恋の味ってどんなの?

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
7 / 59
第二章 幼馴染

第七話

しおりを挟む
 2人は学校を出る。藍里は男女2人で帰るのは少し恥ずかしさを感じたが、他にも数組ほど男女で帰ってるのを見てまぁいいかと。

 それよりも幼馴染との再会が嬉しい。
「そいや家はどっちなん」
「あっ……」
 藍里は思い出した。母との約束を。友達やクラスメイトには家を教えないことという。
 一応離婚をしたのだが、一度逃げた神奈川の移住先を父や祖父母たちに乗り込まれてさくらは大変な目にあったと。そのとき藍里は地元の小学校に通っていたから話しか聞いていないが。
 現に父親や祖父母には今は会っていない。離婚が正式に決まる前に会っただけである。

 別にバレても問題はないのだが、さくらはあの時の見つかった時のことをトラウマになっており、時折逃げていた時のように怯えたりフラッシュバックを引き起こすのか鬱になるのを藍里は見たことがあった。

 だから極力教えないで、と。そしてバイト先は住んでる所の下にあるファミレスだが、当初はウエイトレスを頼まれたのだが同じ理由でさくらは店に対して店に出る仕事だけはやめてほしい、と頼み込んで渋々調理担当にさせてもらえたと言う。

「ごめん、そういう理由で……教えられないの。途中まで、あそこの角まで」
「……そうなんか。わかった。僕もこう一緒に帰ろうっていうのもあれだったな」
「ううん。大丈夫。クラスでもまだ馴染めないし、知ってる人がいるだけでもホッとするよ」
 最初は互いにワクワクしていたのだが事情を伝えていくうちに2人の中は重い空気になる。いつかはわかってしまうことで、隠し事したくても隠せない藍里。

 でもそれをしっかり飲み込んでくれる清太郎に、昔と変わらずなんだかんだで優しいとさらにドキッとさせられてしまう。
 こうやって女性に優しいのは彼の姉が女の子は大事にしな、という厳しい言いつけがあるからだ。

 そしてなんだかんだであっというまに藍里の言った角まで着いてしまった。

「……じゃあ気をつけて帰れよ。ぼくんちはあのすぐそこにある弁当屋、あそこがおばさんたちの店で店舗も構えてる。空いた時間には配達とかしてるから、なんかあったら朝こいよ」

 実のところ、藍里もあの弁当屋の前を通る。でもこの角までと言ったからにはそれは伝えられない。

「電話番号だけでもええやろ。何かあったら電話しろ。あと裏には弁当屋の電話番号あるし」
 と、その場で弁当屋のフライヤーに清太郎は電話番号を書いて藍里に渡した。

「……ありがとう」
「じゃあ、また明日な」
「うん」
 と、清太郎の後ろ姿を見て見えなくなってから動こうと見ていた所だった。

「百田さんー、見てたよー」
 藍里は振り返ると数人の女子たちがいたのだ。クラスメイトたちだった。

「ねえねえ、宮部くんとすっごい仲いいけど……幼馴染って本当?」
「あ、うん……」
「ねぇ、あんなに仲良いなら付き合っちゃいなよ」
「いや、それは」
 藍里は女子たちに囲まれる。

「ごめん、バイトがあるから!」
 と走り去った。すごく顔が真っ赤になってるのはわかる。もうなにがなんだかで、すっかりわすれて清太郎の弁当屋の前を走ってしまった。

「あれ? 藍里?」
 声をかけられたのもわからないほど藍里は走った。

 そしてマンションまで辿り着くとエレベーターに乗り、べたんと座り込んでしまう。

「……彼は幼馴染よ、ただのっ」
 息を切らしてもまだドキドキは止まらなかった。

 ピンポン

 5階に着く。息も絶え絶え。なんとか部屋にたどりつき、ドアを開けた。

 いい匂いがする。お肉の匂い。きっと時雨が仕事から帰ってくるさくらのためにご飯を作っているのだろう。さくらも走って疲れて食べたいとは思ったが、今日はバイト先で賄いを食べる予定だった。

「あら、おかえり。すっごい髪振り乱して何かあった?」
 台所からぴょこんと顔を出す時雨。

「ただいま……美味しそうな匂い」
「ありがとう。エビチリ作ってるんだけど、食べる?」
 確かにトマトケチャップの匂い、ニンニクの匂いもする。それらがきっとこの美味しそうな匂いなのだ。

「食べる!」
「少しニンニク多めにしちゃったけど……服着替えたら味見して欲しいな。今日バイトでしょ」
「うん。じゃあ今から着替えてくる」
 そのあとエビチリを味見するどころかたくさん食べてしまった。
 今まで食べたエビチリよりも全然味が違う、と感動してしまった。少しニンニクの匂いが強いが。

 藍里は時雨のことが好きなのはこの彼の料理の腕前もあるかもしれない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ちょっと訳ありご当地アイドルな私とさらに訳あり過ぎなアイドルヲタな俺の話

麻木香豆
恋愛
引きこもりなトクさんはとある日、地方アイドルを好きになる。 そしてそんなアイドルも少し訳ありだけど彼女の夢のために努力している! そんな二人が交互に繰り広げるラブコメ。 以前公開していた作品を改題しました

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ハッピークリスマス !  

設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が この先もずっと続いていけぱいいのに……。 ――――――――――――――――――――――― |松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳 |堂本海(どうもとかい)  ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ) 中学の同級生 |渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳 |石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳 |大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?     ――― 2024.12.1 再々公開 ―――― 💍 イラストはOBAKERON様 有償画像

失われた君の音を取り戻す、その日まで

新野乃花(大舟)
ライト文芸
高野つかさの恋人である朝霧さやかは、生まれた時から耳が全く聞こえなかった。けれど彼女はいつも明るく、耳が聞こえない事など一切感じさせない性格であったため、つかさは彼女のその姿が本来の姿なのだろうと思っていた。しかしある日の事、つかさはあるきっかけから、さやかが密かに心の中に抱えていた思いに気づく。ある日つかさは何のけなしに、「もしも耳が聞こえるようになったら、最初に何を聞いてみたい?」とさかかに質問した。それに対してさやかは、「あなたの声が聞きたいな」と答えた。その時の彼女の切なげな表情が忘れられないつかさは、絶対に自分がさかやに“音”をプレゼントするのだと決意する。さやかの耳を治すべく独自に研究を重ねるつかさは、薬を開発していく過程で、さやかの耳に隠された大きな秘密を知ることとなる…。果たしてつかさはいつの日か、さやかに“音”をプレゼントすることができるのか?

処理中です...