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第三十一話 トクさん……ファンミーティングが始まった

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 とうとうこの日がやってきてしまった。集合場所の道の駅にはバスが5台。一つあたり40人前後。200人ものオタクと四人のアイドル(プラス大野ちゃん)の大移動である。

 キンちゃんはすぐ美玲ちゃんのバスに乗った。わりぃわりぃと俺にジェスチャーしながらバスの前に待っていた美玲ちゃんの元へ。遠くからでもオーラが放たれていて、今日も可愛い。

 俺の班、ハナの班……。遠くから見てるとハナがウロウロしてるのがわかる。たく、間抜けな顔して……。
 あ、俺と目があった……手、手を振ってる……俺か? あ、俺だよな? と手を振る。可愛いところあるじゃねえか。

「ハナちゃーん」
 ん? と振り返るとあの背の高い医者、アガサが手を振ってた。こいつか?! 俺じゃなくて。
「アガサさぁん。こっちですよぉ」
 俺もいるんですけど気づかないんですか、あなたって人はっ!!!
 にしてもアガサ、今日もスーツなのか……。スーツに長身、ややイケメン、そりゃ目立つよな。

「あ、トクさんもぉ。はやくぅ」
 え、俺にも気付いてた? するとアガサが後ろからポンと俺の肩を叩いてきた。馴れ馴れしく触るな!
「あなたもハナちゃんのグループですね。よろしくお願いします。アガサと申します」
「はぁ、よろしくお願いします。トク……」
「トクさん、ですよね。さぁ、早く乗りましょう」



 そしてバスに乗り込むとほとんど席は埋まっていた。なんか異様な空気を感じる。
「あまり後ろは見ないほうがいいですよ」
 と、アガサが言う。偶然にも彼の横の席である。いい香りがする。他の男たちとは違う香り。コロンか? モテるためなのか? てか後ろを見てはいけない?
「なぜですか」
「他のメンバーの選考から落ちた方が多いんです。このグループ」
 俺はチラッと後ろを見ると、たしかに他のメンバーのタオルをぶら下げたり、美玲ちゃんや他のメンバーの列に並んでいる昔からの顔だけ知ってるファンが奥にドヨーンとした顔で座っていた。そんな顔するな、俺もはや1人……だ。
 そんなにハナのファンは少ないのか? 俺らは先頭の席なのだが、前の方は女の子グループと、男数名はどうやらハナのファンらしい。一応あるんだな、それなりに。
「あと一番後ろの隅にいるのはハナちゃんのお父さん」
「マスター!」
「ほら、あまりじろじろ見ないで」
 ハナのお父さん、と言うよりも僕にとっては喫茶店のマスターっていう印象だが……相変わらず無口。でも俺と目が合うと会釈してくれた。

 一応俺も美玲ちゃんグループから落ちた一人だが、とりあえずハナファンでもあるから今日はハナのタオルを首から下げている。

 しかし今着ているジャケットのボタンを外すと……美玲ちゃんのTシャツを着ているなんて……ああ、浮気者だな。

「はーい、皆様ー。こんにちはっ!!!」
 バスの中にハナの大きな声とキーンと大きな深い音が鳴り響く。
「すいません……」
 おい、マイクはもともと大きいから大きい声で話すとさらに大きくなるって分かってるだろ、ハナよ! あたふたしてるところが可愛いじゃないか……。はぁ。
 隣のアガサはフハハッて笑ってる。

「皆さんお集まりのようなので出発します! このたびは清流ガールズ第一回ファンミーティングバスツアーお越しくださり、誠にありがとうございますっ!」

 と明るいハナの声だが、このバスの中の半数以上はハナ以外のファンばかりである。なんだかノリが悪い。
「よっ、ハナちゃん!」
 見た目クールなアガサが声を上げる。
「ありがとうございますー! アガサさーん♪ もぉ、私のグループのみんな盛り上がってー」
 と膨れっ面になるハナ。可愛いなぁ……。
「やべっ、めっちゃ可愛い」
 と、アガサは横で小さく悶える。今までクールなスーツ野郎と思ってたが、こいつもこんなふうにニヤニヤするのか。
 目が合う。アガサはスッとクールな顔に戻る。……。

 パシャっ、パシャっ……

 後ろからシャッター音。気づくと俺の肩に大きなカメラレンズが当たる。振り向くと……マスター!!! 助手席座ってるし。
「常連くんよ、肩を貸してくれ。バスが揺れてブレてしまう。わたしの娘の晴れ姿を撮りたい」
「は、はい……」
 常連……俺はそんな呼び方か? ひたすらパシャパシャ撮りまくるマスター。
 そして隣のアガサは度々ニヤニヤして悶えてる。

 俺は熱心なハナファン二人に挟まれ、このバスツアー過ごすのかっ?!
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