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一年目
第五話 トクさん……久しぶりの地上の空気
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ああああ、久しぶりにこんなに人が多いところに来るのは初めてすぎる。久しぶりの日光……。眩しい。
あ、地元のケーブルテレビ局のイベントだから知り合いは絶対いるはずだ! 会っては困るから帽子を深く被り、サングラスをかけ、マスクをつけた。
「たわけ! 不審者だろ、どう見ても」
「ああぁっ。外さんといて!」
何故かついてきたトオルがそれらを全て剥がされた。俺はすかさず両手で顔を隠す。
「トオル、なんで来たんや?」
「なんでって……清流ガールズ見にトクさん来ると思って。やっぱり、来た」
「なんで次のイベントが今日ここだと分かった?」
「あ? 番組で何度も告知あったからや」
……ああ、そいうことね。
「まぁ久しぶりの外かもしれんけども、ひどいな……髪の毛とかボッサボサだし、服もヨレヨレ。昔のお前はどうした」
俺はふとガラスの反射で映った自分の姿を見て愕然とした。とりあえずシャワーは浴びて髪の毛も体も洗い、部屋にあった服を着て、帽子かぶるから髪の毛はどうでもよかったし、ひげはある程度剃って……。
だが……俺の姿はたった数ヶ月で様変わりしていた。
顔色も悪い、頬骨が出てる……あ、これは前からか、こんなみっともなかったのか?
「……それが本当のトクさんの姿……じゃないのか? なんつって」
はっ? どういうことだ。
「いい大学出て、いい会社入って、いい服着て、いい嫁さん貰って。それらが全て剥がれ落ちて……まっさらになったんだよ」
俺は何も言い返せなかった。彼にはずっと所々で忠告を受けていた。調子に乗っていた俺に対して。もう幼稚園からの仲だ。唯一の友人だ。こんな俺の。
「まぁ、まっさらになったらそっからスタート、じゃねえのか? ……って、トクさん?」
トオルの忠告とカッコつけは大体セットであることはわかってるからそこはスルーして俺は会場に進むが、明らかに前列に同じ色の法被を着た人だかりができていた。
……ステージではキャラクターショーをやっている。それを彼らは大人しく座って見ているのだ。
「まだデビューしたてなのに、ファンもいるってすごいよなぁー。市外いや県外からも来ているらしい。でも今は子供たちに席を譲ってあげればいいのに。ねえ、トクさん」
「そうだよ、まったくだ。みっともない。それに同じ服着て、なんだあの法被は。若干他の客は距離を置いてるぞ……ああはなりたくないのだが。トオル氏」
「ファン全員が全員、ああではないよ。ほら、ちらほら後ろの方やハジによって見ている子もいるし。さりげなく団扇やタオルでファンてわかる。それぞれ応援する形は違う、あの法被軍団たちは悪くはないが、僕はさりげなく応援したいと思う」
「うぬ」
俺は生まれてこの方、特定のタレントを好きになったことがないからファン心理とかよくわからんが……。
それよりも俺は、はやく美玲ちゃんが見たい。そのためにここにやって来たんだ……。
キャラクターショーが終わり、子連れの客が席から離れた瞬間、待機してた控えめなファンがその空席に走りこんだ。
お前ら……。あ、俺も行きたかったのだが、さっきトオルの意見に賛同してしまったからなぁ。チラチラ、トオルがこっちを見てるし。
そういや男が多いから女のファンは大変そうだ。ほら、目の前に男どもの壁で背伸びを一生懸命している女がいる。それにむさ苦しいから近寄り難いだろう。俺は見かねて
「おい、あっちの方行ったほうがいいぞ。女子供多いから」
と言って声かけてみた。も少しかがめよ、男ども。クソが。俺も168センチで見えんのだ。その女は深々と頭を下げて移動した。清流ガールズの女の子たちとは似つかぬスタイルと容姿だな。胸はでかいけど。
「……トクさんは優しいよなぁー引きこもりだった割にはスマートにやるなぁ」
「別に。ファンたるもの、平等でなければならない。てか頭と頭の隙間から見れるか。まぁお前は背が高いから問題ないだろうけども」
「声だけでも聞ければそれでいいんじゃない、トクさんは」
トオルは180センチだからお前は余裕だろ。俺は頭と頭の隙間から見えるステージ……。
すると、急に腕を掴まれる。
「うわっ!!!」
泥棒か?! 俺はその掴まれた手を握り返す。
「痛え! ……お前、こっちにこい」
俺よりもチビ、そしてあの法被を着てる。誰だこいつ?! こいつも清流ガールズのファンなのか?!
「君だけでも来てくれんか? 親衛隊が一人足りない。前で法被着てくれないか?」
「は? 親衛隊?」
「いいから、いいから!」
トオルは行ってこいと言ってるが……法被? 親衛隊? なんだそれは!!!
「チビなお前には好条件だぞ!」
「るっせぇ!!!」
人混みをかき分け、さっきまで俺が馬鹿にしていた法被軍団……ならぬ清流ガールズの親衛隊の元へ一気に連れて行かれた。
そしてさらに前に押されて最前列?! あっという間にあの法被を着させられて手にはペンライト?! 昼間なのにペンライトの意味は?!
「君、僕と同じくチビだから最前だ」
「初対面でチビとはなんだ?! 俺の方がまだでかい。見た感じは150センチ台か……それに俺はこんなの着たくない!」
「いいからいいから、きてください」
初対面でdisが激しめな俺だが、それにもめげすに法被を着させるさらにチビな男。こんなダサいの誰が着るか?! 脱ぎかけたときだった。
『次は清流ガールズのライブです!!!』
のナレーションと共に客席から歓声が。親衛隊もすごい盛り上がり……。男の低い声がどどーん! と響く。異様だが漫才の出囃子のようでもある。なぜかそう感じてしまった。しかしそんな場合ではない。
「とりあえず僕の動き見て踊ってくれ。あとは楽しむだけだ!」
は? とリアクションとる前にステージには……美玲ちゃん!!! と、仲間たち!
すげぇ、すげぇ!!! めっちゃ間近!!あ、スカートからチラッと……ああああああああ!!!
俺は理性を失った。
あ、地元のケーブルテレビ局のイベントだから知り合いは絶対いるはずだ! 会っては困るから帽子を深く被り、サングラスをかけ、マスクをつけた。
「たわけ! 不審者だろ、どう見ても」
「ああぁっ。外さんといて!」
何故かついてきたトオルがそれらを全て剥がされた。俺はすかさず両手で顔を隠す。
「トオル、なんで来たんや?」
「なんでって……清流ガールズ見にトクさん来ると思って。やっぱり、来た」
「なんで次のイベントが今日ここだと分かった?」
「あ? 番組で何度も告知あったからや」
……ああ、そいうことね。
「まぁ久しぶりの外かもしれんけども、ひどいな……髪の毛とかボッサボサだし、服もヨレヨレ。昔のお前はどうした」
俺はふとガラスの反射で映った自分の姿を見て愕然とした。とりあえずシャワーは浴びて髪の毛も体も洗い、部屋にあった服を着て、帽子かぶるから髪の毛はどうでもよかったし、ひげはある程度剃って……。
だが……俺の姿はたった数ヶ月で様変わりしていた。
顔色も悪い、頬骨が出てる……あ、これは前からか、こんなみっともなかったのか?
「……それが本当のトクさんの姿……じゃないのか? なんつって」
はっ? どういうことだ。
「いい大学出て、いい会社入って、いい服着て、いい嫁さん貰って。それらが全て剥がれ落ちて……まっさらになったんだよ」
俺は何も言い返せなかった。彼にはずっと所々で忠告を受けていた。調子に乗っていた俺に対して。もう幼稚園からの仲だ。唯一の友人だ。こんな俺の。
「まぁ、まっさらになったらそっからスタート、じゃねえのか? ……って、トクさん?」
トオルの忠告とカッコつけは大体セットであることはわかってるからそこはスルーして俺は会場に進むが、明らかに前列に同じ色の法被を着た人だかりができていた。
……ステージではキャラクターショーをやっている。それを彼らは大人しく座って見ているのだ。
「まだデビューしたてなのに、ファンもいるってすごいよなぁー。市外いや県外からも来ているらしい。でも今は子供たちに席を譲ってあげればいいのに。ねえ、トクさん」
「そうだよ、まったくだ。みっともない。それに同じ服着て、なんだあの法被は。若干他の客は距離を置いてるぞ……ああはなりたくないのだが。トオル氏」
「ファン全員が全員、ああではないよ。ほら、ちらほら後ろの方やハジによって見ている子もいるし。さりげなく団扇やタオルでファンてわかる。それぞれ応援する形は違う、あの法被軍団たちは悪くはないが、僕はさりげなく応援したいと思う」
「うぬ」
俺は生まれてこの方、特定のタレントを好きになったことがないからファン心理とかよくわからんが……。
それよりも俺は、はやく美玲ちゃんが見たい。そのためにここにやって来たんだ……。
キャラクターショーが終わり、子連れの客が席から離れた瞬間、待機してた控えめなファンがその空席に走りこんだ。
お前ら……。あ、俺も行きたかったのだが、さっきトオルの意見に賛同してしまったからなぁ。チラチラ、トオルがこっちを見てるし。
そういや男が多いから女のファンは大変そうだ。ほら、目の前に男どもの壁で背伸びを一生懸命している女がいる。それにむさ苦しいから近寄り難いだろう。俺は見かねて
「おい、あっちの方行ったほうがいいぞ。女子供多いから」
と言って声かけてみた。も少しかがめよ、男ども。クソが。俺も168センチで見えんのだ。その女は深々と頭を下げて移動した。清流ガールズの女の子たちとは似つかぬスタイルと容姿だな。胸はでかいけど。
「……トクさんは優しいよなぁー引きこもりだった割にはスマートにやるなぁ」
「別に。ファンたるもの、平等でなければならない。てか頭と頭の隙間から見れるか。まぁお前は背が高いから問題ないだろうけども」
「声だけでも聞ければそれでいいんじゃない、トクさんは」
トオルは180センチだからお前は余裕だろ。俺は頭と頭の隙間から見えるステージ……。
すると、急に腕を掴まれる。
「うわっ!!!」
泥棒か?! 俺はその掴まれた手を握り返す。
「痛え! ……お前、こっちにこい」
俺よりもチビ、そしてあの法被を着てる。誰だこいつ?! こいつも清流ガールズのファンなのか?!
「君だけでも来てくれんか? 親衛隊が一人足りない。前で法被着てくれないか?」
「は? 親衛隊?」
「いいから、いいから!」
トオルは行ってこいと言ってるが……法被? 親衛隊? なんだそれは!!!
「チビなお前には好条件だぞ!」
「るっせぇ!!!」
人混みをかき分け、さっきまで俺が馬鹿にしていた法被軍団……ならぬ清流ガールズの親衛隊の元へ一気に連れて行かれた。
そしてさらに前に押されて最前列?! あっという間にあの法被を着させられて手にはペンライト?! 昼間なのにペンライトの意味は?!
「君、僕と同じくチビだから最前だ」
「初対面でチビとはなんだ?! 俺の方がまだでかい。見た感じは150センチ台か……それに俺はこんなの着たくない!」
「いいからいいから、きてください」
初対面でdisが激しめな俺だが、それにもめげすに法被を着させるさらにチビな男。こんなダサいの誰が着るか?! 脱ぎかけたときだった。
『次は清流ガールズのライブです!!!』
のナレーションと共に客席から歓声が。親衛隊もすごい盛り上がり……。男の低い声がどどーん! と響く。異様だが漫才の出囃子のようでもある。なぜかそう感じてしまった。しかしそんな場合ではない。
「とりあえず僕の動き見て踊ってくれ。あとは楽しむだけだ!」
は? とリアクションとる前にステージには……美玲ちゃん!!! と、仲間たち!
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俺は理性を失った。
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