやりまぁす! で、もちろん握手会もするヨォーライブもやるヨォーー!!!』
うぉおおおおおおおおおつ!!!!
また働かないとダメじゃないか、お前にたくさん貢ぐために……たくさん握手するために!!!!
手が震えてきた。次々とスマホにメールが届く。久しぶりに開いたSNSにもたくさんのメッセージが……放置してたのにみんな俺のことを覚えててくれたのか?!
いや、みんな……ハナのことを覚えててくれたのかっ!!!
よかったな、ハナ! お前は愛されているぞっ。すごいぞ、すごいぞぉおおおお。
「おい! トクさん!!! 早く」
ドアの外からトオルの声がする。
待ってろ、ハナ!!!
俺は一生お前を推していく。お前は俺の生きる希望の光だっ。ハナ!!!
俺もお前に出会えてよかった!!!!!
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