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2年目
第十三話 トクさん…一年後
しおりを挟む「トクさんは変わらないね」
部屋も荷物のほとんどを売りに出してその金をライブ費用にし、物をあまり持たない生活にして部屋の中はとてもきれいにした。あのゴミ屋敷とはおさらばだ。
しかし一番のお気に入りのソファーにだらーんと横たわる幼馴染みのトオル。生意気なやつだっ! 相変わらず俺に絡んでくる。
「何が変わらないんだよっ、俺は変わった、いや、生まれ変わった」
「いや、変わらないよ。簡単に何かって言えないけどね」
なんじゃそりゃ! ……トオルは清流ガールズにはそこまでハマらなかったのだが、メンバーの名前とか歌とかはわかる、というか俺が教え込んだ。
「いや、ここの家に来るたびに彼女たちの番組とかラジオとか音楽流すから覚えちゃったんだよ」
一応、リーダーの大野ちゃん推しって事でたまにライブについて来る。お前きっかけでこうなってしまったのに……俺は。
「トクさんが来いっていうからついて行ってるんでしょ。まぁこっちはチケット代タダだし」
そうだ、俺が払ってやってる。少しでも人数多く集めて彼女たちを応援してやりたい。
が、在宅で清流ガールズ関連以外はどうも出不精になる俺には友達なんぞいない。親衛隊の仲間は友達でなくてあくまで同士だ。
「でも一年で結構あそこまで人気出て来た方だと思うよ? まぁ前から県外のファンもいたけど岐阜だけでなくて名古屋のイベントにも出てるんだろ? すっごいじゃん」
かなり上から目線が鼻につくが確かにそうである。
「最終的には全国区……とも言いたいが……まだまだ全国区は無理だろ」
彼女たちを広めたい反面、自分たちだけのものにしたいという変な矛盾もある。
「そうなんだ……まぁ確かにまだ歌とか踊りも格差あるし、美玲ちゃん、大野ちゃん頼みだよな。今度また一人辞めるし。新しい子もすぐ辞めたろ?」
「葉月ちゃんはしょうがない。ストーカー野郎め、これからだっていうのに……普通の高校生に戻っちまった。いや、あの子もあの子で隙があったんだよ」
「恵ちゃんなんてめっちゃこれが伸びて来ると思ったのに……そしたら大手の芸能プロダクションからの引き抜きで東京進出……踏んだり蹴ったりだよな」
ってトオルも俺と対等に話せるほどなんだが? なんだかんだで彼女たちが好きなんだろうな、そうだ、そういうことにしよう! パラパラと彼が今月の清流ガールズの発行する清流マガジンを読んでいる。県内で配られているフリー冊子だ。これはもはや有料にしてもいいくらいだろう。でもバックに大野ちゃんの事務所がいながらも、地元企業の広告が冊子の半数を占めている。地元があってこそのアイドルだ。
って、トオル? そのマガジンを握る左手薬指にはキラッと光るものが……。
「おい待て、いつのまにこんなもの……」
「あれ、気づかなかった? てか今日そのご報告にきたんですけど。なかなか話すタイミングなくて」
「誰だよ、相手……」
「あー、半年前にコンパで仲良くなった子」
顔とスタイルが良すぎるが結構女遊びも抜かりないトオルだったが、清流ガールズにそこまでハマらなかったのも浅く広くな彼の性格であったのだろう……って……。
「半年前……、てまさか!」
トオルはお腹の上でモコっとしたジェスチャーをする。
「できちゃいまして。多分しばらくライブ行けなくなるから、来週のライブの握手会で大野ちゃんに報告しなきゃなー」
まじかよ、トオルが父親になるのか? おい……あ、結婚か、デキ婚か……。てか暫くやってない、羨ましい……。いや、大野ちゃんとデレデレ話してたくせに、女とパコパコしとったんか、こいつは!
「トクさんも離婚して一年経ったわけだし、そろそろリアルな恋しないの?」
「してるに決まっとるやろ?」
「美玲ちゃんだろ、聞いた僕がバカでした。じゃあ、ご祝儀よろしくー」
一人残った部屋……テレビにはこの間録画したケーブルテレビでのレギュラー放送……美玲ちゃん、相変わらず可愛いなぁ。
ライブの時もすぐ俺を見つけて手を振ってくれるし、握手会の時にちゃんと目を見てくれるし、なんか少し照れてる顔もすっげぇいい。話をするのも楽しい、ちゃんと会話した内容も覚えてくれている。もちろん名前も覚えてくれているし、髪型変えるとすぐその変化に気付いてくれる。
体調悪くてライブに行けなかった時は
「大丈夫だった? トクさん」
と声をかけてくれた。その笑顔が特効薬だ。
……ああ、わかってるよ、もう。こんなの、恋じゃないって!
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