49 / 79
シノノメナギの師走
第12話 嫌いな場所
しおりを挟む
今日はわたしは仕事。早番。常田くんは午前中お休みを取って大阪から来るお父様と一緒に病院に行く。どうやらひとまわり上のお兄様も来るそうで……。確か妹さんもいたような?
せっかくここまで来るのならご飯を一緒に、と思ったけど親戚の家に行くとか。常田くんも。
だったらわたしもーなんて図々しいことできないか。
「梛、企画計画表書けた?」
夏姐さんだ……ここ最近は機嫌が良い。頬が赤く染まってる。わたしはあのバーで懐かしい姐さんと仙台さんをみてから気が気でない。別に二人が付き合ってくれたらそれはそれでいいけどさ……なんだろう、悔しいっていうのかな。
わたしはハッと現実に戻って書いておいた計画書を出した。まだ年こしてないのに来年の半ばまでの大まかな計画をねらなくてはいけない。
聞いてもいいんだけど、なんか聞くのもね。てか仕事中だし。
「なによ、なに見てるのよ梛」
「いえ、なんでもないです」
「そう? ずっと私を見てる」
……やはり聞くなら今かな? 夏姐さんはわたしをじっと見た。
「梛、こっちきて」
事務所裏の階段。閉架図書にもつながってる。表に出ている本は開架、表に在庫数の関係で置けない本が眠ってるのは地下の閉架図書である。独特な匂いがする。
入る際にはセキュリティの関係で!ドアの前のプレートを変えなくてはいけない。見てみるとそのままなので誰もいない。
だからいまここにはわたしと姐さんだけ。
「いま仕事中だから手短く済ませるわ。お昼に話してもよかったけど常田くんは昼からでしょ」
「は、はい……」
わたしはこの場所が苦手でもある。今は辞めたけど夏姐さんよりも先輩の女性上司がいてここで度々説教されたこともあった。
独特な匂いと温度、そしてつんざくようなヒステリックな金切り声。夏姐さんもその上司に怒られたからここは嫌な場所、でも仕事で入らなくてはいけないから、と。
わたしも入るたびに思い出す。
「……仙台さんとご飯に行ったわ」
カラカラと換気扇の回る音。わたしはごくりと生唾を飲んだ。知ってるよ、わたしは。だけどそのあと二人で店を出てどこに行ったの? 会話聞こえなかったし(薫子とサアヤの声がデカすぎて)。
「久しぶりよ、男と二人きりでご飯なんて」
わたしも男だけど、ちゃんとその辺はしっかりわかってくれている夏姐さん。
「分け隔てなく話してくれて、頭良くて、そして面白い」
「……そうなんですね。どちらから誘ったんですか」
「あちらから」
……仙台さんから?
「最初はお断りしたけど一度お話ししたいって……浮かれちゃった。10歳も下の男に」
だから機嫌もいいわけだ。美男美女、お似合い。年齢なんて関係ないよ。でも仙台さんの軽さにはちょっとがっかりだけどね。
「ほんと、浮かれたわたしもバカ」
「え?」
「だって話はほとんど梛のことばかり……」
夏姐さんは笑ってるけど少しずつその笑顔も歪む。
「だったら梛誘えばよかったじゃないって言いたかったけどまたお話聞かせてくださいっていうから……言えなかった。未練たらたらなのよ、あの男っ」
仙台さん、まだ諦めてなかったの? 夏姐さんはだんだん怒りの表情に。
「……私はまた仙台さんに会う。絶対振り向かせてやるんだから」
夏姐さん……狙った獲物は逃さない、さすが。て、わたしは夏姐さんのライバルになるってこと?
「別にあなたのことは憎むことはしない。言わないと自分の気持ちがおさまらなかったから。とりあえず隠し事はもうない。話しただけでそのあとホテルとか行ったりキスしたりしてないから、おしまい」
と夏姐さんは適当に近くの本をわたしに持たせて扉を開け、わたしだけ先に外に出された。
防音でもあるから扉の向こうでしばらく出てこない夏姐さんがなにをしているかわからない。やはりあの場所は嫌いだ。
「東雲さん、夏目さんは?」
パートの子が来た。奥から館長が顔を覗かせている。
「あ、今閉架図書の作業してて」
「館長が夏目さんに話があるって」
わたしはドアを見た。ゆっくりドアが開くと夏姐さんは何事もなかったように出てきた。目の端が赤かったけど。
「あ、どーしたの? あれ、館長……」
「夏目さん、お昼から常田くんが来るだろ、そのことでお話しなんだが」
「は、はい……」
夏姐さんはわたしを見ずに館長と事務所から出て行った。
せっかくここまで来るのならご飯を一緒に、と思ったけど親戚の家に行くとか。常田くんも。
だったらわたしもーなんて図々しいことできないか。
「梛、企画計画表書けた?」
夏姐さんだ……ここ最近は機嫌が良い。頬が赤く染まってる。わたしはあのバーで懐かしい姐さんと仙台さんをみてから気が気でない。別に二人が付き合ってくれたらそれはそれでいいけどさ……なんだろう、悔しいっていうのかな。
わたしはハッと現実に戻って書いておいた計画書を出した。まだ年こしてないのに来年の半ばまでの大まかな計画をねらなくてはいけない。
聞いてもいいんだけど、なんか聞くのもね。てか仕事中だし。
「なによ、なに見てるのよ梛」
「いえ、なんでもないです」
「そう? ずっと私を見てる」
……やはり聞くなら今かな? 夏姐さんはわたしをじっと見た。
「梛、こっちきて」
事務所裏の階段。閉架図書にもつながってる。表に出ている本は開架、表に在庫数の関係で置けない本が眠ってるのは地下の閉架図書である。独特な匂いがする。
入る際にはセキュリティの関係で!ドアの前のプレートを変えなくてはいけない。見てみるとそのままなので誰もいない。
だからいまここにはわたしと姐さんだけ。
「いま仕事中だから手短く済ませるわ。お昼に話してもよかったけど常田くんは昼からでしょ」
「は、はい……」
わたしはこの場所が苦手でもある。今は辞めたけど夏姐さんよりも先輩の女性上司がいてここで度々説教されたこともあった。
独特な匂いと温度、そしてつんざくようなヒステリックな金切り声。夏姐さんもその上司に怒られたからここは嫌な場所、でも仕事で入らなくてはいけないから、と。
わたしも入るたびに思い出す。
「……仙台さんとご飯に行ったわ」
カラカラと換気扇の回る音。わたしはごくりと生唾を飲んだ。知ってるよ、わたしは。だけどそのあと二人で店を出てどこに行ったの? 会話聞こえなかったし(薫子とサアヤの声がデカすぎて)。
「久しぶりよ、男と二人きりでご飯なんて」
わたしも男だけど、ちゃんとその辺はしっかりわかってくれている夏姐さん。
「分け隔てなく話してくれて、頭良くて、そして面白い」
「……そうなんですね。どちらから誘ったんですか」
「あちらから」
……仙台さんから?
「最初はお断りしたけど一度お話ししたいって……浮かれちゃった。10歳も下の男に」
だから機嫌もいいわけだ。美男美女、お似合い。年齢なんて関係ないよ。でも仙台さんの軽さにはちょっとがっかりだけどね。
「ほんと、浮かれたわたしもバカ」
「え?」
「だって話はほとんど梛のことばかり……」
夏姐さんは笑ってるけど少しずつその笑顔も歪む。
「だったら梛誘えばよかったじゃないって言いたかったけどまたお話聞かせてくださいっていうから……言えなかった。未練たらたらなのよ、あの男っ」
仙台さん、まだ諦めてなかったの? 夏姐さんはだんだん怒りの表情に。
「……私はまた仙台さんに会う。絶対振り向かせてやるんだから」
夏姐さん……狙った獲物は逃さない、さすが。て、わたしは夏姐さんのライバルになるってこと?
「別にあなたのことは憎むことはしない。言わないと自分の気持ちがおさまらなかったから。とりあえず隠し事はもうない。話しただけでそのあとホテルとか行ったりキスしたりしてないから、おしまい」
と夏姐さんは適当に近くの本をわたしに持たせて扉を開け、わたしだけ先に外に出された。
防音でもあるから扉の向こうでしばらく出てこない夏姐さんがなにをしているかわからない。やはりあの場所は嫌いだ。
「東雲さん、夏目さんは?」
パートの子が来た。奥から館長が顔を覗かせている。
「あ、今閉架図書の作業してて」
「館長が夏目さんに話があるって」
わたしはドアを見た。ゆっくりドアが開くと夏姐さんは何事もなかったように出てきた。目の端が赤かったけど。
「あ、どーしたの? あれ、館長……」
「夏目さん、お昼から常田くんが来るだろ、そのことでお話しなんだが」
「は、はい……」
夏姐さんはわたしを見ずに館長と事務所から出て行った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる