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シノノメナギの師走
第14話 ソワソワ
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常田くんたちが応接室に行って三十分。ソワソワしてくる。流石に。夏姐さんもすこし元気ないし。(ほんと情緒不安定よね、彼女……女という生き物はほんとうに大変そう)
「東雲さん、館長がお呼びです」
パートの子がわたしに声をかけてきてくれた。……なんでわたしも? 付き合ってるから? 同居してるから?
ドキドキしながら応接室に向かう。常田くんのお父様とお兄様が先に出ていた。
「それではわたしたちはお先に失礼します」
あれ、常田くんと一緒に親戚の家に行くんじゃ?
「またお話ししましょう、梛さん」
「は、はい……」
お父様はとても穏やかそうな人だ。横で常田くんそっくりの笑顔でお兄様も微笑んでる。
「お会いできてよかったです。弟のそばにいてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ……」
なんかドキドキしてまともなことが言えない。この二人はわたしの正体、知っているのだろうか。
こんなわたしが常田くんと付き合ってるだなんて知ったらどう思うのだろうか。
「弟の退院頃にはお食事でも」
「は、はい……」
お兄様もとても優しくて……こういう時に標準語使うなんて憎い!
でもまた会ってくれるのか……よかった。二人は頭を下げ、去っていく。が、お兄様がわたしのところに戻ってきた。
「本当はあなたと二人きりで……」
!!!
「なんてね……ではまた」
キザなところも兄弟そっくり……。なんてね、じゃなくても良いから二人きりで会いたい、あ、だめだめ。
わたしはドキドキしながらも現実に戻る。応接室に館長と常田くんが待っている。そう滅多に入ることがない部屋。
そこにはにこやかに待ってる館長。そして前には常田くん。彼の家族二人とは対照的に暗い。俯いているし。
「さぁさぁ東雲くん、常田くんの横に座っておくれ」
「……失礼します」
目の前には常田くんの家族が持ってきたお菓子も封を開けずにおいてある。
館長自らお茶を出そうとしたのでわたしは慌てて立つと館長はいいよ、と首を横に振ってお茶を入れてくれた。
「こうしてここで話すのは面接の時以来だね」
「……はい」
そうだ、はじめてこの図書館で働く時にここで館長とはなしをしたんだ。
市の面接は通って、館長と面談をした。そしてここでわたしは男であることを告白したらびっくりされて。
そりゃスカートで化粧してきたんだから。でも館長はわたしの話をしっかり聞いてくれて、上司となる夏姐さんも途中から呼んできて……。
とんでもない新人が来たと思われたかしら、と思ったけど分け隔てなく接してくれてホッとした記憶がある。
「二人はお付き合いしてることを知ってるのは夏目くんとわたしだけのはずが、噂はもう広がってる」
そうよね、行き帰り同じだし。それは時間の問題とは思ってた。まぁ大きく広めたのは輝子さんなんだけど。
「すいません……正規職員が示しのつかないことをして」
「いや、別にそれはいい。周りのみんなも二人が付き合ってることに関してネガティブな意見はないからな。反対に祝福している。私もだが」
……そうなんだ……なるべく職場にプライベートな感情は持ち込まないようにはしてたけどね。
「本題だが」
……館長はお茶を飲んで一息入れる。
「さきほど常田くんの話を聞いた。しばらく入院とのことで人員は輝子さんも入ってなんとか回せそうだが一人減っても他から人員確保できない。ボランティアの方も何人か来てくれるが安定したものではないから見込まずに」
「はい……」
横では常田くんがまだ暗い顔をしている。何か言われたの? 交際のことではないようだけども。
「あと、常田くんのご家族に言われたことだが……常田くん、東雲さんには言ったのか?」
なにを? 常田くんは首を横に振る。
「そうか。私が言ってもいいか?」
常田くんはすこし間を開けて頷いた。館長は少し言葉を詰まらせた。なんのこと?
「常田くんは今年の春にここを退職する」
えっ。
「手術が大阪の病院ですることになったそうでな。それから退院したら再び大阪の図書館の試験を受けるそうだ……そこの図書館はもし目が見えなくなっても働けるらしい。せっかく常田くんにはここで長く働いて欲しかったんだがな、家族の強い薦めで……」
大阪に帰る?! 常田君が?
「東雲さん、館長がお呼びです」
パートの子がわたしに声をかけてきてくれた。……なんでわたしも? 付き合ってるから? 同居してるから?
ドキドキしながら応接室に向かう。常田くんのお父様とお兄様が先に出ていた。
「それではわたしたちはお先に失礼します」
あれ、常田くんと一緒に親戚の家に行くんじゃ?
「またお話ししましょう、梛さん」
「は、はい……」
お父様はとても穏やかそうな人だ。横で常田くんそっくりの笑顔でお兄様も微笑んでる。
「お会いできてよかったです。弟のそばにいてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ……」
なんかドキドキしてまともなことが言えない。この二人はわたしの正体、知っているのだろうか。
こんなわたしが常田くんと付き合ってるだなんて知ったらどう思うのだろうか。
「弟の退院頃にはお食事でも」
「は、はい……」
お兄様もとても優しくて……こういう時に標準語使うなんて憎い!
でもまた会ってくれるのか……よかった。二人は頭を下げ、去っていく。が、お兄様がわたしのところに戻ってきた。
「本当はあなたと二人きりで……」
!!!
「なんてね……ではまた」
キザなところも兄弟そっくり……。なんてね、じゃなくても良いから二人きりで会いたい、あ、だめだめ。
わたしはドキドキしながらも現実に戻る。応接室に館長と常田くんが待っている。そう滅多に入ることがない部屋。
そこにはにこやかに待ってる館長。そして前には常田くん。彼の家族二人とは対照的に暗い。俯いているし。
「さぁさぁ東雲くん、常田くんの横に座っておくれ」
「……失礼します」
目の前には常田くんの家族が持ってきたお菓子も封を開けずにおいてある。
館長自らお茶を出そうとしたのでわたしは慌てて立つと館長はいいよ、と首を横に振ってお茶を入れてくれた。
「こうしてここで話すのは面接の時以来だね」
「……はい」
そうだ、はじめてこの図書館で働く時にここで館長とはなしをしたんだ。
市の面接は通って、館長と面談をした。そしてここでわたしは男であることを告白したらびっくりされて。
そりゃスカートで化粧してきたんだから。でも館長はわたしの話をしっかり聞いてくれて、上司となる夏姐さんも途中から呼んできて……。
とんでもない新人が来たと思われたかしら、と思ったけど分け隔てなく接してくれてホッとした記憶がある。
「二人はお付き合いしてることを知ってるのは夏目くんとわたしだけのはずが、噂はもう広がってる」
そうよね、行き帰り同じだし。それは時間の問題とは思ってた。まぁ大きく広めたのは輝子さんなんだけど。
「すいません……正規職員が示しのつかないことをして」
「いや、別にそれはいい。周りのみんなも二人が付き合ってることに関してネガティブな意見はないからな。反対に祝福している。私もだが」
……そうなんだ……なるべく職場にプライベートな感情は持ち込まないようにはしてたけどね。
「本題だが」
……館長はお茶を飲んで一息入れる。
「さきほど常田くんの話を聞いた。しばらく入院とのことで人員は輝子さんも入ってなんとか回せそうだが一人減っても他から人員確保できない。ボランティアの方も何人か来てくれるが安定したものではないから見込まずに」
「はい……」
横では常田くんがまだ暗い顔をしている。何か言われたの? 交際のことではないようだけども。
「あと、常田くんのご家族に言われたことだが……常田くん、東雲さんには言ったのか?」
なにを? 常田くんは首を横に振る。
「そうか。私が言ってもいいか?」
常田くんはすこし間を開けて頷いた。館長は少し言葉を詰まらせた。なんのこと?
「常田くんは今年の春にここを退職する」
えっ。
「手術が大阪の病院ですることになったそうでな。それから退院したら再び大阪の図書館の試験を受けるそうだ……そこの図書館はもし目が見えなくなっても働けるらしい。せっかく常田くんにはここで長く働いて欲しかったんだがな、家族の強い薦めで……」
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