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第九章 発覚
第四十九話
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餃子をホットプレートで焼く音。サラダも丁寧に盛り付けられ四人分の食器セット。
「藍里ちゃん、サラダね清太郎くんが切って盛り付けてくれたんだよ」
確かに少し荒いがサラダの載せ方がいつもと同じだと気づく。早速教えてもらったんだなぁと。
「見た目は良くないかもだけどね」
「何言う、食べれば同じなんだから」
「そっすかね。弁当屋で働いてるくせに」
「いやいや手を抜くとこは抜かないとさー」
清太郎と時雨は笑ってる。なんだかんだで2人は仲良くできそうかも、と藍里は見ていた。
すると部屋に閉じこもっていたさくらもやってきた。
時雨がさくらの椅子を引いてどうぞ、と。さくらはありがとう、と微笑む。
「さーてさてさて、4人いるから弱肉強食だからね」
さっきまでの雰囲気とは変わってさくらはニヤリと笑った。
弱肉強食、藍里は思い出した。また子供の頃を。料理やお菓子など家族で食べる時はきっちり人数分で分ける。それは兄弟がいた綾人はとてもこだわっていた。
『きっちりわけろ。さくら、おまえは一人っ子だからさぁ。わからねぇだろ。藍里もワガママの規律のわからない娘だと言われたらどうするんだ!』
と言う綾人のセリフ。一人っ子イコールわがまま、規律を乱す、そうなの? と藍里は子供ながらに思っていた。
本当はもっと食べたい、でも一人一人量はしっかり守らないと。怒られてしまう……さくらと2人きりの時に2人で買って食べたお菓子。包装紙の一部が落ちていたのを見た綾人が
『お父さんの分は? お父さんが汗水垂らしてる時に呑気にお菓子食べてるのか。ずるいなぁ、藍里はもっと考える子にならないと。じゃ無いとお母さんみたいな空気の読めない女って言われて結婚できないぞ』
と言われてから何かおやつをもらった時には頑なに綾人の分を残していた。
それを渡すと
『えらいぞぉ、藍里』
と綾人に褒められた。でもその横にいたさくらの顔はとても暗かった。
でも今のさくらの顔はとてもイキイキしている。さっきはヒヤッとしていたが時雨といる時の顔はやはり良い。
「弱肉強食とか言いつつもちゃんとみんなが満足できる分作ってますから。はい、遠慮せず。ほれっ」
と時雨は藍里の更に焼き上がった餃子をヘラを使って乗せる。いい匂いが漂う。
「よくもまぁ1人でこんな量作ったわよね」
さくらも感心する。よくよく考えれば藍里はさくらが包んだ餃子は食べた記憶がなく、冷凍物を焼いたものだったのを思い出す。それはそれで美味しかったのだが。
「ん? なんか皮から作りたくなって無心になって黙々とやってたらこんなにね。タネが切れて一部はチーズ入りもある」
無心になってやっていたのはまたきっと色々考えてしまった時に料理に集中すると忘れられるという時雨の性質である。
さくらはわかっているのだろうか……。
「えっ、チーズどれどれ」
「あ、それはキムチチーズね」
「うっまそー」
清太郎はキムチチーズ入り餃子を時雨から分けてもらってすぐ口の中に入れて美味しいっとホクホク顔。
さくらも私も私も、と同じものを求める。時雨はニコニコしながら皿に乗せる。
藍里は手をつけないでその様子を見ていた。
「藍里ちゃん、食べな。焼けてるからどんどん食べないと」
「……時雨くんは食べないの?」
「もちろん食べるけど僕はみんなにまず食べてもらいたいんだ」
「でも作った本人が焦げたもの食べても……先に食べたほうがいいよ」
藍里がそういうとさくらはハッとする。藍里が過去の綾人の教えを守ってしまっているんだと。
「……藍里、別に……」
「大丈夫。僕はこれでいい。みんなが美味しいって言う顔を見ながら食べるのが好き」
時雨はそう笑った。
「みんながそれぞれのスタイルで食べればいいよ。俺が一番に食べるんだ、とか均等に分けろとかあるよね。それはそれでいい。僕はそれに従う。藍里ちゃんは気を遣ってくれたんだね、優しい子だ。そうやって教えてくれた人も悪くはないんだよ。そういうふうに考える人もいるんだって考える機会を与えてくれた。経験もできた。僕はずーっと似たような環境にいたからさ。人から聞くくらいしかないもん」
藍里は綾人のことを思い出した。確かに高圧的なところもあった。さくらにも酷いことを言っていた。
だが台本読みを手伝ってくれたり、撮影のポージングも研究してくれたり、さくらではカバーできない体力のいる遊びもしてくれた。
藍里はさくらを見る。さくらは微笑んだ。
「藍里、今、あなたは均等に食べたかったらそれでいいし、好きなだけ食べたかったらそれでいい。てか、早く食べないと焦げる!」
とさくらが箸でプレートの上に乗っているやや焦げた餃子を大きめの皿に移した。
「あああ、そっちに移そうか。その間に藍里ちゃんと清太郎くん食べてて!」
と時雨とさくらで餃子をプレートからお皿に移す。あたふたしながらも笑い合って。
「食べろ食べろ。てか俺のキムチ餃子やるわ」
清太郎は口の中に入れつつも藍里の皿に乗せていく。藍里は頷いた。
「ありがとう。あっ、私その熱々の食べたい!」
「いいぞ! 食べてっ!」
「あっ、俺も!」
「わたしもー!!」
4人はたらふくになるまで餃子を食べた。
「藍里ちゃん、サラダね清太郎くんが切って盛り付けてくれたんだよ」
確かに少し荒いがサラダの載せ方がいつもと同じだと気づく。早速教えてもらったんだなぁと。
「見た目は良くないかもだけどね」
「何言う、食べれば同じなんだから」
「そっすかね。弁当屋で働いてるくせに」
「いやいや手を抜くとこは抜かないとさー」
清太郎と時雨は笑ってる。なんだかんだで2人は仲良くできそうかも、と藍里は見ていた。
すると部屋に閉じこもっていたさくらもやってきた。
時雨がさくらの椅子を引いてどうぞ、と。さくらはありがとう、と微笑む。
「さーてさてさて、4人いるから弱肉強食だからね」
さっきまでの雰囲気とは変わってさくらはニヤリと笑った。
弱肉強食、藍里は思い出した。また子供の頃を。料理やお菓子など家族で食べる時はきっちり人数分で分ける。それは兄弟がいた綾人はとてもこだわっていた。
『きっちりわけろ。さくら、おまえは一人っ子だからさぁ。わからねぇだろ。藍里もワガママの規律のわからない娘だと言われたらどうするんだ!』
と言う綾人のセリフ。一人っ子イコールわがまま、規律を乱す、そうなの? と藍里は子供ながらに思っていた。
本当はもっと食べたい、でも一人一人量はしっかり守らないと。怒られてしまう……さくらと2人きりの時に2人で買って食べたお菓子。包装紙の一部が落ちていたのを見た綾人が
『お父さんの分は? お父さんが汗水垂らしてる時に呑気にお菓子食べてるのか。ずるいなぁ、藍里はもっと考える子にならないと。じゃ無いとお母さんみたいな空気の読めない女って言われて結婚できないぞ』
と言われてから何かおやつをもらった時には頑なに綾人の分を残していた。
それを渡すと
『えらいぞぉ、藍里』
と綾人に褒められた。でもその横にいたさくらの顔はとても暗かった。
でも今のさくらの顔はとてもイキイキしている。さっきはヒヤッとしていたが時雨といる時の顔はやはり良い。
「弱肉強食とか言いつつもちゃんとみんなが満足できる分作ってますから。はい、遠慮せず。ほれっ」
と時雨は藍里の更に焼き上がった餃子をヘラを使って乗せる。いい匂いが漂う。
「よくもまぁ1人でこんな量作ったわよね」
さくらも感心する。よくよく考えれば藍里はさくらが包んだ餃子は食べた記憶がなく、冷凍物を焼いたものだったのを思い出す。それはそれで美味しかったのだが。
「ん? なんか皮から作りたくなって無心になって黙々とやってたらこんなにね。タネが切れて一部はチーズ入りもある」
無心になってやっていたのはまたきっと色々考えてしまった時に料理に集中すると忘れられるという時雨の性質である。
さくらはわかっているのだろうか……。
「えっ、チーズどれどれ」
「あ、それはキムチチーズね」
「うっまそー」
清太郎はキムチチーズ入り餃子を時雨から分けてもらってすぐ口の中に入れて美味しいっとホクホク顔。
さくらも私も私も、と同じものを求める。時雨はニコニコしながら皿に乗せる。
藍里は手をつけないでその様子を見ていた。
「藍里ちゃん、食べな。焼けてるからどんどん食べないと」
「……時雨くんは食べないの?」
「もちろん食べるけど僕はみんなにまず食べてもらいたいんだ」
「でも作った本人が焦げたもの食べても……先に食べたほうがいいよ」
藍里がそういうとさくらはハッとする。藍里が過去の綾人の教えを守ってしまっているんだと。
「……藍里、別に……」
「大丈夫。僕はこれでいい。みんなが美味しいって言う顔を見ながら食べるのが好き」
時雨はそう笑った。
「みんながそれぞれのスタイルで食べればいいよ。俺が一番に食べるんだ、とか均等に分けろとかあるよね。それはそれでいい。僕はそれに従う。藍里ちゃんは気を遣ってくれたんだね、優しい子だ。そうやって教えてくれた人も悪くはないんだよ。そういうふうに考える人もいるんだって考える機会を与えてくれた。経験もできた。僕はずーっと似たような環境にいたからさ。人から聞くくらいしかないもん」
藍里は綾人のことを思い出した。確かに高圧的なところもあった。さくらにも酷いことを言っていた。
だが台本読みを手伝ってくれたり、撮影のポージングも研究してくれたり、さくらではカバーできない体力のいる遊びもしてくれた。
藍里はさくらを見る。さくらは微笑んだ。
「藍里、今、あなたは均等に食べたかったらそれでいいし、好きなだけ食べたかったらそれでいい。てか、早く食べないと焦げる!」
とさくらが箸でプレートの上に乗っているやや焦げた餃子を大きめの皿に移した。
「あああ、そっちに移そうか。その間に藍里ちゃんと清太郎くん食べてて!」
と時雨とさくらで餃子をプレートからお皿に移す。あたふたしながらも笑い合って。
「食べろ食べろ。てか俺のキムチ餃子やるわ」
清太郎は口の中に入れつつも藍里の皿に乗せていく。藍里は頷いた。
「ありがとう。あっ、私その熱々の食べたい!」
「いいぞ! 食べてっ!」
「あっ、俺も!」
「わたしもー!!」
4人はたらふくになるまで餃子を食べた。
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