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四年目

第六十話 トクさん…再会してしまった

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 ついにこの日がやってきた! ぐーちーぱーくのイベントだ! 教えてもらった時、チラシをよくみたら
『会場優先席は親子のみ、大人1人につきお子さん2人まで』
 と書いてあって。もちろん俺やアガサ、マスターをはじめちいさな子供のいないハナファンたちはガッカリした。

 優先席以外だとスタジオ外のガラス張りからしかみられない。俺はどうしても同じ空間の中にいたい。ハナの近くにいたい!

で、俺は思いついた。

「おじちゃん、本当にこのあとお菓子買ってくれるの?」
「ああ、もちろん。……それと俺は『おじちゃん』やなくて『お兄ちゃん』……いや、今日は『お父さん』だね」

 横にいるのはキンちゃんの長男で小学三年生の文也《ふみや》くんだ。申し込みでキンちゃんと次男の直之《なおゆき》くんの分は当たらなかった。いや、普通ならその当たった券をキンちゃん親子に渡すのが普通なのだが、な。

「ちゃんと2人分買ってくれるよね?」
「もちろん、直之くんの分も買うて。当たり前やん」
「大人のことは信用できん」
 ……なんだ、この冷めた小学生は!!! ちらほらと俺の知ってるハナファンのやつが子供連れて座っている。目が合うと手を振ってくれた。そばには彼らの本当の子供。……羨ましい。

 いや、そんなことなに思っているんだ……。文也くんは携帯ゲームでピコピコ遊んでいる。これも俺が買ってやった。……今日だけのためじゃないからな、結構キンちゃんから米とか野菜も貰ってるし。

「すいません、横……いいですか?」
「あ、はい……。んんん?!」
「あっ、徳山!!!」
 横に2人子供を連れてきて座ったのは……!! 
 俺の元同僚、沢口。少し色黒になったか?いや、お前は海外赴任に行ってたんじゃ? 少し顔引きつってる。

「今……一時帰国していてさ。この番組、ネットでも見られるから実家の親が応募してくれてさ4人分。そしたらあたっちゃったんだよー」
 4人分……てことは、まさかっ……。

「……淳一《じゅんいち》……」
 俺は久しぶりに下の名前で呼ばれた。そしてそうやって呼ぶ身内は……。

 元妻の晶子さんだった。相変わらず美人ですっきりとしたラインで清流ガールズで言えば初期の由美香さん系(最近の由美香さんは何か違う)で沢口と同様に色黒である。
「その子は……?」
「友達の……息子」
「そうよね、あなたの息子だとしても大きすぎると思って……」

 ……晶子さんは2人の女の子を抱えている。俺らの間にはできなかった子供……沢口と不倫して、結婚して子供ができて幸せなんだろうな。

「徳山、SNSで見たぞ。お前ハナちゃんの追っかけだって。だからこの何処かで会うかもしれんと思ったけど、まさかの……まさかね……」
 うわ、見られてたか……本名でやってるのがあかんかったな。もちろん沢口とフォローしてないが、なにかのつながりや、電話帳の中からデータ引っ張って見つかったかもな。
 反対に俺も沢口のSNSが『友達かも?』欄に出てきて、アイコンが仲良し家族4人の写真だもんな、その時点で開きたくなくて見ていない。

 晶子さんは俯いている。そんな様子を見てか、沢口達は後ろの席に移動した。なんかもやもやしたままショーが始まった。だけどもやもやはサッと消えた。
「みんなー! ぐーちーぱーくはじまるよぉー」
 相変わらずの語尾伸ばし! あざといんだよ! 子供相手に!
 俺は両手にハナのうちわを待っている。……他のファンはそれを振ってハナにアピールする。
 俺もいることアピールしないと! ハナが不安になる。一応今日行くことは伝えたが、このスタジオ内にいたらびっくりするだろう……。
 でもアピールしたら……。いや! 今はそんなこと考えている場合ではない!
 オープニングテーマが始まり、歌に合わせてハナファン達は盛り上がる。ハナはやっぱり俺を探している?! ニコニコっと振る舞う姿、今日も可愛い! 胸の強調してなくても可愛い!! 全てかわいい! ハナ!!!

 俺は気づいたら無我夢中でうちわを振っていた。あんなにゲームに夢中になっていた文也くんも一緒にうちわを振った。
 あ、ハナが! 俺を見つけたのかニコッと微笑んでいる。俺がわかったか? ハナ!



 ◆◆◆
 ショーが終わり、ハナとキャラクターたちとのグリーティング写真会。キャラクター除けばハナ単独の写真撮影会!ようやくできた……ようやく……。スタジオ観覧車のみだから貴重じゃないか!!
「おじさん、僕は写らないからおじさんだけ写ってよ」
「え? いいのか? てか、俺はお兄さんな……」
 文也くんは先に出ようとしたが、ハナが
「あれぇ、行っちゃうのぉ? 撮ろうよぉ~」
 ハナが文也くんを手招くと、文也くんはもじもじしながらやってきた。
「トクさんの子供……じゃないよねぇ?」
「じゃないよぉー、キンちゃんの。隠し子やないよ」
「……びっくりしたぁ! もぉ、トクさん……スタジオ内にいると思わなかったから歌詞飛んじゃったぁ」
「やっぱりな。二箇所飛んでた」
「ふふふ。あ、カメラ見てぇ」
 と、ハナが俺の肩を持つ。そして俺を見て
「メガネ、取って」
「お、おう……」
 上目遣いで……ああっ、ハナっ。お前の柔らかい手……はあっ。

 カシャっ!

 写真撮れた。ハナとの写真。1人邪魔いるけどな。俺は嬉しくて手が震えてしまう。
「ありがとう、またライブで会おうね」
 文也くんもニコッとする。俺は手が震えてメガネをうまく掛けられない。あっ、手を滑らせてしまってメガネを落とした……!
 ハナはしゃがんで拾ってくれた……しゃがんで上目遣いでメガネを渡してくれた。
「もぉ、おっちょこちょい……トクさん!」
 はぁっ!!! 可愛い……!!! やべ、勃ってしまった……。あほか、俺は!!! とっさにポッケに手を突っ込んでささくさと撮影ブースから去る。ハナ、可愛すぎるだろっ!! ああ幸せだ!

 と、出口で待っていたのは……晶子さんだった。腕には1人子供を抱き抱えていた。すやすや寝ている。
「ほんと、淳一はなにもかもに全力なんだから……あ、夫は下で待ってるの」
 俺を待っていたのか。文也くんは俺の手を握っている。
「俺の知り合いの人だから安心して」
 と言うとうなずき、施設内の特設遊び場に遊びに行った。俺らはその姿を見ながら近くのベンチで座った。

「元気か?」
 って月並みな言葉しか声かけられなかった。
「うん、まあまあ。あなたは元気そうね。一生懸命うちわ振り回してた」
「見てたのかよ」
「あなたは一つのことになると一生懸命なるのよね。本当に変わらない……」
「そうか?」
「不妊治療の時もあなたが率先して色々調べてくれて、これを食べたら、これをしたら、とか言って一生懸命……」
「なのに晶子さんは浮気していた」
「ごめんなさい……」
「子供、かわいいやろ」
「かわいいけど大変よ」
「そうなんやね……もう沢口のところに行けよ。晶子さんが子供抱いてるの見ると辛くなる」
「……」
「俺、今はハナちゃんに夢中なんだ。晶子さん以上に推してるから……」
「バカみたい」
「なんだよ、バカみたいって!」
 と晶子さんを見ると右目から涙を流していた。彼女はサッと反対側を見て拭った。

 ……本当にあの頃は晶子さんが好きで好きでしょうがなかった。彼女のためなら仕事も頑張れた。たくさん愛した。たくさん彼女に尽くした。今のハナのように。
「ハナちゃんが羨ましいわ。本当に淳一に愛されてる時が一番幸せだった。私がバカだった」
 と晶子さんは去っていった……。一番幸せだった? 沢口は? 子供二人いるんだろ?

「おじさん、会話終わったんでしょ? お菓子買いに行こうよ」
 文也くん、ちゃっかりしているねぇ……。

 後日、人づてに晶子は沢口と沢口の親のことで離婚を考えているものの子供がいるからと悩んでいると聞いた。

 だからといって俺は何もやれることはない。
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