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3年目
第五十話 ハナ…私の過去⑤
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「おめでとうございます。四ヶ月ですよ。生理周期や前の生理の日とかわかればもっと正確な週数はわかりますけどね」
……一人で産婦人科で調べてもらった。生理が来なさすぎる、同級生が若くして子宮癌で手術したという話を聞いてたので何か異常でもと思った。
異常ではなかった。しかし、今……このタイミングで……避妊はしていたと先生に言うと、必ずしもコンドームで避妊しても妊娠しないとは限らないと。
今度東京の大手レコード会社に行く予定なのに……おろすのにもお金かかる。馨だけでなく仲間やスタッフたちにも迷惑かける。
そのことを二ヶ月も隠しながらライブを続けていた。
「顔色悪くないか、エドちゃん」
「大丈夫よ。ありがとう……」
馨は本当に優しい。だけどお腹も大きくなって隠せない……。いつ言おうか、悩んでいる最中のことであった。
忙しい合間をぬって2人で実家に車で戻っていた。県境の長いトンネル、ここを潜れば岐阜に着く。
「花、最近調子おかしくないか」
「大丈夫よ、何度も言ってるじゃん」
「最近お風呂も一緒に入ってくれない、エッチも……乗り気じゃない」
「疲れてるのよ」
「倦怠期の夫婦かよ」
馨は笑った。……苦笑いするしかなかったけどなんか……申し訳ない気がする。罪悪感……。
「メンバーと話して『子供作らないのか』って心配されてて。花が休んでいてもできる様にサポートしたいって言ってくれた」
……。
「そろそろさ、子供作るか? ……てか欲しい」
「……うん、馨ならいいパパになりそう」
「だろ?」
「自分で言わないでよ。でもお義父さんみたいにちょー世話焼きになりそう」
「まじかぁ。花はいいお母さんになる、子守唄も上手くて……」
馨、お腹の中にはいるのよ、私たちの……。
たわいもない、会話をしているその時であった。
何も考えない間に、大きな音と眩しい光……。
◆◆◆
「大丈夫か、大丈夫か?」
目を開ける。体全身が痛い。薄暗い……オレンジ色の光。
ああ、トンネルの中だけど……車に乗ってない、横たわっている。
そして私に声かける男性の声はモリスでない。見知らぬ人の声。油の変な匂い、鉄の臭い……。
瞳に入ってきたのは知らない男の人。誰?
「……馨……は?」
声がうまく出ない。苦しい……あ、お腹の赤ちゃん……!!! 下半身から何かどろっと……生暖かい……。私は涙が出た。
「馨……一緒に乗っていた人か?」
私は頷く。よく見たら彼も頭から血を出している。何が起きたの? ゆっくり頭を動かそうとすると
「頭は動かすな! ……今はゆっくり呼吸を整えるんだ」
馨……。
「私は医者だ……と言っても産婦人科医だが、頭の傷口の止血はした。あとはどこか痛むところとか、変わった症状はないか」
……産婦人科医!!
「私のお腹の中に……赤ちゃん……」
「週数は? 何ヶ月と聞いた方がいいか……」
「六ヶ月……馨との子供なの」
彼は少し柔らかくお腹を触ってくれたが、痛みを感じる。下半身から何か温かいものが……彼も気付いてる。
「……大丈夫だ、救急車呼んである。優先してもらおう……他にも何人か怪我をしている」
怪我人の中にモリスは……。
あ、遠くからサイレン。
「大丈夫、大丈夫……」
彼の大きくて温かい手……赤い光が照らし出す。私の記憶はそこで途絶えた。
でも私はわかっていた。一瞬頭を動かした時に、誰かが、きっとこのお医者さんがかけてくれたコートの下から見えた大きな足。
馨だって。
それはもう動かなかった。
……一人で産婦人科で調べてもらった。生理が来なさすぎる、同級生が若くして子宮癌で手術したという話を聞いてたので何か異常でもと思った。
異常ではなかった。しかし、今……このタイミングで……避妊はしていたと先生に言うと、必ずしもコンドームで避妊しても妊娠しないとは限らないと。
今度東京の大手レコード会社に行く予定なのに……おろすのにもお金かかる。馨だけでなく仲間やスタッフたちにも迷惑かける。
そのことを二ヶ月も隠しながらライブを続けていた。
「顔色悪くないか、エドちゃん」
「大丈夫よ。ありがとう……」
馨は本当に優しい。だけどお腹も大きくなって隠せない……。いつ言おうか、悩んでいる最中のことであった。
忙しい合間をぬって2人で実家に車で戻っていた。県境の長いトンネル、ここを潜れば岐阜に着く。
「花、最近調子おかしくないか」
「大丈夫よ、何度も言ってるじゃん」
「最近お風呂も一緒に入ってくれない、エッチも……乗り気じゃない」
「疲れてるのよ」
「倦怠期の夫婦かよ」
馨は笑った。……苦笑いするしかなかったけどなんか……申し訳ない気がする。罪悪感……。
「メンバーと話して『子供作らないのか』って心配されてて。花が休んでいてもできる様にサポートしたいって言ってくれた」
……。
「そろそろさ、子供作るか? ……てか欲しい」
「……うん、馨ならいいパパになりそう」
「だろ?」
「自分で言わないでよ。でもお義父さんみたいにちょー世話焼きになりそう」
「まじかぁ。花はいいお母さんになる、子守唄も上手くて……」
馨、お腹の中にはいるのよ、私たちの……。
たわいもない、会話をしているその時であった。
何も考えない間に、大きな音と眩しい光……。
◆◆◆
「大丈夫か、大丈夫か?」
目を開ける。体全身が痛い。薄暗い……オレンジ色の光。
ああ、トンネルの中だけど……車に乗ってない、横たわっている。
そして私に声かける男性の声はモリスでない。見知らぬ人の声。油の変な匂い、鉄の臭い……。
瞳に入ってきたのは知らない男の人。誰?
「……馨……は?」
声がうまく出ない。苦しい……あ、お腹の赤ちゃん……!!! 下半身から何かどろっと……生暖かい……。私は涙が出た。
「馨……一緒に乗っていた人か?」
私は頷く。よく見たら彼も頭から血を出している。何が起きたの? ゆっくり頭を動かそうとすると
「頭は動かすな! ……今はゆっくり呼吸を整えるんだ」
馨……。
「私は医者だ……と言っても産婦人科医だが、頭の傷口の止血はした。あとはどこか痛むところとか、変わった症状はないか」
……産婦人科医!!
「私のお腹の中に……赤ちゃん……」
「週数は? 何ヶ月と聞いた方がいいか……」
「六ヶ月……馨との子供なの」
彼は少し柔らかくお腹を触ってくれたが、痛みを感じる。下半身から何か温かいものが……彼も気付いてる。
「……大丈夫だ、救急車呼んである。優先してもらおう……他にも何人か怪我をしている」
怪我人の中にモリスは……。
あ、遠くからサイレン。
「大丈夫、大丈夫……」
彼の大きくて温かい手……赤い光が照らし出す。私の記憶はそこで途絶えた。
でも私はわかっていた。一瞬頭を動かした時に、誰かが、きっとこのお医者さんがかけてくれたコートの下から見えた大きな足。
馨だって。
それはもう動かなかった。
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