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シノノメナギのご挨拶

第15話 ノーソーシャルディスタンス

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 結婚前日。籍は入れることはできないけど、写真撮影を地元のお寺ですることになった。常田くんと初めてデートをしたあのお寺で。
 大阪に行けば良かったけど常田くんがどうしてもっていうから。
 わたしの誕生日の次の月の八月。暑い中だけど常田くんの体調も安定してこの日を迎えることができた。

 常田くんは慶一郎さんの運転でここまで来てくれるのだ。明日の打ち合わせもあるし、なんだかんだでバタバタである。

 ……8ヶ月ぶりと言ってもほぼ毎日のようにビデオチャットしてたしなぁ。でもソワソワしてしまう。

 ピンポーン……

 来たっ!
 わたしは深呼吸をして玄関に向かう。慌てて立ち上がったら足が少し吊ったけど、落ち着いて歩いてドアを開けた。
「梛ぃー」
 電話越しでない常田くんの声……。だめだ、それを聞いただけで涙がっ。わたしはまた落ち着かせてドアを開けた。

 そこには常田くんがいた。黒いマスクをしていてそれを外してわたしの大好きな彼の笑顔が見えた。
「梛ぃっ」
「常田くん」
 わたしたちはすぐ抱き合った。

「お二人、仲の良いことで」
 慶一郎さんが横で目をニコニコしていた。ああ、しまった……人前でイチャイチャを。

「ここまでありがとうございます」
「いえいえ、僕には色々役割がありますからね……あ、車に忘れ物が」
 と慶一郎さんは常田くんを置いて階段を降りる。もうこのままカメラマンさんたちと打ち合わせに行くんだけども……久しぶりに二人きり。面と向かって顔合わせるとなんかドキドキ。

「なんや、毎日見とるやろ……しっかり僕を見ろや」
 そ、そんなふうに言われるとどきっとするじゃない……。わたしは彼の手をひいて部屋に入れた。

 常田くんの通りジッと彼の目を見る。そしてまた抱きしめる。
 温かい、常田くんの体温、匂い、感触、心臓の鼓動……。幸せ。
 彼もギュッと抱きしめてくれる。ぎゅーっと、ぎゅーっと。そして……また見つめあって……。
 キスをする……。柔らかい唇、ああっ……温かい舌。絡めあう。わたしは壁に追いやられる。
「梛……梛や……ずっと会いたかった」
「常田くん、わたしもよ」
「ベッド行こうや、もっと抱きしめたい」
「だめよ、慶一郎さんが……」
「兄ちゃんも気を利かせて車行ったんやろ」
「だけど……打ち合わせもあるよ? すこししか時間ない」
「だったら今ここで……」
「嫌よっ」
「久しぶりに会って嫌やって言われると辛いわ」
「……ごめんっ……んっ!!!」
 さらにキスをしてくる常田くん。もうかなり興奮している……服に手を入れてくるし、変態さは変わらない。
「もう半年以上しとらん……耐えれん、生身の梛見たらっ」
 床に押し倒される。玄関でなんてっ! わたしも体温が上がってくる……わたしも、常田くんと一つになりたい……! スカートに手を入れられる。わたしは脚を絡ませて……。


 ガチャっ

「すまんな、お土産を忘れ……っ!」
「きゃーっ!」




 ======
 また気まずい雰囲気になってしまうところだった。
「すんません。もう少し気を使えばよかった」
「こちらこそすいません……なんというか、その」
「まぁラブラブなことはええこっちゃ、て。そんな機嫌悪い顔すんな、浩二」
 常田くんはわたしとのいちゃいちゃをおあずけになってご機嫌斜め。わたしの手をずっと握り、弄りもぞもぞしている。

 慶一郎さんの運転でブライダルスタジオに向かい、打ち合わせと衣装合わせ。
 わたしは何回か一人で来て衣装を見ていたけどドレスだと肩幅の広さやゴツゴツしたライン、喉仏が目立つから着物にしようかなと思ったけどプランナーさんが首や肩から手の部分まで総レースの綺麗なドレスを見つけてきてくれたのだ。

 綺麗……。プランナーさんはわたしが本当は男であると知っていても女性として接してくれた。最初から。
 そしてわたしの悩みも聞いてくれてこうしてドレスも用意してくれたのだ。


 死んだばあちゃんが楽しみにしてた、わたしの花嫁姿。見せたかったなぁ……てまだ本番は明日なんだけどね。明日はもっと化粧をして髪の毛も綺麗に整えてもらう。
 でもメイクさんに軽く化粧もしてもらった。

 ……わたしも花嫁さんになれる。


「おまたせ」

 わたしはドレスに着替えてカーテンを開けた。そこには白のタキシードを着た常田くん。あら、男前。全身白い服なんて普段着てないからね。服一つで変わるのね。横にはカメラを持った慶一郎さん。二人は口をあんぐりさせていた。

「梛、綺麗や……」

 常田くん……嬉しい。涙が溢れてきた。

「まだ泣くのは早いやろ、梛」
「だってぇえええええ」
「あああああ、泣くとドレスにつくやろ涙!」


 すごく嬉しい。すごく、すごく。

 ========
 打ち合わせを終わらせてご飯も食べにいった後に慶一郎さんは別でホテルに泊まり、そしてわたしと常田くんはわたしのアパートに戻り、久しぶりにベッドの上で結ばれた。
 ずっと身体を重ねてなかったのに次第に馴染んでいく。そして激しく、甘く、これ以上離れないように。何度もキスして、何度もハグして、何度も何度も。

「梛、愛してる……」
「常田くん、わたしもよ」
「愛してる……」
 わたしの首元を吸い付く。音を立てて。って、キスマークついちゃう! いくらレースで隠れるからって……。

「やめて、ダメよ……ねぇ」
「愛してる」
「だからっ、ちょっとぉ」
「梛ぃーっ、愛してるぅ」
 しまった、晩ご飯に慶一郎さんの奢りで近くの居酒屋で常田くん8ヶ月ぶりのお酒飲んで……めっちゃくちゃ酔っ払って。すっごい甘えてくる。いや、この甘え方は前からもか。それ以上に甘えてくる。

 てか明日も早いんだし……。

「なーぎっ」
 わたしの好きな常田くんの可愛い笑顔……。


「しょうがないわねぇ」

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