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第七章 母の秘密と私の秘密
第三十六話
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「まぁまたお母様と連絡ついたら電話しますが……その前にもうオーナーさんからバイトの連絡も来ると思いますしね、制服を早いうちに返しにいってください。お母様は本当にお仕事お忙しいようで」
とニヤッと担任は笑って部屋を出て行った。
「……最悪だ、あの野郎」
二人きりになった美術準備室。藍里にティッシュを渡して背中をさする清太郎。
「ごめんね、宮部くん。私のせいで」
「お前は謝る必要はない、辛いだろ」
「もうわけわかんない、バイトは首になるし、なんか宮部くんは怒ってるし、先生も。それに住むところがなくなるって?」
「あいつのせいだ。こんな時に!」
藍里は鼻を啜りながら清太郎の腕を掴む。顔はなるべく見せないようにしてる。
「ママ……ママがなんなの? ママの仕事ってなんなの? 宮部くんは知ってるの?」
清太郎は口籠った。
「ねぇ、知ってるの? ねえっ……」
「知らないんだよな、なぁ」
「うん」
「本人から聞くか?」
「……うん。時雨くんも知らないって」
「マジかよ」
「知らないのに付き合ってるのか……てっきり知ってるかと」
清太郎は驚いていた。藍里はよくわからない。さくらの仕事先の名前を思い出そうとするが思い出せない。でも聞いたことのない名前。
「仕事どうしよう……」
「おばさんに聞いて弁当屋の仕事やるか?」
藍里は首を横に振る。
「私、足手まといだったんだもんね。理生先輩とかパートのおばさんとか大丈夫大丈夫とか言ってたけど裏でそんなこと言ってた。フロアの仕事もうまく回せなかった。接客業だからああいう理不尽な人たくさんいる、それをうまくかわすのも仕事なのに。裏でも表もできないなら……弁当屋さんも足手まといになる」
「まだファミレスの仕事も半年も経ってなかったろ? 誰でも最初はそういうことがある。俺も弁当屋でも一年バイトしてても怒られてっぞ」
藍里は不安になる。いつも微笑んでいた理生や職場の人たちが直接は言えない藍里の評価を人伝に聞く、どれだけ辛いことか。
すると清太郎が藍里を抱きしめる。
「清太郎っ……」
「俺が守ってやる、前は冗談って言ったけど俺は藍里の彼氏だ。俺と一緒に探そう」
少しずつ強く抱きしめられる。鼓動がかさなる。藍里も顔が赤くなる。清太郎も。
「宮部くん、ここは学校だよ。恥ずかしい……」
「はずかしい……ごめん」
と清太郎は藍里から離れた。
「……でもしばらくは休んだほうがいい」
「働かないと……でもママの仕事って何、宮部くんは知ってるの?」
「……じゃあ私検索する。覚えてる? 会社の名前」
藍里はスマホを取り出した。清太郎は首を横に振る。
「なんで……ママは何をしてるの。まさか詐欺とか悪いことしてるの?」
「やめとけ、今は」
「ママ、私のために働いているの。私も助けないと」
「……確かに一生懸命働いていると思う。でも今は知る必要もないし、もし知りたいなら本人が、さくらさんが言いたいというタイミングでお前にいうと思う」
「なんで、なんで宮部くんは知ってるのに教えてくれないの」
藍里は声を荒げてしまった。二人の間に沈黙が。
清太郎は観念した。
「……お前の母さんは詐欺とか悪いことじゃないんだけどさ、男性の前で裸を見せる仕事をしてる」
「……」
「風俗とは同じかどうか知らんけど、直接触られるものではないけど……いろんな男の人がお金を出してお前のお母さんの裸を見てる」
「……」
藍里は言葉が出なかった。
「もちろん俺は十八歳以下だから見れんけど……ホームページで調べてその会社が経営しているサイトの紹介にはそう書いてあった。色々調べたら家でもスマホ一台でできるけどそういう事務所で個室になってて、その……そういう部屋で……きっと仕事に行くと言ってそこに行ってるんだろう」
「……」
「本拠地は神奈川、お前が前にいた場所、寮完備……」
「たしかに……私の住んでいたところはお父さんがいない人が多かった」
「どうだかわからないけどシングルや独身の女の子とかそういう子たちに貸していたんだろうな」
「……」
「これはあくまでもネットで検索……いや、その本の出来心であの書類の会社名をスマホで調べたら出たわけで、そのサービス自体もその、まだ十八歳未満だからみることはできなくて……」
清太郎は狼狽えている。が、さっきまで動揺していた藍里はフーッとため息ついた。
「詐欺じゃなくてよかった。でもそういう仕事なら納得いくところあったわ。生理の時は休んでたし、夜遅くから言って朝過ぎに帰ってきたり……月初はほとんど家にいなかったり……」
「月初は客が給料もらって入金するんだろうな、だからそこが一番稼ぎ時だ」
藍里は清太郎をじっと見る。
「こういうのはどこの商売もそうだろ、こういうのは俺はよくわからん」
「ほんと?」
「ほんとだ、あほう。さっきから言ってる通り十八歳未満は見れんの!」
「見れたら見るのかー」
「こらぁ」
「……揶揄うと可愛い。昔もそうだった」
「藍里……」
「もう行こう。ふっきれたよ。ママには聞かないけどさ。私決意した。ママにそんな仕事しなくてもいいように私、頑張らなきゃ」
「だな……藍里はするなよ」
藍里は清太郎を小突く。
「するか、ばーか」
「バカで悪かったな、仕事探すぞ。って弁当屋でいいやろ」
「かなぁ……」
「さっそく学校終わったら弁当屋来い!」
「宮部くん、ほんとスパルタ……」
二人は笑った。
とニヤッと担任は笑って部屋を出て行った。
「……最悪だ、あの野郎」
二人きりになった美術準備室。藍里にティッシュを渡して背中をさする清太郎。
「ごめんね、宮部くん。私のせいで」
「お前は謝る必要はない、辛いだろ」
「もうわけわかんない、バイトは首になるし、なんか宮部くんは怒ってるし、先生も。それに住むところがなくなるって?」
「あいつのせいだ。こんな時に!」
藍里は鼻を啜りながら清太郎の腕を掴む。顔はなるべく見せないようにしてる。
「ママ……ママがなんなの? ママの仕事ってなんなの? 宮部くんは知ってるの?」
清太郎は口籠った。
「ねぇ、知ってるの? ねえっ……」
「知らないんだよな、なぁ」
「うん」
「本人から聞くか?」
「……うん。時雨くんも知らないって」
「マジかよ」
「知らないのに付き合ってるのか……てっきり知ってるかと」
清太郎は驚いていた。藍里はよくわからない。さくらの仕事先の名前を思い出そうとするが思い出せない。でも聞いたことのない名前。
「仕事どうしよう……」
「おばさんに聞いて弁当屋の仕事やるか?」
藍里は首を横に振る。
「私、足手まといだったんだもんね。理生先輩とかパートのおばさんとか大丈夫大丈夫とか言ってたけど裏でそんなこと言ってた。フロアの仕事もうまく回せなかった。接客業だからああいう理不尽な人たくさんいる、それをうまくかわすのも仕事なのに。裏でも表もできないなら……弁当屋さんも足手まといになる」
「まだファミレスの仕事も半年も経ってなかったろ? 誰でも最初はそういうことがある。俺も弁当屋でも一年バイトしてても怒られてっぞ」
藍里は不安になる。いつも微笑んでいた理生や職場の人たちが直接は言えない藍里の評価を人伝に聞く、どれだけ辛いことか。
すると清太郎が藍里を抱きしめる。
「清太郎っ……」
「俺が守ってやる、前は冗談って言ったけど俺は藍里の彼氏だ。俺と一緒に探そう」
少しずつ強く抱きしめられる。鼓動がかさなる。藍里も顔が赤くなる。清太郎も。
「宮部くん、ここは学校だよ。恥ずかしい……」
「はずかしい……ごめん」
と清太郎は藍里から離れた。
「……でもしばらくは休んだほうがいい」
「働かないと……でもママの仕事って何、宮部くんは知ってるの?」
「……じゃあ私検索する。覚えてる? 会社の名前」
藍里はスマホを取り出した。清太郎は首を横に振る。
「なんで……ママは何をしてるの。まさか詐欺とか悪いことしてるの?」
「やめとけ、今は」
「ママ、私のために働いているの。私も助けないと」
「……確かに一生懸命働いていると思う。でも今は知る必要もないし、もし知りたいなら本人が、さくらさんが言いたいというタイミングでお前にいうと思う」
「なんで、なんで宮部くんは知ってるのに教えてくれないの」
藍里は声を荒げてしまった。二人の間に沈黙が。
清太郎は観念した。
「……お前の母さんは詐欺とか悪いことじゃないんだけどさ、男性の前で裸を見せる仕事をしてる」
「……」
「風俗とは同じかどうか知らんけど、直接触られるものではないけど……いろんな男の人がお金を出してお前のお母さんの裸を見てる」
「……」
藍里は言葉が出なかった。
「もちろん俺は十八歳以下だから見れんけど……ホームページで調べてその会社が経営しているサイトの紹介にはそう書いてあった。色々調べたら家でもスマホ一台でできるけどそういう事務所で個室になってて、その……そういう部屋で……きっと仕事に行くと言ってそこに行ってるんだろう」
「……」
「本拠地は神奈川、お前が前にいた場所、寮完備……」
「たしかに……私の住んでいたところはお父さんがいない人が多かった」
「どうだかわからないけどシングルや独身の女の子とかそういう子たちに貸していたんだろうな」
「……」
「これはあくまでもネットで検索……いや、その本の出来心であの書類の会社名をスマホで調べたら出たわけで、そのサービス自体もその、まだ十八歳未満だからみることはできなくて……」
清太郎は狼狽えている。が、さっきまで動揺していた藍里はフーッとため息ついた。
「詐欺じゃなくてよかった。でもそういう仕事なら納得いくところあったわ。生理の時は休んでたし、夜遅くから言って朝過ぎに帰ってきたり……月初はほとんど家にいなかったり……」
「月初は客が給料もらって入金するんだろうな、だからそこが一番稼ぎ時だ」
藍里は清太郎をじっと見る。
「こういうのはどこの商売もそうだろ、こういうのは俺はよくわからん」
「ほんと?」
「ほんとだ、あほう。さっきから言ってる通り十八歳未満は見れんの!」
「見れたら見るのかー」
「こらぁ」
「……揶揄うと可愛い。昔もそうだった」
「藍里……」
「もう行こう。ふっきれたよ。ママには聞かないけどさ。私決意した。ママにそんな仕事しなくてもいいように私、頑張らなきゃ」
「だな……藍里はするなよ」
藍里は清太郎を小突く。
「するか、ばーか」
「バカで悪かったな、仕事探すぞ。って弁当屋でいいやろ」
「かなぁ……」
「さっそく学校終わったら弁当屋来い!」
「宮部くん、ほんとスパルタ……」
二人は笑った。
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