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シノノメナギの師走

第16話 家族

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 お兄様は常田慶一郎さん、大阪の市役所に勤めてるバツイチ(前妻に子供あり)の42歳。お父様も市役所勤で公務員家系らしい。
 しかしまじめなのか? と思ったが常田君よりも彼の方がチャラさ全開オーラは漂う。

 で、一緒に食事というのも叶ってしまったものの、相変わらず酒に呑まれグダを巻いた夏姐さんがもう限界そうだったのでいつもの通り息子くんたちに来てもらって連れて帰ってもらった。
 息子くんたちはすいませんすいませんと連呼して大変そうだったけど、夏姐さんが荒むのも今回はかなりわかる。
 多分今生理じゃないかと思われるけど体調大丈夫かしら。メンタルだけだったらいいけど。

 それはさておき。内密な話になるからと慶一郎さんは私たちが食べていたご飯代をスマートにカードで支払い、わたしたちの家で話したいと。しかも泊まって行く! だなんて……なんという展開?!
 やだ、同じ部屋の中にイケメン二人と一夜だなんて。だめだめ、変なこと考えちゃ。

 常田くんの部屋で慶一郎さんは寝るらしいけど、ベッドに色々如何わしいもの置いてあるから帰ったら片付けないと。そしてわたしの部屋は絶対見られてはならぬ。
 カツラ飾ってあるしね……。

 部屋に入り、わたしはすぐ暖房をつけ、お風呂を入れた。
「はー、相変わらず部屋綺麗やなー。シンプルやし」
「兄ちゃんとは違ってちゃんと整理整頓しているんや。実家にいた頃は常に物が落ちてて大変やったわ」
「はいはい、そこは母さんに似たな……梛さんも大変やない? まぁ基本は僕たち男性陣は常田家、おおらかなんやけどな」

 ……男性陣は、か。お母様はどうなの?! この場合なんというの? 嫁、姑の仲になるのかしら。あああ、結婚とか無縁だったからそこまで考えていなかったわ。

「梛、ぼぉっとしとるで。ちょっと寝室片付けてくるでお茶出しといてや」
 はっ、また常田くんに怒られた。慶一郎さんは笑った。その笑顔本当に似てるんだから……。

「お茶はええよ、梛さん。あいつもなに亭主関白気取り。てか寝るだけだから片付けんでもええのにな……て、愛の巣やから……まぁ、そうやな。ごめん、いきなり泊まらせてもろてな」
「いえ、ここにお客さんあげたことなくて特になにもないですけど……」
「緊張せんでもええで、僕は親父とは違うし。ラフにいこや」
 ニコニコっとした笑顔、今じゃ見慣れて常田くんではどきっとしなくなったけど(慶一郎さんも常田くんだわ)一味違う。

「浩二の目ことなんだが」
「はい……」
「今度の手術も効果あるかどうか。最悪いつかはまた完全に目が見えなくなる。あなたがもし浩二と人生を共に歩むとなると相当の覚悟が必要なんだが」

 ……慶一郎さんの顔から笑顔が消えた。
「梛さん、あなたは35歳。自分の人生をほぼ捨ててでも浩二を、支えられるのか」
「……はい、もちろんです」
「……」
 でも常田くんは大阪に帰る。せっかくわたしが希望していた子供図書館での勤務も勧められたのにそれを蹴ってまで……大阪でも希望の部署で働けるとは限らない。
 いくら家族がいないわたしでもこの年で一から人間関係や利用者さんとのやりとりを白紙にして働くのは大丈夫なのだろうか。同時に常田くんをサポートしなくてはいけない。

「浩二の目が悪いと言われたのは3歳の頃。僕が高校生の時。下にももう一人妹が生まれ、親は弟の通院や入退院の付き添い、妹の育児で親と僕は自分の人生を犠牲にした。僕は陸上部だったが両親が遠くの病院に浩二を連れて行くために妹の世話を祖母とするために退部した……なんとか進学したが家には金が無く、奨学金で大学に入った」
 ……。

「ごめんな、こんな話。まぁ今は僕ら家族もなんとか生活できているし、浩二も頑張って司書として仕事もしてるし、なんとか自立して生活はできているけど……本当に目が見えなくなったら……」
「……」
「あっちには目が見えなくても雇ってくれる図書館もある。給料も今のところよりも良い……」
 ピピっ……

 お風呂場からお湯が沸いたお知らせ音。

「……実は僕の前の妻との間に生まれた息子が色盲でしてね。あっちの親や親戚達に浩二が目の病気だから遺伝したって散々言われましてね。それ以外にもあって拗れて離婚したんですわ。なんだかんだ言いながらもあっちが引き取りましたけどね。妹も家族に病気のある人がいるからと婚約破棄をされて……年頃なのにもう結婚諦めて。だから苦しむのは僕ら家族だけで、と思ってるんです……」

 そんなことが……。てか酷い、酷すぎる。そんなふうに……酷い扱いをする人がいるの?

 ってわたしも誰かに言われたっけ。わたしにじゃない、ばあちゃんが……。

『おたくのお孫さん、男の子なのに女の子の格好させて。両親もいないしおばあさんだけの生活だからそんなふうになってしまったのかしら。どう育てたらこうなるのかしら』
 わたしが女の子になりたいって一番理解してくれたおばあちゃんはいつも矢面に立ってくれた。

『何を言われてもばあちゃんは梛の味方。堂々としてなさい。あなたが生きたいように』
 って。

 気付いたら涙から出ていた。だめだ、人の話聞いていたのに自分の過去を引き出しちゃった。慶一郎さんがハンカチを差し出してくれた。
「すまんな……じゃあ先に風呂入らせてもらいますわ。浩二ーっ、寝巻きあるかーパンツも」
「あるー」
 常田くんはここでの会話を知らず、部屋から返事をした。まだ整頓しているの……?

 ……早く来て。あなたをすぐに抱きしめたい。
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