43 / 59
第八章 決めた!
第四十三話
しおりを挟む
突然のことに藍里は離れた。
「バカ」
「……ごめん、つい」
「ついじゃないでしょ」
二人は再び距離を縮める。手を握る。
「今日はここまでだよ」
「すまなかった。でも手はいいんだな」
藍里は頷いた。清太郎はぎゅっと握った。
「あのさ、おじさんが……あの話したのは初めてだけどな。おじさんのお姉さんは自殺したって言ってた。げっそり痩せて帰ってきたってのは死に顔がそうだったらしい」
「……帰ってきた時はもう亡くなってたの?」
「だってよ。俺が生まれる前のことだから母さんも見たことあったらしいけど……こき使われて耐えきれずに自殺、荼毘にされずに田舎に遺体をじいちゃんたちが持って帰ってきたらしい」
「……そんなひどい」
「だから俺は母ちゃんに昔から俺に好きな女を泣かすな、酷いことするな、優しくしろ、守れってどれだけ言われたことか」
だからか、清太郎の優しさは、と藍里は思った。
「さくらさんには時雨さんがいるし、お前には俺がいる。だからもう怖くない。逃げなくていい。辛い思いした人が逃げなくてもいい」
そう清太郎が言うと藍里は抱きしめた。
「手、繋ぐだけじゃなかったのか?」
「なんとなくね。てか、清太郎もお母さんたちが嫌で逃げてきたくせに。子供の頃からお母さんやお姉さんたちに女は大事しろ、とかってさ……そう押さえつけられてて嫌だったんでしょ、辛かったんでしょ……」
「……」
清太郎は図星で声が出なかった。ぎゅっと藍里は抱きしめると清太郎も抱きしめた。
そしてベッドにそのまま倒れ込み、二人は見つめあった。藍里は時雨との抱擁とは違ったものを感じた。匂いも感触も違う。
清太郎の目は涙で潤んでいた。藍里も涙がでる。
そしてキスを再び……。
「おーい、藍里ちゃん。清太郎くんー」
階下から時雨の声がした。二人はハッとした。
「時雨くん、若い子たちが二人でおるのに邪魔したらいけないよ」
と一緒に里枝の声もした。かなりでかい声。時雨が何か言ってはいるが聞こえない。
藍里と清太郎は笑った。そして、改めてキスをした。
休憩時間いっぱいまで二人で抱き合って何度もキスして見つめあった。
「子供の頃さ、一緒に寝たの覚えてるか」
「うん、てかよくある幼馴染エピソード」
「かなぁ。藍里といるときが一番落ち着いた」
「わたしも、清太郎といる時が一番落ち着いた……」
「てかなんか……これまでに彼氏いたのか」
藍里はドキッとした。もちろんいなかったがその前には時雨に抱きしめてもらった、それくらいだがそれはカウントされないだろうかとヒヤヒヤした。
「いないよ、てか清太郎は? なんかやけに手慣れてる」
「手慣れてるって……いねぇよ。漫画とかドラマとかそういうやつ」
「そういうやつって、やっぱり見てるんだ」
「……悪いか、ちゃんと健全なやつ」
「健全なやつって何よー」
と茶化す藍里の唇を清太郎が唇で塞ぐ。何度も口づけをする。鼓動が重なり合う。
「もう、下に行こう……」
「……だな」
「恥ずかしいね、降りるの」
「藍里から降りろ」
「……うん」
ともう一度キスをして抱きしめあった。
案の定、藍里が階段から降りると時雨はいつも以上に忙しなく動いていた。
悩み事や考え事があるときは動いてた方が楽だ、それを言っていたのを思い出した藍里。隣では里枝夫婦たちがにこやかに待ってた。
「ほれ、準備して。さくらさんいないから藍里ちゃんが今度レジしなきゃ」
「はぁい」
と髪の毛を束ねてエプロンを着た。時雨は少し寂しげな顔をしていたが仕込みに集中していた。
「私、表立ってくるね」
「おや、どうしたの」
「まだ惣菜残ってるんでしょ。外で出してくる……清太郎ーっ、清太郎ー」
藍里が清太郎を呼ぶ。遅れて降りてきた清太郎。少しドキドキが残ってはいる。時雨が清太郎を見ている。
「どうしたんだよ、藍里」
「清太郎、外で惣菜出して売りたいの」
「えっ……」
今まで藍里は店の中でレジをしていた、さくらに言われた通りに中で仕事をしていた。
藍里は決めたのだ。もう逃げる必要はない、中に閉じこもってはいけないと。
「藍里ちゃん、いいのか……」
時雨も心配している。が、里枝と里枝の夫は頷いた。
「じゃあ出すかね、いい案じゃない。藍里ちゃん。せいちゃん、手伝って!」
「は、はい!」
藍里は店の外に出た。深く息を吸った。清太郎が横に立つ。
隣に清太郎がいるから大丈夫、と。
「はい、これも売ってよ。店長さんが材料残ったってつくりました」
大学芋を時雨は持ってきた。
「あ、これ美味しいやつー」
「まじか?」
「うん、あ……いらっしゃいませ!」
時雨は店内から見守るか、と中に入っていった。
「バカ」
「……ごめん、つい」
「ついじゃないでしょ」
二人は再び距離を縮める。手を握る。
「今日はここまでだよ」
「すまなかった。でも手はいいんだな」
藍里は頷いた。清太郎はぎゅっと握った。
「あのさ、おじさんが……あの話したのは初めてだけどな。おじさんのお姉さんは自殺したって言ってた。げっそり痩せて帰ってきたってのは死に顔がそうだったらしい」
「……帰ってきた時はもう亡くなってたの?」
「だってよ。俺が生まれる前のことだから母さんも見たことあったらしいけど……こき使われて耐えきれずに自殺、荼毘にされずに田舎に遺体をじいちゃんたちが持って帰ってきたらしい」
「……そんなひどい」
「だから俺は母ちゃんに昔から俺に好きな女を泣かすな、酷いことするな、優しくしろ、守れってどれだけ言われたことか」
だからか、清太郎の優しさは、と藍里は思った。
「さくらさんには時雨さんがいるし、お前には俺がいる。だからもう怖くない。逃げなくていい。辛い思いした人が逃げなくてもいい」
そう清太郎が言うと藍里は抱きしめた。
「手、繋ぐだけじゃなかったのか?」
「なんとなくね。てか、清太郎もお母さんたちが嫌で逃げてきたくせに。子供の頃からお母さんやお姉さんたちに女は大事しろ、とかってさ……そう押さえつけられてて嫌だったんでしょ、辛かったんでしょ……」
「……」
清太郎は図星で声が出なかった。ぎゅっと藍里は抱きしめると清太郎も抱きしめた。
そしてベッドにそのまま倒れ込み、二人は見つめあった。藍里は時雨との抱擁とは違ったものを感じた。匂いも感触も違う。
清太郎の目は涙で潤んでいた。藍里も涙がでる。
そしてキスを再び……。
「おーい、藍里ちゃん。清太郎くんー」
階下から時雨の声がした。二人はハッとした。
「時雨くん、若い子たちが二人でおるのに邪魔したらいけないよ」
と一緒に里枝の声もした。かなりでかい声。時雨が何か言ってはいるが聞こえない。
藍里と清太郎は笑った。そして、改めてキスをした。
休憩時間いっぱいまで二人で抱き合って何度もキスして見つめあった。
「子供の頃さ、一緒に寝たの覚えてるか」
「うん、てかよくある幼馴染エピソード」
「かなぁ。藍里といるときが一番落ち着いた」
「わたしも、清太郎といる時が一番落ち着いた……」
「てかなんか……これまでに彼氏いたのか」
藍里はドキッとした。もちろんいなかったがその前には時雨に抱きしめてもらった、それくらいだがそれはカウントされないだろうかとヒヤヒヤした。
「いないよ、てか清太郎は? なんかやけに手慣れてる」
「手慣れてるって……いねぇよ。漫画とかドラマとかそういうやつ」
「そういうやつって、やっぱり見てるんだ」
「……悪いか、ちゃんと健全なやつ」
「健全なやつって何よー」
と茶化す藍里の唇を清太郎が唇で塞ぐ。何度も口づけをする。鼓動が重なり合う。
「もう、下に行こう……」
「……だな」
「恥ずかしいね、降りるの」
「藍里から降りろ」
「……うん」
ともう一度キスをして抱きしめあった。
案の定、藍里が階段から降りると時雨はいつも以上に忙しなく動いていた。
悩み事や考え事があるときは動いてた方が楽だ、それを言っていたのを思い出した藍里。隣では里枝夫婦たちがにこやかに待ってた。
「ほれ、準備して。さくらさんいないから藍里ちゃんが今度レジしなきゃ」
「はぁい」
と髪の毛を束ねてエプロンを着た。時雨は少し寂しげな顔をしていたが仕込みに集中していた。
「私、表立ってくるね」
「おや、どうしたの」
「まだ惣菜残ってるんでしょ。外で出してくる……清太郎ーっ、清太郎ー」
藍里が清太郎を呼ぶ。遅れて降りてきた清太郎。少しドキドキが残ってはいる。時雨が清太郎を見ている。
「どうしたんだよ、藍里」
「清太郎、外で惣菜出して売りたいの」
「えっ……」
今まで藍里は店の中でレジをしていた、さくらに言われた通りに中で仕事をしていた。
藍里は決めたのだ。もう逃げる必要はない、中に閉じこもってはいけないと。
「藍里ちゃん、いいのか……」
時雨も心配している。が、里枝と里枝の夫は頷いた。
「じゃあ出すかね、いい案じゃない。藍里ちゃん。せいちゃん、手伝って!」
「は、はい!」
藍里は店の外に出た。深く息を吸った。清太郎が横に立つ。
隣に清太郎がいるから大丈夫、と。
「はい、これも売ってよ。店長さんが材料残ったってつくりました」
大学芋を時雨は持ってきた。
「あ、これ美味しいやつー」
「まじか?」
「うん、あ……いらっしゃいませ!」
時雨は店内から見守るか、と中に入っていった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと訳ありご当地アイドルな私とさらに訳あり過ぎなアイドルヲタな俺の話
麻木香豆
恋愛
引きこもりなトクさんはとある日、地方アイドルを好きになる。
そしてそんなアイドルも少し訳ありだけど彼女の夢のために努力している!
そんな二人が交互に繰り広げるラブコメ。
以前公開していた作品を改題しました
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる