45 / 79
シノノメナギの師走
第8話 次郎さんとのデート
しおりを挟む
わたしは今、ボー然としている。昨晩常田くんと喧嘩してその腹いせに次郎さんからもらった名刺のメルアドにメールをして明日会いたいですとメールして、すぐ返事きて。
朝起きたら常田くんはもういなくて、わたしは黒のセクシーなキャミワンピ、甘めの少し丈の短いワンピにロングコートを着て、ボブウィッグの上にベレー帽を被り、黒のタイツにショートブーツという格好で外に出た。
彼氏いるのに喧嘩したからといって連絡先をもらった他の男に会いに行く、酷いゲスな女も悪くはないなと。もじもじする次郎にグイグイ引っ張るわたし、色々お店を回って疲れたーといってラブホテルに連れ込んでムフフなこともいいな、でもこういうことは彼は初めてかしら? とかなんだかんだ妄想していたのに、それが一瞬で崩れた。
「東雲さん……どうかされましたか?」
「あ、え、えええっと……大丈夫です。次郎さんもよかったら先にメニューを選んでください」
ここは喫茶店。まだモーニングの時間帯である。飲み物を頼めばトーストと豆が付いてくる。
飲み物を一つ選ぶだけで悩む次郎の格好はいつもとは違う、ガーリーな格好であった。
駅前で待ち合わせしても一向に現れないからおかしいと思ったら、十分前から何かわたしを見つめる誰かがいる……次郎さんだったのだ。
その格好を何も聞けず喫茶店まで来てしまったのだが……。
「じゃあ、ウインナーコーヒーにしようかな」
とメニューを渡された。その表情はいつもと違い、メイク効果もあってか可愛らしい微笑みだった。
「じゃあ……わたしはココアで」
注文も終えて私たちは向き合う。次郎さんはフフフって笑い出した。
な、なんであなたはその格好をしているの?! あなたもわたしと同じなんですかっ。
「びっくりしたでしよ? 実は僕も女装家でしてね。と言ってもこうして外に出てするのは全く初めて。家の中で楽しんでいるんだ」
……女装家……いや、わたしは女装家じゃないから一緒にして欲しくないけど、次郎さんがまさかの女装家だとは。
「実は前からわかってたの。あなたが男って」
えっ……そんなにわかってしまうものなの?! まさか、手?! つい手を見てしまった。
「そう、手でわかったの。手は隠せないわよねー」
なんかこれ、誰かに言われた……仙台さんのお姉さん! そんなにわかるものなの?! わたしは手を引っ込めた。
「だから一度一緒にお茶してみたいと思って」
そ、それでわたしを誘ったのか。でも前イベントでチェスしてた時はいつもの次郎さんだったし。
「実は今日初めて女装して家を出たんだ」
の割にはクオリティ高いし。化粧も素人じゃない、ウイッグも綺麗、服もちゃんとサイズが合っている。
「家の中でずっと女装をしていて……。私な性格がたたって本当に孤独でした。女装は楽しい、でも外に女装して出るのは恥ずかしくて。梛さんとだったら大丈夫かなと、女装歴20年にして初めてのチャレンジ」
「はぁ……」
としか声が出ない。だから私のこれは女装じゃなく……周りからしたら女装だけども。
「今はウイッグのようだけど髪の毛切られたのはなぜ? それまでは地毛だったでしょ?」
「いや色々合って切りました。……最初は後悔したけどウイッグにした方が色んな髪型できるし。あ、図書館の時は前と同じくらいのボブにしています」
次郎さんはわたしをジロジロみている。次郎なだけに。……。
わたしは早とちりというか、彼の借りていた本といい、彼のソワソワ感といい、それを見て妄想が暴走して彼がわたしのことに好意を持ってるだなんて浮かれてしまっていたのだ。ああ、よくやらかすパターン。
「あの、誰か好きな人でもいるんですか?」
あの本たちを借りた理由を知りたい……恋の指南書なんて相当買いに悩んだ時しか借りないなず。
「……あー、ああいう本ばかり借りてるとそう思われてしまいますよね?」
「すいません、個人情報ですね……」
次郎さんは首を横に振った。
「幼なじみの女性で」
……わたしじゃないか。もう、わたしの妄想が酷すぎたわ。やっぱり同性愛者というものは少ない。
「でも女装が趣味だなんてバレたら振られてしまいそう」
別に悪くはないと思うけど。女装したからといって何か悪いことに利用するわけではないんだし。
「もしその人と付き合えることになったらこうやって堂々と女装ができなくなるかもしれない。だから今日が最初で最後の女装でのお出かけになるかな」
次郎さん、どこまで弱気なんだろう。わたしはガシッと彼の手を握った。
「なに弱気なことを言っているのよ! そんなこと言ってたらいつまで経っても好きな人に近づけません、て……あまり恋愛経験ないわたしが言うのもあれだけど。それに女装は悪くはないっ」
すると、次郎さんが笑った。
「そうだね、なんかあなたに勇気をもらえた。なんだかいい友達になれそう」
「へ?」
わたしは目が丸くなった。
「……女装友達として、これからもよろしくお願いします」
「あ、は……はい……」
と手を出された。女装友達ぃ……。わたしはその彼の手を握った。
そして喫茶店を出る。ああ、妄想の中ではこのあとはドキドキしながら外を出てぬらりくらりしてラブホパターンだったのに横にいるのは女装をした次郎さん。というか彼はもともと背が高いのにさらにヒールを履いているからかなり目立つ。でもとてもおしゃれだし化粧も上手。少し見上げる。
「外で女装できなかったのはね、この体格のせいなんだ。ヒール含めると180超えてしまう……」
「モデルさんみたいです。わたしなんて170もないから」
「ありがとう、梛木さんもとても可愛らしい……」
微笑んだ次郎さんの顔はとてもいい顔。いつものおどおどとした次郎さんではなかった。……でもこれから図書館で会う時にどんな顔して合えばいいんだろ。
するとスマホに着信が入った。次郎さんにすいませんと言ってわたしは出た。常田くんから。病院だったわよね。……て、なにや電話してくるなんて。
「もしもし」
『……梛ぃ、どこにいるの』
「外で出かけてるけど」
なんか元気のない声ね。……喧嘩したからもうあまり心配したくないけど気になってしまう。
『……病院前の喫茶店まで来て』
……電話先の常田くんは泣いているようだった。
朝起きたら常田くんはもういなくて、わたしは黒のセクシーなキャミワンピ、甘めの少し丈の短いワンピにロングコートを着て、ボブウィッグの上にベレー帽を被り、黒のタイツにショートブーツという格好で外に出た。
彼氏いるのに喧嘩したからといって連絡先をもらった他の男に会いに行く、酷いゲスな女も悪くはないなと。もじもじする次郎にグイグイ引っ張るわたし、色々お店を回って疲れたーといってラブホテルに連れ込んでムフフなこともいいな、でもこういうことは彼は初めてかしら? とかなんだかんだ妄想していたのに、それが一瞬で崩れた。
「東雲さん……どうかされましたか?」
「あ、え、えええっと……大丈夫です。次郎さんもよかったら先にメニューを選んでください」
ここは喫茶店。まだモーニングの時間帯である。飲み物を頼めばトーストと豆が付いてくる。
飲み物を一つ選ぶだけで悩む次郎の格好はいつもとは違う、ガーリーな格好であった。
駅前で待ち合わせしても一向に現れないからおかしいと思ったら、十分前から何かわたしを見つめる誰かがいる……次郎さんだったのだ。
その格好を何も聞けず喫茶店まで来てしまったのだが……。
「じゃあ、ウインナーコーヒーにしようかな」
とメニューを渡された。その表情はいつもと違い、メイク効果もあってか可愛らしい微笑みだった。
「じゃあ……わたしはココアで」
注文も終えて私たちは向き合う。次郎さんはフフフって笑い出した。
な、なんであなたはその格好をしているの?! あなたもわたしと同じなんですかっ。
「びっくりしたでしよ? 実は僕も女装家でしてね。と言ってもこうして外に出てするのは全く初めて。家の中で楽しんでいるんだ」
……女装家……いや、わたしは女装家じゃないから一緒にして欲しくないけど、次郎さんがまさかの女装家だとは。
「実は前からわかってたの。あなたが男って」
えっ……そんなにわかってしまうものなの?! まさか、手?! つい手を見てしまった。
「そう、手でわかったの。手は隠せないわよねー」
なんかこれ、誰かに言われた……仙台さんのお姉さん! そんなにわかるものなの?! わたしは手を引っ込めた。
「だから一度一緒にお茶してみたいと思って」
そ、それでわたしを誘ったのか。でも前イベントでチェスしてた時はいつもの次郎さんだったし。
「実は今日初めて女装して家を出たんだ」
の割にはクオリティ高いし。化粧も素人じゃない、ウイッグも綺麗、服もちゃんとサイズが合っている。
「家の中でずっと女装をしていて……。私な性格がたたって本当に孤独でした。女装は楽しい、でも外に女装して出るのは恥ずかしくて。梛さんとだったら大丈夫かなと、女装歴20年にして初めてのチャレンジ」
「はぁ……」
としか声が出ない。だから私のこれは女装じゃなく……周りからしたら女装だけども。
「今はウイッグのようだけど髪の毛切られたのはなぜ? それまでは地毛だったでしょ?」
「いや色々合って切りました。……最初は後悔したけどウイッグにした方が色んな髪型できるし。あ、図書館の時は前と同じくらいのボブにしています」
次郎さんはわたしをジロジロみている。次郎なだけに。……。
わたしは早とちりというか、彼の借りていた本といい、彼のソワソワ感といい、それを見て妄想が暴走して彼がわたしのことに好意を持ってるだなんて浮かれてしまっていたのだ。ああ、よくやらかすパターン。
「あの、誰か好きな人でもいるんですか?」
あの本たちを借りた理由を知りたい……恋の指南書なんて相当買いに悩んだ時しか借りないなず。
「……あー、ああいう本ばかり借りてるとそう思われてしまいますよね?」
「すいません、個人情報ですね……」
次郎さんは首を横に振った。
「幼なじみの女性で」
……わたしじゃないか。もう、わたしの妄想が酷すぎたわ。やっぱり同性愛者というものは少ない。
「でも女装が趣味だなんてバレたら振られてしまいそう」
別に悪くはないと思うけど。女装したからといって何か悪いことに利用するわけではないんだし。
「もしその人と付き合えることになったらこうやって堂々と女装ができなくなるかもしれない。だから今日が最初で最後の女装でのお出かけになるかな」
次郎さん、どこまで弱気なんだろう。わたしはガシッと彼の手を握った。
「なに弱気なことを言っているのよ! そんなこと言ってたらいつまで経っても好きな人に近づけません、て……あまり恋愛経験ないわたしが言うのもあれだけど。それに女装は悪くはないっ」
すると、次郎さんが笑った。
「そうだね、なんかあなたに勇気をもらえた。なんだかいい友達になれそう」
「へ?」
わたしは目が丸くなった。
「……女装友達として、これからもよろしくお願いします」
「あ、は……はい……」
と手を出された。女装友達ぃ……。わたしはその彼の手を握った。
そして喫茶店を出る。ああ、妄想の中ではこのあとはドキドキしながら外を出てぬらりくらりしてラブホパターンだったのに横にいるのは女装をした次郎さん。というか彼はもともと背が高いのにさらにヒールを履いているからかなり目立つ。でもとてもおしゃれだし化粧も上手。少し見上げる。
「外で女装できなかったのはね、この体格のせいなんだ。ヒール含めると180超えてしまう……」
「モデルさんみたいです。わたしなんて170もないから」
「ありがとう、梛木さんもとても可愛らしい……」
微笑んだ次郎さんの顔はとてもいい顔。いつものおどおどとした次郎さんではなかった。……でもこれから図書館で会う時にどんな顔して合えばいいんだろ。
するとスマホに着信が入った。次郎さんにすいませんと言ってわたしは出た。常田くんから。病院だったわよね。……て、なにや電話してくるなんて。
「もしもし」
『……梛ぃ、どこにいるの』
「外で出かけてるけど」
なんか元気のない声ね。……喧嘩したからもうあまり心配したくないけど気になってしまう。
『……病院前の喫茶店まで来て』
……電話先の常田くんは泣いているようだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
彼女の母は蜜の味
緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる