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第三章 つきのもの
第十三話
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さくらは綾人の声が聞こえるなりビクッと身体を起こした。そして毛布をその場に叩き落として部屋に入っていった。
しまった、という顔を互いにして見つめ合う。テレビには綾人がニコッとして微笑みながら他局のエンタメニュースでも出ていた新CMのこの番組のための宣伝だった。
やはりこの番組にはお世話になってたとにこやかに話す綾人。ちらっと過去の映像も流れる。そして最後はやはりCMの話題に戻って終わった。
「……」
藍里は久しぶりにとまではいかないが意識的にテレビを見た父、綾人の姿に懐かしい気持ちを思い出した。ずっと彼と会っていないのだが、最後に会った時の面影も残しつつもそれから人気になりスターとなり洗練されてさらにカッコ良くなった父に見とれていた。
「綾人さん、かっこいいよね。こんなことはさくらさんの前では言えないけどさ」
「……かっこいいよ、パパは」
2人の間で何ともいえない空気が流れる。さくらの部屋からは啜り泣く声も聞こえる。藍里はテレビの電源を切り、椅子に座って朝ごはんを食べ始めた。
ピザトースト、コーンスープ、ヨーグルト、バナナ、牛乳。
「ママのところに行かなくていいの?」
藍里は時雨に聞く。
「……後で行く。多分今何言ってもダメだし」
「さっきもママに何か言われてたよね」
「僕の言葉がいけなかったから……うん。今は何言ってもさくらさんにはネガティヴに捉えられてしまうから」
と時雨もピザトーストを齧る。いつも2人は一緒にご飯を食べる。朝はさくらが仕事でいない時もあるからだ。
時雨が来る前は1人で食べる時が多かった。今ならいつも時雨がいる。バイト先で食べている時以外、彼の作った温かいご飯をいつも食べられる藍里。
家のこと全てをやってくれている時雨にさくらの機嫌の悪さ、感情を全てぶつけられる時雨に少し申し訳ないと思うが今は彼と2人きりでいられる時間が増えたと思うと少し嬉しい。なんで時雨は複雑な過去を持つさくらと付き合っているのだろう、そしてそのさくらの娘である藍里と一緒にいるのだろうか、と藍里は思ったこともあったのだが。
しかしそれよりも綾人のことが気になる藍里であった。
ご飯を食べ終え、身なりを整えて藍里は時雨の作ってくれて弁当を持って学校に向かった。
「行ってらっしゃい」
「いってきます……ごめんね、ママのこと」
「大丈夫、帰ってきた頃には良くなってると思うから」
ニコッと笑う時雨。
「辛くないの」
「……人間だから……こういうこともあるよ」
「なにそれ、じゃあいってくる」
このたわいもない会話も藍里にとっては幸せである。
「ママじゃなくて、わたしでいいのに」
と呟いてマンションから出た時だった。
「藍里」
清太郎がいたのだ。
しまった、という顔を互いにして見つめ合う。テレビには綾人がニコッとして微笑みながら他局のエンタメニュースでも出ていた新CMのこの番組のための宣伝だった。
やはりこの番組にはお世話になってたとにこやかに話す綾人。ちらっと過去の映像も流れる。そして最後はやはりCMの話題に戻って終わった。
「……」
藍里は久しぶりにとまではいかないが意識的にテレビを見た父、綾人の姿に懐かしい気持ちを思い出した。ずっと彼と会っていないのだが、最後に会った時の面影も残しつつもそれから人気になりスターとなり洗練されてさらにカッコ良くなった父に見とれていた。
「綾人さん、かっこいいよね。こんなことはさくらさんの前では言えないけどさ」
「……かっこいいよ、パパは」
2人の間で何ともいえない空気が流れる。さくらの部屋からは啜り泣く声も聞こえる。藍里はテレビの電源を切り、椅子に座って朝ごはんを食べ始めた。
ピザトースト、コーンスープ、ヨーグルト、バナナ、牛乳。
「ママのところに行かなくていいの?」
藍里は時雨に聞く。
「……後で行く。多分今何言ってもダメだし」
「さっきもママに何か言われてたよね」
「僕の言葉がいけなかったから……うん。今は何言ってもさくらさんにはネガティヴに捉えられてしまうから」
と時雨もピザトーストを齧る。いつも2人は一緒にご飯を食べる。朝はさくらが仕事でいない時もあるからだ。
時雨が来る前は1人で食べる時が多かった。今ならいつも時雨がいる。バイト先で食べている時以外、彼の作った温かいご飯をいつも食べられる藍里。
家のこと全てをやってくれている時雨にさくらの機嫌の悪さ、感情を全てぶつけられる時雨に少し申し訳ないと思うが今は彼と2人きりでいられる時間が増えたと思うと少し嬉しい。なんで時雨は複雑な過去を持つさくらと付き合っているのだろう、そしてそのさくらの娘である藍里と一緒にいるのだろうか、と藍里は思ったこともあったのだが。
しかしそれよりも綾人のことが気になる藍里であった。
ご飯を食べ終え、身なりを整えて藍里は時雨の作ってくれて弁当を持って学校に向かった。
「行ってらっしゃい」
「いってきます……ごめんね、ママのこと」
「大丈夫、帰ってきた頃には良くなってると思うから」
ニコッと笑う時雨。
「辛くないの」
「……人間だから……こういうこともあるよ」
「なにそれ、じゃあいってくる」
このたわいもない会話も藍里にとっては幸せである。
「ママじゃなくて、わたしでいいのに」
と呟いてマンションから出た時だった。
「藍里」
清太郎がいたのだ。
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