恋の味ってどんなの?

麻木香豆

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第七章 母の秘密と私の秘密

第三十七話

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 放課後、清太郎の弁当屋に行く藍里。夕方は残ったおかずを惣菜品として出して販売している。清太郎は主に平日の夕方、土日で働いている。店にはとある夫婦がいた。
「せいちゃんおかえり、おや……藍里ちゃん。大丈夫だったかね」
 清太郎の母の姉、つまり叔母の里枝であった。藍里はやはり何度見ても清太郎の母に似ていると思いつつも里枝の方が丸くて穏やかそうに見えた。
 学校に行く際に店で働く姿を見てはいたがこうまじまじと対面するのは藍里は初めてだった。

「はい。先日はデザートありがとうございました。母も喜んでました」
「そーかねっ。礼はええよ。てかどうしたの? やっぱ2人はそういう仲なん」
「いや、その……」
 と藍里は清太郎につんつんと人差し指で突っつく。

「あのさ、こないだ紹介した人ともう1人藍里もここで働かせてほしいなぁって」
 藍里もペコペコする。すると清掃作業していた里枝の夫がやってきた。

「ほぉ、この子が清太郎の幼なじみの子か。どえりゃーべっぴんさんやな。……ここで働きたいんか」
「は、はい……」
「料理はできるかい」
「……できないです」
 藍里はダメかぁと少しがっかりする。やはり時雨に料理を教えてもらうべきか。

「こういう可愛い子いるだけでも客は増えるでなぁ。よかったらレジやってくれるとありがたいよ」
 里枝はニコッと笑った。藍里はすぐには採用されないものと思っていてびっくりした。清太郎もよかったよかったと喜ぶ。

「でもこんなべっぴんさんを小さな弁当や 屋で働かせてもいいのかねぇ。せいちゃんや姉ちゃんからも聞いてるけど元々子役さんなんやろ」
「……いえ、働かせていただけてもらえるのだけでもありがたいですし。あ、子役はだいぶ前に辞めました」
「もっと大きなチェーン店とか素敵な舞台で全面に出てる仕事が向いてると思うわよー」
 藍里はその大きなチェーン店のファミレスでクビになったんだよなぁと清太郎を見て苦笑いする。働けるなら……だがさくらにはレジとか前に出て働く仕事はやめなさいとは言われていたがそう贅沢は言えない。
 綾人だって仕事が忙しいし追うこともしないだろう。
 でもさくらにはまだ怖いという気持ちがあるのだろう。

「レジ以外で何か仕事はありますか」
 ついでに、という形で藍里は聞いてみた。すると里枝は首を横に振る。

「まぁこうして父さんみたいに掃除とかはしてもらえるとありがたいけど調理は私と数人のパートさん、そしてあの……梅か昆布かなんだっけ」
「時雨さん、廿原時雨さん。ひどいよおばちゃん。名前間違えんなよ」
 清太郎がツッコむ。藍里はつい笑ってしまった。
「おにぎりの具みたいなお名前だからついね、職業柄。時雨さんは板前さんだったからわたしと父ちゃん、時雨さんの3人メインでやっていこうかなという感じだから。まぁーあと1人くらいいるともっと楽に回せるけど。あとレジが固定しているだけでも本当に助かるわ」
 レジは人が足りない時に入ったことはあるのだがほとんど裏方だった藍里。
 いきなりレジで仕事をするのは大丈夫なのか、さくらは許してくれるのだろうか。こないだ倒れた時もフロアで働いていたことに対してあまり良く思われなかった。

「あとね、これも聞いとるけど……何かあったらわたしたちが守ったるで。いつまでも逃げてちゃあかん」
 里枝は藍里の手をギュッと握った。とても暖かく、強く。

「なーんかあったらうちの父ちゃんは柔道有段者だから、安心しな!」
 と、後ろで里枝の夫が力こぶを見せた。藍里はまた笑った。

「まぁ2人とも変わった人だけど優しいし、不安だったら時雨さんも俺もおるで」
「変わった人とはなんなん。あんたの母さんと姉さんの方よりかはマシやけどね」
「……まぁな」
「藍里ちゃん、せいちゃんはあの2人が嫌だからここから通ってるんよ」
「言うな、おばちゃん」
「事実やろ」
「はい……」
 清太郎は俯く。たしかに強烈な母親とドSな姉に清太郎は抑えられていたイメージはあった。
 その理由は全く藍里は聞いていなかった。東京の大学に進学するのもきっと母親と姉から遠ざかるためなのか? と察した。

「じゃあ明日夕方から働いてもらうけど……体調はどうかね」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「じゃあいろいろと書いてもらうものあるからね、小さい店だけど。時雨さんは来週から働いてくれるみたいだから賑やかになるわねー」

 藍里はほっと一安心した。清太郎を見ると彼もホッとしたのか微笑んだ。

 すると藍里のスマートフォンの着信がなった。メールである。
「あ、ママから……今どこ、って。もしかして」
「前のバイト先か?」
「たぶんママと一緒に行かなきゃ」
「まぁ無理すんなよ」
 藍里は頷き、店を後にした。残った清太郎は里枝たちに小突かれる。

「可愛い子じゃないノォ。早くしないと取られちゃうわよ。ほら紹介してくれた時雨くん、優しそうな子だったから……ってかなり歳離れてるけど、藍里ちゃんみたいな境遇な子は優しい人に優しくされるといくら歳が離れててもフラーっと行っちゃうからね」
 清太郎は里枝たちには時雨が藍里の母の恋人であることと一緒に暮らしているのは言っていなかった。

「そ、そんなことないやろ」
「ありえるの。父さんだってわたしより10離れてるでしょ。うち親が今で言う毒親でね。父さんが優しくって16だった私はフラーっと、あら藍里ちゃんと同じくらいの歳の頃だわーイヤーン」
 勝手に暴走するところが清太郎の母に似てると清太郎は思った。だが確かに時雨と一緒にいることが多い藍里。
 もしかして、と考えてしまう。だがそれは違うと思いながら部屋に入っていった。
「せいちゃーん、あんたのお母さんからまた電話来たけどちゃんと電話しなさいよー」
「はーい」
 清太郎はため息をついた。

「はよこの家からも出たい……」
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