68 / 79
シノノメナギのご挨拶
第10話 願うだけならタダ
しおりを挟む
帰ってからはわたしと常田くんに電話をした。寂しい寂しいって甘えた声を出してくる。
その声は他の部屋にいる家族には聞こえてないかしら?
残りの正月休みは寝正月もあれだし、次郎さんに年始のメールを送ったら年始セールに誘われて名古屋まで買い物に行って。(もちろん次郎さんは女装していた)
その夜は夏姐さんに誘われてそのまま三人でわたしの家で飲んだ。
夏姐さんは相変わらず荒れ模様で仙台さんとはたまに会うそうだが全くなびかないとのことで愚痴をずっと聞かされた。
すると次郎さんも好きだった人にふられたと言ったところから二人は意気投合してすごく会話盛り上がってて。その隙にお風呂に入って出てきたら二人がキスをしていた。見ていることはバレなかった。
そのあと二人はわたしの家に泊まってあっちの方でも意気投合してしまって。一体なにが起こるかわからないものである。
年が近い二人はそのまま付き合うことになった。
夏姐さんは次郎さんの女装する趣味はわたしのおかげか(わたしは趣味じゃない、何度もいうが)免疫があり、特になんとも思わない。
朝、二人は仲睦まじく手を繋いで帰って行った。羨ましい……。
こんな恋の始まりもあるのか。ああ、わたしは大阪に常田くんという恋人がいるから、もうこんな恋なんてできない。
常田くんのいないうちに、だなんて……ダメよね。ため息しか出ない。
愛してるとか電話先で言うけど何か心が満たされない。彼と付き合うまではいろんな人からアプローチやら何やら妄想が楽しかった。でも今は彼ができてしまって他の人たちとの妄想すらもいけないんじゃ無いかって思ってしまう。
妄想してた頃がとにかく楽しかった……。
彼とは手術の始まる六日までは毎日のように電話をした。途中わたしの仕事始まりもあったのだが、寝る時間を削ってでも彼の声を聞かないと自分が浮ついてしまいそうだったからだ。
常田くんとの電話が終わったあと、何も理由もなくダラダラとニュース記事を見てアパレルブランドのサイトを見てしまった。
新年セールでネネのお店で可愛いニットを買った。色違いで二つ。明日仕事で着よう。
そういえば館長に明日からマスクの着用をと言われたなぁ。確かあったはず。帰りにも買いに行こうかしら。
毎年冬はインフルエンザが流行るからわたしは自主的に付けていた。
マスクにしたら化粧も薄めでいいのかな。
でもマスクで隠れない目元はしっかりメイクして……口紅は隠れるからしなくていいかな? でもカウンターではマスクだけど事務所ではしないだろうからマスクに付かない色付きリップ塗っておこうかしら。
あーそういえば。それよりも大阪で住むアパートも調べなきゃ……まぁ明日でいいか。
気づけば常田くんとのことよりも違うこと考えながら寝てしまった。と言うくらいこの時は呑気に過ごしていた。
常田くんの手術の日。付き添うわけでも無いし大阪にいるわけでも無いが休みを取った。慶一郎さんから電話をもらった。そしてその電話先で常田くんと変わってもらう。
『梛、がんばってくるで』
「うん。がんばって……」
『梛まで元気無いとあかんやろ、大丈夫やでー』
いつものようにヘラヘラ笑ったような声。でも少し不安さも滲み出てる、て声だけでわかるようになってしまった自分もすごい。
『あ、兄ちゃんのスマホやからビデオに切り替えてええか』
「あ、え、う、うん!」
普段スマホを使わない常田くん。わたしのスマホに彼の顔が映る。少し顔が浮腫んでる?
やはり少し不安な顔をしている。わたしの顔も映るけどどう見えるかしら。少しメイクしておいたけどいつもよりも薄め。まさかビデオ通話するとは思わなかったもん。
『手術前に梛の顔をこの目に焼き付けたいんや』
「また手術したら見えるでしょ……」
『そやな。なかなか会えん時は覚えてる梛との記憶と写真で補ったったんや。夜んときも梛の顔思い出しながらでもアレできたしな』
アレ……? って、卑猥な話っ。お兄様とか他に看護師さんもいるのよ? ほら、笑い声もする。そこまでして無理して笑わせることしないでよ。恥ずかしい! バカ!
『悪い悪い。でも想像だけじゃ補えん。もっと顔見せてや……なに泣いとんのや、笑え』
気付いたらわたしは泣いていた。カメラにも泣き顔が映る。ブサイク、インカメラだと余計にそう思う。
わたしは頑張って口角を上げた。
『そうや、その笑顔や。かわええ、かわええ。しっかり焼き付けたで。ほな、頑張ってくるで』
「うん、頑張って……」
本当なら常田くんのそばで手を握っていた。抱きしめていた。キスもたくさんして……。
神様、いやお医者様。どうか常田くんの目を良くしてください。
と願うしかなかった。
その声は他の部屋にいる家族には聞こえてないかしら?
残りの正月休みは寝正月もあれだし、次郎さんに年始のメールを送ったら年始セールに誘われて名古屋まで買い物に行って。(もちろん次郎さんは女装していた)
その夜は夏姐さんに誘われてそのまま三人でわたしの家で飲んだ。
夏姐さんは相変わらず荒れ模様で仙台さんとはたまに会うそうだが全くなびかないとのことで愚痴をずっと聞かされた。
すると次郎さんも好きだった人にふられたと言ったところから二人は意気投合してすごく会話盛り上がってて。その隙にお風呂に入って出てきたら二人がキスをしていた。見ていることはバレなかった。
そのあと二人はわたしの家に泊まってあっちの方でも意気投合してしまって。一体なにが起こるかわからないものである。
年が近い二人はそのまま付き合うことになった。
夏姐さんは次郎さんの女装する趣味はわたしのおかげか(わたしは趣味じゃない、何度もいうが)免疫があり、特になんとも思わない。
朝、二人は仲睦まじく手を繋いで帰って行った。羨ましい……。
こんな恋の始まりもあるのか。ああ、わたしは大阪に常田くんという恋人がいるから、もうこんな恋なんてできない。
常田くんのいないうちに、だなんて……ダメよね。ため息しか出ない。
愛してるとか電話先で言うけど何か心が満たされない。彼と付き合うまではいろんな人からアプローチやら何やら妄想が楽しかった。でも今は彼ができてしまって他の人たちとの妄想すらもいけないんじゃ無いかって思ってしまう。
妄想してた頃がとにかく楽しかった……。
彼とは手術の始まる六日までは毎日のように電話をした。途中わたしの仕事始まりもあったのだが、寝る時間を削ってでも彼の声を聞かないと自分が浮ついてしまいそうだったからだ。
常田くんとの電話が終わったあと、何も理由もなくダラダラとニュース記事を見てアパレルブランドのサイトを見てしまった。
新年セールでネネのお店で可愛いニットを買った。色違いで二つ。明日仕事で着よう。
そういえば館長に明日からマスクの着用をと言われたなぁ。確かあったはず。帰りにも買いに行こうかしら。
毎年冬はインフルエンザが流行るからわたしは自主的に付けていた。
マスクにしたら化粧も薄めでいいのかな。
でもマスクで隠れない目元はしっかりメイクして……口紅は隠れるからしなくていいかな? でもカウンターではマスクだけど事務所ではしないだろうからマスクに付かない色付きリップ塗っておこうかしら。
あーそういえば。それよりも大阪で住むアパートも調べなきゃ……まぁ明日でいいか。
気づけば常田くんとのことよりも違うこと考えながら寝てしまった。と言うくらいこの時は呑気に過ごしていた。
常田くんの手術の日。付き添うわけでも無いし大阪にいるわけでも無いが休みを取った。慶一郎さんから電話をもらった。そしてその電話先で常田くんと変わってもらう。
『梛、がんばってくるで』
「うん。がんばって……」
『梛まで元気無いとあかんやろ、大丈夫やでー』
いつものようにヘラヘラ笑ったような声。でも少し不安さも滲み出てる、て声だけでわかるようになってしまった自分もすごい。
『あ、兄ちゃんのスマホやからビデオに切り替えてええか』
「あ、え、う、うん!」
普段スマホを使わない常田くん。わたしのスマホに彼の顔が映る。少し顔が浮腫んでる?
やはり少し不安な顔をしている。わたしの顔も映るけどどう見えるかしら。少しメイクしておいたけどいつもよりも薄め。まさかビデオ通話するとは思わなかったもん。
『手術前に梛の顔をこの目に焼き付けたいんや』
「また手術したら見えるでしょ……」
『そやな。なかなか会えん時は覚えてる梛との記憶と写真で補ったったんや。夜んときも梛の顔思い出しながらでもアレできたしな』
アレ……? って、卑猥な話っ。お兄様とか他に看護師さんもいるのよ? ほら、笑い声もする。そこまでして無理して笑わせることしないでよ。恥ずかしい! バカ!
『悪い悪い。でも想像だけじゃ補えん。もっと顔見せてや……なに泣いとんのや、笑え』
気付いたらわたしは泣いていた。カメラにも泣き顔が映る。ブサイク、インカメラだと余計にそう思う。
わたしは頑張って口角を上げた。
『そうや、その笑顔や。かわええ、かわええ。しっかり焼き付けたで。ほな、頑張ってくるで』
「うん、頑張って……」
本当なら常田くんのそばで手を握っていた。抱きしめていた。キスもたくさんして……。
神様、いやお医者様。どうか常田くんの目を良くしてください。
と願うしかなかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる